注:

 登記簿殺人事件に関連する沖縄県収用委員会の却下裁決に対して那覇防衛施設局が建設大臣に出した審査請求。一部の住所・氏名は略した。


                      施那第1958号(AFS) 
平成9年6月5日  

建 設 大 臣
 亀 井 静 香 殿

                        那覇防衛施設局長  
嶋 口 武 彦  

              審 査 請 求 書

次のとおり審査請求する。

  1. 審査請求人の名称及び住所
     名称:那覇防衛施設局長 嶋 口 武 彦
     住所:那覇市久米1丁目5番16号
  2. 審査請求に関わる処分
     平成9年5月9日付け沖縄県収用委員会による却下の裁決(平成8年(権)第8号及び平成8年(明)第8号)
  3. 審査請求に関わる処分があったことを知った年月日
     平成9年5月9日(裁決書の送達を受けた日)
  4. 審査請求の趣旨及び理由
     趣旨:「上記2に掲げる処分を取り消す。」との裁決を求める。
     理由:別紙のとおり。
  5. 処分庁の教示の有無及びその内容
     裁決書において、「この裁決に不服がある場合は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して30日以内に建設大臣に対し審査請求をすることができる」との教示があった。
  6. 審査請求の年月日
     平成9年6月5日


                              別紙  

          審 査 請 求 の 理 由

 平成9年5月9日付けの沖縄県収用委員会の裁決書(平成8年(権)第8号及び平成8年(明)第8号)による却下の裁決(以下「本件却下裁決」という。)の取り消しを求める理由は、次のとおりである。

I 土地所有者取り違えについての事実関係経緯等(経緯の詳細は付紙1参照)
 1 対象土地、所有者名等
   対象土地:嘉手納飛行場内(付図参照)
     沖縄県中頭郡嘉手納町字東野理原350番
     実測面積590.20m2
     共有者数1,121名 (平.9.3.2.1.沖縄県収用委員会への補正文書提出時)
   判明した真の共有者(登記名義人):
     静岡県清水市◯◯◯丁目◯番◯号 石原正一(持分1/1,044)
   裁決申請書等記債の共有者:
    (静岡県清水市◯◯◯町◯番◯号 石原正一
      (昭和61年9月19日死亡)の法定相続人)
     静岡県清水市◯◯◯町◯番◯号 石原◯◯(持分3/6,264)
     同  所           石原◯◯(持分1/6,264)
     同  所           石原◯◯(持分1/6,264)
     同  所           石原◯◯(持分1/6,264)

2 同姓同名の別人を共有者と受け止め、その相続人を手続き対象者としていた事情等
(1)土地所有者の確認調査について
 嘉手納飛行場内の一部土地については、昭和57年9月25日付け売買を原因として、一坪反戦地主会(会則は付紙2のとおり)により、いわゆる一坪共有地化が開始され、本件土地についても、昭和59年12月1日付け売買を原因として471名により一坪共有地化がなされた。
 このため、当局は、土地登記簿記載のこれら共有者について、所有権の移転、住所の異動等を把握するため、土地登記簿、住民票、戸籍簿等の謄本の交付を受けるなどして継続的に確認調査を行ってきたところである。(これら一坪共有地(3筆2,148m^2)については、従前の所有者(1名)が契約を拒否していたため、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「駐留軍用地特措法」という。)に基づき沖縄県収用委員会の裁決を得て昭和57年5月15日から昭和62年5月14日までの間の使用権原を取得済みであった。)
 なお、補正文書提出時点における嘉手納飛行場内の一坪共有地の共有者数は約2、300名の多数に及び、また、その住所地は全国各地に散在している状況にある。

