今年行なわれた新聞社の憲法問題に関する世論調査のうち、読売新聞(4月15日付け)、日経新聞(5月3日付け)、毎日新聞(9月29日付け)のものを見てみることにしよう。
1.憲法改正に賛成が多数
憲法改正に賛成と反対の比率は、読売は60%対27%、日経は61%対32%、毎日は43%対13%で、いずれも憲法の改正に賛成するものが多数をしめている。改憲問題に関する世論調査では、50年代半ば以降、反対するものが多数をしめる状況が続いていたが、1993年以降どの新聞社の調査でも、改正に賛成するものが反対するものを上回り、その差は増大している。
改正賛成の増大は湾岸戦争を契機とする憲法第9条への「一国平和主義」攻撃を典型とする「時代に合わなくなった憲法」という90年代改憲論の影響が見られるのは確かであるが、賛成理由は第9条に向けられているわけではない。
2.改正賛成理由の多様化
憲法のどこを改めるべきと考えているかについての調査は、新聞社の設問項目にバラツキがあって世論動向を読み取ることに困難があるが、改正賛成の理由が多様化していることは間違いないと思われる。
日経の「現行憲法の問題点」では、「環境権やプライバシー権など時代の変化に対応した規定がない」が49%でトップで、以下、二位に「地方自治の考え方が不徹底」、三位「行政の介入する範囲が広く、経済活動の自由が明確でない」、四位「衆院、参院の二院制など国会に関する規定が適当でない」と続き、「戦争放棄などを定めた9条が現実に合わない」は22%で最下位となっている。
「改正すべき内容」を改正賛成者にきいている毎日調査では、トップが「首相を国民の直接得票で選べるようにする」55%で、二位が「重要な政策課題は、国民投票で選べるようにする」、三位「国民の知る権利を明示する」と続き、「自衛隊の位置付けを明確にする」は五位で34%となっている。改正理由をきいている読売調査でも、「国の自衛権を明記し、自衛隊の存在を明文化するため」というのは、最下位の五位で22%である。
3.憲法第9条に依然強い支持
憲法第9条について直接きいているのは毎日調査だが、「戦争放棄条項の削除」5%、「自衛隊は自衛のための戦力であることを明記」36%、「現在の条文をそのまま残す」20%、「非武装中立の立場をより明確に」26%となっている。9条の改正と9条の支持とにくくると、41%対46%となり、拮抗しつつも支持が上回っている。
また、今日の改憲論の焦点である「自衛隊の海外での武力行使」を可能とするかどうかについては、「海外での武力行使も認める」27%、「海外での武力行使は認めない」49%、「自衛隊の海外派遣は一切認めない」14%となっている。すなわち、27%対63%の大きな差で、自衛隊の海外での武力行使には強い拒否を示している。
4.現実政治への不満が改憲賛成の増大の背景に
以上のことからいえることは、改憲賛成の増大の背景には、「論憲」という議論の枠組みの登場もあって、60〜70年代のような「改憲論」への強い抵抗感は希薄化するとともに、他方で国民意思とは切断されて遂行される政治への強い不満が存在することが読み取れる。「首相公選」「国民投票制」「地方自治」「国会のあり方」「知る権利」などへの強い支持にそれを見ることができる。このことは、改憲推進勢力の自公保政権への不信・不満が改憲論の一つの温床となるというパラドックスな事態でもあり、石原慎太郎のような「強いリーダーシップ」を期待する心情ともなっていくものでもある。
一方、現代改憲論の焦点である「自衛隊の海外での軍事行動」を可能とする改憲方向に対しては強い拒否意識を示している。しかし他方で、読売調査の「国際機関の平和活動や人道的支援に、自衛力の一部を提供するなど、積極的に協力することをはっきり書いた方がよい」に対して、「その通りだと思う」70%と強い賛成が示されている。この点では、「国際貢献」論、「人道的貢献」論が、9条改正への合意形成のてことなっていくことを予想させる。
ともあれ、世論調査から読み取れるものは、ある一つの方向に改憲構想が収斂されていくには未だ相当の距離があるということ、しかしにもかかわらず、国民の強い政治不信は改憲という方向でのドラスティックな政治転換をも望みつつあるということであると思われる。
2000年10月30日
和田 進
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