何の停戦か?

ギャリー・M・リーチ
2003年7月21日
コロンビア・ジャーナル原文


先週(2003年7月13日からの週)、コロンビア政府とコロンビア最大の右派準軍組織であるコロンビア自警軍連合(AUC)は、2005年までにAUCを解散するための和平交渉開始で合意したと発表した。この決定は、6カ月に及ぶ予備的会談と、2002年12月以来AUCが呼びかけた一方的停戦から生まれたものである。停戦はアレバロ・ウリベ大統領が、政府が武装集団と交渉に入る際の前提条件として要求していたものである。米国政府もまた準軍組織と会談し、和平交渉を支持した。けれども、実際には、停戦などなされていないという事実を、ウリベ政権とブッシュ政権、そして米国とコロンビア双方の主流派マディアが都合良く無視してきた。停戦と主張されるものが開始されて以来も、右派準軍組織「死の部隊」は、しばしば米国の支援を受けたコロンビア軍の手を借りながら、ゲリラのシンパと疑いを掛けた非武装のコロンビア人たちを数え切れないほど殺してきた。

ウリベ大統領は、繰り返し、政府は、武装集団が停戦を施行しない限り、交渉には参加しないと宣言してきた。昨年11月、AUCの指導者カルロス・カスタニョとサルバトレ・マンクソは、自分たちが率いる準軍組織AUCは、2001年12月1日から一方的な停戦を実施すると発表した。コロンビア政府との交渉を始めるためであった。この二人の指導者は、AUCの戦士たちは、停戦期間中もゲリラの攻撃から身を守るために武装解除はしないと述べていたが、同時に、AUCの兵士は自衛のみを行い攻撃作戦は行わないと明言していた。その一方で、二つの地域的準軍組織---メデジンのメトロ・ブロケとコロンビア東部のカサナレ自警軍(ACC)---は、ゲリラが敵対行為を止めるまでは、停戦の実施を拒み交渉にも参加しないと述べた。これら二つの準軍組織戦線は攻撃行為を続けたが、12月の停戦開始以来の準軍組織による殺害の中で、この2組織によるものは、わずかな部分に過ぎない。

ククタ市では、停戦の最初の月に、84人の人々が、停戦に合意したことになっている準軍組織により殺された。ククタでの暴力は年明けまで続いた。新年を迎えた1月9日の夜には、最悪の虐殺が起きた。準軍組織「死の部隊」がカミロ・ダサとアントニア・サントスという貧しい地域に侵入し、コミュニティ・リーダー一人を含む8人の非武装の民間人を殺害したのである。1月にはまた、エルメル・カルデナス・ブロックから150人の準軍組織兵士が国境を越えてパナマに侵攻し、先住民クナの村2つを襲撃し、4人のコミュニティ・リーダーを殺害した。準軍組織によるこの越境侵入攻撃で、500人近い先住民が土地を離れることとなった。

アムネスティ・インターナショナルは、4月、アラウカ地方の先住民コミュニティになされた攻撃について述べている。このとき、準軍組織とコロンビア軍ナバス・プラド大隊の兵士たちがタメ市のいくつかの地方先住民コミュニティに入り込んだ。準軍組織の殺し屋たちが2名を殺害した。その一人は妊娠していた16歳の少女で、この少女はまず強姦され、それから胎児をお腹から切り出された。襲撃者たちはまた、11歳、12歳、15歳の先住民少女3人を強姦し、さらに多くの先住民が「失踪」した。この軍攻撃の際、軍のヘリコプターが軍と準軍組織の兵士を地域に送り込んだという。目撃証人によると、準軍組織兵士の中には、自分たちが停戦に参加していないACCの兵士であることを示す腕章をしていたと言うが、一方で、AUCの腕章をしていた者たちもいた。5月半ばまでに、軍−準軍組織の作戦により、タメ市部から847名の先住民がサラベナとアルト・カラナルの町に強制移送された。

準軍組織による同じような攻撃は、コロンビア全土で行われていた。6月6日、コロンビア北東部のセルゴビア市で、4人の農民がゲリラを支援していると非難され、準軍組織に虐殺された。準軍組織は多くの家に放火し、何百人もの農民を強制移送した。その6日後、南西部のバイェ・デ・カウカ州で、カリマ・ブロックの準軍組織の暗殺者たちが、やはりゲリラのシンパと非難して8人の非武装民間人を虐殺した。

コロンビアの検事総長は、最近、コロンビア軍だけでなく、政治家も、準軍組織と共謀していると述べた[コカコーラ社も]。7月11日、バランカベルメハ市長フリオ・セサル・アルディラが、4月に同市のラジオ・ジャーナリスト一人と4人の民間人の暗殺を命じたとして逮捕された。アルディラは、殺害を行うために、停戦中のはずの準軍組織暗殺者を利用したとして告発されている。

準軍組織の停戦により昨年と比べて暗殺されたコロンビア労働者指導者の数は減ったが、それでも、2003年の最初の半年で37人の労働組合活動家が暗殺されている。犠牲者の中には、先週[7月13日の週]政府が準軍組織との和平交渉合意を発表したまさにその日に殺された石油労働者組合の指導者も含まれている。その間、準軍組織は、労働組合員をゲリラのシンパと見なして脅迫を続けているため、今年、労働組合指導者に対する殺害脅迫の数は急激に増加した。