(2) 真の共有者についての確認調査の経緯等について

  1.  登記名義人石原正一氏(以下「真の共有者」という。)については、他の54名とともに、昭和61年7月1日付け売買を原因として、昭和62年3月30日付けで持分一部移転登記(持分1/1,044)がなされたことが判明した。(なお、昭和62年5月15日から平成9年5月14日までの間の使用に関わる沖縄県収用委員会の昭和62年2月24日付け裁決については、昭和60年11月14日に裁決手続き開始登記がなされていたため、同人は同裁決の名宛人とはならなかった。)
  2.  そこで、真の共有者の住所地を管轄する清水市役所に、土地登記簿の記載に基づき真の共有者の氏名(石原正一)及び住所(清水市◯◯◯丁目◯番◯号)を記載して住民票の交付を依頼したところ、同市役所から、石原正一氏(住所:清水市◯◯町◯番◯号)は昭和61年9月19日に死亡している旨記載された昭和62年10月12日付け住民票除票が交付された。
  3.  このため、昭和62年11月、石原正一氏(住所:清水市◯◯町◯番◯号)の法定相続人を調査し、翌年からはこの法定相続人を対象者として確認調査を実施し、今回の駐留軍用地特措法に基づく手続きをとったものである。
  4.  しかしながら、沖縄県収用委員会の審理開始直後の本年3月11日、一坪反戦地主会から共有者1名について取り違えがあるとの公表があったことを受け、再調査した結果、真の共有者と同姓同名の別人の相続人を対象者としていたことが判明したため、同月21日、同収用委員会に補正を申し立てたところである。

(3) 同姓同名の別人を共有者と受け止め、その相続人を対象者として手続きを進めてきた事情について

  1.  住民基本台帳法第3条において、「市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるように努めなければならない。」とされており、また、これまで住民票等の取り付け業務において、誤った住民票等が送付されてきたことがなかったため、真の共有者と同姓同名の別人の住民票が交付されるという誤りがあるとは考えなかったこと。
  2.  昭和62年2月24日付け沖縄県収用委員会の裁決の名宛人となった一坪共有地(3筆)の共有者2,000名のうち約400名についても住所移転、住居表示変更等により土地登記簿記載内容と何らかの異同があったことから、交付依頼した住所と交付を受けた住民票除票の住所は異なるものの、その住所は、登記簿記載の真の共有者の死亡時の最後の住所であると判断したこと。
  3.  その後、契約説得に当たった当局職員に対し、死亡した石原正一氏の法定相続人から、権利者であると信じるに足る「亡くなった主人に意志の様であるので、今回は、法定相続人である私どもとしては契約を拒否します。」旨の返答があったこと。
  4.  また、裁決申請がなされた旨を隠れた権利者を含む関係権利者に周知し、意見書提出の機会を与える趣旨を有する裁決申請書等の公告・縦覧の際にも真の共有者から意見書の提出がなかったこと。

(4) なお、沖縄県収用委員会の裁決書にあるとおり平成8年11月5日付けの戸籍附票の取寄せを行っているが、これは、同収用委員会が裁決手続き開始登記の嘱託をなすに当たり、当局が土地登記簿の記載内容を変更する登記の嘱託手続き(平成8年10月25日)を執った際、登記所から石原正一氏の戸籍附票の提出を求められたので、10月31日付けで清水市役所に死亡している石原正一氏の戸籍附票の交付を依頼し、11月5日付け附票の交付を受けたものである。その際、当該戸籍附票には登記簿上の住所の記載がなかったが、当局は、戸籍附票によっては登記簿記載の住所が記載されていない事例があったことから、本件もその一例と受け止めたものである。

(5) 同姓同名の別人と取り違えた事情等は、前述のとおりであり、普天間飛行場の一坪共有地の共有者(約700名)を含め、約3,000名に及ぶ全国各地に散在する多数の共有者について、同一時期、かつ、関係機関の協力を得つつ調査を行っている中で生じたものである。

II 本件却下裁決の取り消しを求める理由

1 本件については、裁決申請書等の補正が認められるべきであり、却下の裁決を行うことは不当であると考える理由について
 駐留軍用地特措法第14条の規定により適用される土地収用法第47条は、「裁決の申請がこの法律の規定に違反するとき」は申請を却下しなければならないとしているが、これは、裁決申請に関わる手続きを踏ませることによって保護しようとすると地所有者等の権利が、その違反によって損なわれることがないようにする趣旨から規定されてものであると考える。したがって、裁決申請の手続きに瑕疵があっても、その保護しようとすると地所有者等の権利がその後回復され、又容易に回復可能である場合には、申請を却下することは必ずしも妥当でなく、この場合に、他方で却下により公益の実現に著しい支障が生じることとなるときは、その申請の却下は不当であると考える。
 本件については、以下に述べるとおり、明らかにこのような場合に該当するものであり、本件却下裁決は不当なものとして取り消されるべきものと考える。
 なお、裁決申請の手続に起業者の過失による瑕疵があっても、却下の裁決をすることなく、補正の措置を講ずるべきであるという考え方に立つ学説等が多数ある(付紙3参照)。

