「ガス室」裁判 最終準備書面 その6

誹謗・中傷・名誉毀損の事実 ― 解釈を間違えた上での独断

最終準備書面 第四(続き)/第五 結論

(以下、甲号証及びその頁段行の記載追加以外は訴状の原文のままの引用)の続き

5、事実の認定及び解釈を間違えた上での独断に基づく誹謗・中傷・名誉毀損の事実

(右4項と同じ)

 原告は、基本的には「ガス室」が証明されない以上、「ガス室」の存在を記す記録には、疑いの目を向けるべきであると主張する。ただし、それだけでは不十分なので、基本的な矛盾点だけを指摘する。

『アウシュヴィッツの争点』で簡単な紹介をしているが、当時すでに、家畜運搬の貨物列車を丸ごと消毒する巨大な建物があった。チクロンBに温風を吹き付けて室内を循環させ、最後にはシアン化水素を完全に蒸発させてチップを無毒にする装置も輸出商品になっていた。「巨大なガス殺人工場」物語のすべては、この技術水準と合致しない。その点を同書では詳しく記し、「核心的争点」として、「ガス室」の実在証明を求めている。被告・金子マーティンは、この点を完璧なまでに逃げている。

一九九七年[平9]一月二四日号・50~53頁「同前講座」9(1)(甲第9号証の5)……「改竄主義者」

「歴史改竄主義者」という用語は、被告・本多勝一も追認しており、従来から「改竄」という用語を攻撃的に使用している。「改竄」の典型的な使用法、「文書改竄」は、それ以前に誰かが作成した固定的な「文書」を、自分の都合に合わせて書き改める犯罪行為を指す。前述のように、「歴史」は誰かが作成した固定的なものではない。常に新しい発見によって書き改められるものである。

 特に、この場合、被告・金子マーティンが「歴史」に祭り上げる「ニュルンベルグ判決」の問題点は、前述の通りである。

「ナチがカチンの森でポーランド将校数千名虐殺」という「ニュルンベルグ判決」を覆す告白をしたゴルバチョフは、「歴史改竄主義者」なのか。「ニュルンベルグ判決」ではドイツのダッハウなどにも「ガス室」があったと判定されていたが、「ドイツにはガス室はなかった」と新聞発表したミュンヘン現代史研究所の所員、のち所長のブロシャットは、「歴史改竄主義者」なのか。アウシュヴィッツ記念碑の「犠牲者」の数を、「四百万人」から「百五十万人」に書き改める決定を下した国際委員会のメンバーは、「歴史改竄主義者」なのか。被告・金子マーティン自身も、それらの訂正を追認しているから、もしかすると、やはり、「歴史改竄主義者」なのだろうか。このように、「改竄」は実に滑稽至極な怒号でしかないのである。

同右……「多い少ないを論争しても水掛け論」

「多い少ない」には、単に数の問題だけではなくて、質的な問題がはらまれている。

 第一は、「ニュルンベルグ判決」の権威の崩壊である。

 第二は、「自然死」の数字への限り無き接近である。

 南京大虐殺の場合とは違って、数年間の収容所生活の中での病死、老衰死などの「自然死」がある。現在までのところ、アウシュヴィッツの場合、絶滅政策の存在を主張するプレサックの説では、「四百万人」が「六〇万人」にまで減っている。前出の「二〇万人」という数字は、「登録された収容者」中の「死亡者」であり、当然、「自然死」である。カナダで見直し論者が最高裁で勝利した事件、通称「トロント裁判」における火葬場の技術者の証言などによれば、プレサックは火葬場の処理能力を数倍も過大に見積もっている。それを計算に入れると、いわゆる「犠牲者」の数字は、限りなく「自然死」の数字に接近中なのである。だからこそ、被告・金子マーティンは、「水掛け論」とか「生産的な議論になるとは思えない」と逃げを張っているのである。

