米軍用地強制使用裁決申請事件

同  明渡裁決申請事件

  意見書(三)


 [目次


第六 キャンプシールズ

 キャンプシールズ内の島袋善祐の所有地(沖縄市字知花曲茶原二二九一)については、(1) 地籍不明地であること (2) 土地の特定を誤って収用裁決申請がされていること (3) 収用の必要性がないことのいずれの理由からも収用裁決申請は却下されるべきである。

 一 島袋善祐所有地が地籍不明地であることについて

 島袋善祐所有地は、地籍不明地であり、地籍不明地は本来強制使用手続を行い得ないものであるから、本件収用裁決申請は却下されるべきである。

 1 編さん地図の未確認

 防衛施設局長は、位置境界明確化法に基づく位置境界明確化作業の一環として作成された編さん地図をもとにして、島袋善祐の所有地を特定しているが、島袋善祐は、編さん地図を確認して同意していない。

 防衛施設局長は平成九年一二月一日付書面において、島袋善祐が編さん地図確認書へ押印した旨主張する。確かに編さん地図確認書の署名欄には島袋善裕との記載がされ押印されているが(G・スライド14)、この署名押印は偽造されたものである。

 なぜなら、同書には、「島袋善裕」と「裕」の字が誤って、署名されているからである(G・スライド14)。人が自己の氏名を誤って署名することはおよそありえず、誤字に気がつけば指摘するから、この署名捺印は、本人が不在のときに他人の手によってなされたものであることが明らかである。

 また、編さん地図確認書をもとに、現地で地主立会のもと作成された現地確認書に島袋善祐は署名捺印していない(G・スライド5、15)。

 2 位置境界明確化作業について

 地籍調査は、本来国土調査法に基づき実施される。同法は、公図の存在を前提として、地籍調査資料に基づき「現地において関係土地所有者らの立ち会いのもとに各筆の土地につきその土地の所有者、地番、地目及び境界に関する調査を行う」ことを基本としていたため、沖縄戦の戦禍により公図・公簿が消失し、現況のほとんどが変形した沖縄県においては同法に基づいて調査を実施することがきわめて困難であった。そこで、沖縄県については特別法位置境界明確化法を制定し、現地における調査・確認という手法によらずに、「土地所有者の集団合意」による手法によって地籍確定することとしたのである(一九九八年二月二〇日付意見書(一)一五五頁)。

 同法は、関係所有者全員の協議により各筆の土地の位置境界を確認すべきことを定めているのであるから、関係所有者の中に一人でも地図編さん図に同意しないものがいれば、その地図編さん図は何ら意味を持たないものとなる。土地の位置境界は、土地所有者の権利に関わるものであるから、他の者が、土地の位置境界について全員合意していたからといって、その結論を強制することができないのであり、関係所有者全員が合意しなければ法律的な意味を持たないのは当然のことである。

 3 防衛施設局長の主張に対する反論

 防衛施設局長は、島袋善祐以外の所有者が地図編さん図に合意していることを理由として、島袋善祐の所有地は特定可能であり、強制使用することが可能であると主張するが、前述のとおり、島袋善祐以外の地主が、「現地確認書」に押印しているとしてもそれは、法的には全く意味のないものである。

 また、防衛施設局長は、島袋善祐が、「返還の時期を明示すれば、いつでも押印する。」と述べたとし、このことは、「当該土地の位置境界について、何ら異議がないとする意思表示である。」という。しかし、島袋善祐は、軍用地を返還しない限り、地籍明確化作業に協力できない旨を述べたに止まり、地図編さん図に問題がないという趣旨ではない。

 加えて、防衛施設局長は、島袋善祐が沖縄県収用委員会の裁決に従って支払われた補償金を受領し、争っていないことを土地が特定されていることの理由として挙げているが、島袋善祐の所有地が強制収用されたことに間違いはないのであるから、補償金を受領するのは当然であり、補償金を受領したからといって位置境界について争わない趣旨ではない。

 確かに、これまで収用委員会は、地籍不明地について強制使用認定したのであるが、その認定は不適法なものであった。過去において誤った判断が何度なされたとしても、それが誤ったものである限り、その判断に基づいて、土地が特定されるものではない。 従って、島袋善祐の土地は、地籍不明地のままなのである。