(1)裁決申請書等の補正を認めても真の共有者の権利保護に欠けることはないことについて

  1.  裁決申請書及び明渡裁決申立容の公告・縦覧は、裁決の申請があったことを周知するとともに、隠れた権利者を発見し、収用委員会に対する意見書提出の機会を与えるために行われるものである。
     本件土地に係る裁決申請書等の公告・縦覧は、平成8年9月18日から同年10月2日までの間、使用しようとする土地について誤りなく行われており、真の共有者を始めとする関係権利者には沖縄県収用委員会に対する意見書提出の機会は適正に付与されていたところである。
  2.  本件裁決申請書及び明渡裁決申立書には、真の共有者の氏名、住所が記載されていないが、これを補正することにより、真の共有者は収用委員会の審理、裁決の対象となるものであり、これにより使用による損失についての通正な補償その他真の共有者としての権利保護を図ることができるものである。
  3.  土地調書及び物件調書は、収用委員会における審理を円滑かつ迅速に進行させるため、使用又は収用しようとする土地、土地所有者等を審理に先立って明らかにするため作成されるものである。その記載事項のうち土地所有者等の確認を得た事項については、真実であるとの推定力が与えられるが、調書に記載がなく、立会い及び署名押印の機会が付与されていない土地所有者等との間ではその推定力は働かないこととされている。
     したがって、調書に真の共有者の記載がなく、立会いをさせていないからといって、本件土地調書等が今後の沖縄県収用委員会の審理において真の共有者の権利を損なうことはないものである。
     なお、石原正一氏(清永市◯◯◯丁目◯番◯号)が真の共有者であることについては、既に本年3月21日の本件裁決申請書等の補正の申し立て等において明らかにし、本件却下裁決においても沖縄県収用委員会の調査により判明した事実とされているところである。

(2) 本件却下裁決により公益の実現に著しい支障が生じることについて

 本件土地は、日米安保条約に基づき我が国の安全に寄与し、及び極東における国際の平和と安全に寄与するため我が国に駐留する米軍の用に供する必要がある土地であって、嘉手納飛行場全体と有機的に一体として機能している本件土地を使用し、米軍の駐留を実現、維持確保することによって、我が国の生存と安全の維持という極めて高度な公益が確保されるものである。
 このため、平成7年5月9日、従前の使用期間満了後の本年5月15日以降も引き続き駐留軍の用に供するため本件土地を使用することについて、内閣総理大臣の使用認定を受けたところである。
 本件却下裁決により本件土地を使用する権原を得られないとすれば、上記のような我が国の生存と安全の維持という使用認定を受けた高度な公益の実現に著しい支障が生じる。(特に、駐留車用地特措法第7条1項による使用認定の告示の日(平成7年5月9日)から既に1年を経過しており、本件土地の使用権原を得るためには、再度使用認定から手続きが必要となる。)
 また、駐留軍の用に供する必要がある土地等については、その高度の公益性にかんがみ、駐留軍用地特措法の改正により、従前の使用期間満了後も使用裁決による使用権原取得までの間、暫定使用することができることとされたが、却下の裁決が確定した場合には、暫定使用は終了することとされており、これにより、公益の実現は著しい支障が生じることとなる。

2. 本件却下裁決の理由第2の3及び4が不当なものであると考える理由について

 本件却下裁決は、その理由第2の3及び4において、駐留軍用地特措法第7条第2項の通知が真の共有者になされていないこと及び駐留軍用地特措法第15条第1項により却下しても暫定使用できることを利益衡量して、却下せざるを得ないとしているが、このことは、以下に述べるとおり、却下の裁決の判断を行うに当たって考慮すべきでない事項又は過大に考慮すべきではない事項を理由とする不当なもである。

