沖縄県収用委員会 第11回審理記録

 松島暁(土地所有者代理人・弁護士)


 松島暁(土地所有者代理人・弁護士):

 阿波根昌鴻さんほか反戦地主の代理人として意見を申し上げます。

 私は、那覇防衛施設局長が収用委員会に対して裁決申請をした際に添付された土地調書、物件調書作成手続きに重大な二つの違法があることを、公開審理が終了するにあたり、改めて指摘したいというふうに思います。重大な二つの違法とは、第一に、土地調書に添付された実測平面図が内閣総理大臣の使用認定前に作成されていることです。また、第二は、土地調書、物件調書作成に際し、反戦地主、一坪反戦地主の現場での立ち会いを拒否したことであります。

 第1の違法について述べます。

 土地調書添付の実測平面図の作成時期については、施設局は使用の裁決の申請理由説明要旨の中で、平成6年7月、測量専門業者に発注し、同年9月に作成したと述べております。しかし、右の主張には明白なうそが含まれております。例えば、沖縄市字山内中原1405番1の比嘉信子さん所有地の土地調書の実測平面図は、平成2年6月20日に作成されたものであります。いわゆる平成4年裁決土地について、今回の特措法使用手続きのために改めて現地で測量作業をしなかったことは、沖縄県知事に対する職務執行訴訟で施設局も認めていることであります。収用委員会に対して、うその説明をしているのですから、このような場合は、収用委員会は却下すべきであります。

 次に、使用認定以前に測量作業を行うということが許されるか、この点が問題になります。私は、土地収用法第36条1項は、使用認定の告示後に土地調書を作成することを義務づけ、同じく37条1項は、土地調書に実測平面図の添付を義務づけるものであるから、同法は使用認定後に作成された実測平面図の添付を義務づけているものと考えます。この点

について、平成8年3月25日の福岡高裁那覇支部判決が反対の解釈をとっておりますが、この論点についての最高裁判所の判定はいまだ示されておりません。したがって、収用委員会は明確な判断を示し、却下をすべきものと考えます。

 次に、反戦地主、一坪反戦地主の現場での立ち会いを拒否したことについて述べます。

 平成7年5月19日付け及び23日付けで反戦地主及び一坪反戦地主から、「現地において土地の現状を確認した上で、土地調書、物件調書の作成に立ち会いをしたいので、至急、現地立ち入り調査ができるよう措置がなされるよう申し出ます」旨の文書が提出され、これに対し、那覇防衛施設局が平成7年5月29日、「申し出については、その必要性が認められないので、ご要望には応じられません」と回答したことは、争いのない事実であります。

 防衛施設局が現場での立ち会いを拒否したことは、争いのない事実ですから、このような現場での立ち会いを拒否することが、法の解釈として許されるのかが問題となります。土地収用法36条2項の立会わせの解釈として、調書を作成しようとしている土地または物 件の所在する場所での立ち会い、いわゆる現場立ち会いを法が保障しているものと考えます。なぜならば、土地収用法36条2項が起業者に立ち会いを義務づけたのは、土地物件調書の記載内容の真実性及び作成手続きの適正さの双方を確認させるためだからであります。また、立ち会いが、憲法31条の規定する適正手続保障を受ける権利の一つだからなのであります。

 このような考え方に対し、平成8年8月28日言い渡された、いわゆる沖縄県知事に対する職務執行命令訴訟の最高裁判決はこれを否定し、調書が有効に成立する署名・押印の段階で、調書を所有者及び関係人に現実に提示すれば十分であると判示しました。しかし、沖縄県収用委員会が最高裁判決に従わなければならないという義務は存在いたしません。沖縄の実情を最もよく知っている沖縄県収用委員会が沖縄の実情を踏まえた判断を示すことは、安保条約の前にひれ伏した最高裁判決の誤った論理を克服する上で、一石を投ずることになるという意味において、沖縄県民のみならず、多くの国民に歓迎されることでありましょう。