これらの例は、昨年12月にAUCが一方的停戦を実施したと称して以来行われた準軍組織による攻撃として分かっているもののほんの一部である。ウリベ政権もブッシュ政権も、コロンビアの主流メディアも米国の主流メディアも、こうした準軍組織による残虐行為に対してはあまり注意を向けてこなかった。上で述べたような例は、停戦が見え透いた嘘であることをはっきり示している。とはいえ、ウリベにとって、それは、「和平交渉」を救い、敵対行為を停止しない限りどの武装集団とも交渉しないと述べた後でメンツを保つために必要なものであった。

先週[7月13日の週]、ウリベは、和平交渉合意を「平和と人権の回復のための第一歩」と述べた。一方、人権団体は、解散された準軍組織がそのまま軍に取り込まれるか、あるいは和平交渉によりカスタニョとマンクソに恩赦が提供されたあかつきには新たな民兵として再結成されるのではないかと恐れている。恩赦プロセスも先週始まり、政府の平和コミッショナーであるルイス・カルロス・レストレポは、次のように発表した。「人道に対する罪を犯した人々に対して、我々は、投獄ではない罰を求めている。自らが行なった損害に対して改心するならば」。人権侵害者に牢屋に入る代わりに犠牲者の家族に補償を支払うことを提唱するこの不処罰プロセスは、カスタニョとマンクソを合法的な政治家に仕立て上げるための道を開く意図を持っていることは明らかである(カルロス・カスタニョの再生を参照)。

コロンビアがワシントン主導の「対テロ戦争」に参加している現在、米軍による支援と戦場での戦略において、人権は二の次とされた。そして、コロンビアに対する米国の対テロ援助は、対麻薬援助に課された人権を巡る制約条件を逃れているため、ブッシュ政権は、コロンビア軍の全ての部隊に対して自由に対ゲリラ支援を提供することができる。2003年3月の国連報告は、ウリベが昨年8月に大統領となって以来、コロンビア軍が犯した人権侵害は増加していると述べている。コロンビアの汚い戦争において準軍組織の一部は保存しなくて良い戦略である。

ブッシュ政権について言うと、米国国務省がコロンビアにおける人権侵害の70%は右派民兵(準軍組織)により犯されていると述べ、また、準軍組織を海外テロリスト組織に挙げているにもかかわらず、ウリベの準軍組織との対話を公に賞賛した。さらに、ブッシュ政権は、テロリスト集団とは交渉しないという自ら公言する政策に反して、5月3日、米国大使館の政治担当官アレクサンダー・リーを準軍組織の特使と会談させている。

国務省メモによると、この二人は和平交渉について話をし、リーは準軍組織の特使に対して、カスタニョとマンクソが米国政府と協力するならば、現在両人が受けている麻薬取引を巡る告発について、寛大な判決を受けるかも知れないと伝えた。ブッシュ政権によるコロンビア政府と準軍組織の和平交渉の支援---これには交渉に対する当初資金として300万ドルの提供も含まれる---は、アンドレス・パストラナ元大統領がコロンビア最大のゲリラ・グループであるコロンビア革命軍(FARC)との失敗した交渉に対して、ワシントンが全く支援を行わなかったことと鋭い対比をなしている。

準軍組織が自ら宣言した一方的停戦を破っているという証拠が多数あるにもかかわらず、AUCとコロンビア政府の和平交渉は、ブッシュ政権の全面的な祝福を受けて開始される予定である。準軍組織の解散という結果を導く合意は、それがどんなものであれ、ウリベの軍事的な姿に平和という毛皮を被せる役割を果たす。けれども、そのような合意は「平和への一歩」ではなく、ただ単に、ウリベとカスタニョ、マンクソにとってのPR上の勝利を意味するだけである。準軍組織と軍が米国の支持する対テロ戦争という装いのもとで「汚い戦争」戦略をますます多く用いることで、残された準軍組織と軍の手により、罪のないコロンビアの人々は殺され続けるだろう。

さらに、軍及び残った準軍組織が、2005年の解散期限までにゲリラとの間で効果的な戦闘の成果を上げられないことがわかったならば、そのたるみを引き締めるために、新たな準軍組織が生まれることになるのは必然的である。元コロンビア国家防衛顧問アルマンド・ボレロは、最近、メディアに対して次のように語っている。「政府が保護を与えることができないならば、準軍組織の発生を促したと同じ状況が、新たな民兵の創生を促すであろう。そして、私は、政府が保護を与える力を持っているとは思わない」。悲しいことに、この和平交渉全体が、単なる政治的なPRの作戦であり、罪のないコロンビア人が被っている暴力を止めることに対しては、ほとんど何も貢献しないであろう。


準軍組織と軍が民間人への大規模な人権侵害を犯しているコロンビアと軍が人権侵害を犯しアチェに侵攻して今大規模な殺害と破壊を進めているインドネシア。両国の軍は、ともに米国から大規模な軍事援助を受け続け、訓練を受けてきたという共通性があり、また、「対テロ戦争」の名目で、コロンビアでは人権状況の制限を無視した米国の援助がまかり通り、インドネシアでも人権状況の制限を無視して援助を再開しようとしているという点でも似通っています(日本はインドネシアに対しては最大援助国ですが、コロンビアに対してはインドネシアに対しての援助と比べると遙かに小さな関係のようです)。とても平凡な表現ですが、犠牲になるのは、まず何よりも、一般の人々です。

コロンビアではオクシデンタル石油やコカコーラ子会社が軍や準軍組織を使って利権を確保し、インドネシアでも、エクソンモービル(アチェ)やフリーポート・マクモラン(西パプア)といった会社が軍を傭兵のように使って自らの利権を守っています。7月22日より、コカコーラ社製品不買キャンペーンが世界の各地で始まっています。よろしければ、ご協力下さいませ。
益岡賢 2003年7月31日

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