イラク戦争開戦3周年にあたって==========
ブッシュ政権:腐敗とスキャンダル、イラク占領支配の最後的行き詰まりと末期症状。
◎イラク人民の手による国家再建を! 米軍は即時無条件に撤退せよ!


==== 目 次 ====
はじめに−−開戦3周年に当たって、改めてブッシュ政権を弾劾する。
[1]誇張されたイラク「内戦の危機」。米による占領支配のテコとしての「分断支配」の危険。
(1)2月22日の「アスカリ聖廟」爆破事件と大手メディアによる「内戦の危機」宣伝。
(2)シーア派・スンニ派の共闘と、拡大した反米・反占領デモ。
(3)謎に包まれた聖廟爆破事件。不可解さを増す米軍とイラク内務省民兵の動き。
(4)背景にあるイラクでの反米世論、反米闘争の拡大。
(5)「内戦の道」か「傀儡政権樹立の道」かの選択ではない。米軍撤退のもとでのイラク人自身による国造りの道がある。
[2]侵略戦争と強権支配で、腐敗・腐朽、抑圧と民主主義圧殺を全面化させるブッシュ政権。
(1)半年以上にわたって次から次へと重大スキャンダルに見舞われているブッシュ政権。根底にあるイラク戦争、「対テロ戦争」の破綻。
(2)全米の注目を集めた副大統領チェイニーの狩猟誤射事件。彼は盗聴問題と大量破壊兵器問題の疑惑の中心人物でもある。
(3)新たな拷問・虐待事件、秘密収容施設の発覚−−アブグレイブ、CIA秘密基地、不法拉致。
[3]最後的行き詰まりに陥ったイラク戦争と占領支配。
(1)迷走する「新政権構想」。見通しのない新政権樹立。
(2)イラク政策の一貫した欠如、占領統治の当事者たちの泥仕合
[4]米軍の、空爆中心の掃討作戦への戦術転換と犠牲者の拡大 
(1)空爆による、市民の無差別殺戮の拡大。ほとんど報道されない米軍による虐殺。
(2)イラク戦争の犠牲者は数万人どころではない。数十万人である。−−アメリカのホプキンス大学の研究チームのリーダーであったレス・ロバーツの新しい研究。
(3)3年間で約60万人もの人々が殺された! 国連やUNICEFが公表する「死亡率」「幼児死亡率」をもとに算出した数字。
[5]イラク全土で拡大する反米武装闘争と高まる反米世論。
(1)反米武装闘争の組織化、大規模化。
(2)民衆の中に入り、支持をあつめる反米武装闘争。
[6]米軍危機の新しい局面−−過小戦力問題と空軍を中心としたイラク占領支配への転換。
(1)州兵を中心としたローテーションの危機。
(2)「撤退論」のもとで進むイラク恒久基地建設。
[7]米政府・軍主導で強行される石油資源の略奪。イラク経済を破壊するだけのネオリベラリズム政策の押しつけ。どん底のイラク市民の雇用と生活。
(1)IMFのショック療法の押しつけと復興利権・石油利権。
(2)インフラ基盤の劣悪な状態の持続。イラク市民の生活悪化の進行。
[8]3月18〜19日 米英と世界の反戦運動は大規模な反戦行動を計画。
(1)依然としてイラク情勢は世界情勢の“中心環”。ブッシュの軍事外交政策の、とりわけ中東政策の行き詰まり。
(2)ブッシュの支持率の低落と孤立化。就任以来の最低記録を次々と更新。
(3)アメリカの反戦平和運動と反グローバリズム運動の結合で、米軍をイラクから撤退させよう!




はじめに−−開戦3周年に当たって、改めてブッシュ政権を弾劾する。

(1) アメリカと有志連合軍による無法なイラク戦争開戦の3周年は、イラク占領支配の最後的行き詰まり、目を覆うばかりの破綻の中で迎えられようとしている。イラク情勢の泥沼化とブッシュ政権の危機は新しい段階に入った。
 「大量破壊兵器の保有」、「フセインの圧制からの解放」、「イラクの民主化」−−3年間かけてアメリカが自らの中東支配、軍事覇権と石油略奪のための侵略戦争を塗り隠すために吹聴してきた虚構が完全に崩れ去った。ブッシュ自身が渋々、大量破壊兵器がでっち上げであったことを認めざるを得なくなったのはずいぶん以前のことだ。フセイン裁判は茶番であり、元大統領のパフォーマンスを前になすすべもない。そして鳴り物入りで強行した昨年12月の議会選挙から生じた異常に長い「政治空白」、各派の対立、政治的混乱のもとで、反米世論が高まり、反米闘争が激化しているのである。

 ブッシュ政権は、戦争を継続することでかろうじて政権を維持している政権として、侵略戦争が不可避的に生み出す腐敗と腐朽、頽廃と堕落、数々の重大スキャンダルにまみれ、末期症状に陥っている。米国民は、イラク戦争の開戦根拠のウソ、「大義名分」の破綻に気づき始め、厭戦感を拡大し始めている。ブッシュ支持は再び急低下した。「テロ」の不安を煽ることで推し進められてきた国内的な強権支配、盗聴国家化・警察国家化が、逆に米国民に不安と政権不信をもたらし始めている。米国民の間でイラク戦争に対する幻滅が広がっている。
 これらの背景には、イラク戦争が生み出した全ての問題−−米軍のイラク派兵と過剰展開・ローテーション危機、戦死者と傷痍復員兵問題と補償問題、イラク戦費急増と財政赤字問題、軍事と戦争を最優先事項とするための福祉・教育・人民生活切り捨て問題、雇用不安と人民生活の悪化、人種差別と移民問題、等々−−があり、米国民の不満と反発がある。


(2) イラクのサマラで起こった2月22日の「シーア派聖地爆破事件」とそれをきっかけに始まったイラク全土での抗争と自爆攻撃の激化について、大手メディアは連日、「シーア派とスンニ派の暴力の応酬」「イラク人同士の敵意と憎しみがエスカレートしている」と大々的に報道し、イラクがいつ内戦状態に突入してもおかしくない、いやすでに内戦状態にある、と騒ぎ立てた。
 しかし本当は何が起こったのか。私たちも当初、内戦の瀬戸際のきわめて危険に状況に陥ったと考えた。確かにそれは事柄の一側面を捉えていたが、実際に起こったことの全体、イラクの現状を正しく把握するものではなかった。
 私たちは、今後のイラク情勢の帰趨を決すると言われている「内戦の危機」について、今回の極めて陰謀的で、謎につつまれたこの事件と各派の対応を、マス・メディア報道そのものを時系列に追跡し再現することで、欧米と日本のマス・メディアが伝える挑発的で扇動的な報道のいかがわしさを暴くことにした。改めて、欧米と日本のマス・メディアのウソ、デタラメがどれほどひどいものかを思い知らされたのである。

 3月7日付ワシントンポストは、米国民の8割が、「イラクの宗派・民族間の対立が内戦に発展しそうだ」と思っているとする世論調査結果を明らかにした。当然であろう。自分達が煽ったのだから。しかし内戦の危機は、世論と米国の政治に二面的な影響を与える。一面では、「だから早期撤退は慎重にすべきだ」というものであり、他面では、「だから早期撤退をすべきだ」というものである。今回のワシントンポストの調査では「撤退を開始すべきだ」が52%と、9ヶ月前から14%増えた(もちろん早期撤退でも完全撤退でもない。撤退の開始である)。だが、政界では、特に民主党は、これを理由にますます「米軍撤退」に慎重姿勢を強めているのである。


(3) イラクを国家的崩壊のどん底に突き落としているのはブッシュ政権と米軍の占領支配そのものである。もはやブッシュがイラクでの敗北という現実を認めイラク政策を転換することなしには、従って米軍の撤退なしには、それを出発点とする以外には、イラク人民が自らの手でイラク再建を進めていくことはできないことは明らかである。私たちは開戦3周年を前にして、改めて米軍、多国籍軍、そして自衛隊の即時無条件・完全撤退を要求する。

 しかし、未曾有の危機に陥りながらもブッシュ政権が持ち長らえているのはなぜなのか。最大の要因の一つが、「閣外協力」状態にある民主党の戦争協力である。民主党は秋の中間選挙に向けて対決姿勢を示しながらも、イラク戦争に本質的に反対の立場をとらないことによって、出口戦略をもたないブッシュに対して明瞭な政策を対置できず、「できるだけ早い撤退」というような緊張感に欠ける中途半端な要求しか提示できていない。民主党は、あくまでも中間選挙対策の政治的打算から、反戦平和運動を利用しようとしている。民主党は、大統領選で早々と敗北を宣言したケリー候補だけでなく、党として、ブッシュ政権のスキャンダル追及でも迫力を持ち得ていないのである。言うまでもなくその基礎には、共和党・民主党双方が、いずれも軍産複合体や石油メジャー、巨大グローバル独占資本の代弁者である「戦争党」としての共通性があり、更にその基礎には、アメリカ帝国主義による世界覇権維持という根本的利害の共通性がある。

