独自の改憲試案まで発表している改憲派の新聞者の勧誘員が、ある野球チームのグッズをちらつかせて、今し方、やってきた。昨日もビール券をちらつかせて同じ新聞社の勧誘員が来た。集合住宅三階の我が家まで階段を上がり、呼び鈴をならした。そして数ヵ月後の新聞の購読契約を頼まれた。昨日も、「私は、護憲派憲法学者なので、お断りします」と言ったばかりだ。もしもう少し裕福なら、私と違う意見の新聞も定期購読したいのだが。
二〇〇四年二月二七日夕刻、友人から、「立川自衛隊監視テント村」の人が逮捕されたらしいとの一報が入った。びっくりした。その少し前に、「テント村」のほか、地元の無所属市議、共産党市議、各種の民主的団体・個人の共同のデモ行進に私は参加していたからである。さらに三月三日には、共産党の機関紙「赤旗」号外を、一住民として休日に配布した社会保険庁の職員が、幅広く国家公務員の政治活動を制限する憲法違反の国家公務員法一〇二条違反の恣意的な拡大適用によって逮捕されたとの記事が新聞に載っていた。しかも両方とも、令状逮捕であり、同じく六箇所に家宅捜索がなされた。
「テント村」について言えば、構成員一〇人未満の小さなグループで、地元立川を中心に反戦活動を地道に三〇年間やってきた人たちである。なぜ今、逮捕なのか?三月一九日に出された起訴状によると、起訴された三人の容疑は、一月一七日、立川市内の自衛隊官舎の敷地および階段・廊下に立ち入りチラシを配布したことが、住居侵入罪の共同正犯にあたるというのである。
住居侵入罪(刑法一三〇条)は、個人の平穏な生活を守るためにある(平穏侵害説)とも、住人・管理者の意思を尊重するためにある(新住居権説)とも説かれる。ところで、どちらの立場に立つにせよ、くだんの新聞勧誘員は、昨日明示的に示した私の意思に反し、高邁な憲法学の問題について沈思黙考しようとしていた私の平穏を害した。警察に通報しようか、どうしようか・・・。この程度の平穏侵害や意思侵害は、まあ表現の自由・民主主義の大切さから見れば受忍限度の範囲内であろう。警察に通報するのはやめておこう。また住居侵入罪は、共同住宅の敷地や共用部分への平穏な仕方での立ち入りも、許可がなければ禁止する趣旨だろうか。そうではなかろう。せいぜい軽犯罪法第一条三二号の「入るところを禁じた場所」(刑罰は、「拘留又は科料」)への立ち入りだろう。
ところで、「週刊文春」の出版差止について、三月三一日の東京高裁決定は、プライバシー侵害を認めつつ、その侵害の程度を考慮し、出版差止の仮処分を取り消した。曰く「表現の自由は、民主主義体制の存立と健全な発展のために憲法上最も尊重されなければならない」。他人のプライバシーも名誉も侵害していない「テント村」のビラ入れが、逮捕・留置・拘留・起訴=応訴強制という重大な負担を強いられている。それ自体が、表現の自由を萎縮させる公権力の発動である。表現の自由を侵害する憲法違反の起訴である。「赤旗」号外を休日に一住民として配布した社会保険庁の職員への憲法違反の国家公務員法一〇二条の恣意的な拡大適用による逮捕・起訴もそうである。
そして、ここが重大である。もしビラ入れのために集合住宅などに立ち入ることが犯罪であるのなら、私も含めて、ビラ入れをしたことのある人は、みんな犯罪者であり、これからビラ入れをしようとする人は、最近拡大する「防犯パトロール」や「監視カメラ」が探し回る「不審者」である。「おい、あいつ、ビラみたいなものを持っているぞ!警察に通報しようか?」アホらしいが、こんな会話が現実味を帯びてくる今日この頃である。
どうも起訴した東京地検もあせっているようである。記者会見で「反戦ビラが自衛隊関係者である住民に精神的脅威を与えた点に言及」(東京新聞〇四年三月一九日)した。自ら恣意的な言論弾圧であることを認めたも同じである。
自由と生活と平和を闘い取ろうとする人々のたゆまぬ努力に、終わらない「シュプレヒコール」に、あせっているようにも見える。警視庁、東京地検、そして戦争支持のすべての政治家に、みんなで教えてやろう。この「シュプレヒコール」が終わるのは、あなたがたが、日本国憲法を正しく理解し、戦争をやめ、人々の生活苦や自由への抑圧をやめるときであることを!
|