沖縄県収用委員会 第11回審理記録
仲山忠克(土地所有者代理人・弁護士)
仲山忠克(土地所有者代理人・弁護士):
地主代理人の仲山です。私は、現在審理している使用裁決手続きは、それに先行してなされ、その前提行為とも言うべき使用認定が、違法、無効であるゆえに却下されるべきであることについて意見を述べます。
今回の強制使用の対象となっている契約拒否土地について、1995年5月9日、当時の村山内閣総理大臣によって、使用認定がなされました。これが今回の強制使用のそもそもの出発点でありました。使用認定は、その根拠法である米軍用地特措法3条によれば、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的である」ことが要件とされております。しかし村山首相のなした使用認定は、この必要にして適正且つ合理的要件を満たしておらず、違法無効であると言わざるを得ません。使用認定の違法性を述べる前に、そもそも収用委員会の使用裁決の手続きにおいて、その先行行為である使用認定の効力が審理の対象となり得るか、そして使用認定の違法性が裁決手続きの却下を導き出すものであるかが問題となります。この点については、先ほど長野代理人が述べておりましたので私は簡単に述べます。
これに対する最高裁判決は、先ほど長野代理人も引用しておりましたように、本件各土地につき有効な使用認定がなされていることが、署名代行等事務の執行を命ずるための適法要件をなすものであって、使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵がある場合には、職務執行命令も違法と言うべきであると判断しております。
この判決は、代理署名裁判の性質から、署名等代行事務の職務執行命令について述べたものでありますが、職務代行事務は裁決手続きの一環でありますから、したがって右判決は代理署名裁判に限らず、使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵がある場合には、使用裁決をなすことは違法であり裁決申請は却下されるべきであると理解することができるのであります。
では、いかなる場合に、使用認定にこれを当然と無効とすべき重大かつ明白な瑕疵が認められるのでしょうか。この点について、先の最高裁判決は、使用認定の対象となっている個別の土地を判断の対象とし、当該土地が、米軍用地として提供されるに至った経緯及びその具体的使用状況を踏まえた上で判断すべきと指摘しております。そのような判断の結果、次のような場合には、使用認定にこれを当然に無効とすべき重大かつ明白な瑕疵が認められると言うべきであります。
まず第一に、最高裁判決でも指摘されたように、有機的一体性の欠如が存する場合であります。すなわち、強制使用の対象となっている個別の土地が返還されたとしても、それによって軍事基地の全体としての機能が必然的に喪失されないのであれば、係る土地は、施設全体との有機的一体性を欠如することになりますので、その使用のための使用認定は、違法、無効になるということを意味するのであります。
例えば、瀬名波通信所内の新垣昇一さんの所有地、嘉手納弾薬庫内のフェンスの外側に存する土地、さらに多くの基地においてみられるフェンス直近に存する多数の土地がそれに該当いたします。
第二に、使用目的を逸脱してなされた使用認定は、当然に無効であり、重大かつ明白な瑕疵と言わざるを得ません。米軍用地特措法に基づく強制使用は、その上位法である安保条約6条で言う、我が国の「安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことを目的としてなされております。したがって、我が国や極東の安全に無関係な軍事基地のための強制使用は、その本来の目的を逸脱しており、無効であります。
海兵隊は、殴り込み部隊と称されているように、他国への侵略を目的とした軍隊であり、我が国の防衛や極東の平和とは無縁の存在であります。このことは、海兵隊の中東への派遣やその軍事行動が明確に示しているところであります。ちなみに、安保条約により駐留を許された軍隊から海兵隊が除外されているのは、このことを意味しているというふうに考えられます。このような安保条約にさえ反する海兵隊のために提供する目的でなされる使用認定が、違法・無効であることは明白だと言わざるを得ません。今回、13の施設が強制使用の対象となっておりますが、そのうち、伊江島補助飛行場、キャンプハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧、牧港補給地区の五つの施設が海兵隊基地であります。したがって、それらのための強制使用は許されないのであります。
さらに、目的逸脱との関係で、アーニーパイル劇場事件判決があります。東京地裁の同判決は、特措法第3条の使用認定は、日本国に対する武力攻撃を阻止するために必要な範囲と言える場合に限るべきであって、慰安や娯楽のための施設の供与はこれに当たらないと判示しております。
今回の強制使用認定の対象となっている土地には、多数の家族住宅用地、子供たちのための学校用地、教会用地等が含まれておりますが、右判決に照らせば、武力攻撃阻止と無縁なそれらの土地に対する使用認定は、安保の目的を逸脱しており、違法・無効であると言わざるを得ません。とりわけ教会用地については、政教分離との関係で、憲法第20条及び89条に違反することは明白であります。
第三に、施設全体として遊休化している基地のための土地使用は、全く不要でありますから、そのための使用認定が違法・無効であることは、一見明白であります。那覇港湾施設がこれに該当することは、那覇市長等の意見陳述からも明白であります。
以上述べましたように、今回の裁決申請の対象となっている土地には、そもそも使用認定そのものが違法無効であるものが多数存在しております。したがって、それらの土地についての裁決申請は、当然に却下されるべきものであることを強く訴えるものであります。
軍隊のない平和な沖縄、新たな悲劇を発生せしめない沖縄を創設するために、県民をはじめとする多くの人々の力の結集が今求められておりますが、それに向けた確かな一歩を歩むためには、収用委員会の今回の役割は非常に大きなものがあると思います。沖縄の歴史に名を留める裁決を、勇気をもって示されるよう期待して、私の陳述を終わります。
当山会長:
はい、ご苦労様でした。 次に、松島暁さん。