沖縄県収用委員会 第10回審理記録

長野真一郎(土地所有者代理人)


 土地所有者代理人(長野真一郎):

 キャンプ瑞慶覧の土地所有者代理人の長野です。私のほうからは、これまでの土地所有者の意見を補足し、本件裁決申請が却下されるべきことを述べたいと思います。スライドを使いたいと思います。

 スライド1を映してください。

 これはキャンプ瑞慶覧の基地の全体図を示しております。キャンプ瑞慶覧は、沖縄本島中部の北谷町、宜野湾市など、5自治体にまたがる面積 640万m2の広大な基地であります。少し見えにくいんですが、この基地の中の赤い丸を記した土地19筆が、今回、強制使用の対象とされている土地であります。基地内には、在沖アメリカ海兵隊基地の司令部、第1海兵航空団の司令部が置かれ、海兵隊の中枢機能を有しておりま す。そして、地上戦闘部隊としましては、第3海兵師団傘下の第12海兵連隊、航空部 隊としては第1海兵航空団傘下の第17海兵航空支援群、後方支援部隊としては第9旅団役務支援群などが駐留しております。

 このように、海兵隊の中枢機能、実戦部隊、後方支援部隊が駐留する海兵隊の使用基地がキャンプ瑞慶覧であります。

 スライドの2をお願いします。

 続いて、スライドの3をお願いします。

 ここに映っておりますように、特に地上戦闘部隊であります第12海兵連隊は、155mm砲などを擁する砲兵部隊で、県道104号繰越え実弾射撃演習を実施していた部隊として知られ、今もこの基地内に駐留しているわけであります。

 基地内には、司令部事務所、兵舎のほかに、米兵の家族用住宅、小学校、高校、消防署、体育館、陸上グラウンド、野球場、劇場、ポウリング場、ゴルフ場などの娯楽施設、そして銀行、郵便局、教会、放送局、ショッピングセンターなど、ありとあらゆる施設設備が存在しております。

 スライドの4をお願いします。

 これが基地内にあります小学校であります。先ほど照屋さんがお話ありましたけれども、町民の子供たちの小学枚は用地が満足になく、他の市につくらざるを得ないにもかかわらず、アメリカの米軍兵の子供のためには、このような広い土地が小学校として提供されているわけです。怒りを禁じ得ません。

 スライド5をお願いします。

 これも基地内に建てられております高校、米兵の子供のための高校の建物であります。

 そこで、駐留部隊から見た違法性について述べたいと思います。

 先ほど、他の代理人から話しがありましたように、海兵隊は日本防衛とは無関係であり、さらに今や極東の範囲をも大幅に越えて、世界の紛争地域に投入される攻撃部隊であります。日米安保条約をも逸脱することがより明白となった部隊であります。このような部隊の駐留目的のために、所有者の土地を強制的に使用することは、本件裁決申請の根拠とされております米軍用地特措法の1条及び3条から導かれる使用目的に著しく反し、違法であり、申請は却下されるべきであります。

 次に、土地使用の実態から本件裁決申請の違法性を述べたいと思います。

 スライドの6をお願いします。

 これは基地のフェンス越し……手前にフェンスが映っていると思うんですが、フェンス越しに基地内の米軍住宅を撮影したものであります。広い芝生の中に、奥のほうですけれども、ゆったりとした白い米軍住宅が建てられております。写真の左、木が残っておりますけれども、その手前には、アメリカ兵の子供のための遊具、ブランコが映っております。

 スライドの7をお願いします。

 これは、先ほど意見陳述された新垣萬徳さんの土地付近の航空写真であります。この写真の真ん中下のほうに道路がU字型に曲がったところがあります。そのU字型の右側にあるのが萬徳さんの土地であります。

 スライドの8をお願いします。

 先ほど見た萬徳さんの土地の図面であります。面積3,404m2、約1,010坪の広大な土地の中に、平均すれば米軍住宅は3軒あるだけであります。1軒平均340坪を越える広 大な敷地をもつ住宅が基地内にはあるわけです。

