われらに向かって大地は閉じていき、最後の道へとわれらを追い立てる
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The Pen and The Sword |
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『ペンと剣』は、アメリカのコミュニティ・ラジオのトーク番組「オルターナティブ・ラジオ」のプロデューサーのデイヴィッド・バーサミアンが、エドワード・サイードをゲストに招いて行なった一連のインタヴューをまとめたものです。商業メディアによる情報管理に対抗して独自のメディア発信とネットワーク活動を行なうバーサミアンは、現在一二〇以上のラジオ局に配信されているこの番組を通じて、ノーム・チョムスキーやハワード・ジンなどメインストリームのメディアが取り上げない反体制知識人の声を、全米のみならず世界に向けて送りつづけてきました 長期にわたってつみ重ねられたインタヴューであることから、この本はおもしろい効果を生んでいます。 第一に、この本が格好のサイード入門書となっていることが挙げられます。単刀直入な質問と答えという形式によって、テキストや世俗批評をめぐる考え方が非常にわかりやすいことばで表現されているからです。平易な表現をとりながらもサイードの思想のエッセンスがたくさん盛り込まれ、こんな短い本の中に凝縮してまとめられています。サイードの活動は、文学、音楽、政治と幅広い分野にまたがっていますが、それらの領域はサイードの中で密接に絡み合っており、会話の中でも独立した領域として扱われるのではなく、相互の関連のなかで登場し、同一の地平で語られています。この本を読み終える頃には、サイードっていったいどんな人だろう、どんなふうに発想し、どんな関心を持つのだろうということが、よくわかってくるでしょう。 第二に、インタヴューというものの即時性から、時の経過による客観情勢の変化とそれに伴う内面的な変化がある程度うかがわれることです。本書に収録された5本のインタヴューは87年3月から94年2月まで、ほぼ7年という長期にまたがっています。この期間に、パレスチナ問題をめぐる情勢は大きな変化をとげましたし、サイード個人としても、健康問題を含めて人生における大きな転換期の一つを迎えていました。インティファーダ発生前夜の最初のインタヴューと、オスロ合意合意成立直後におこなわれた最後のインタヴューのトーンを比較すると、前者では解放運動のゆくえにいまだ漠然とした希望がこめられているのですが、後者では焦燥感や逼塞感が色濃くなっているように訳者には感じられます。 とはいえ現状がどんなに絶望的に映ろうとも、サイードは、破滅的な状況を冷静に把握したうえで希望につながる道を積極的に見いだそうとする姿勢を貫いています。この意志による楽観主義という態度こそが、まさにこの人物の真骨頂であり、2003年9月ついに白血病に倒れたそのときまで、世界への関心を保ち、つながり続けることを可能にしていたのでした。 インタビューの中から、幾つかのテーマを選んで一部抜粋してみました。 |
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