「ガス室」から「非HIVエイズ」に「飛び火」
(1999.3.12)
amlメーリングリストへの反論mailを再録する。
木村愛二です。
以下のmailは、若干の補正を加えた上で1999.3.12.発行予定の web週刊誌『憎まれ愚痴』11号に「続:インターネット『論争』の現状に関する観察材料」として再録します。
******* 前置き ******
先日来、「ガス室」から「非HIVエイズ」に「飛び火」というべきか、私の決定的設問、「ガス室を見せるか、描くかせよ」に答えられないことに気付いて慌てふためき、話を逸らす「逃げ水」戦法に出たというべきか、ともかく、奇妙なmailが飛び交いました。
その間、誹謗中傷の的となった「非HIVエイズ」問題の論文について、執筆者の医師、西岡昌紀さん本人からmailの代理投稿の依頼がありました。
西岡さんはかつて、『マルコポーロ』廃刊事件の直後にはパソコン通信で議論をしていたので、私からは、また新たにインターネットを始めてamlに参加してはどうかと勧めたのですが、それは断わられました。西岡さん自身の前回の経験と私の状況報告に加えて、御自身が aml公開mailを点検をした結果、内容的にも低水準、非論理的、口喧嘩マニアの陰湿で不愉快な態度など、やはり前回とほとんど変わりないと判断されました。私自身も、ほぼ同じ感想を持っていますので、これ以上、インターネット参加を求めるのは無理と結論し、断念しました。
そこで、正直言うと、なぜ私が、こんなことまでしなければならないのか、まったく面倒見切れないな、とは思いつつも、以下、あえて、物好きにも、インターネット文化の水準を高める21世紀的長期展望をも考慮に入れつつ、私自身の状況認識と補足説明を記した上で、西岡さんが私にファックスで送ってきた文章を入力することにしました。
*** 再論:世間一般の「論争」上の常識 ***
「ガス室」問題に関しては、すでに amlで、西岡さんの名前を出し、『マルコポーロ』(1995.3)記事を題材にして、全面的に否定する投稿がありましたが、およそ、あるテーマに関して、その人の著述なり人格を全面的に否定したいのであれば、最低限、その人のそのテーマに関する最新の著述、西岡さんの場合なら、『アウシュヴィッツ/[ガス室」の真実』(1997)に目を通すのが常識です。著作物は、テレビ漫画のように過去に飛んで書き直すことはできません。論争になっている問題では、基本的な対立点を変えることは許されませんが、枝葉の細部の事実関係について、部分的な訂正、補正をすることがあるのは、当然のことです。むしろ、お互いが積極的にそうしてこそ、主要な論点、争点が絞られ、その論争に「前向き」の意義が生まれるのです。西岡さんは、上記の最新の著述で、『マルコポーロ』(1995.3)記事の細部の訂正、補正をしています。それを無視した議論は、まったく無意味な揚げ足取りでしかありません。
私自身も、上記『マルコポーロ』(1995.3)記事を取り入れた記述について、私の決定的設問、「ガス室を見せるか、描くかせよ」には答えない方々から、しつこく陰湿な攻撃を受けていますが、近く、そういう攻撃手法への全面的批判を展開します。
以上の私の説明に疑問がある方は、どこの学会の例でも結構ですから、しっかり調べて下さい。裁判の場合でも、細部の訂正だけではなくて「訴因変更」まであります。しかも、こんなことは、実は、世間一般の議論の場合でも同じことなのです。論点が絞られてきたのに、それを逃げて、しかも特に不利になった方が、相手の最新の論理構築には耳を貸さずに、「最初にはこう言ってたじゃないか」と出発点に戻って細部の揚げ足取りをするであれば、それはもう、泥仕合、「犬も食わぬ何とか」以外の何物でもありません。
しかし、訂正や補正の仕方が不明瞭な場合には、論争経過を冷静に振り返ることによって、さらに争点を明確化することも必要でしょう。