 アメリカの反戦平和運動は、昨年夏のシーハンさんらの運動に触発される形で大きな前進を遂げ、各地でのねばり強い草の根運動を背景に、昨年9月には首都ワシントンで30万人集会を開催するまでになった。しかし、中間選挙を前にして、再び反戦運動内部で分裂傾向が顕在化しつつある。3周年を前に、反戦運動は新しい次の一歩を模索している状況にある。
 イラク占領支配の最後的行き詰まりと末期症状に陥るブッシュ政権を追いつめ、どのようにイラクからの撤退と占領支配の終焉を勝ち取っていくのか。どのようにしてイラク人民の主権を回復し、本当の意味での再建の第一歩を勝ち取っていくのか。もちろんそれは、アメリカの反戦平和運動だけでなく、全世界の反戦平和運動の課題である。とりわけその米軍に全面的な支持を与え、自衛隊を派兵している日本の反戦平和運動の深刻な課題である。

2006年3月15日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[1]誇張されたイラク「内戦の危機」。米による占領支配のテコとしての「分断支配」の危険。

(1)2月22日の「アスカリ聖廟」爆破事件と大手メディアによる「内戦の危機」宣伝。
 2月22日早朝に、バグダッド北方のサマラで、黄金のイスラム教シーア派聖地「アスカリ聖廟」が何者かによって爆破された。聖廟は屋根や壁は崩れ落ち、わずかに骨組みを残すだけの無惨な姿として残った。
 聖廟爆破は、シーア派住民の怒りに火をつけた。少なくとも22日、聖廟爆破をきっかけに、シーア派による、特にシーア派の民兵によるスンニ派宗教施設とスンニ派住民への報復攻撃が相次ぎ、さらにそれへの報復が加わり、内戦の危機は一気に現実味を増した。同日シスタニ師は「信者による自衛」に言明、火に油を注いだ。この時点で、抗争は数百カ所にのぼったと言われ、宗教指導者もコントロール能力を失ったかに見えた。シーア派民兵、武装部隊によるスンニ派に対する報復攻撃、スンニ派モスクへの攻撃・占拠、民兵や警察などによるスンニ派住民、聖職者の拉致、殺害等々が報道された。
 一方スンニ派は、攻撃に対し防衛を呼びかけ、損害賠償請求を行うとともに、連立政権交渉からの離脱を表明し、対決姿勢を強めた。これとは別に、22日の爆破を契機に翌日から自爆テロ、自動車爆弾による無差別攻撃が増大し、シーア派、スンニ派にわたって多数の犠牲者を出した。

 これらの事態を西側メディアは、「内戦の危機」「イラク人同士の報復攻撃」「宗派対立の激化」等々とあおり立てた。ジャファリ首相は2月28日、明らかになっているだけでも22日以降の死者が379人に上っていることを明らかにした。一方共和党よりのワシントンポストは27日、バグダッドの遺体安置所当局者の話として、イラク人1300人以上が死亡したと伝え、この死者数はこれまでの米軍発表やメディア報道の3倍以上に当たると報じた。これらの犠牲者を、スンニ派とシーア派の報復合戦の結果として煽り立てたのである。もちろん、これ以降、「1300人」を確証する報道は一切されることはなくなった。真偽不明のデタラメ報道ということであろう。
※Iraq’s deadly surge claims 1,300(msn) http://www.msnbc.msn.com/id/11597322/
※Toll in Iraq's Deadly Surge: 1,300(washingtonpost) http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/02/27/AR2006022701128.html


(2)シーア派・スンニ派の共闘と、拡大した反米・反占領デモ。
 しかし、本当に一週間以上にわたって、暴動と内戦の危機が現出したのか。答えはノーである。実は、翌2月23日には、事態は全く違った方向へ進んでいたのである。
 スンニ派イスラム聖職者教会の指導者クバイシ師は23日、混乱の中でスンニ派の聖職者10人が死亡し、15人が誘拐されたことを明らかにした上で、シスタニ師によるデモ呼びかけを非難し、反米のデモを組織するように呼びかけた。その呼びかけは直接には、シーア派の反米強硬派のサドル師に向けられたものだった。ファルージャ、バグダッドのサドルシティ、カルバラおよびナジャフなどで共同して米軍と闘ったこと、共に血を流したことを思い起こしてほしい、と再び反占領の闘いで共闘することを呼びかけたのである。これに早速サドル師側が呼応し、スンニ派聖地を防衛するよう自派のマフディ軍を派遣したのである。
※IRAQ: Media’s “civil war” talk conceals colonial war(greenleft) http://www.greenleft.org.au/back/2006/659/659p19.htm

 さらに24日になって、サドル師が声明で、両宗派は同胞だと強調し、「イスラム教徒を攻撃する者はイスラム教徒ではない」と暴力停止を求めた。またシーア派最大会派「統一イラク同盟」のハキム師が「(聖廟爆破は)スンニ派の犯行ではない」と明言した。また、スンニ派連合「イラク合意戦線」も対策協議に復帰する意向を示した。イスラム各派指導者は、内戦の泥沼へと突き進むことを阻止するために、懸命に自制を呼びかけたのである。
 宗派間の攻撃、大量報復は急速に沈静化した。内戦がイラクの主権回復を遠ざけ、何よりもイラクを最後的に崩壊させるというイラク人自身の危機感が、内戦の危機を急速に収束させた。それだけでなく、対立の軸がシーア派対スンニ派という構図から、イラク民衆対米占領軍、イラク民衆対イラク治安部隊という構図へと急速に転換していったのである。

 ダール・ジャマイル氏は、このような反米闘争が広範な広がりを見せたことを現地から詳細に伝えている。大手メディアで報道されない貴重な情報である。22日の直後から、サマラでスンニ派の人々はただちにシーア派の人々に連帯するデモを行い、モスク爆撃を非難した。それから、スンニ派とシーア派の連帯デモがイラク全土で行われた。バスラ、ディワニヤー、ナシリア、クート、サラー・アル=ディンなどでも大規模なデモが行われた。シーア派の怒りの多くは米軍に向けられている。バグダッド南部にある、シーア派が大部分を占めるクート市では、何千人もの人々が行進し、米国旗とイスラエル国旗を燃やした。バグダッドの巨大なシーア派スラムであるサドルシティでも数千人が行進し、反米のスローガンを叫んだ。サドルシティにはバグダッドの人口の半数に近い人々が住んでいる。バグダッドではサドルシティのほかでも、大規模なデモが多数行われた。イラク治安部隊がスンニ派地区の封鎖に乗り出したにもかかわらず、バグダッドで行われたシーア派のデモにも数千人のスンニ派が合流した。
※Mosque Outrage Also Brings Solidarity (dahrjamail) http://www.dahrjamailiraq.com/hard_news/archives/hard_news/000366.php#more

 大手メディアもこのような事態を完全には無視できなかった。CNNテレビによれば2月23日、サドル派の影響力の強いクート南部のシーア派の拠点都市では、何万人ものシーア派とスンニ派が統一してデモを敢行し、イラクの国旗を掲げ、「アメリカにノーを」と連呼したという。24日にロイター通信は、バグダッドで2万人のサドルの支持者が金曜礼拝をシーア派とスンニ派が統一して行うよう呼びかけたことを伝えている。また、バスラの南部の町では、サドル派の代表が、シーア派の率いる暫定政府に対して、聖廟攻撃を非難した。
※The U.S. pushes Iraq to the brink (socialistworker) http://www.socialistworker.org/2006-1/578/578_06_PatrickCockburn.shtml
※United Iraqi protests against US divide and rule policy(socialistworker) http://http://www.socialistworker.co.uk/article.php?article_id=8410