 スライドの9をお願いします。

 これは、幹線道路をはさんで右側がキャンプ瑞慶覧内です。左側がその基地に追いやられた、町民が住む住宅地であります。フェンスの外には、狭い地域に町民がひしめくように小さな住宅を建てて住んでおります。先ほどの基地内の住宅地の芝生の庭に囲まれた広い敷地と比較したときに、フェンスの内と外の格差に愕然といたします。県民から先祖伝来の住まいを力づくで奪い取り、狭い土地に追いやって、その居住権と生活を奪いながら、一方では、広大な敷地の中にゆったりとした米軍家族のための住宅が建てられております。このようなことが、法の基礎にあります正義にかなうはずがありません。

 次に、本件基地内には、本件強制使用対象地のまわりに広大な遊休地並びに娯楽施設が存在します。

 スライドの10をお願いします。

 これは、今回の対象地であります石嶺さん所有の784番地の土地の近くの航空写真 であります。真ん中にグラウンドが映っているのが見えると思います。そのまわりに薄茶色の四つの土地が見えます。これはいずれも野球用のグラウンドであります。これら以外にも本基地内には有名なゴルフ場のほか、広大な土地が娯楽保養のための土地として取り込まれております。これらの施設を整理縮小すれば、仮に米軍基地の存在がどうしても必要であるという立場に立つ場合においても、私たちはその立場には立ちませんけれども、必要な基地施設のための土地は、現在の広大なキャンプ瑞慶覧の数分の1、あるいは何十分の1で済むことは間違いありません。

 スライドの11をお願いします。

 これはキャンプ瑞慶覧の司令部が左に映っております。旗が立っております。その付近の写真です。

 12をもう一度お願いします。

 これも司令部近くの写真です。広大な芝生地、遊休地がフェンス内に広がっていることがお分かりいただけると思います。

 スライドの13をお願いします。

 これがキャンプ瑞慶覧を含む全体図の航空写真です。写真でいきますと、一番上に滑走路が見えていますのが、嘉手納空軍基地ですので、瑞慶覧は写真で言いますと、左下、真ん中よりも下付近に映っております。

 米軍施設を整理縮小すれば、先祖伝来の町民の土地を強奪し、戦後50年を越えた今なお、所有権者の意に反して強制使用する必要性は全くないということがお分かりいただけるだろうと思います。これらを法の要件から検討した場合に、米軍用地特措法3条は、駐留軍の用に供するため土地が必要であり、かつそれが適正かつ合理的であ るときのみ、これを使用できると定めております。

 第1に日米安保条約上規定された、これは制約されたと言ってもいいと思いますが、そのような駐留目的のための駐留軍の用に供するためであるかどうか。

 第2として、駐留目的の関係で、基地施設用土地としての提供の必要性があるか否 か、あるとしてもそれがどの程度高いものであるのか。

 第3に、当該土地でなければならない必然性、必要性がどの程度なのか。言いかえ れば、代替土地があるのか否か。あるいはその程度。これらを十分に吟味しなければ、強制使用は認めるわけにはいかないはずであります。

 憲法上の主権制限の際の大原則であります必要最小限の原則からしたとき、この必要性の程度が極めて高いときのみ、それが持措法上の必要性の要件を満たし、適正かつ合理的と言えるのであります。

 東京地裁の東宝劇場事件判決においても、駐留軍が当該物件を使用することを希望し、または便宜とすれば足りるのではないか、客観的な必要性がなければならないと判断しております。

 これら要件から考えたときに、第1に家族用住宅は、軍事目的の遂行とは、直接関係がない施設の用に供するものであり、それは、どうしても必要であるならば、民間の契約によって、取得、賃借するなどして調達するならばともかく、特措法に基づいて、強制的に使用することは決して許されません。

 また売店の敷地として使用されております新垣善男さんの933番地の土地も同様に 考えられます。

 他の事業におきまして、売店のためとして、土地を提供することが、極めて高度の公共性があり、強制使用を申請すると、このように収用委員会に申し立てをすれば、何とばかなことを言っているのか、物笑いになるだけでありましょう。