**** 「エイズ」問題の経過の整理 ****
山下さんは、つぎのように、ご自分の「先走りすぎた勘ぐり」を認め始めました。
[aml 11339][前略] Wilkinson様[中略]ありがとうございました。[中略]「政治的なつながり」については私の方で先走りすぎた勘ぐりをしてしまったのかも知れません,いまのところ政治勢力とのつながりは直接的には確認できないですね」[中略]「HIVはエイズの原因ではない説」と,「ガス室なかった説」の間には,子細に検討すると,やはり「ある論理的な相同性」が見受けられるように思います。[後略]
これは、山下さんのmail質問に対して、以下のmailがあったからでした。
[aml 11298] Re:西岡論文:激裏マニア[中略] Jens Wilkinson,[中略]
> [山下]#ところでこの「HIVはエイズの原因ではない派」というのは,政治的に
> どこかで「ガス室なかった派」と連なっているんじゃないかと思うのですが,
> そういう情報どなたか御存知ですか。>この問題に関しては、日本の状況に関してはなんともいえないが、世界的なレベルでは、私の知っているかぎり、そういう繋がりがないとおもいます。国際的なレベルで、「HIVはエイズの原因ではない派」の人々はみな、生物学者が多く、学会の世界のライバル意識が若干あるかもしれないが、その人たちは、あんまり医学の世界以外の所には関心が及ばないとおもう。その「HIVはエイズの原因ではない派」のなかでは一番有名のが多分Kerry Mullis,1993年の化学ノーベル賞をもらったひと。皮肉的のは、彼が賞をもらった理由がHIVテストの基本を発見したということでした。かれが今、HIVが存在しないかもしれないと言う。同様にPeter Duesbergという有名の「否定者」も、ウイルス研究者です。わたしは、かれの書いた本を読んだことがありますが、おもしろかった点の一つは、日本の水俣病とSMON病のことを議論する。その二つの病気は、最初は伝染病と思われましたが、結局そうではないとわかってきました。[後略]
つまり、西岡論文は、「HIVテストの基本を発見した」ので「1993年の化学ノーベル賞をもらった」「Kerry Mullis」さえもが唱えた疑問に関する諸説を読み、それがなぜ日本では議論されていないのか、と問い掛ける論文だったのです。
山下さんは、西岡論文を見た上で論ずるという形式を取りながらも、なぜか、その論文の最後に、西岡さんが、「筆者はエイズの専門家ではないが、[中略]上に述べた批判者達の見解は重要な意味を持つ筈である、以下の英文論文をお読み頂ければ幸いである」という謙虚な問題提起をしていること、22の論文名を「参考文献」として紹介していること、などの重要な事実を記していません。同記事はインターネットでは見られないようですが、大きな図書館ならあるはずです。『医事新報』(1993.9.4.p.70-73)です。
なお、最新のmailで、山下さんは、西岡さんが参考文献に挙げた内の一人、Duesbergについて「差別」云々という表現をしていますが、この問題への深入りは差し控えます。西岡さんからは、下記のURLからのリンクがあるとのファックス連絡が入っていますので、興味のある方は、上記雑誌記事とともに、御自分でお確かめ下さい。
「Max's Modern Science 三須敏幸の最新科学」
http://home7.highway.ne.jp/max.1998/science.htm(2019.1現在不通)
ここからDuesberg教授(カリフォルニア大学医学部、分子生物学)のホームページに入れて、そこに「AIDS=HTV感染症」論への反論が山の様に出て来るそうです。
さて、これが、「先走りすぎた勘ぐり」という弁解で済むものなのかどうか。
幸いにして、私は、山下さんのmailをパーソナルファイル「ガス室」に保存しておいたので、この「エイズ」問題の発端から辿ることができます。最初は、突然でした。