(3)謎に包まれた聖廟爆破事件。不可解さを増す米軍とイラク内務省民兵の動き。
 私たちは、現時点でアスカリ聖廟の事件の背景や真相は知ることはできない。しかし、事件が少なくとも米軍やイラク内務省の関与を疑わせる極めて謀略的な性格を持っていることは間違いない。
 イラク内務省は、国軍の制服を着た数十人の武装集団が押し込み、守衛を襲い、爆弾を仕掛けたと発表した。また、移行政府の国家安全保障担当のルバイエ顧問は、聖廟の警護に当たっていた4人ら計10人を容疑者として逮捕したことを明らかにしている。しかし、彼らの発言は矛盾している。ジャファール建設大臣は、巨大なモスクを全壊させた爆発は、4つの柱に穴をあけて爆弾を詰め込み、ワイヤーでつないで起爆するという、1本あたり4時間は要する、軍事専門家による大がかりな仕事であると語っている。しかも、サマラは反米勢力が強いスンニ派トライアングルの一角にあり、今も夜11時から翌朝6時まで夜間外出禁止令がでている。爆発が起こる10分前にも、米軍とイラク治安軍による共同のパトロールがモスク前でなされていたという証言もある。支柱を粉砕し、モスク全体を崩壊させる仕事は、こそこそと爆弾を仕掛けて短時間に逃げていくというようなやり方でできるものではない。
※Exit without a strategy (guardian) http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,,1716754,00.html
※Pentagon-Controlled Iraqi National Guard Implicated in Samarra Mosque Bombing (kurtnimmo.com)http://kurtnimmo.com/?p=244
※Iraq shrine bombing was specialist job: minister(yahoo.com)http://news.yahoo.com/s/afp/20060224/wl_mideast_afp/iraqunrestsamarrabombing

 以上のようにこの事件そのものに謎が多い。イラク軍を装った「テロリスト」の仕業なのか、本当にイラク軍の仕業なのか、「スンニ派過激派」の仕業なのか、あるいは米英の特殊部隊の仕業なのか、私たちは今のところ言うことはできない。しかし、イラク武装勢力の格好をして工作していたイギリスの特殊部隊がイラク警察に拘束され、英軍が警察署を襲撃して奪還した事件、シーア派の宗教行事で、「テロリスト潜伏」と米軍かその手先が扇動したことをきっかけにパニックに陥り1000人を越える死者を出した事件などを思い出させる。謀略のにおいがぷんぷんと漂っているのである。
シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その16 英軍による許し難い蛮行。バスラ警察署攻撃を糾弾する!(署名事務局)

 しかも、22日直後に起こった「宗派抗争」と「虐殺」も不審な点が多い。アスカリ聖廟の爆破に抗議するシーア派のデモンストレーションに対して攻撃を仕掛けたのは、軍や警察に変装した暗殺部隊か、実際に兵士や警察官である可能性が高いという。ケナンの町で起きたシーア派とスンニ派の統一デモから帰る信徒らは自動車から引き吊り出され、殺され、道の側に溝に放置されていた。24日のインディペンデントは、バグダッド南部で、爆破の抗議行動に参加していた信者ら47人が、チェックポイント付近でイラク軍あるいは警察関係者か、何者かによって射殺されたことを伝えている。22日の爆破に対する抗議行動が米軍と暫定政権に対する闘争に転化する事を阻止するために、意図的にシーア派とスンニ派の対立をあおり、攻撃を仕掛けたことを伺わせる。
 イギリスのガーディアン紙は、現地の雰囲気は宗派抗争というよりも反占領闘争であること、虐殺は米軍とイラク治安部隊の手先による仕業であること、アメリカは、統一した全国的な反占領闘争の出現を阻むために「内戦の危機」をあおっているという見方が広がっていることを伝えている。


(4)背景にあるイラクでの反米世論、反米闘争の拡大。
 ブッシュ政権と米占領軍、欧米のマスコミが今なぜ内戦を誇張し扇動するのか。それは、[5]で述べるように、ここに来て急速に高まった反米世論と反米武装闘争の高まりがある。米軍は12月の議会選挙前後に集中的に空爆を行い多数の犠牲者を出し、今もサドルシティなどで一般市民を巻き込んだ空爆と殺戮を続けている。それだけでなく、米軍以上にたちが悪いと言われるイラク治安部隊とイラク警察がイラク市民への暴力と残虐行為、サルバドル方式といわれる特殊部隊・暗殺部隊の暗躍、内務省所属の秘密部隊による拷問、虐殺等々に日常的にさらされ続けており、イラク人民の怒りは爆発寸前にまで高まっている。さらに、イラク侵攻から3年間が経過し、生産、雇用、生活物資の供給や、水、電気、医療等の崩壊のもとで、市民生活が極度に悪化し、ここにきてIMFによる経済的締め付けが拍車をかけ、反米気運が急速に高まっているのである。

 米軍とイラク傀儡政府は、まず第一に、「内戦の危機」をあおることによって、昨年12月の選挙後の政局の混乱、「政治的空白」の中で生まれつつあるスンニ派主力とシーア派強硬派サドル派との統一した反米・反占領機運、反米ナショナリズムに楔を打ち込むことを目論んでいる。ブッシュは「分断支配」によって、イラク占領支配を継続しようとしているのである。
 第二に、米国内やイギリスやイタリア、オーストラリア、そして日本で高まる撤退の動きにブレーキを掛けようとしている。とくに米国内で高まる早期撤退論を「イラクを内戦の状態にしたまま撤退するわけにはいかない」「無責任なことはできない」と「内戦の危機」を宣伝することで沈静化させること狙っているのである。
 第三に、「内戦の危機」の宣伝は、イラク治安部隊を育成し、アメリカ軍の治安活動をイラク軍に全面的に委譲することによって、米軍の削減の条件を作り出すという「撤退戦略」にも合致している。なぜなら、スンニ派掃討のための意欲を持ったシーア派民兵がイラク軍へ集結しやすくなるからである。事実イラク軍が22万人を越えた背景にはこのような事情があるといわれている。
※IRAQ: Election result will fuel armed resistance (greenleft)http://www.greenleft.org.au/back/2006/653/653p19b.htm
※Sectarianism: the US Strategy in Iraq http://auto_sol.tao.ca/node/view/1645

 2月22日以降に報道されている「虐殺」「誘拐」「大量の遺体発見」も、こうして育成されたイラク治安部隊や内務省所属の「死の部隊」といわれる秘密部隊が大きく関与しているのは間違いない。イスラム革命最高評議会(SCIRI)の悪名高い「バドル軍団」だけでなく、バグダッド北部に本部を置く治安維持部隊「ブルカン旅団」など複数の死の部隊が存在し、反米デモに襲いかかり、イラク市民を恐怖に陥れているのである。「死の部隊」は内務省の一機関だが、実態はシーア派の民兵組織であり、残虐行為をほしいままにしている。
※バドル軍だけでなく、暗殺部隊(朝日新聞) http://www.asahi.com/international/update/0304/018.html
 この記事によると、ブルカン旅団に拘束された容疑者は、容疑や自白状況によってグループに振り分けられる。「電気組」というグループに振り分けられると電気による拷問を受け、「つるし組」だと天井からつるす拷問を受ける。「空間組」に振り分けられた容疑者は処刑され、砂漠地帯に死体を捨てられるという。


(5)「内戦の道」か「傀儡政権樹立の道」かの選択ではない。米軍撤退のもとでのイラク人自身による国造りの道がある。
 ブッシュ大統領は、28日ベルルスコーニ・イタリア首相と会談し、「破壊は混乱状態を作り出すだけだ。イラクは混沌か団結か、どちらかを選ばなければならない」などとふざけた発言を行った。ブッシュは22日以降、イラクの事態に慌て、異例の声明を出しているが、いずれも22日の事件を「テロリスト」の仕業と決めつけ、今回の事態をイラク人自身の問題であるかのように、責任のがれをしているだけである。
 ブッシュや商業メディアは、イラク人には、イラク人同士が殺し合う宗派対立と内戦の道か、アメリカがレールを敷いた傀儡政権を早急に作る道か、いずれかの道しかないかのように煽っている。しかし、22日以降の事態が示したものは、いずれでもない「第三の道」があること、そしてその様な欲求が急速に高まっていることを示している。それは、反米・反占領の民族解放=反植民地の闘いを強める道、米占領軍をイラクから叩き出し、イラク人民自身の手でイラクの再建を目指す道、そのためにシーア派とスンニ派が共闘し、これにクルド人が合流する道である。

 もちろん、「内戦の危機」を過小評価するのも間違いである。占領を継続し、「分断支配」放置すれば、内戦に発展していく危険性はますます高まっていく。シーア派民兵中心のイラク治安部隊が育成され、スンニ派の市民や民兵を虐殺し、人々の怒りや憎しみを増幅させているもとでは、このまま放置することは極めて危険である。だからこそ、アメリカ軍の即時無条件撤退が必要なのである。