 4 土地の特定の必要性について

 米軍用地収用特措法四条一項及び同法施行令一条は、収用(使用)認定申請書に「使用し、又は収用しようとする土地等の調書及び図面」を添付することを義務づけ、同法施行規則二条は、右「土地調書」の様式を定め、「収用しようとする土地等の所在、種類、構造、形状、用途並びに所有者及び関係人の氏名及び住所」を記載するものと定める。

 これらの規定から明らかなように、米軍用地収用特措法は、土地収用法と同様に防衛施設局長に対し、収用(使用)認定の申請に際し、対象土地の所在、種類、構造、形状、用途、土地所有者、関係人の住所氏名等を記載することによる土地の特定を義務づけている。

 このように法、施行規則、施行令等が、収用認定申請に土地の特定を義務づけているのは、土地の収用に際して適正手続を保障するためである。

 憲法三一条の適正手続の保障は、行政手続きにも及ぶのであり、土地の強制収用は、憲法の保障する財産権(二九条)の最も重大な制限であることに照らせば、土地を強制収用しようとするときは事前の告知、弁解、防御の機会を与えられなければならない。弁解、防御を行うためには対象土地について特定がなされていることが大前提であって、これがなければ弁解、防御を行うことは不可能である。

 地籍不明地においては、対象土地の位置境界及びその所有者が不明なのであって、弁解・防御の機会を与える適正手続を行う前提を欠いている。このような土地について強制収用をすることは許されない。

 5 結論

   よって、本件収用裁決申請は却下されるべきである。

 二 島袋善祐所有地の特定の誤りについて

 防衛施設局長は、島袋善祐の所有地を誤って特定して収用裁決申請をしており、このような裁決申請は却下されるべきである。

 1 島袋善祐所有地の特定の誤りについて

 防衛施設局は、G・スライド11の土地Aを島袋善祐の所有地と主張するが、島袋善祐の所有地は土地Bであって、裁決申請は、島袋善祐の所有地の特定を誤っている。

 島袋善祐所有地は、戦前から、お茶を栽培するお茶畑として使用されていた。

 沖縄戦でほとんどの土地が現況を変えた中で、同地は幸いにも戦後も現況を残し、島袋善祐の家族は戦後も右土地でお茶を栽培していた。

 一九四八年ころ、米国海軍政本部指令第一二一号「土地所有権関係資料蒐集に関する件」等に基づく、土地所有権認定事業の中で地図が作成されたが、島袋善祐の土地は、沖縄戦の前後で現況が変わらず、戦後もお茶を栽培していたため、この土地所有権認定事業の当時、土地委員が島袋善祐の所有地の形状・位置を確認することは、比較的容易であった。

 当時は測量技術も不十分で、基地内立ち入りができなかったという事情もあったため、同地図は、現地復元力を有するほどのものではなかったが、土地の配列、地番、形状、所有者については正確に記載されたものである。

 この地図によると、島袋善祐の所有地は、山林に隣接して存在する(G・スライド13)。

 この山林は現在も存在し、島袋善祐の所有地を特定する目安になるところ、島袋善祐の所有地として裁決申請されている土地は、この山林から相当遠く西側に離れて存在する土地であり(G・スライド11の土地A)、土地の特定を誤っていることは明らかである。

 また、島袋善祐は、戦後も同地を耕作していたため、自己の所有地及びその周囲の状況についてかなり正確に記憶しているところ、島袋善祐の記憶によれば、同人の所有地は、南側を流れる比謝川の流れが北西から西北西に変わる地点、地図G・スライド11のC地点のほぼ真北に位置していた。C地点の真北には雑木林の境界があり、島袋善祐の土地についての記憶が正確なものであることがわかる。

 一九七七年五月一五日午前零時をもって、公用地法が効力を失い、米軍が島袋善祐所有地を使用する権限がなくなり、不法占拠状態になったことから、同月一八日、島袋善祐は、キャンプシールズに立ち入り、自己の所有地を耕作した。

 当時の写真からも、山林に接して島袋善祐所有地が所在することがわかる(G・スライド9、10、12)。

 以上のように、島袋善祐所有地は、防衛施設局が裁決申請にあたって示している位置には存在しないのであって、起業者は、土地の特定を誤って裁決申請をしていることが明らかである。

