沖縄の米軍基地の現状と課題
1998年2月
沖縄県
[ユ 目次]
(1)米軍基地の整理縮小
県は、県民の生命、生活及び財産を守る立場から米軍基地問題の解決を県政の最重要語題として取り組んでいる。特に、1995年が太平洋戦争・沖縄戦終結50周年の節目の年であることから、解決を図るべき重要3事案を中心として、日米両国政府に対し、基地問題の解決促進を強く訴えた。
(重要3事案)
- 那覇港湾施設の返還
- 読谷補助飛行場におけるパラシュート降下訓練の廃止及び同施設の返還
- 県道104号線越え実弾砲撃漬習の廃止
(3事集に準ずる重要事案)
- 普天間飛行場の返還
(2)日米地位協定の見直し
県は、地域振興、県民生活の安定確保を図る観点から、米軍基地の存在の根拠となっている日米地位協定の見直し案を作成し、1995年11月4日付けで国に要請を行った。この見直し案は、これまで米軍基地から派生した事件・事故、振興開発の阻害要因等、現実に起こった事案を日米地位協定に照らし合わせて、沖縄県民に直接被害を及ぼすものを基本的に対象としている。
要請事項の趣旨は次のとおり。
- ・日本政府は、地元自治体から意見を聴取し、基地施設等が自治体の振興開発等に悪影響を及ぼしている場合は、米国政府に返還を要請し、米国政府はその要請に応じること。
- ・航空機騒音及び環境保護に関しては、基地施設内でも国内法を適用すること。
・必要により地元自治体が基地施設内への立ち入りを希望した場合は、これに応じること。
・航空機事故等の重大事故については、その原因を自治体に報告すること。
・事件・事故を起こした部隊に対して、演習中止等のペナルチィーを科すこと。
・施設内のゴルフ場を日本人が利用しないようにすること。- ・緊急時以外の民間空港の使用を禁止すること。
・民間地域での「行軍」を禁止すること。- ・那覇空港の進入管制業務を日本へ移管すること。
- ・人及び動植物の検疫についての国内法を適用すること。
・人の保健衛生に関して国内法を適用すること。- ・軍用車両の番号標を装着すること。
- ・私有車両について、民間車両と同じ税率を適用すること。
- ・被疑者の拘禁をどのような場合でも日本側ができるようにすること。
- ・公務中,公務外を問わず、政府の責任で補償が受けられるようにすること。
- ・合同委員会の場で、関係自治体の意向を聴取すること。
・合同委員会で合意された事項を速やかに公表すること。(3)知事の訪米要請活動
知事が、8回(西銘知事2回、大田知事6回)にわたって訪米し、沖縄の米軍基地の整理縮小及び基地被害の防止等について、米国政府要路並びに連邦議会議員等関係者に直接要請活動を行っている。
(4)国の対応(SAC0最終報告)
日米両国政府は、1995年11月、日米安全保障協議委員会(SCC)の下に、「沖縄に関する特別行動委員会」(SAC0)を設置し、沖縄の米軍基地の整理・統合・縮小を実効的に進めるための方策について、検討を行ってきた。1996年12月2日に開催された日米安全保障協議委員会において、SACOから、これまでの検討結果として最終報告が行われた。
その概要は次のとおり。
<基本的事項>
- 在日米軍の能力及び即応体制を十分に維持しつつ、沖縄県の地域社会に対する米軍の活動の影響を軽減する。
- 沖縄県における米軍の施設及び区域の総面積(共同使用部分を除く)め約21%(約5,002 ha)が返還される。
- 各案件を実現するための具体的な条件を取り扱う実施段階での調整は、日米合同委員会て行われる。
- SCCは日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)に対し、最重要課題の一つとして沖縄に関連する問題に真剣に取り組み、この課題につき定期的にSCCに報告するよう指示した。
<土地の返還>
施設名 |
返還面積 |
条件 |
1. 普天間飛行場 | 481 ha |
移設条件付き |
2. 北部訓練場 | 3,987 ha |
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3. 安波訓練場の共同使用の解除 | 480 ha |
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4. キンバル訓練場 | 60 ha |
