沖縄県収用委員会 第11回審理記録

 長野真一郎(土地所有者代理人・弁護士)


 当山会長:

 後半の部を始めたいと思います。まず初めに、長野真一郎さん。

 長野真一郎(土地所有者代理人・弁護士):

 私は、土地所有者ら代理人の長野です。私は、収用委員会の審理権限、すなわち本件公開審理において審理され、かつ裁決において判断されるべき事項について述べたいと思います。ただ、本日は与えられた時間があまりにも短いので、詳しくは意見書に譲り、本日は収用委員会が使用認定の適否をはじめとして、米軍用地特措法3条の定める必要性及び適正かつ合理的要件について、これを審理判断し、これを満たさないときには却下すべき権限とその職務を負うことを明らかにしたいと考えます。

 さて、収用委員会は米軍用地特措法及びこれの準用する土地収用法に基づき、強制使用の裁決申請を受けた各土地に関して、那覇防衛施設局長に対して強制使用を認めるか否かにつき審査し、それに基づき、最終的に裁決を行う権限を有すると定められております。

 ところが、これまで収用委員会は使用期間と保障金額を定める権限を有するのみで、裁決申請のもととなる使用認定の適否、あるいはこれを含む特措法3条の要件該当性については、審理判断する権限は有しない、このような立論が一部でなされてきてました。沖縄県収用委員会の過去の裁決書も、残念ながらこのような立場を示しています。しかし、それは何の根拠も示さずに、結論だけが述べられているだけであります。しかし、これは全く誤っています。この点を考察するにおいて、まず、憲法によって与えられた収用委員会の役割及び職責を明らかにしておくことが重要だと考えます。

 日本国憲法29条1項は、国民の財産権を保障し、同条3項において、私有財産は正当な保障のもとにこれを公共のために用いることができるとしております。そして、土地収用法米軍用地特措法も財産権の侵害と公共の必要性との調整を目的とするものであって、これを果たすために、そのプロセスを大きく認定手続きと裁決手続きの二段階に分け、慎重にかつ公正・公平に判断することとしております。そして、この二つの手続きを異なる機関に行わせることにし、特に、最終段階における裁決にあたる機関は、いわゆる独立行政委員会である収用委員会としているわけであります。

 このような手続きにしましたのは、認定の段階で事業の必要性に関わる公益判断を認定長(本件の場合には総理大臣)が行うことにより、まず、不必要な財産権侵害の可能性を可能な限り狭め、続いて収用委員会において公益判断について個々の土地ごとにより具体的な吟味を行おうとしているのであります。そして、このような慎重な手続きを定めたことは、土地を奪われる土地所有権者との関係においては、権利者に憲法31条の求める適正手続きを与えると、このように法的に評価できるわけであります。

 このような、憲法の定める財産権保障の観点から、強制使用を認める場合においても、これを二重に慎重に行うこととした法の趣旨からすれば、特措法3条の適正かつ合理的な要件該当性について、使用認定手続きのみならず、収用委員会のこの審理の場においても十分吟味されることは、憲法及び各法令の要請するところと見るべきであります。これを、適正かつ合理的な要件は使用認定手続きの際に総理大臣のみが判断し、強制使用の可否を判断する収用委員会にはその権限がないとするのは、あまりにもその権限を限定するものであって、正しくないと考えます。

 これが正しくないことの論拠の第一の法理は、無効な使用認定には収用委員会は拘束されないという法理であります。総理大臣の行った使用認定の要請について、収用委員会が審理できないと主張する立場は、行政機関は一般に先行する他の行政機関が行った行政行為の要請について、判断権限を有しない、こういう立場から主張されております。しかし、例えば、重大かつ明白な瑕疵があるときに、この行政行為が無効であり、無効である行政行為に後の行為者が拘束されないというのは、理の当然であります。

 沖縄県知事に対する処分執行命令訴訟の最高裁判決も、この点は明白に認めております。すなわち、本件各土地につき有効な使用認定がされていることは、被上告人が上告人に対して署名と代行事務の執行を命じるための適法要件をなすものであって、使用認定にこれを当然に無効するような瑕疵がある場合には、本件処分執行命令も違法というべきことになる、このようにしております。使用認定がこのような瑕疵をもち、無効な場合には有効な使用認定が存在しないわけでありますから、裁決申請も特措法によって準用される土地収用法47条の定める、この法律に反する場合として却下されなければなりません。