[aml 11232] あの西岡医師がガス室にはまる前に書いていた記事を発見[後略]
このmailには「転載不可」とあるので、まさかの時に用意にしまって置きましょう。とりあえず次の、私からの「注意」に対する山下公開mailで内容を推察して下さい。
[aml 11237] Re: 西岡論文:激裏マニア[中略]コピーをもらっているんなら,ちゃんと読んでくださいよ。どれだけひどいものかわかるから。西岡昌紀の論法は
1.「免疫不全」による疾患で,たくさんの方が亡くなっている。
2.「免疫不全」のなかにはHIVに起因せざるものがある。という情報を元に,
3.よってHIVは「免疫不全」の原因にあらずというふうにもっていく欺瞞的論法なわけです。
いうまでもなく,「免疫不全」そのものはいろんな原因によって起こるわけです。それは栄養失調や薬物中毒でも引き起こされる。しかし,それをいったからといって「HIVに起因する免疫不全の人々がいる」ことを否定したことにはならないですよね。集合論の問題です。西岡昌紀はHIV=「免疫不全」なる欺瞞的「定説」をでっち上げ,わたしはその「定説」に挑戦するんだ,などとキバってみせてこういう嘘でたらめをやっているわけです。私の言わんとするところはお分かりですよね。
そう,彼の欺瞞的論理は,「ガス室」に関するこういう思い込みと同じなわけですよ。イ.「強制収容所」では,たくさんの方が亡くなった。
ロ.「強制収容所」の犠牲者の中には,伝染病や栄養失調などによる,「ガス室によらざる死者」がいるそこで,
ハ.よって「ガス室」は「強制収容所」にはなかったとね。(T_T)[注:笑い顔]
こういう欺瞞的論理にはまっていく中から,ああいう激裏系マニアになっていったんだなというのがよくわかります。
#ところでこの「HIVはエイズの原因ではない派」というのは,政治的にどこかで「ガス室なかった派」と連なっているんじゃないかと思うのですが,そういう情報どなたか御存知ですか。[後略]
この標題の「激裏マニア」は、山下さんが [aml 11232]で西岡さんを形容した用語です。この他に、「どれだけひどいものか」「欺瞞的論法」「欺瞞的『定説』」「キバってみせて」「こういう嘘でたらめをやっている」「欺瞞的論理」「欺瞞的論理にはまっていく」「激裏系マニア」となり、「連なっているんじゃないか」かという、最後の妄想に至るのです。
このようにして、山下さんは、「エイズ」と「ガス室」と言う全くの別物を「味噌も糞も一緒くたにする」初歩的なデマゴギー手法による誹謗中傷に走ったのです。これは、単なる訂正では済まないことなので、はっきりと謝罪すべきでしょう。
さて、以上の前置きと解説を踏まえて、以下、西岡さんの山下さんへの返答を代理投稿します。なお、別途、「ガス室」問題について、経済的理由で「本が買えない」から、すべてインターネットで明らかにせよという主旨のご意見も頂きましたが、その場合は、公共図書館の利用をお勧めします。私も懐が寂しいので現在、ほとんどの新刊書を図書館で注文しています。仕事上では、すでに絶版の本を調べる場合が多いのですが、この場合は、いくら金が余っていても買うことはできません。懐具合で本を読めないという理由は、実際には、成り立たないのです。
***** 西岡さんから山下さんへの返答 *****
木村愛二氏より、このメーリングリストで、私(西岡)についての発言が有り、何らかのコメントをしてはどうかと言う御助言が有りました。そうした発言の幾つかに目を通して上で、以下のメッセージを木村氏に代理入力して頂く事としました。文責は100%私(西岡)に有ります。
1) 「ガス室」問題について、私は、1997年に、『アウシュヴィッツ/「ガス室」の真実』(日新報道)(2000円)と言う本を出版し、新たな議論も加えて、「ガス室」問題に関する自分の見解を詳細に述べて居ます。この問題について私(西岡)の見解を問題にするのならば、何故私の著作に言及する形で議論をなさらないのでしょうか?