[2]侵略戦争と強権支配で、腐敗・腐朽、抑圧と民主主義圧殺を全面化させるブッシュ政権。

(1)半年以上にわたって次から次へと重大スキャンダルに見舞われているブッシュ政権。根底にあるイラク戦争、「対テロ戦争」の破綻。
 米の軍事外交政策、その中心としてのイラク政策、中東政策が完全に行き詰まり、政権のこの基本政策の根幹をなすイラク政策の破綻が、ブッシュ政権をかつてない深刻な危機に陥れている。ブッシュ政権は、ウソとでっち上げの侵略戦争と無法な国内的強権支配で延命し、石油産業と軍需産業の利害にたつ戦時政権として腐敗・腐朽を全面化させ、末期症状に陥っている。イラク戦争の「大義」である大量破壊兵器が存在しなかったこと、米兵のイラク戦争の犠牲者が増大していること、イラク戦争からの「出口戦略」を全く持ち得ず、迷走と混迷を深めていることなどから国民の幻滅が広がり、ブッシュは支持率を急落させている。

 イラク戦争と対テロ戦争を巡って重大スキャンダルが次々に発覚し、それが幾重にも重なり、身動きがとれない状況である。ブッシュ大統領自身が、そして政権を支えてきたチェイニー副大統領やローブ補佐官という「陰の大統領」、「ブッシュ政権の黒幕」がスキャンダル発覚に見舞われ、政策を立案するどころか、何とか逃げ回るのに精一杯の状況になっている。 
 確かにアメリカの歴代大統領も数々のスキャンダルに見舞われた。ニクソン大統領のウォーターゲート事件、レーガン大統領のイランコントラ事件、そしてクリントンのホワイトウォーター事件と不倫スキャンダル等々。しかし、ブッシュのように、軍事外交政策という政策の基本である開戦の根拠のでっち上げや、自国民をスパイ扱いした無法な通信傍受など、民主主義の根幹に関わるスキャンダルに立て続けに見舞われ続けた大統領はかつてない。イラク大量破壊兵器の問題一つをとっても、現職の大統領が、数十万人の人々の命を奪い続けている現在のイラク侵略戦争の根拠を最初から公然とでっち上げた大統領などいない。
 
 3月1日、またまたブッシュ自身に関する新たなスキャンダルが発覚した。AP通信は1日、昨年8月のハリケーン「カトリーナ」が上陸する直前、ブッシュ大統領や国土安全保障省のチャートフ長官らが、連邦緊急事態管理局(FEMA)側から堤防決壊などの大きな被害が出る恐れについて詳細な説明を受けていたことを、ビデオ映像などをもとに伝えたのである。上陸直前の昨年8月28日のテレビ会議で、FEMAのブラウン局長が救援強化の必要性を指摘したのに対して、テキサス州の牧場でのんびり休暇中だった大統領は、テレビで「準備はできている」などと応じている。その時点で「堤防決壊の非常に強い心配」があることが警告されていたのである。ブッシュは非常事態宣言を出すだけ出して再び休暇に戻り、発生から2日間も対応を怠ったのである。当時ブッシュはこのような事実には一切ふれず、「誰も予想していなかった」とウソをつき、すべての責任をFEMAの対応の遅れに帰していた。
 ルイジアナ州その中心であったニューオーリンズ市を水没させ、黒人層を中心に何千人もの犠牲者を生みだしたハリケーン被害について、実はブッシュが確信犯であったことが暴露されようとしている。下院の調査委員会は先月、ブッシュ政権によるカトリーナの対応を厳しく指摘する報告書を公表している。カトリーナ問題は、今も政治焦点のひとつとなっている。ハリケーンの被災と救援だけでなく、復興においても、最下層の黒人地域は、排除されたままなのである。
※AP: Video Contradicts Bush Katrina Statements(AP通信)http://www.commondreams.org/headlines06/0301-08.htm
※2月28日夕刊「ニューオーリンズ『カトリーナ』から半年」(毎日新聞)
 住民の97%が黒人で1/3が貧困状態であったというニューオーリンズ市東部のロワー・ナインス・ワード地区では、未だに復興計画が進まず、人々の帰還も進んでいない。フレンチクォーターなど観光地区の復興は報じられているが、黒人居住区は取り残されたままになり、流された民家が道をふさぎ、車が赤くさび付いているという。
電力供給も6割に満たず、人々は、不衛生で不自由な生活を強いられている。
※3月3日朝刊 帰宅の願い 格差の壁(朝日新聞) 
 ニューオーリンズでは、復興計画も示されておらず、人口の6割がまだ戻れず、学校が当時の128から20に減少するなど、見捨てられた状態が続いている。ある黒人男性は「将来を選ぶ権利が我々にだけ認められないなら、差別だ」と怒っている。

 ブッシュ政権は、体中から膿が吹き出すように、昨年夏・秋から立て続けに重大な政治的失点とスキャンダルに襲われた。これらに、ブッシュが指名した最高裁判事の撤回、年金問題などが加わり、重大スキャンダルとイラク戦争の泥沼化、国内政策の失点によって、ブッシュは追い込まれたのである。
−−その最初であり、決定的に重要なものはシーハンさんに先導される形で爆発した戦死者家族たちを中心とした反戦平和運動である。これは「戦争の大義」の問題をブッシュに突きつけ、8月から9月にかけて未曾有の運動の高揚をもたらした。
−−9月はじめ、ハリケーン・カトリーナ被害に対するブッシュの無策と被災者放置、人種主義的対応に、州兵を派兵したイラク戦争の責任追及が結合した。
−−10月には、CIA工作員秘密漏洩と大量破壊兵器問題が発覚した。
−−10月末には、イラク犠牲者が2000人を越え戦死者問題が新しい段階に入った。
−−11月には、世界に散在するCIA施設に不法にテロ容疑者を国際人道法に反する形で拘束し、移送のためドイツやスペイン、英国などの空港や領空を無断で使用していたことが明らかになった。−−米軍がファルージャ侵攻時において非人道兵器=白燐弾を使用し、民間人をも巻き込んだ大虐殺が行われていたことが明らかになった。
−−ブッシュ大統領がブレア首相に対して、アルジャジーラ爆撃計画を持ちかけていた疑惑が発覚した。
−−12月には、9・11テロ事件から数ヵ月後に、ブッシュ大統領が密かに、NSA(国家安全保障局)に対して、裁判所の令状なしに、国内に住む国民及び外国人の盗聴を命じていたことが発覚した。
−−今年に入ってからは、贈賄容疑で逮捕された共和党系の大物ロビイスト・エーブラモフ被告とブッシュとの関係が暴露された。
−−アブグレイブでの新しい陵辱写真が暴露された。等々等々。


 とりわけ最大のスキャンダルは、イラク戦争に関わるCIA工作員漏洩疑惑である。なぜなら、この「被疑者」には、ブッシュ、チェイニーの正副大統領から、ローブ補佐官、ライス国務、ラムズフェルド国防の両長官、カード大統領首席補佐官、ウォルフォウィッツ前国防副長官(現世界銀行総裁)、フライシャー前大統領報道官、果てはパウエル前国務長官、アーミテージ前国務副長官にまで連座する、主要閣僚のほとんど全てが関与した事件だからである。工作員漏洩についてはローブが最も疑わしく、大量破壊兵器についてはチェイニーが最右翼である。いや、ここで名前をあがった人たちは、何らかの形ですべて関わっている可能性がある。ブッシュ政権を支える要人全てが、どす黒いスキャンダルにまみれているのである。かつてこのような疑惑だらけの政権があったであろうか。
※CIA工作員名漏洩 “第三の高官” 正副大統領や閣僚「関与」否定に躍起(産経新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051125-00000013-san-int


(2)全米の注目を集めた副大統領チェイニーの狩猟誤射事件。彼は盗聴問題と大量破壊兵器問題の疑惑の中心人物でもある。
 この間全米の注目を集めたスキャンダルは、チェイニー副大統領による狩猟誤射事件であった。それは、2月11日、テキサス州でウズラ狩りに参加していたチェイニー副大統領が、友人の弁護士をウズラと見間違えて正面から散弾銃で誤射したという事件である。
 2月17日、地元警察は事件を「事故」として早々と捜査を終了させ、負傷した弁護士のハリー・ホイッティントン(78)は、退院を前に、「副大統領に大変すまなく思う」と記者会見し幕引きをはかった。確かにこの事件は、チェイニー副大統領の休日中に起こった偶然の事件かもしれない。しかし、チェイニーが狩猟時に厳しく禁止されている飲酒をしていたこと、ホワイトハウスへの事件通報が発生から10時間以上も経っていたこと、シークレットサービスが、警察のチェイニーからの直接の事情聴取を拒否したこと、大統領報道官が、「周りの人間に自分の居場所を知らせるという規則をホィティントン氏は守らなかったんです」と撃たれた方が悪いという言い回しでチェイニーを擁護したことなどから、大スキャンダルへと発展した。

