抗議声明
建設大臣瓦力は、1998年4月7日、沖縄県収用委員会が行った米軍用地特措法に基づく嘉手納基地内の土地の強制使用裁決申請を却下する裁決に対し、これを取り消す旨の裁決を下した。
我々は、この暴挙に対して満身の怒りを込めて糾弾するとともに、全国民に対して、安保優位論の下に、憲法と民主主義の基本である法の支配を次々と破壊する政府の行為の危険性を直視するよう、強く警鐘をならすものである。
そもそも、沖縄県収用委員会によって強制使用を却下された本件土地は、那覇防衛施設局が勝手に、真実の所有者の土地について、すでに死亡した人の土地であるとして強制使用手続きを進めてきたものであり、真実の所有者は、権利者として法律上保障される手続きを一切無視されてきたものである。
憲法は、個人の財産を公共の利益のために使用する際には、基本的人権である財産権に対する重大な制限を課すものであることから、厳格な手続きを要件としているが、本件土地の真実の土地所有者は、権利保障手続きを全くなされておらず、却下は当然の結論であった。
ところが、今回の取り消し裁決は、安保条約の実現と米軍の駐留を確保する為には、憲法の保障する財産権、民主主義の基本である適正手続きの保障等一切不要であると宣言しているに等しいものである。
沖縄県収用委員会による却下裁決は、那覇防衛施設局が当事者を取り違えた経緯を詳査し、手続違背が重大であると判断したうえ、那覇防衛施設局は、地主から誤りを指摘される以前の1996年11月5日ころには人違いを知っていた可能性が強いと断じている。とすると、那覇防衛施設局は、地主が指摘しなければ、そのまま死亡した人の土地であると騙し続けて土地の取り上げを行おうとしたものであり、まさに詐欺行為である。
ところが、今回の建設大臣の裁決は、事実関係については、全く判断せず、「本件土地は、我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の用に供する必要がある土地であり、本件処分により本件土地を使用する権限を得られないとすれば、我が国の生存と安全の維持という目的を達成するために内閣総理大臣の使用認定を受けた高度な公益の実現に著しい支障が生じる。」として、如何なる理由があろうとも、米軍に土地を使用させることに支障を生じさせてはならないとの立場で土地取り上げを県収用委員会に強要しているのである。
これは、収用法の基本である財産権保障と公共の利益との調和やそのための適正手続きの保障、地方自治の破壊であり、国の判断に反したり支障を生じさせることは許さないとの恫喝である。
瓦建設大臣もさすがに、国の手続き違背を覆い隠すことは出来ず、これを認めているが、これに対しても驚くべき詭弁を弄して言い逃れをしている。
裁決申請があった時は、地主に対してその旨の通知が行われねばならず、公告縦覧中に権利者は意見書を出す機会が与えられ、意見書を提出したものについて公開の場で意見を述べる機会が与えられる。ところが、本件では真実の権利者を取り違えているのであるから、意見書の提出の機会が奪われている。
これに対して瓦建設大臣は、那覇防衛施設局のミスで真実の権利者が除外されていたから意見書が出せなかった。今から出すから受理しろと言えば、「相当の理由がある」ものとして沖縄県収用委員会は、意見書を受理するから、真実の所有者の権利は保障されると言うのである。
泥棒にも三分の理というが、この論理はお粗末を通りこして哀れという外ない。
そもそも、相当の理由があるとして、手続き違背を治癒させなければならないのは、真実の権利者の権利を守る為であり、手続き違背をした那覇防衛施設局の手続きミスを治癒させるためではない。地主は、申請を却下されたために何ら不利益を受けてはいないのであって、瓦大臣の言うような主張をする必要は毛頭ない。
相当の理由があるとして意見書の提出を求めるかどうかは、地主の判断することであり、相当の理由の有無は県収用委員会の判断権限に属することである。
瓦大臣の裁決は、地主保護目的の土地収用法の規定を、手続きミスを犯した防衛施設局の過失を治癒するための論理であり、まさに詭弁という外ない。
国は米軍用地特措法を改悪し、法的権限がなくとも、暫定使用の名のもとに土地を取り上げ、使用を継続するという、まさに有事立法を強行採決したが、今回の裁決は、安保優位の下では、民主主義の基本である法の支配も否定し、地方自治も破壊し、国民の権利も恣意的に制限できることを宣言したものといわなければならない。
全国民が、新ガイドライン、各種有事立法の整備等とあわせて、安保優位論の下に押し進められる政府によるさまざまな憲法破壊行為に対して、重大な関心を持ち、取り返しのつかなくなる前に、今すぐ直ちにこれを阻止する行動に立ち上がるよう訴えるものである。
1998年4月13日
反戦地主会
一坪反戦地主会
違憲共闘会議
反戦地主弁護団
一坪反戦地主弁護団