沖縄県収用委員会 第11回審理記録

 吉田健一(土地所有者代理人):


 吉田健一(土地所有者代理人):

 地主側代理人の吉田です。私は、地籍不明地に対する強制収用は許されない、この点について以下4点にわたって意見を陳述いたします。

 まず第一に、地籍不明地に対する強制使用の申請は、不適法、違憲、違法なものであります。強制使用は、憲法29条で保障されている私有財産権の根幹をなす土地所有権、この土地所有権を制限するものであります。そのためには、事前に告知、弁解、防御の機会が十分与えられなければなりません。強制使用をしようとする土地の位置や境界、これが明らかにされなければならないのは最低限、当然のことであります。これは、適正手続きを保障する憲法31条の要請でもあります。だからこそ、強制使用の裁決申請には土地の所在、地番、地目及び土地の面積、これを記載した書類を添付しなければならないというふうになっているわけであります。しかし、地籍不明地では、このような位置や境界が不明で確定していません。したがって、適正手続きの保障もされないと言わなければならないわけです。こういう特定されていない土地についての強制使用が不適法ということであります。

 第二点は、地籍不明地というのは境界位置が特定されていない、この点について突っ込んで述べたいと思います。

 そもそも、復帰後まで地籍不明地が多く残されてきた、この原因は、第二次世界大戦の沖縄戦にあります。公図や公簿がほとんど消失してしまった、所有者がいなくなったり、また土地の現況が全く変わってしまったということです。さらに、アメリカ軍が不法に占拠をし続けました。そして、立ち入って調査ができないという状態に置かれたわけであります。そのために、土地の境界や位置が確定できないという状況が生まれたわけであります。

 そもそも、一般の国土調査法に基づく地籍調査、これは登記簿や公図の存在が前提とされています。この登記簿や公図を前提にして、現地で所有者がそれを確認する、そういうことが中心に行われるわけであります。これに対して、公図や公簿がなくなっているこの沖縄では、土地所有者の集団合意に基づいて土地の位置や境界を決める方法、これが取られました。すなわち、地籍明確化法では、関係所有者が全員の協議により、土地の位置・境界を確認し、全員で実施機関の長に対し、その旨及び協議の内容を通知しなければならないと、わざわざ全員でと、いうふうに明記されているわけであります。

 さらに、現地で立ち会って、土地の位置協会を現地に即して確認しなければならないとして、図面や現地確認書にひとりびとりの地主が署名押印する、このことを求めているわけであります。このようにしてつくられた調査図をもとに、さらに測量など地籍調査に準ずる調査を経て、ようやく地籍簿や公図がつくられるわけであります。

 本件で問題となっているのは、位置や境界について全員の合意がない、あるいは図面や現地確認書に署名・押印がないということであります。集団合意が成立してないことは明らかな土地があるわけです。調査図すらこれではできない。いわんや地籍簿や、地籍図の確定に至らないのは明白であります。

 このように地籍不明地については、強制使用の対象として特定することはできないのであります。特定できないので強制使用できない、このことは地籍明確化法案の国会審議において、当時の三原防衛庁長官が明言している。このことは既に公開審理で明らかに指摘したとおりであります。今になってこの発言を覆すというのはとんでもないことであると思います。

 また、この点で看過できないのは、防衛施設局側が島袋善祐さんの所有地の地図に押印したというふうに主張している点であります。本人が署名したものでない、押印したものでないという書類が勝手につくられている。この偽造書類を出してまで、虚偽の主張を重ねている。この点は、前々回の公開審理でも明らかにしたとおりであります。

 第三点は地籍不明の強制使用、これをやると明白な間違いを強行することになるということであります。例えば、今のキャンプシールズの島袋さんの土地は、防衛施設局が現地に打った杭に基づくものですけれども、島袋さん本人が自分の土地と違うということを現地において当時から明らかにしている。この公開審理でも具体的に指摘したとおりであります。

 また、第8回の公開審理で明らかにしましたように、嘉手納基地内での強制使用の対象 とされている眞栄城玄徳さんや、有銘政夫さんの土地は、いずれもその位置の関係、そして形状や境界など、実際と全く異なるものであります。1948年当時、従前の土地についてまだ記憶している人たちが残っている中で作製された図面と比較しても、隣の土地の地番、そして形状も明白に違う。しかも有銘さんについては、再三立ち入って、現地で確認することを要求しているもかかわらず、これすら認められていません。津波善英さんの土地についても、強制使用の対象地が実際の土地と異なるということは、前回の公開審理で明確にしたとおりであります。

 これらの事例で明らかなように、単に対象地が特定されていないというばかりか、さらに位置関係や境界まで間違っている。このことがそういう明らかな土地まで強制使用する、そういう許しがたい不合理を強行しようというのが、本件の裁決申請なのであります。

 最後に第四点目、施設局はいろいろ主張してみますけれども、極めて理不尽な主張をしています。施設局は地主が補償金を要求し、これを受け取ってきた、このことを理由に反射的に自己の土地の位置境界については動かないものになると主張しています。地籍不明地の地主が補償金すら受け取っていけないのか、無償で強制使用できるのか、そんな主張をやっている。これほどの暴論はありません。ご存じのように、地主らは収用委員会や、いろんな裁判で様々な機会を通じて地籍不明地の強制使用に異議申し立てを続けています。自らの土地の位置、境界を確認していることは明らかであります。補償金の受け取りを逆手にとって、位置、境界が確認された。想像しがたい論理飛躍、こういう挙行をするのは、施設局自らの論理破綻を露呈するものにほかなりません。

 また、地籍不明地は、施設局は、地籍明確化作業に協力しない反戦地主会や地主の態度を批判しています。地籍不明地において土地がそもそも特定できないものであって、強制使用すべきでない、地主に返還されるべき土地であるということは既に明らかにしたとおりであります。自らのそういう土地の権利を守ろうという、これが地主の立場であり原点であります。防衛施設局の原点を無視するような主張自体が憲法の財産権や、所有権、適用手続きの補償の権利を無視する主張にほかならないと思います。

 以上、述べましたように、地籍不明地に対する本件裁決申請は明らかに不適法、違法なもので、却下を免れ得ないものであることを重ねて強調しまして、私の陳述を終わります。

 当山会長:

 次に中村博則さん。


  出典:第11回公開審理(テープ起こしとテキスト化は仲田、協力:違憲共闘会議)


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