移設条件付き |
5. 楚辺通信所 | 53 ha |
移設条件付き |
6. 読谷補助飛行場 | 191 ha |
移設条件付き |
7. キャンプ桑江 | 99 ha |
移設条件付き |
8. 瀬名波通信施設 | 61 ha |
移設条件付き |
9. 牧港補給地区 | 3 ha |
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10. 那覇港湾施設 | 57 ha |
移設条件付き |
11. 住宅統合:キャンプ瑞慶覧 | 83 ha |
<訓練及び運用の方法の調整>
- 平成9年中に日本本土の演習場に移転された後、県道104号線越え実弾砲兵射撃訓練を取りやめる。
- パラシュート降下訓練を伊江島に移転する。
- 公道における行軍は既に取り止められている。
<騒音軽減イニシアチブの実施>
- 平成8年3月に日米合同委員会により発表された、嘉手納飛行場及び普天間飛行場における航空機騷音規制措置に関する合意は、既に実施されている。
- 普天間飛行場に配備されている12機のKC-130(ハーキュリーズ)航空機を岩国飛行場に移駐する。岩国飛行場から米国への14機のAV-8(ハリアー)航空機の移駐は完了した。
- 嘉手納飛行場における海軍航空機の運用及び支援施設を海軍駐機場から主要滑走路の反対側へ移転する。この措置の実施スケジュールは、普天間飛行場の返還に必要な追加的施設の整備スケジュールを踏まえ決定される。MC-130航空機を平成8年12月未までに主要滑走路の北西隅に移転する。
- 平成9年度未を目途に、嘉手納飛行場の北側に新たな遮音璧を建設する。
- 米軍の即応態勢と両立する範囲内で、最大限可能な限り、普天間飛行場における夜間飛行訓練の運用を制限する。
<地位協定運用の改善>
- 平成8年12月2日に発表された米軍航空機事故の調査報告書の提供手続きに関する新しい日米合同委員会合意を実施する。
- 日米合同委員会の合意を一層公表することを追求する。
- 平成8年12月2日に日米合同委員会により発表された米軍の施設及び区域への立ち入りに関する新しい手続きを実施する。
- 米軍の公用車両の表示に関する措置についての合意を実施する。非戦闘用米軍車両は平成9年1月までに、ぞの他の米軍車両は平成9年10月までに、ナンバー・プレートが取り付けられる。
- 任意自動車保険に関する教育計画が拡充された。きらに、米側の発意で、平成9年1月から、地位協定の下にある全ての人員を任意自動車保険に加入させることを決定した。
- 次の努力により、地位協定第18条6項の下の請求に関する支払い手続きを改善するよう共同の努力を払う。
・前払い請求の活用による迅速な支払い。
・請求者に対する無利子融資制度を平成9年度末までに導人。
・裁判の確定判決額と米国政府支払額との差額を日本政府が支払う。- 検疫に関する手続きについて、12月2日に日米合同委員会により発表された更改された合意を実施する。
- キャンプ・ハンセンにおける米国の米軍射場と同等の不発弾除去手続きを引き続き実施する。
- 日米合同委員会において、地位協定の運用を改善するための努力を継続する。
(5)国際都市形成構想と基地返還アクションプログラム
- 沖縄の地理的特性及び歴史的背景等をもとに、<平和交流><技術交流><経済交流>を柱として、アジア太平洋地域の平和と持続可能な発展に積極的に貢献できる拠点を沖縄に形成するため、平成8年11月、「国際都市形成構想」を策定した。
- 県土に大きなウェイトを占める米軍基地の存在は移.序ある都市形成を図る上で大きな障害になっており、このため、国に対して「基地返還アクションプログラム」(素案)を提示し、目に見える形での米軍基地返還を求めており、返還が合意された基地の跡地を国際貢献拠点などとして整備を図っていく。
第一期:2001年までに返還10施設
- 那覇港湾施設
- 普夫間飛行場
- 工兵隊事務所
- キャンプ桑江(施設一部)
- 知花サイト
- 読谷補助飛行場
- 天願桟橋
- ギンバル訓練場
- 金武ブルービーチ訓練場
- 奥間レストセンター
第二期:2010年までに返還 14施設
- 牧港補給地区
- キャンプ瑞慶覧