 それが米兵相手の売店のときだけは、何故、突然に高度の公共性があるのか、全くおかしな話と言わなければならないと思います。

 これに対して、防衛施設局の皆さんは、家族用住宅や娯楽施設、あるいは売店なども米軍兵が長期間駐留するためには必要であると、このように言うかもしれません。しかし土地所有者から強制的に生活の場である自宅や、あるいは生活の手段である田畑を奪い、フェンス外の狭い土地に追いやって、その生活を犠牲にしながら、米軍兵の娯楽施設をはじめとする生活の援助のためには、どうしても必要であるというのは、まともな知性と良識を持つ人間の主張できるものではありません。

 先ほど引用しました東宝劇場強制使用裁決取消事件におきまして、日本政府は、このように言っております。人間生活にとって、娯楽ないし慰安が必要不可欠なものであることは、他言を要しないところであるから、駐留軍人のための娯楽教養施設もまた必要にして欠くべからざるを得ないものと言わなければならない。相も変わらずこのように言っておったわけでございます。それに対して、判決は、適正かつ合理的な使用の場合に当たらないとして、使用認定を取り消しました。同時に強制使用裁決、それ自体も取り消したのであります。米軍兵の家族の生活や娯楽には高度の公共性があり、一方、土地を奪われた沖縄県民の生活は無視せよというのが今回の裁決申請であり、このような申請は、直ちに却下されるべきであります。

 また、教会用地とされております正徳原1234番地の土地につきましても、駐留軍の用に供するものとは言えないという点、並びに日本国憲法の政教分離原則からも却下されるべきであることは、明白であると考えます。

 次に有機的一体性の点について反論して意見を述べたいと思います。

 スライドの14をお願いします。

 これは、北前石平原839番地の土地の概略です。この図面のいくつか赤いのがあり ますが、これは全て対象地で、そのうち下側に10と書いて四角い土地があります。

 スライドの15をお願いします。

 これが今、図面の今度は航空写真であります。この付近ですね、白い建物があって、それの左下付近に本件対象土地がございます。この土地のすぐ近く、このあたりに実はキャンプ瑞慶覧のゲートがあるわけです。このゲートの右側、方角でいきますと、左側も、もともとは、キャンプ瑞慶覧内でありましたけれども、ゲートを少しずつずらしてきて順次返還がされてきました。ゲートの近くには、レストラン、遊園地、あるいは学習塾などの多くの民間建物が多数建てられており、有効利用されております。この10番の土地も現在は、駐車場敷地とされておりますけれども、駐車場用地にできる土地が基地内には、いくらでもあるということは、先ほど来お見せしている写真で明らかであります。ゲートをほんの少し西、写真でいきましたら、左手に動かせば、この土地は一等地として、すぐにでも有効利用できる土地なのであります。このような土地が、他の基地施設と、不可分なほどに有機的な一体性を持つ土地とは到底言えないと考えます。

 スライドの16をお願いします。

 この真ん中の土地が先ほどの土地と同じ土地です。ただこれは、今回の強制使用に先立つこと10年前、前回昭和 60年の申請の際の概略図の写真であります。この同じ土地が申請された際には、駐車場としては使用されておりませんでした。この図面で見ても分かりますように、一部が道路にかかっているだけで、それ以外は何もない遊休地、芝生地になっていただけであります。

 前回は、これを前提として強制使用裁決が申請が適正であるとして、裁決されましたけれども、10年の間のいつの間にか勝手に米軍はこの土地を変更し、今度は、駐車場として必要不可欠であるということで裁決申請してきたわけであります。このような手前勝手な申請を認めるわけにはいかない、このように考えます。

 以上述べましたように、本件申請は、特措法上の提供目的を著しく逸脱し、あるいは土地使用の必要性、適正かつ合理的要件を著しく欠くことが明白であり、全て却下されなければならないと、このように考えます。

当山会長:

 はい、ご苦労さまでした。次に陸軍貯油施設に移りたいと思います。臼田和雄さん。


  出典:第10回公開審理の議事録から(テキスト化は仲田


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