 この狩猟パーティは、ハリバートン社とロッキード・マーティン社を担当企業としているキャサリン・アームストロングというテキサス州の大物ロビイストが主催したものであり、まさにハリバートンの元CEOの副大統領を招いた、ブッシュ政権と軍需産業・石油産業の癒着の宴の様相を呈していた。それ故に、副大統領個人の過ちではなく、石油と軍需のための戦争の是非、ブッシュ政権の秘密主義と偽情報流布等々と深く結びついているのである。

 チェイニーの狩猟スキャンダルが大きな意味をもつのは、実はチェイニーが重大な疑惑を抱えているからである。それは、昨年10月に発覚した、イラク戦争開戦の根拠となった大量破壊兵器のねつ造をリークしようとした人物を政治的に抹殺しようとしたCIA工作員名リーク疑惑に絡む、大量破壊兵器問題である。この件で偽証罪などで起訴された、チェイニー副大統領の前首席補佐官リビー被告が、イラクの大量破壊兵器に関する最高機密情報を記者にリークしてもよいと副大統領から許可を受けたと供述していることが2月9日明らかになったのである。
 ブッシュ大統領は昨年12月、イラク議会選挙にむけた一連の演説の中で「「開戦時の多くの情報が誤りだった」と語り、「フセインが大量破壊兵器を持っている」という情報がでっち上げであったことを認めた。しかし、そのでっち上げ情報のリークの張本人がチェイニーであることが明らかになったのである。白々しいとはこのことであろう。

 CIA情報員名漏洩事件とリビー補佐官の訴追はブッシュ政権の危機にとっての重大な転機であった。発覚した昨年10月以降、ブッシュ政権のイラク政策への支持率が急落し、CIA情報員名漏洩事件に端を発した大量破壊兵器をめぐる情報操作疑惑は、政権全体の疑惑へと拡大していった。ローブ補佐官、チェイニー副大統領をはじめとする戦争に邁進してきたブッシュ政権の屋台骨を支えてきた面々への追及と結びついていった。リビー補佐官がチェイニー副大統領の部下だったこともあり、捏造疑惑の黒幕はチェイニー副大統領であると見られてきた。そして特に、チェイニー副大統領自らが集めた情報が、戦争の正当化に利用されたのではないかとの疑惑が高まってきていたのである。

 しかし、チェイニーの疑惑はこれだけにとどまらない。9・11事件の際、ワシントンを標的にしていると思われたハイジャック機(ペンシルバニアに墜落)に対して、ブッシュ大統領の承認を得ずに撃墜命令を出すという重大な法令違反をしたという疑惑がくすぶっている。これは、9.11以降、チェイニーが大統領を超える権限を持ち、自らが基礎を置く軍需産業の利害から「対テロ戦争」を主導していったという疑惑の発端である。また、イラク戦争の始まる半年前の2002年10月段階で、国防総省とハリバートンの部門であるケロッグ・ブラウン&ルートとの間でイラク石油産業を巡って70億ドルにもなる商談が交わされたという疑惑がある。そして開戦直前の3月5日には、米陸軍工兵隊とイラク復興事業についてメールでやりとりをし皮算用していたという疑惑がある。さらに昨年12月に発覚した、裁判所の令状なしの通信傍受問題がある。この、国外に電話をするアメリカ国民・居住者をすべてテロリストの容疑をかけるという事件について、盗聴プログラムの調査委員会の調査開始を無期限に延期するための工作の先頭にチェイニーは立っているのだ。
 9.11から始まる「対テロ戦争」とイラク戦争のでっち上げ、国内強権発動と復興利権−−疑惑まみれのチェイニーに加わった新たなスキャンダルは、ブッシュ政権のどす黒い本質をストレートに示すものである。


(3)新たな拷問・虐待事件、秘密収容施設の発覚−−アブグレイブ、CIA秘密基地、不法拉致。
 新たなアブグレイブの拷問・虐待事件、CIA秘密基地の発覚、不法拉致事件等々が、政治的焦点に浮上しようとしている。オーストラリアのSBSテレビは2月15日、イラクの旧アブグレイブ刑務所でのイラク人収容者に対する虐待行為の証拠とする未公開の写真や映像を放映した。また、イギリス兵による、少年への暴行・虐待映像が報じられた。無実の市民に対する拘束・虐待、陵辱と拷問、虐殺の犯罪施設アブグレイブとグァンタナモは、イラク戦争の最大の戦争犯罪の場であり、米英の恥部であり続けている。
シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その4 人権無視の象徴、「現代の強制収容所」=グアンタナモを閉鎖せよ!(署名事務局)
パンフレット案内 緊急出版−−アブグレイブ:ブッシュ政権中枢の第一級の国家戦争犯罪 (署名事務局)
米占領下アブグレイブ“強制収容所”における第一級の国家犯罪・戦争犯罪(署名事務局)

 CIAは、ボーイング737など民間企業を偽装した航空機などで、秘密裏にベルリンやフランクフルト、ラムシュタイン米軍基地などに離発着し、拘束した「テロ容疑者」を、ルーマニアやポーランドなど東欧諸国に設置した秘密施設に移送していたことが暴露されている。
 欧州会議が設置した調査委員会のマーティ委員長(スイス上院議員)は1月24日、収容所で拷問を行う「拷問の外部委託システム」の存在が裏付けられたとする中間報告を公表した。中間報告はアメリカの拷問を非難し、「拷問を第三国で行うか、外部に委託するシステムがあったことを示す多くの証拠がある」と強調した。この報告書によると、収容所に移送された人数は「過去数年間に100人以上」にものぼったとされ、「欧州各国の政府や、少なくとも各国の情報機関が気付いていなかったとはとても考えられない」と、欧州諸国政府・情報機関の共犯関係、あるいは、暗黙の了解の可能性を示唆している。
※Europe's Silence on CIA Flights(spiegel)http://service.spiegel.de/cache/international/0,1518,397219,00.html
※Europe's governments 'knew of CIA torture flights'(scotsman.com)http://news.scotsman.com/topics.cfm?tid=1227&id=118842006

 さらにこの問題を調査している欧州議会が、EU内で起きた米による不法拉致事件についても重点的な調査を開始した。同議会は、マケドニアで拉致され5ヶ月間、アフガニスタンの米施設で拷問されたというドイツ人男性(03〜04年)、イタリアでCIAに拉致され、イタリアの軍事基地経由でエジプトに連行・拷問されたというエジプト人男性(03年)など、4〜5人について調査を行っている。
この中で、すでにレバノン系のドイツ人男性ハリド・マスリさんは、12月6日、全米市民自由連合(ACLU)を通じて、テネット前CIA長官らに謝罪と慰謝料の支払いなどを求める訴訟を米バージニア州アレクサンドリアの連邦地裁に起こしている。
マスリさんを拉致したCIAの『特別身柄引き渡し(extraordinary rendition)』は、米政府が01年9月の同時多発テロ以降、テロ容疑者の尋問のため多用している手法であり、公の司法手続きをとらないまま、テロ容疑者をひとつの国から別の国に移送して収容尋問するための措置として使われている。

 これら新たに発覚した事実は、イラク市民に対する従来の拷問・虐待と質がことなり、欧州諸国の国家主権の侵害、欧州諸国での米特務機関による無法行為という性格を持ち、外交問題にまで発展している。米英の「対テロ戦争」の新たな犯罪として追及されている。同時にそれは、欧州諸国によるアメリカの「対テロ戦争」への暗黙の了解、暗黙の加担として米とEU諸国全体を巻き込むスキャンダルへと発展している。



[3]最後的行き詰まりに陥ったイラク戦争と占領支配。

(1)迷走する「新政権構想」。見通しのない新政権樹立。
 ブッシュは大量破壊兵器をでっち上げて、イラク戦争開戦の無法性を覆い隠してきたように、CPA統治時代にブッシュが勝手につくった「民主化シナリオ」が計画通り実現しつつあるかのように装うことによって、イラク占領支配の泥沼化を塗り隠してきた。すなわち、ブッシュは、@2004年6月のCPAから暫定政権への「主権委譲」、A反米勢力を大虐殺したもとでの2005年1月の暫定国民議会選挙、B主要な二州で否決された2005年10月の憲法国民投票、Cそして今回の国民議会選挙という、一連の政権委譲シナリオに基づき新政権を発足させ、イラクの治安をイラク軍にゆだねることで米軍部分撤退・恒久基地建設=中東の拠点建設を行う構想を持っていた。次々に新たな目標と期限を設定することによって、事態がスムーズに進行しているかのように描き、あるいは仮に困難な事態に陥ったとしても、その先に明るい希望があるかのように見せかけ、国内外の目をそらそうとしてきたのである。そして、虚構の「民主化シナリオ」の中に、ファルージャの大虐殺もアブグレイブの拷問も埋もれさせようとしてきたのだ。しかし、12月の議会選挙が最後である。次はない。議会選挙とその結果としての政権樹立が行き詰まることは、イラク占領支配が最終的に行き詰まることを意味する。