今後は、この本を引用する形で御批判下さることを希望します。既に書いた事を繰り返し書くのは時間の無駄ですし、この本を読んで頂ければ、このメーリングリストで議論されている事の大部分に私が(既に2年前に)答えて居ることがお分かり頂ける筈だからです。(書店に無い場合は、日新報道に電話(03)3431-9561で直接お申し込み下さい。)
2) HIV問題は、「ガス室」とは全く別のテーマですが、私は、自分の考えを医学雑誌に発表しています。つまり、医学雑誌の編集部が内容をチェックした上で掲載した物なのですから、評価は分かれるにせよ、医学を専門とする第三者が、討論に値する物と見なしてくれて居る訳です。それをナンセンスだと断言する自信が有るのなら、どうぞそこでその理由を詳細にお聞かせ下さい。喜んで拝聴致します。しかし、そんなに確固とした根拠をお持ちなら、(医学雑誌編集部によるチェックの無い(笑))インターネット等ではなく、御自分も、査読の有る雑誌等で、もちろん実名で、反論した方が宜しいのではないかと思います。
「あんなボクサー、一発でノックアウト出来るさ」と嘯く別のボクサーが、そのボクサーに正規の試合を申し込まなかったら、おかしいとおもうのですが、山下さん(笑)。
3) 私(西岡)への異論を木村さんにぶっつける事はおやめ下さい。何事についてであれ、私(西岡)の見解については私に批判をお寄せ下さい。全ての方にお返事出来るとは約束しかねますが、私は、以前からファックスによるご意見御批判を受け付けております。郵便で回答致しますので、
ファックス (03)3431-9564
までお手紙をお寄せ下さい。
1999年3月3日 西岡昌紀(にしおかまさのり)
木村さん、入力ありがとうございました。
***** 以上で西岡メッセージ終了 *****
最後に、私(木村)から、山下さんの上記最新mailにおける「曳かれ者の小唄」への見解を述べます。
山下さんは、……「HIVはエイズの原因ではない説」と,「ガス室なかった説」の間には,子細に検討すると,やはり「ある論理的な相同性」が見受けられるように思います。……と記しています。
私は、政治的とか組織的とかのつながりを想像するのは妄想にすぎないと思いますが、「相同性」という偉そうな用語が適切かどうかは別として、普通の言葉で「ある共通性」を認めます。それは、命を賭けても権力や権威を疑う精神です。地動説を唱えたガリレオにも共通する精神です。
山下さんと私には、現在、「本多勝一研究会」に所属する「共通性」がありますが、これを誤解してはいけません。私が独自に、本多勝一が社長の株式会社金曜日を訴えた時には、多くの友人知人が心配だけではなくて強く反対までしました。その後、amlにも参加している佐佐木さんによる本多勝一批判が広島の『週刊金曜日』読者ホームページに載っていることを知りましたが、佐佐木さんも、独自で研究を始めていました。特に、カンボジアに関する「自己文章改竄」の発見は決定的でした。私は、この佐佐木さんの発見を、aml他に広く紹介しました。この発見を知ってから、佐佐木さんに連絡を取ったり、佐佐木さんが自称「事務方」を引き受けた「本多勝一研究会」に参加した人々は、失礼ながら、最早決定的になった勝利に安心して参加したのです。つまり、山下さんは、普段は権力や権威を背景として異論を魔女狩りし、勝ち目が見えたところには急いで参加して古顔になろうとする典型的なオポチュニストでしかありません。
この「勝ち目が見えたところ」便乗方式は、もう一度、古くからの日本語で言うと、いわゆる日和見、洞が峠の典型で、戦後一斉に「民主主義」に衣替えした日本の多くの「文化人」にも「共通」しており、山下さんの言動とは「子細に検討すると,やはり『ある論理的な相同性』が見受けられるように思います」。
以上。
このmailの送付以後、「論争」はピタリと消滅した。1999.3.11.木村愛二。
なお、aml-archivesは、「転載不可」の4文字が入っているmailを自動的に排除するように設定されていたので、上記の「山下・転載不可」mailだけではなしに、私発のこのmailも、検索した関係者間で「ないぞ!」という騒ぎになった。本日、本誌発行終了後に、その部分を「伏せ字」にして送り直すこととする。
以上。