 また、仮に県収用委員会が最高裁判決を尊重するにしても、土地所有者が起業者によって立ち入りを拒否され続けているその場合についてまで、最高裁判決が射程に入れていないこと、この点に注意をしておきたいと思います。起業者が立ち入りを拒否しておいて、土地物件調書作成において現場立ち入りは不要だという論理は、だれが考えてもおかしいものであります。全く正義に反することであります。

 以上より、防衛施設局が提出した土地物件調書作成手続きに重大な違法があるのですから、収用委員会は土地収用法47条1項に基づき、申請を却下すべきであります。

 なお、キャンプハンセン関係を除く12施設の申請土地の土地調書、物件調書のうち、私たちが調査したところでは13筆の土地の土地調書・物件調書に異議が付されております。この異議を、県収用委員会が裁決をなすにあたってどのように扱うべきかについて、一言述べさせていただきます。

 第1回公開審理の席上、兼城会長は次のように述べられました。「収用委員会は、公共の利益の増進と私有財産の調整を図るという土地収用法の基本理念のもとに、その判断にあたって、起業者及び土地の所有者等、いずれの立場にも片寄ったものであってはならないことはもちろんのこと、独立した準司法的な行政委員会として中立・公正な立場で実質審理を行います。」また、同じく第1回公開審理の最後に、「対審構造については、可能な限り、申入れの趣旨に沿いたい」というふうに述べられました。これの意味するところは、いずれの立場にも片寄らず、中立・公正な判断者の立場に徹

するということであります。

 土地収用の必要性、適法性、合理性についての主張立証は起業者が行い、収用の必要のないこと、手続きに違法の存在することは地主側が行います。収用委員会は、双方の主張に公平に耳を傾け、中立の立場から判断することになるわけであります。ところで、私たちは、過去の公開審理の場で収用手続きが違法であること、収用がいかに不当であるかを主張立証してまいりました。これに対し、起業者側は、第1回公開審理の席上、申請理由の要旨を読み上げただけであります。また、申請理由についての求釈明については、木で鼻をくくったような回答をしたにすぎません。そして、「本件審理になじまない」を連発し、多くの求釈明にはいまだに答えておりません。すなわち、国は過去の公開審理において、一切の立証を行ってはいないのであります。これによるペナルティ、不利益は挙げて国・起業者側が負うべきであります。

 ところで、異議が付された場合に、調書の記載事項の真実性を起業者側が立証しなければなりません。この点についても、過去10回の公開審理について、防衛施設局は一切の立証をしておりません。

 では、去る1月6日、7日、9日の収用委員会の立ち入りに際して、現地で防衛施設局の職員が説明したことをもって起業者側の立証がなされたと言い得るかという点であります。右の防衛施設局も、職員の説明については反戦地主が一切分からず、それゆえ反論も不可能であるということ、そもそも地主の反対尋問にさらされないものを証拠として採用することは、先に引用した第1回公開審理での兼城会長の言にも反することを指摘したいとい うふうに思います。

 そもそも中立・公正な判断者との位置づけからは、収用委員会において立ち入りの権限はあっても、立ち入り調査の義務はなかったのであります。地主を同行しての立ち入りを拒否した以上、そのことをもって直ちに申請を却下することができるのであります。なぜならば、調書の記載の真実性についての立証責任は、起業者側が負担しており、かつ、収用委員会に立ち入り義務はない以上、それによる不利益を挙げて起業者側が負うからであります。もし、防衛施設局の職員の説明を証拠とするならば、県収用委員会は最後の最後になって従前の収用委員会と同じ道を進んだとして、歴史に汚点を残すことでありましょう。

 以上であります。

 当山会長:

 はい、ご苦労様でした。 次に、吉田健一さん。


  出典:第11回公開審理(テープ起こしとテキスト化は仲田、協力:違憲共闘会議)


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