 イラクでは、昨年12月に議会選挙を強行したものの、選挙で選ばれた当事者たちの対立と内紛によって、3ヶ月にわたって政権を枠組みさえ作れないという異常事態が続いている。
 議会選挙では、シーア派会派は過半数を獲得できず、シーア派+クルド族でも2/3をとれず、きわどい連立政権を模索する以外になくなった。議会選挙から2ヶ月経ってようやく、イラク国民議会選挙で第1党となった統一イラク同盟がジャファリを首相候補に選出したものの、政権の見取り図は全く白紙状態である。
※統一イラク同盟内では、アッダワ党がジャファリを支持したものの、イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)は、アブドルマハディの起用を求めた。シーア派権威のシスタニ師の側近もジャファリの治安対策を批判していたとされている。同会派は12日に投票を実施し、1票差でジャファリがアブドルマハディを破った。このとき、SCIRIとの武力衝突を経験したサドル派が、ジャファリを支持したことが決め手となったといわれている。

 スンニ派連合は、政治闘争と武装闘争の二本立てで、政権と対峙している。政府に対して、内務大臣の解任、囚人の解放、無差別逮捕キャンペーンの終了の政治的要求を突きつけ、受け入れられない場合は、全国での市民的抵抗闘争の組織化を明言してきた。
 さらに、抗争をうけて、スンニ派会派「イラクの調和」指導者アドナン・ドレイミは2月3日、シーア派宗教勢力「統一イラク同盟」(UIA)が新政府でのジャファリ首相続投方針を撤回しなければ、「新たな首相候補を擁立しUIAを排除した連立政権を樹立する」と表明した。スンニ派を軸に少数派が結束し、第一党UIAに首相候補の変更を強硬に迫る動きは、議会選挙後の政権樹立過程そのものが泥仕合になっていることを示している。
※Iraq Sunni bloc threatens revolt (BBC) http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4671718.stm

 もともと、アメリカのイラク政権戦略は矛盾に満ちており、綱渡りのような危うさを持っている。
a)アメリカは、擁立を目指していたシーア派世俗グループの惨敗によって、最大勢力であるシスタニ派=イスラム革命最高評議会をもはや否定することはできなくなった。それは、その軍事組織であるバドル軍を受け入れることを意味する。特に軍・警察はバドル軍に依拠するしかない。
b)しかし、内務省と特殊部隊をCIAやモサドが指揮し「死の部隊」として利用するという方法は、人民の恐怖と反発を生み出さざるを得ない。特にスンニ派住民の強い反発を生み出す。
c)また、イランと結び付いているシスタニ派を全面的に擁護するわけにはいかない。絶えず牽制し、権力の増長を制約しなければならない。
d)そのために、まずスンニ派に対しては、反米の主力部隊に対して空爆と掃討作戦で殲滅し、妥協的勢力を切り離し、政権に取り込む。
e)手なづけたクルド勢力と妥協的なスンニ派の一部をシスタニ派に対抗させ権力の均衡を図る。

 しかしこのような構想は、各派がアメリカの思惑に従って言いなりに動くという、机上の空論に基づいている。もともとイラク戦争の目的である石油利権や復興利権が複雑に絡み合う、各派のせめぎ合いの中では、熾烈な権力闘争となり、迷走していかざるをえない。
※反米指導者との関係懸念 米政府、イラク首相続投で(共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060216-00000183-kyodo-int


(2)イラク政策の一貫した欠如、占領統治の当事者たちの泥仕合
 しかし、果たして、ブッシュ政権に一度でもイラクの政治的・社会的・経済的安定化のための、ブッシュが何度も繰り返す「民主化」と「復興」のための、まともなシナリオが存在したのだろうか。もちろん、否だ。明確なイラク戦略、占領統治計画の欠如は、イラク新政権の先行きが不透明になり、行き詰まりをみせるのに伴って、占領統治の当事者たちの間で、醜い責任のなすりつけあい、言い争いとなって表明化している。

 イラクで米英占領暫定当局(CPA)のトップだったポール・ブレマーが回顧録を刊行し、「われわれはすべての中で最悪(の存在)、無能な占領者になっている」と記した。そして、武装勢力の攻撃が激化した04年5月に「イラク駐留米軍の2個師団(約3万人)増強」をラムズフェルド米国防長官に提案したが、拒否されたことを明らかにした。その中でブレマーは、「ハイテク化した少数兵力」の戦争は短期勝利には結びついたが、占領の早期終結はできなかったと主張している。さらにブレマーは、NBCテレビのインタビューで、イラクに反米武装勢力が出現することを「本当に予期していなかった」と述べ、占領前の見通しが全く甘かったことを認めたのである。
 一方では、ブレマーは2003年5月から2004年6月にかけてのCPAの統治時に、380億ドルもの予算がどこに配分されたのかもわからないまま浪費されたことを責任追及されている。スイミングプールの排水管の清掃に10万ドル(1200万円)、病院のエレベーターの修理に68万2千ドル(8000万円)など、まともな立案もなく、現地で要求されるままに現金をばらまくというカオス状態に陥ったことをブレマーは認めた上で、戦争の最中に西側の会計基準を適応することは不可能だと開き直っている。
 要するに、この論争は、ラムズフェルドが、「莫大な予算をつけたのに、金をムダに浪費しやがって」といえば、ブレマーが「まともなのは最初のそれゆけどんどんだけ、あとは見通しも何もなかったじゃないか」と言い返し、醜いなじりあいに発展しているのである。
 彼ら戦争屋の冒険主義と金儲けの結果、一体どれだけの血が流されたのか。怒りを抑えることができない。
※Iraq: A Mark McGwire Moment (commondreams) http://www.commondreams.org/views06/0130-28.htm
※ 米のイラク統治 ブレマー氏、政権内対立“暴露” 「軍増強拒否された」(産経新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060112-00000009-san-int

 もちろんこれは、個人的ななじり合いにとどまらない。最近発刊された『ファルージャ 栄光なき死闘』によれば、無謀なファルージャ攻撃に若い兵士たちを送り込んだ米政府のイラク政策のあり方について、CPA発足直後からラムズフェルドと多国籍軍統合機動部隊(JTF)、CPA、そして「イラク安定化グループ」とホワイトハウスという3つの指揮系統が存在しそれぞれが独立・対立し、複雑に絡み合っていた。ブレマーの直属の上司はラムズフェルドであるが、同時にホワイトハウスに最新の情報を報告する義務も負っていた。そして、「ブレマーは、イラクを民主国家に仕立て上げ」る重要な任務を持っていながら、「軍事作戦に関しては決定権や拒否権はもとより、論評する権限さえ持っていなかったのである。」この本は、ラムズフェルドのグループが、海兵隊など現場からの声を軽視し、確たる戦略というよりもイラク人への敵意や報復熱に従って場当たり的な方針を提起していた様子を描いている。
ブレマーの言葉を借りれば、ブッシュが5月に「大規模戦闘終結宣言」をした瞬間から、あるいは、6月にブッシュが「かかってこい」と言った瞬間から、イラク占領支配の無政策と泥沼が始まったのである。
※『ファルージャ 栄光なき死闘』(ビング・ウェスト著 早川書房)は、米軍からみたファルージャ戦記であり、もちろんファルージャ攻撃を闘った米軍兵士を勇敢な「英雄」として描こうとするものである。胸くその悪くなる戦記物だ。しかし、一方では、あのような残忍な戦闘に放り込んだブッシュ政権の政策のあり方に疑問を投げかけている。それは一言で言えば、イラク戦争に対する戦略の一貫した欠如と、現場の指令系統の大混乱である。
この本は、ファルージャ攻撃を4つの段階に区別する。すなわち、@2003年4月フセイン政権崩壊から各地で始まる米軍と武装勢力との闘い、A2004年3月、米軍の掃討作戦の失敗、B米軍の撤退とイラク軍への治安活動の委譲、C2004年11月である。
 この本によると、ラムズフェルドと多国籍軍統合機動部隊(JTF)、CPA、そしてイラク安定化グループとホワイトハウスという3つの指揮系統があった。これらは、ばらばらでそれぞれ対立し一貫した政策がなかった。そして、戦闘を現に遂行する海兵隊からは、むしろ軍事的攻勢だけで制圧・占領を実現することの限界を主張し、「経済復興」などの諸方策を同時に遂行することを要求する声が根強く存在していたという。しかし、戦争経験のないラムズフェルドらネオ・コンの連中はそのような声を無視し、残虐な軍事作戦を続け、まさに後戻りのできない泥沼へとはまりこんでいったのである。
 イラク戦争を煽ったネオコンの中からも、この戦争が誤りであったという論調が出始めている。彼らは、フセイン政権を倒したことは誤りではなかったが、先の見通しが立たず、時間もコストもかかりすぎている、それが誤算だったというのである。極めて傲慢で、イラク人民を侮辱した立場からの懐疑であるが、しかし、ブッシュ政権の動揺を示している。
※At Last, the Warmongers are Prepared to Face the Facts and Admit They Were Wrong (independent)http://news.independent.co.uk/world/americas/article350104.ece
※NeoCon allies desert Bush over Iraq (independent) http://news.independent.co.uk/world/americas/article350092.ece