(1)本件却下裁決の理由第2の3(1)について

  1.  土地収用法の事業認定は、ある特定の土地を公共の利益となる事業の用に供することが適正かつ合理的であるか否かを判定し、起業者に当該土地を収用する権限を付与する処分であり、当該土地の所有者等について具体の権利義務を発生させる。このため、事業認定は、告示をもって行うこととされており(同法第26条第1項)、その効力は告示によって発生し、事業認定に不服のある土地所有者及び関係人は、この告示により不服申立てを行う機会を得ることとされているところである。
     このことは駐留軍用地特措法においても同様であって、土地収用法第26条第1項の告示に相当するものとして駐留軍用地特借法第7条第1項において使用又は収用の認定の告示を定めているところである。なお、同条第2項は、土地所有者及び関係人に認定があったことを通知する手続を規定しているが、これは、当該告示に「念のため」の手続として付加されたものに過ぎず、それをもって却下の裁決の判断を左右するようなものではないと考える。(東京地判昭.42.12.12.は「旧特別措置法(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法)第7条第2項に基づいてする調達局長の、土地等の所有者および関係人に対する通知は、収用しようとする土地等の所在、種類および数量をこれらの者に了知させるため、同項に基づく公告とは別に、念のためになされるものであって、単なる観念の通知行為にすぎず、これによって国民の権利義務に格別の効果をおよぼすものではなく、この理は新特別措置法(駐留軍用地特措法)第7条第2項によって防衛施設局長がなすべきものとされている通知についても異なるところはない。」としていいる。)
  2.  本件却下裁決は、通知がなかったことによって、使用認定に対する不服申立の機会を確保する事実上の利益が損なわれるとしているが、これは違法性の承継が認められるか否か等を含め使用認定に係わる事項として律せられるべきものであって、駐留軍用地特措法が、使用又は収用の認定という公益性の判断は内閣総理大臣に、適正な損失補償等についての判断は収用委員会にそれぞれ権限を分属させていることにかんがみれば、使用認定に係る事項を裁決を行うに当たっての考慮事項とすることは、収用委員会に与えられた権限を超えるものであって、許容されるものではない。

(2)本件却下裁決の理由第2の3(2)について

  1.  駐留軍用地特措法第15条第1項は、却下の裁決があった場合にも暫定使用は継続するとしているが、その期間は、同項第1号により、審査請求がない場合には30日、審査請求があった場合には当該審査請求が却下又は棄却されるまでとされており、極めて短期又は不安定な期間に限られるものである。したがって、同号の規定により使用が認められるからといって、使用認定を受けた駐留軍の用に供する土地の安定的な使用を確保する観点からは、極めて不十分なものであり、このことをもって、却下の裁決の判断を左右するような考慮事項となるものではない。
  2.  また、却下の裁決があった場合にも、これが確定するまでの間、暫定使用は継続するとされているのは、審査請求により収用委員会の裁決が取り消されることもあり得ることから、慎重を期したものに過きず、裁決申請に却下を相当とする事由がある場合には、却下の裁決が確定することにより、その暫定使用は終了することとなるものであるから、収用委員会が却下の裁決を行うに当たっては、その裁決が確定し暫定使用が終了することを前提に却下を相当とする事由があるか否かを判断すべきである。
     本件却下裁決は、却下の裁決が確定するまでの間暫定使用できることを比較衡量し、本件申請を却下せざるを得ないとしているが、却下の裁決が確定し暫定使用が終了することこそ本来最も重視して考慮されるべきであり、このことを考慮すれは、本件却下の判断は、当然に首肯し得ないものである。

3 結論

 以上述べてきたとおり、本件共有者の取リ違えについては、裁決申請書等の補正を認めても真の共有者の権利保護に欠けることはなく、他方、却下の裁決により公益の実現に著しい支障が生じることは明らかであり、また、沖縄県収用委員会が却下の判断を行うに当たり考慮した事項はいずれも理由がないものであって、本件却下裁決は著しく不当なものとして速やかに取り消されるべきである。



弁明書(沖縄県収用委員会)][裁決申請却下(970509)][沖縄県収用委員会・公開審理