一九九七年[平9]二月七日号・66~69頁「同前講座」9(3)(甲第9号証の7)……「殲滅計画を裏付けるナチス文書いくつかを紹介しておく」と力むのが、何事かと期待して読み進むと、「おそらくは存在もしないだろう」「ユダヤ人殲滅のヒットラー命令があったのか無かったのか、それはさほど重要な問題でもないとか考える」とある。自らの文章によって、自らの主張の矛盾を暴露しているのである。

一九九七年[平9]二月一四日号・66~69頁「同前講座」9(4)(甲第9号証の8)……「自称『エンジニア』の人文科学修士ロイヒターが、実際には自然科学系の大学を卒業などしておらず、『エンジニア』の称号を不法に使用していたことが九一年に発覚」

 被告・金子マーティンは、アウシュヴィッツ等の「ガス室」の法医学的に調査した『ロイヒター報告』が『誤った前提」に立つものだと決め付ける文脈で、この「科学的・法医学的」な鑑定の結果を簡単に記しているだけである。被告・金子マーティンが、『ロイヒター報告』の信憑性を傷つけるために「発覚」などと威嚇するロイヒターの「学歴」問題は、トロント裁判の反対尋問で出されたものだが、「エンジニア」を名乗って営業することは「不法」でもなんでもない。「エンジニア」は「称号」ではなくて一般名称にすぎない。いささかもアメリカの法律を犯してはいない。人文科修士が「エンジニア」を名乗るのが「不法」だというのなら、高卒や中卒、さらには昔は沢山いた学歴の無い叩き上げの技術者たちは、何と名乗れば良いのだろうか。原告の下には、歴史見直し研究会の会員で技術系専門学校卒の「エンジニア」経験者から、「文系卒業の『エンジニア』が、日本の産業界に多数ゐる事を私は知ってゐます」とし、被告・金子マーティンの乱暴な誹謗中傷の仕方を、「名も無き彼らへの侮辱と私は捉えます」とする長文の手紙が届いている。

 以上で訴状からの引用は終り。

 以上の内、特に、「歴史改竄主義者」「泥酔者」「主張に内包する犯罪性や人権無視」「ユダヤ人排斥主義者」(以上、甲第9号証の5)、「『細工』(資料改竄)なしに自分の主張を維持できない」「デマゴーグ」(以上、甲第9号証の6)、「一味に属する」(甲第9号証の9)、「民族差別主義者」「欧米の歴史改竄主義者やネオ・ナチの主張の『翻訳』でしかない『アウシュヴィッツの争点』」「「職業的虚言者の『戯言』」「墓場から蘇ったような『ゾンビ』」「二次資料の改竄さえも怯まないディレッタントでかつデマゴーグ」「恥知らず」「低次元」「言い逃れ」「ドイツ語のイロハも知らない」「化けの皮」「負け犬の遠吠え」「犬は歴史改竄などをしません」「醜いゾンビ」「犠牲者・遺族・生還者たちを[中略]侮辱・冒涜」「悪あがき」(以上、甲第9号証の10)などは、誰が見ても、前掲の最高裁判決における「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱するもの」に他ならず、たとえ、「その行為が公共の利害を図る目的に出たものであり、かつ、意見ないし論評の前提となっている事実の主要な点につき真実であることの証明があるとき」でさえも、「違法性」が認められる部類の罵言の羅列である。

第五、結論

 被告・金子マーティンは、自らが法廷で立証することのできない「ガス室の実在性」を根拠にして、原告に、以上のような罵言を浴びせ掛けた。

 被告・本多勝一は、自らは「ガス室」の存在を主張する勇気すらないのに、このような罵言の羅列を、しかも、その記事連載の途中に何度も原告が注意したにもかかわらず、掲載し続けた。

 ともに、その罪は重い。当然、刑法にも触れる悪質な犯罪行為であるが、多忙な原告は、あえてその手間を省き、現在のところ、損害賠償と反論紙面のみを要求しているのであるから、被告は最低限、この要求には応えるべきであり、裁判所は早急に、原告の請求の正当性を認めるべきである。

 以上。


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