[4]米軍の、空爆中心の掃討作戦への戦術転換と犠牲者の拡大。

(1)空爆による、市民の無差別殺戮の拡大。ほとんど報道されない米軍による虐殺。
 米は、イラク議会選挙の政権構想に政治的に失敗しているだけではない。軍事的側面でもまともな戦略を持ち得ていない。米軍は、米兵死者が米国内で問題になり、そして戦死者が2000人に接近し始めた昨年9月ごろを境に、自軍の犠牲を最小限に押さえるために、地上戦・掃討作戦を縮小し、「テロリスト」潜伏疑惑のある家屋周辺を無差別に空爆する戦術に転換した。このことによって、一般市民の犠牲者を拡大している。また、空爆中心の攻撃は、米陸軍・州兵撤退を補完する、空軍増強の駐留方針とも密接にからんでいるのである。
 このような、米軍の戦術転換と被害の実状は、メディアによってほとんど無視されている。ご存じのように、イラク関係で報道されるのは、「自爆テロ」ばかりである。
※U.S. Airstrikes in Iraq Could Intensify(commondreams)http://www.commondreams.org/headlines06/0111-07.htm

 アメリカ軍による空爆の増大とその被害を、初めてまとまった形で報告し、警鐘をならしたのは、アブグレイブの拷問・陵辱・虐殺をスクープしたセイモア・ハーシュであった。「ここ数ヶ月、米軍の爆撃が増加したようだ」と昨年12月5日付の『ニューヨーカー』誌で語り、「標的の大部分はスンニ派が多数を占める地域で、バグダッド周辺とシリアと国境地帯である」ことを明らかにした。
 これを受けて、ようやく大手メディアでも米の戦術転換についてわずかながら報道がなされるようになった。AP通信は、アメリカの空爆の数が増加したと12月19日に報じ、「空爆は昨年の夏には月平均で約35回程度であったのが、2005年9月には60回を越え、10月と11月にはその倍の120回を越えた。そして12月は150回に達するだろう」と、異常な空爆の多さを報道している。
※ IRAQ: Election result will fuel armed resistance (greenleft)http://www.greenleft.org.au/back/2006/653/653p19b.htm

 そして米軍による無差別空爆の残酷さが誰の目にも明らかになったのは、今年はじめに、米軍が空爆によって14人の家族を殺した事件であった。1月2日、イラク中部キルクークの都市バイジで、道路脇で男3人が穴を掘っているのを米軍の無人偵察機が発見し、爆弾を仕掛けたとみて、3人が逃げ込んだ家を建物ごと空爆・破壊したものである。建物は民間人の自宅で、子どもや女性を含む14人もの無実の家族が殺されたのである。
※US air strike hits Iraqi family (BBC)http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4577578.stm

 空爆中心の無差別殺戮は今も続いている。2月2日には、バグダッドのサドルシティで、米軍のヘリコプターからロケット砲が放たれ、女性が殺されている。これも「テロリスト」が潜んでいるとの情報から、無差別に攻撃したものである。反米傾向の強いサドル派の拠点で、スンニ派の反米闘争との結びつきの度合いなどが未知のまま、無差別の住民殺戮が繰り広げられているのである。
※US air strike kills Baghdad woman, Iraqi police http://66.132.242.24/DisplayArticle.asp?xfile=data/focusoniraq/2006/February/focusoniraq_February9.xml

 また、以下の米空軍のホームページでは、2月15日に南バグダッドで、F15イーグル爆撃機を使用して、「テロリストの弾薬庫」を空爆したことを誇らしげに記している。その前日の2月14日には、道ばたにかがんでいたイラク人を、路傍爆弾を仕掛けていたと決めつけ、逃げる後ろから発砲し、さらには負傷して病院に駆け込んだところを追及・拘束したことを記している。
※Air Strike Destroys Terrorist Bunker; Bomb Suspect Detained (DEFENCELINK)http://www.defenselink.mil/news/Feb2006/20060215_4213.html

 ワシントンポストのレポーター・ニックメイヤーは、11月にアンバル州西部行われた米軍の攻撃では、フサイバでは97人もの市民が一回の攻撃で殺されたこと、カイモネでは40人の市民が、ラマディでは18人の子供が(大人は報告されていない)それぞれ殺されたことを医療関係者や住民の聞き取りを通じて明らかにし、空爆中心の攻撃のすさまじさをレポートしている。
 さらに「イラク市民に対する戦争」と題した記事は、無人偵察機で捜索し、不審な動きを見つければ建物ごと破壊し殲滅するというバイジ型の攻撃が、米軍の掃討作戦の典型的な形になっていることをレポートしている。そして、月に150もの空爆が行われ、それぞれに10人の犠牲者がでるとすれば、2006年には、それだけで18000人が殺されることになるとし、「戦争を縮小する方法であるとみなされた新しいアメリカの戦略は、現実にはイラク市民虐殺の方程式だ」と厳しく批判している。
※THE WAR ON IRAQ'S CIVILIANS(albionmonitor.com)
http://www.albionmonitor.com/0602a/iraqcivilianwar.html
※The Unseen War in Iraq When troops are cut, we'll stillalbionmonitor be bombing the hell out of the place (commondreams) http://www.commondreams.org/views06/0126-28.htm


(2)イラク戦争の犠牲者は数万人どころではない。数十万人である。−−アメリカのホプキンス大学の研究チームのリーダーであったレス・ロバーツの新しい研究。
 イラク市民の犠牲が再び拡大する中、イラク戦争開戦3周年を前にして、イラク戦争での犠牲者数をより実態に近づけ、暴露しようとする試みが、論争という形で浮上している。米軍が日々イラク市民を虐殺し続けている現状を、犠牲者数という形で明らかにすることは決定的に重要な暴露の一つである。それ故に、米政権は、開戦以来一貫して、イラクの犠牲者を数えることをネグレクトし、闇に葬ろうとしてきた。そしてブッシュが突然思いついたように、昨年12月のイラク議会選挙にむけた一連の演説において、「きっと3万人かそこらが死んだんだろう」などと、犠牲者を冒涜し開き直る発言を行ったことで、さらに人々の怒りをかき立てている。
小泉首相はイラク戦争支持の誤りを認めよ! (署名事務局)

 イラク戦争の犠牲者に関しては主として二つの数字がある。
 第一は、メディアで取り上げられた死者数を記録したイラク・ボディカウントである。3月15日現在で33638人〜37754人。
 第二は、2004年10月にランセットが集落抽出調査によって示した10万人である。
 イラクボディカウントの数字は、ランセットの数字が発表されるまでは、イラク戦争の死者に関するほとんど唯一の数字であった。これは、現在も貴重なソースであり続けている。私たちは、一部の反戦グループの中にあるような、イラク・ボディカウントの業績をおとしめるような論調に絶対に反対である。イラク・ボディカウント自身が、彼らの数字が非常に控えめであり、実態は数倍に登ることを認めている。
※The IRAQ BODY COUNT http://www.iraqbodycount.org/
シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その18 イラク民間人犠牲者とブッシュ政権の戦争犯罪(上) イラクでは誰が誰を殺しているのか? −−「犯人はスンニ派テロリスト」の“神話”。最大の殺人者は米軍 (署名事務局)

 しかし、私たちは同時に、よりリアルな犠牲者数を追求しなければならない。まず、昨年7月、ブッシュ政権によるランセットに対する中傷に対して、アメリカのホプキンス大学の研究チームのリーダーであったレス・ロバーツらが、イラクで用いた調査方法が、1990年代の終わりのコソボでの戦争による死者を見積もったのと同様の極めて信憑性の高い調査方法であり、また10万人という数字が「極めて控えめな数字」であることを改めて主張し、全面的な反論を行った
※BURYING THE LANCET - PART 1 (medialens.org)
http://medialens.org/alerts/05/050905_burying_the_lancet_part1.php
http://www.medialens.org/alerts/05/050906_burying_the_lancet_part2.php