 2 過去の裁判例について

 福岡高等裁判所那覇支部平成八年三月二五日判決は、島袋善祐所有地として収用裁決申請されている土地について、 (1)島袋善祐を除く土地所有者が確認済みであること (2)本件土地について島袋善祐名義で登記がされていること (3)使用手続がされているのと同一の範囲内で過去二回にわたり使用裁決がされたこと (4)裁決で島袋善祐が同地の所有者と認定されたこと (5)島袋善祐が補償金を受領し、不服を申し立てなかったことなどの事実にかんがみると、「本件土地と隣接土地との境界を同隣接土地所有者の同意にかかる境界と認定して本件土地の位置を特定し、その所有者を島袋善祐であると認定した上、地積図原図を基にして実測平面図を作成し、その結果を現地において復元して確認するなどして土地・物件調書となるべき図書及びこれに添付するべき実測平面図を作成したことには、一応の合理性が認められるというべきである。」と判示しているものである。

 (1)島袋善祐以外の土地所有者が確認済みであることは、何ら法律的な意味を持たないことは、前述のとおりである。

 また、(2)本件土地について島袋善祐名義で登記がされていたとしても、そのことは、島袋善祐の所有地の存在を示すのみで、位置境界の確定とは無関係である。

 (3)使用手続がされているのと同一の範囲内で過去において何度使用裁決がされても、その使用手続きが誤っている限りは、その誤った使用裁決に従って土地の位置境界が確定するものではない。

 (4)裁決手続において同地の所有者が島袋善祐と認定されても、その裁決により位置境界が確定するものではない。

 島袋善祐の所有地が強制収用されることには間違いがないのであるから、補償金を受領するのは当然であるが、 (5)補償金を受領することは、所有地が強制収用されたことを意味するに止まり、このことによって位置境界が確定されるものではない。

 右判決も、土地調書等の作成について「一応の合理性が認められる」と判示するのみであって、土地調書どおりの権利関係が認定されたものではない。

 右判決に挙げられたような事実はいくら積み重ねられても、そのことによって、裁決申請どおりの権利関係が認められるというものではなく、なお、土地調書、物件調書の記載事項が真実に反していることを立証する余地はあるのである。

 3 土地の正確な特定の必要性について

 先にも述べたように、土地を強制収用するにあたって適正手続を保障するためには対象土地について正確な特定がなされていなければならない。対象土地の特定が不正確なまま手続が行われたのでは、弁解をすることができず、対象土地の一応の特定がされていたとしても、それは、適正手続の保障の根幹を欠くことになる。

 よって、対象土地の正確な特定を欠く収用裁決申請は、却下されるべきである。

 4 起業者による立証活動の妨害について

 ところで、土地収用法三八条は、収用委員会の審理において土地所有者が、土地調書や物件調書の記載事項が真実に反していることを立証することができると定めている。

 防衛施設局の島袋善祐所有地の特定が誤っていることについては、所有者である島袋善祐自身が現地において説明することが最も重要な立証方法であって、このような方法によって立証することが不可欠である。

 ところが、収用委員会が、土地収用法六五条に基づいて、代理人と地主立ち会いのもと、現地において土地及び物件を調査することを決定したにもかかわらず、米軍は、地主とその代理人の立ち入りを拒否し、所有者の立証活動を妨害した。

 キャンプシールズ内の島袋善祐所有地に本人及びその代理人が立ち入ることは、何ら支障をきたさないことは明らかである。なぜなら、一九九六年一二月、島袋善祐及び同人の代理人は、基地ゲートの守衛に、自分の土地を見せてほしいと申し入れたところ、米軍のMPの案内で、基地内に立ち入り、自己の所有地及びその周囲を写真撮影することができたからである。

 このように、キャンプシールズ内の島袋善祐の所有地が所在する地域に地主及びその代理人が立ち入ってもなんら支障がないことは明らかであるにもかかわらず、米軍は、立ち入りを拒否し、地主島袋善祐の立証活動を妨害したのである。

 前述したように、そもそも、起業者である防衛施設局は、収用の裁決を申請する土地についてその位置、形状、面積などを土地調書や物件調書によって特定しなければならず、その調書に記載されている事実が現実の権利関係に合致することを立証しなければならない。

 ところが、調書記載の事実が現実の権利関係に合致することについての立証はできていない。

 それに加えて、土地を利用しようとする米軍は、土地調書の誤りについて立証しようとする島袋善祐及びその代理人の活動を妨害した。確かに、米軍は、収用委員会の単独での調査を認めたが、収用(使用)しようとする側が一方的に説明をし、その場で地主が反論する機会が与えられないまま調査が行われたのでは、かえって起業者側に有利な偏見を植え付けるのみである。

