Political Criminology

インターネット上の著作物

 著作権法は元来、少数の著作者と少数の出版者といった図式を念頭において構想されている。そこで意識されているのはもっぱら著作物をもってビジネスをする場合であり、公共の施設や一般の人々による著作物利用については比較的柔軟性を保とうとしている。これは著作権法1条にあげられている、公正な利用を促進するという方向性にも合致しており、著作権法では、特別に30条から50条まで、著作権の制限と題する諸条文を設けて、こうした非営利活動に対して一定の範囲で著作物の自由利用を認めている。私的使用を認める著作権法30条1項の場合ならば、個人で利用する範囲で講演内容をメモしたり、ラジオやテレビを録音録画したりする行為は複製権の侵害にあたらない。また、貸ビデオ屋や貸レコード屋の著作物を個人の使用の範囲で複製することも、その録音録画を自分個人の機器でおこなった場合であれば、この私的使用にあたるとされている。

 ところがインターネットの普及は、こうした個人がおこなう複製の社会的影響を相対的に大きくした。つまり、誰でもがインターネットで他人の著作物の複製を作れるようになったのである。というよりも、実際にはインターネット上で他人のページを見ようとする場合も、物理的には自分のコンピュータの中にその複製物を作成しているという状況が存在している。恒常的に複製が作られる状況があってはじめて、この種の技術が機能しているわけである。

 実は米国などでは、日本のような私的使用を正面から認めるような規定がとられていない。著作物の公共的ないし私的な使用について個別規定で許容するのではなく、一律にある程度の枠を決め、大まかに無断複製が許される場合を定め、個別には裁判所がケースバイケースで判断していくという方法を取っている。これがフェア・ユースの考え方である。図書館や学校での複製物の利用についてもこの原則が適用される。つまり、原則的に無断複製を禁じた上で、大まかなその例外規定を設け、どのような場合には、それが認められるべきなのかは、判例の積み重ねによってガイドライン的に明確化していこうというのである。

 こうしたガイドライン化の作業の中で、インターネットを通じたデータの配布が多くの関心を集めている。ディジタル・データのフェア・ユースを、そうした教育機関その他の場で、どの範囲でどのように認めていくのか。その中で例えば複製データの温存期限の設定や画像のサムネイル表示の自由化、引用のパーセンテージによる制限などが検討されている。また画像をスキャナで読み込んでデータ化する行為なども、こうしたフェア・ユースの検討対象として上げられてきている。

 日本では立法形式が根本的に違うため、そのようなガイドライン化の作業は直接の問題となっていない。だが、現実には学校や教育機関、そして私的な世界でも、インターネットを通じたつながりが大きな意味を持つようになってきている中で、どのような場合にフェア・ユースが許されるかが大きな関心事項となってきている。

 日本の学校教育機関などでは、一般に次の要件を満たしている場合は、無断複製が認められる。

 
     
  1. 営利を目的としていないこと。
  2.  
  3. 教育を担任する者自身が複製すること。
  4.  
  5. 本人の教育活動そのものの中で使用すること。
  6.  
  7. 必要部数の限度であること。
  8.  
  9. すでに公表されている著作物であること。
  10.  
  11. その著作物の用途や目的からみて、著作者の権利を不当に侵害しないこと。
  12.  

 一般に、この最後の部分でソフトウェアなどの複製は認められないものとされている。また、ここで無断で複製したものを保管することまでは許されていない。ソフトウェアを教育目的だからといって、無断で数台のコンピュータにインストールすることも無断複製であり、原則として認められない。

 しかし、教育現場に限らず、特にソフトウェアをめぐっては議論は相当に混乱しているといえる。ソフトウェアの著作物性は1985年の著作権法改正で明文化されたが、おそらく一般人の理解ではソフトウェアを売った買ったという場合、その複製物を売ったり買ったりしていると考えていることだろう。だが、ここで売り買いされているのは、実際にはプログラム複製物の使用許諾権に過ぎないのである。この使用許諾権については、著作権というよりは、契約にもとづく権利だというほうが正確だろう。そしてここにソフトウェア販売会社の利害と、ユーザの利害とが衝突する場面が生まれ、場合によっては著作権法上適法に作成されたプログラム複製物が、使用許諾契約が予定していない方法で一般に流通する可能性すら出てきてしまうのである。

 その一方で、いわゆるパブリック・ドメインと呼ばれる、無断複製について制限を設けない著作物というものがインターネット上にはあふれている。パブリック・ドメインとは本来、著作権保護の期間が切れた(通常著作者の死後50年)ものをいうが、複製権を中心として発達してきた米国の制度では、複製権を主張しない、という意味でこのことばが使われるようになった。それと似たようなもので、フリーウェアないし著作権フリーというような表現も目にすることがある。しかし、こうした著作物は、厳密には著作権がないわけではない。著作者人格権は否定されないし(だから無断での流通は問題となる)、単に使用許諾料が無料になっているということを示すにすぎないとも言える。また、私的使用の範囲であれば問題を生じないが、営利が絡むと問題になることもある。こうした使用許諾の制限については、ケースバイケースでの対応がどうしても必要となってくる。

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福富忠和さんとの共著「文化としてのマルチメディア論」(1998年)第6章。同年の聖マリアンナ医科大学のマルチメディア特別講座教材(非売品)。

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