- キャンプ桑江
- 泡瀬通信施設
- 楚辺通信所
- トリイ通信施設
- 瀬名波通信施設
- 辺野古弾薬庫
- 慶佐次通信所
- キヤンプ・コートニ一
- キヤンプ・マクトリアス
- 八重岳通信所
- 安波訓練場
- 北部訓練場
第三期:2015年までに返還17施設
- 嘉手納飛行場
- 嘉手納弾薬庫地区
- キャンプ・シールズ
- 陸軍貯油施設
- キヤンプ・シユワブ
- キヤンプ・ハンセン
- 伊江島補助飛行場
- 金武レッドビーチ訓練場
- ホワイトビーチ地区
- 浮原島訓練場
- 津堅島訓練場
- 烏島射爆撃場
- 出砂島射爆撃場
- 久米鳥射爆撃場
- 黄尾嶼爆撃場
- 赤尾嶼射爆撃場
- 沖大東射爆撃場
※本県に所在する米軍施設数は40施設であるが、キャンプ桑江が、部分的に第一期と第二期に分かれるため、延べ施設数としては41施設となる。
7. 普天間飛行場の返還に伴う代替海上へリポート基地建設問題について
(1)普天間飛行場の現状とSACOの最終報告
普天間飛行場は、市街地の中央部に位置し、地域の振興開発を妨げているだけでなく、航空機騒音の住民生活への悪影響や、航空機の離発着訓練の実施などによって、極めて危険な状況にあることから、県としても、普天間飛行場の返還が緊急かつ優先的課題であるとの認識のもとに、日米両国政府に対し、早期返還を繰り返し要請してきた。
その結果、日米両国政府は、平成8年12月の「沖縄に関する特別行動委員会(SAC0)」の最終報告において、普天間飛行場を含む6施設の全面返還と5施設の一部返還に合意した。
しかし、これらの施設の返還のほとんどが県内の既存施設への移設を前提としていることから、移設先の自治体や住民を中心に強い反発がある。
(2)海上ヘリポート建設の動き
このような状況の中、国は、平成8年5月から開始した海上へリポート基地建設の予備調査の結果を踏まえ、昨年11月5日に名護市及び県に対し、「普天間飛行場代替海上へリポート基本案」を提示した。
(3)地元の動き
名護市においては、住民の直接請求(条例制定請求)に基づき、平成9年12月21日、普天間飛行場返還に伴う海上へリポート基地建設の是非を問う市民投票が実施きれた。投票の結果、「反対」が「賛成」を上回り、名護市民は、地元に海上へリポート基地を建設することについて、明確に反対の意思を表明した。
(4)県の基本的な立場
県としては、海上へリポート基地建設問題については、国と名護市の話し合いの推移を見極めつつ、市民投票の結果や名護市の意向等も勘案し、総合的見地から判断すべきであるとの方針で臨んできた口国の提示した基本案を受け入れるべきかどうかについては、名護市民投票の結果、関係市町村、各種の団体等の意見、県政運営の基本理念など、様々な角度から慎重に検討し、平成10年2月6日に、次の理由により国の提示した基本案は、受け入れることはできないと判断した。
・名護市における市民投票の結果、海上へリポート基地建設に反対する住民が多数を占め、地元住民の意思が明確にされた以上、これを尊重するのが民主主義の基本ルールであり、地域住民の生活に深く関わりのある行政については、住民の要求に即して処理することが、地方自治のあるベき姿であること。
・平成8年7月16日、沖縄県議会は、「普天間飛行場の全面返還を促進し、基地機能強化につながる県内移設に反対する決議」を全会一致で行っていること。
・県は、県内各界各層の意見を参考にするため、県議会各会派、軍転協加盟市町村、労働団体、経済団体等、主な各種諸団体(84団体)を対象に、意見聴取を行った自その結果、全体としては、反対の意見が多数を占めたこと。
・平成9年1月12日に、県の自然環境保全審議会から、「沖縄の自然環境の保全に関する指針について」の答申が出されたが、キヤ.ンプ・シヤワブ沖水域は、自然環境の厳正な保護を図る区域として、最も評価の高い「評価ランクIJに区分されており、基地建設に伴う自然環境への影響が強く危倶されるところから、慎重な対応が求められていること。
・県政運営の基本理念は、「平和」、「共生」、「自立」であり、これを根幹に据えて、「基地のない平和な沖縄」を実現することであり、海上へリポート基地建設に反対する多くの県民の意思は、県政運営の基本理念にも合致すること。
[ユ 目次]