付紙3 

土地所有者の取り違えが起業者の過失による瑕疵で
あっても、却下の裁決をすることなく、補正の措置
を講ずるべきであるという考え方に立つ学説等   

  1.  「実体上の権利者を誤った場合、審理裁決前の起業者の判断に「過失」があったとき、収用委員会がいかなる判断を下すべきか問題となりうる。添付書類の「方式」の違背とはいえないから、書類の欠陥補正命令・却下という形はとらないものと解される。土地収用法47条により収用法違反として裁決申請の却下をなすべきか否かについては、これを肯定する見解と、裁決申請等の添付書類である土地調書・物件調書は、収用委員会の審理のための証拠方法にすぎないとしてこれを否定する見解とがある。基本的には後者を支持する。けだし、47条1号・2号の規定との比較、特に物件調書に関する権利者の過誤は「収用又は使用の裁決の申請」とは無関係と考えられること、また真実の権利者も審理に参加を認められることによって実質的な不利益を免れることかできることなどから、裁決申請の却下は要しないと考えられるからである。」
    (「改訂版土地収用・税金」中川善之助、兼子一監修 P186)
  2.  「昭和31年8月9日建設計総受第72号計画局総務課長回答……は、土地調書に、関係人の権利の表示や署名・擦印が欠けている場合は、裁決申請を却下しうるし、当該土地に関する部分の裁決は効力がない、といっているが、これはむしろ、裁決以前ならば、随時補正を命じうると考えてよいし、或いは収用委員会において、審理の上でそれを補って、正しい裁決がなされているとすれば、あえてこれを無効とのみ断ずる必要はないわけである。右の例規は、その意味におい疑問である。手続過程においては、このように合目的的に考えるのが合理的である。土地調書の作成は、収用委員会の審理を助けることがその本来のねらいであるという立法理由を、理解しない点が問題である。手続の過誤が裁決全体を必ずしも無効ならしめない、第131条第2項の趣旨を生かすべきであると考える。」(「新訂土地収用法」高田賢造著 P221)
  3.  「起業者が権利者の認定を誤ったことについて過失がある場合には、@47条違反としで却下すべきであるとする見解と、A裁決申請書の添付書類である土地物件調書は収用委員会の審理のための証拠方法に過ぎないから却下する必要はなく、起業者に補正を命じればよいとする見解がある。一般的には、後者が妥当と思われる。」(「土地収用法」小高剛著 P319)
  4.  「裁決申請において氏名の記載がされていない者が権利者であることが判明したときは、収用委員会は……真の権利者を審埋手続にり込み、かつ、自ら進んで現地調査や真実の権利者に対する審問等により調書に代わる証拠を用意した上で収用又は使用の裁決をすることも許されないわけではないと解する。なぜならば、右の措置がとられることにより誤認を受けた権利者の手続上の利益は十分に保護されることになるからである。」(「改訂版逐条解説土地収用法(上)」小澤道一著 P435)
  5.  「起業者が権利者の認定を誤っていたことについて過失がある場合には、収用委員会は、起業者に補正を命ずべきです。」(「都市計画・区画整理・収用の法律相談[改訂版]」山田幸男、下出義明、園部逸夫編 P349) 
  6.  起業者が.土地所有者を甲と見誤って土地調書等を作成した後、乙が真の土地所有者であることが判明したため、乙を土地所有者として審理に参加させ裁決手続がなされた事案について、「調書の作成手続は土地収用法第36条に違反する違法なものといわざるを得ないが、…調書作成手続の違法は裁決の違法を来たさないものと解するのが、相当である」とした判例がある。(浦和地裁昭和51年4月30日判決「東北本線赤羽・大宮間線路増設工事にかかる土地収用裁決取消請求事件」)
  7.  「土地収用法弟131条第2項の規定の趣旨とするところは、同法が公用微収手続その他の行為について詳細な規定を設けているが、他面において往々にして土地収用手続を遂行するうえで右手続規定に違反する場合も生じやすくなることは否み難いところであって、しかも前記のとおり一連の多数の行政行為を経て始めてその所期の行政目的を達成することができる土地収用手続においてはかような手続の全体過程の中ではその手続違背が結果的にみて実質上軽微なものて全体としての手続をくつがえす必要のない場合もあるところから、かような手続的暇疵は手続の経済の見地からその違法性の治癒を認めたものであると解せられる。」(名古屋地裁昭和46年4月30日判決、同旨「改訂版逐条解説土地収用法」小澤道一著 P601、「改訂版土地収用・税金」中川善之助、兼子一監修 P292)

(参考)

 審理中に隠れた権利者が判明したため審理に取り込んで裁決がなされた事例として、次のものがある。

 大阪府収用委員会 昭和42.10. 3.  裁決
 島根県取用委員会 昭和42.10.24.  裁決
 徳島県収用委員会 昭和52. 3.26.  裁決
 熊本県収用委員会 昭和59. 3.26.  裁決


審査請求書(970605)

弁明書(沖縄県収用委員会)][裁決申請却下(970509)][沖縄県収用委員会・公開審理