 それでは、いかなる場合に使用認定が無効な場合とされるべきであるのかについて、簡単に意見を述べたいと思います。

 まず、争いのないのは、今申し上げました重大かつ明白な瑕疵がある場合です。しかし、既に収用委員会に提出しております浜川並びに三上両教授によります鑑定意見書でも詳細に述べられておりますように、この重大明白な瑕疵の存在というのは、行政行為が無効とされる典型的な場合を言うものであって、必ずしもそれに限られないとするのが今日の通説の立場であります。かつ、最高裁判決もこのような立場に立っているとされております。すなわち、違法性が重大であれば、それが当初はだれの目にも一見明白であるとは言えなくても、権限ある機関が調査する中でそれが明らかになれば、その行政行為は無効としてよいというのが、今日の通説の立場なのであります。

 行政行為を無効とした場合と、有効とした場合、それぞれの法益並びに権利侵害の程度影響などを比較考量して判断すべきこととなります。このような考えは、いわゆる明白性の要件は補充的に考えるべきであるとか、あるいは調査義務を行うべきであると、こういう観点から、明白性補充要件説、あるいは調査義務説と言われております。権限ある機関が注意して調べれば分かる程度の瑕疵があればよいと、このように考えるわけであります。そして、収用委員会が設置されました意味及び最終判断機関としての位置を考えれば、まさしく収用委員会はこの無効の瑕疵の存在を審理によって認知し得る典型的な機関であると言えます。

 また、収用委員会が、この適切かつ合理的な要件の該当性を判断する権限がある第一の論拠として、冒頭に述べました憲法29条及び31条の要請により、強制使用手続きを二段階に分けて、慎重かつ厳格に行うとした使用手続きの構造そのものがあります。そして、この解釈の正しさは、法の規定の仕方からも導かれます。特措法3条は、駐留軍の用に供するため、土地を必要とする場合において、その土地を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であるときは、この法律の定めるところにより使用し、また収用することができるとしております。

 逆に言うならば、この必要性や適正かつ合理的な要件を満たさないときには、強制使用ができないのであります。そして、この規定は法文をよく読めば、単に総理大臣の使用認定の際の要件として規定されているのではなく、この法律によって強制使用を認めるすべての場合の大原則として規定されているわけであります。そして、収用委員会は収用法47条により、使用裁決の申請がこの法律の規定に反するときは申請を却下しなければならないと、却下が義務づけられているわけであります。この法律の規定が特措法3条の定める要件に含まれることは、その規定の仕方からも明らかであります。

 したがって、裁決の申請のもととなる使用認定がこの要件に反するときは、収用委員会は申請が法律の規定違反であるとして堂々と却下すべきであり、そして却下すべきことが収用委員会の責務でもあると考えられるわけであります。

 なお、それでも一般的に収用委員会が事業認定の適法性について判断できないという考え方があるのに対しては、本件特措法に基づく米軍用地強制使用の特殊性を考慮すべきであると考えます。貴収用委員会には、通常の収用委員会に比しても憲法及び各法令に基づき、このような使用認定についての審査を立ち入って行う権限があり、それが職務であると考えるわけであります。

 その特性の第一は、特措法の使用認定には、通常の事業認定に添付されるような事業計画書が全くないという点であります。例えば、ダム建設の場合の公共性判断を行うときの判断を考えれば明らかなように、通常の使用認定の場合には、事業計画書には、事業の遂行を必要とする公益上の理由を記載することとなっております。ところが、本件の各使用認定の申請を見たときには、当該土地を駐留軍がこれまで使用してきたこと、当該土地は、施設全体として、有機的一体性があること、今後も使用を継続する必要性があること、この三点が抽象的に述べられているだけであります。厳密に、それぞれの土地ごとに、どうして強制使用してまで必要なのか、代替地はあるのか、これらのことについて、吟味がなされることは、制度上も全く予定されていないのであります。このような通常の事業認定と比べても、あまりにずさんな使用認定がなされるような、このような事件におきましては、収用委員会は、通常にも比して使用認定に立ちいたって、判断をなすべきことが憲法の要請するところと考えられます。

 軍事的使用だからといって、憲法29条、31条の要請は同じでありまして、使用認定後、使用認定の違法性の有無程度について、通常の使用の場合以上に判断されなければ、結局、この判断は憲法の要請を満たさないものとして、違憲と解さなければならないからであります。

 このような観点からすれば、貴収用委員会は、これまで本件公開審理の中で明らかになりました個々の土地ごとの使用の実態から、これらの収用が適正かつ合理的な要件を満たさないことが明らかであったとして、却下されることが明らかと考えます。以上です。

 当山会長:

 次に諌山博さん。


  出典:第11回公開審理(テープ起こしとテキスト化は仲田、協力:違憲共闘会議)


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