 地主の立証活動を妨害し、適切な反論の機会も奪ったのであるから、適正手続の保障を著しく欠き、このことによる不利益は、起業者側が負担するのが当然である。

 5 結論

 以上のとおり、防衛施設局長は、島袋善祐所有地について土地の特定を誤って収用裁決申請していることが明らかである。土地の特定を誤って収用裁決申請したのでは、地主は、十分な弁解及び防御をすることができないのであるから、土地の特定を誤った収用裁決申請は適正手続を保障した憲法三一条に違反する。

 そのうえ、土地の特定の誤りを島袋善祐が立証しようとしたところ、その立証活動を土地を使用しようとする米軍が妨害したのであるから、適正手続の違反の程度は甚だしい。

 よって、このような収用裁決申請は、却下されるべきである。

  三 使用の必要性について

 第三に本件土地を使用する必要性は全くなく、強制収用することは許されない。

 1 キャンプシールズの機能について

 キャンプシールズは、沖縄市の東部、東南植物園と沖縄自動車道との間に位置している総面積七〇一平方メートルの基地である。

 那覇防衛施設局長の使用認定申請理由書には、キャンプシールズは、「海軍機動建設大隊等が使用し、管理事務所、機械工場、隊舎、家族住宅等が設置されている」と記載されている。

 しかし、梅林宏道氏の著書「情報公開法でとらえた沖縄の米軍」によれば、「キャンプシールズは、海軍の建設大隊、いわゆるシービー(海の働きバチ)の配備基地である。しかし、現在の配備兵力は極めて少ない。かつては、ミシシッピ州のガルフポートやカリフォルニア州ポートウエネメの海軍建設大隊センターから海軍移動建設大隊が配備されていたが、現在は、ハワイのパールハーバーの太平洋建設大隊からわずか二名の分遣隊が派遣されているのみである。」と紹介されている。

 現在におけるキャンプシールズの軍事的機能は極めて低下しているのである。

 2 島袋善祐所有地周辺の利用状況について

 かつて、島袋善祐の所有地付近には、兵舎が建てられていたが、現在は存在しない。 現在、防衛施設局長が島袋善祐の所有地として収用裁決申請する土地には、その一部に簡易な造りの倉庫が建てられており、その倉庫内にはコーラやセブンアップなどの清涼飲料水が保管されているに過ぎず(G・スライド6、7)、それ以外は、空き地が広がっているのみである(G・スライド8)。

 なお、実際の島袋善祐の所有地(G・スライド11の土地B)は、単なる空き地となっている(G・スライド8)。

 また、周辺には、ソフトボール場やバレーボールコートなど、使用認定申請書には記載されていないスポーツ施設が建てられている(G・スライド1、2、3、4、24)右施設は、本来の海軍機動建設大隊等の機能とは無関係の施設であって、島袋善祐の土地を含む周辺土地一帯は大隊の機能とは無関係の目的に使用されており、本件土地を強制的に収用する必要性は全く認められない。

 先にも述べたように、一九九六年一二月に島袋善祐及び同人の代理人は、基地内に立ち入り、自己の所有地周辺を写真撮影した。

 民間空港であっても、軍事的に利用されることが予定されている場所においては、通常、一切写真撮影は許されないものであるところ、このように容易に立ち入りを許し、写真撮影も許可したのであるから、キャンプシールズ、少なくとも島袋善祐所有地の周辺一帯は、軍事的機能がないことが明らかである。

 以上のとおり、キャンプシールズは、軍事的機能が極端に低下しており、特に島袋善祐所有地の周辺は、大量の清涼飲料水の保管及びスポーツ施設として使用されているか若しくは空き地になっているのであって、米軍の基地機能に不可欠のものとして使用されているものではない。

 従って、これを強制収用する必要性は全くない。

 3 結論

 土地の強制収用が財産権の重大な侵害である以上、収用は必要最小限にとどめなければならず、必要性がないにも関わらず収用することは到底許されないものであるところ、キャンプシールズの基地機能は、極端に低下しており、特に島袋善祐所有地及びその周辺は、清涼飲料水を保管する倉庫や空き地となっているのみであって、その土地を使用する必要性は全くない。

 従って、島袋善祐所有地を収用することは許されない。


出典:反戦地主弁護団、テキスト化は仲田。


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