 そして、発表から一年が経過したこと、それ以降に起こったファルージャの大虐殺の犠牲者、「ファルージャ方式」としてその後も続けられているラマディやカイムなどでの掃討作戦の犠牲者、清潔な水や食料、医療施設や薬の欠乏によって生み出される伝染病や疾病による犠牲者などを考慮し、より実態に近づけ、イラクの被害と犠牲をリアルに示そうとする試みが行われたのである。
 その結果、イラク戦争によって殺されたイラク市民は17万5千人〜65万人。その内、連合軍に殺されたのは12万人〜50万人。子どもは5万人〜25万人、という数字が発表された。
※「Bringing Out the Dead」(monbiot.com) http://www.monbiot.com/archives/2005/11/08/bringing-out-the-dead/

 これは、ランセットが10万人を報告した2004年10月を起点として、計算上出された数字である。当時イラクボディカウントは14,219人〜16,352人を数えていた。これと現在のイラクボディカウントの28591人〜32225人と比較すればほぼ倍になっており、開戦から2004年10月までの約一年半とそれ以降の約一年半にほぼ同数の市民が殺されたのはおそらく間違いない。


(3)3年間で約60万人もの人々が殺された! 国連やUNICEFが公表する「死亡率」「幼児死亡率」をもとに算出した数字。
 イラク戦争と占領による犠牲者の推定のもう一つの方法は、国連やUNICEFなど国際機関などの公表する「死亡率」や「幼児死亡率」などからのアプローチである。これは米軍などによる攻撃の直接の犠牲者だけを含んでいるわけではない。しかし、戦争やその後の占領体制によって極めて劣悪な衛生環境、栄養環境、インフラの破壊にさらされたイラクの人々が受けた犠牲を総合的に見積もることができる。戦争と占領の人的被害を最も包括的に見積もる方法でもある。

 下にあげた「イラクにおける間接的的大虐殺」という記事(2005年3月11日)は、ランセットを引用して、イラクにおける「粗死亡率」が1000分の12.3人であり、本来イラクと粗死亡率が同様の水準に有ると考えられる近隣のヨルダンなどの数値が1000分の4.0人であることから、1000分の8.3が占領による過剰な死者であると見みなして犠牲者の数を計算している。イラクの人口を2500万人とすると2003年、04年の2年間で、2500万×8.3/1000×2年で41万5千人の犠牲者が出ているのである。この3月までの3年間では60万人もの“過剰死亡”=占領犠牲者が出ていることになる。

 この記事は同様に、5才までの「幼児死亡数」を取り上げている。UNICEFやランセットで公表されているイラクの5才までの幼児死亡は年間11万人(2004年)、幼児死亡率は1000人あたり125人(2004年)である。幼児死亡率は90年までは1000人あたり50人程度の数値であったから、1000人当たり75人程度の幼児死亡が占領による“過剰死亡”である。その数は11万人×75/1000人で毎年8万2500人にものぼり、2年間で16万5千、3年間では25万人近くの幼児が戦争と占領のために殺されたことになる。この記事では2年間で20〜40万人の幼児が殺されたと評価している。

 いずれにしてもブッシュの言う「3万かそこら」の犠牲者などではなく、3年間で60万人、そのうち5歳児以下の子供が半数近くというのが実態であり、これがブッシュとブレアの戦争の犠牲者なのである。これは上記のランセット論文の「集落抽出調査」とは全く別の方法による算出だが、結果は同じレベルの大量の犠牲者数を示しているのである。これらの死亡率や幼児死亡率は国連やUNICEFのサイトで統計データを確かめることができる。2005年のデータはまだ公表されておらず、イラク国内の状況から考えると統計が万全とも言えないが、しかし、3年間で60万前後の人々が戦争と占領のために死んだのはほぼ間違いないことではないか。それよりももっと驚くべき事は、例えば5歳児以下の幼児死亡率は湾岸戦争後の制裁によって子供がばたばたと死んでいった時期よりも更に上がっていることである。これはブッシュによる「復興」「民主化」の宣伝とは逆にイラクの状態がますます悪化し、絶望的な状態になっていることを示している。
※Passive Genocide In Iraq(11 March 2005)Gideon Polya http://www.countercurrents.org/iraq-polya110305.htm
※UNICEF at a Grance IRAQ http://www.unicef.org/infobycountry/iraq_statistics.html?q=printme



[5]イラク全土で拡大する反米武装闘争と高まる反米世論。

(1)反米武装闘争の組織化、大規模化。
 このような中で、反米武装勢力がますます組織化され、米軍に対する攻撃が強まっているという報告が国防総省自身から報告された。米軍に対する反占領抵抗闘争は収まるどころか強まるばかりである。それは「われわれは勝っている」と言うブッシュの言葉がいかに空虚かを語っている。
※IRAQ: US troops are the primary targets(greenleft)http://www.greenleft.org.au/back/2006/653/653p19b.htm

 ジョーゼフ・クリストフが、2月8日に上院外務委員会で明らかにした国防総省の報告によれば、イラクの武装攻撃の4分の3は、イラク治安部隊ではなく米および連合軍に向けられている。クリストフは、2003年6月と2005年12月の間の抵抗攻撃の毎月の数を概説する図表を指摘して、2005年12月はほぼ2500回の攻撃回数があったが、これは、2004年3月の250%にあたると語ったという。ただし、2004年3月にはすでに、2003年の7月か8月の倍になっていてそれが傾向として続いていた。
※In Their Own Words: Reading the Iraqi Insurgency(crisisgroup)http://www.crisisgroup.org/home/index.cfm?l=1&id=3953 http://www.mafhoum.com/press9/268P53.pdf(PDFファイル)
※Report: Sunni Insurgents Increasingly Unified (ips news) http://www.ipsnews.net/interna.asp?idnews=32176

 しかも、攻撃は、精巧な通信技術を備えた少数の大きなグループによってますますコントロールされてきているという。「1年前には、諸グループは、慣習とイデオロギーに関して分裂したように見えた。しかし、ほとんど論争は、スンニ派イスラム教の教義とスンニ派アラブの抵抗闘争のまわりに結集することによって解決した。」と報告書はのべている。
 それはもはや、各地に散在し、不安定で、無秩序な現象ではない。グループはよく組織され、定期刊行物を発行し、政治的動向に素早く反応し、驚くほど集中しているという。
 今年に入って、米軍のヘリコプターが撃墜される事件が相次いでいる。米軍の作戦行動をあらかじめ把握し、米軍に捕捉されることなく、隠れて地対空のロケットを自在に操り、高精度で命中させ、撃墜している能力を持っていることを示している。
※US helicopters in Iraq face menace of 'aerial bombs (telegraph) http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/01/18/wirq18.xml
※US military looks for pattern in Iraq helicopter losses (yahoo.com)
http://news.yahoo.com/s/afp/20060117/pl_afp/usiraqmilitary_060117184848


(2)民衆の中に入り、支持をあつめる反米武装闘争。
 しかし、このような反米武装勢力の活動は、イラク民衆から乖離した「テロリスト」「外人部隊」というイメージからはほど遠い。クリストフによれば、彼らは、人質の首を切ったり、投票へ行く人を攻撃するような、一般大衆に反感を与えることが明らかであったような戦術を放棄した。また、「水と電気を人々から奪ういかなる目論見も否定している。しかし、石油設備については制約を設定しない。それはイラクを食い物にしようというアメリカの計画の重要部分と見なされている」のである。
 そしてクリストフは強く主張する、アメリカがイラクの石油を狙ったり、軍事基地を建設する意図を持っていないことをイラク市民に何度も説得的に語らなければならない、と。
※The Guerilla War on Iraqi Oil(zmag.org)http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=15&ItemID=9457
 これはお笑い草と言う以外にない。中東での恒久基地建設と石油略奪は、アメリカがイラクに戦争を仕掛けた目的であり、最重要課題だからである。それは、イラクから撤退せよと言うのに等しいのである。

 国防総省の分析は、イラクで行われた世論調査によっても裏付けられている。イラク国内から米と多国籍軍の占領支配に対する不満が高まり、イラク市民の約半分が、米軍に対する攻撃を支持し、70%が外国軍の撤退を求めている。
※Nearly Half of Iraqis Support Attacks on U.S. Troops, Poll Finds(commondreams.org)http://www.commondreams.org/headlines06/0131-10.htm
※World Public Opinionの世論調査 (worldpublicopinion.org)http://www.worldpublicopinion.org/pipa/articles/home_page/172.php?nid=&id=&pnt=172&lb=hmpg1

 『世界の世論』(World Public Opinion)が今年1月に行った調査では、イラク人の80パーセントが、アメリカがイラクの基地を維持するつもりであると懸念している。その確信を持っている人々の割合は、スンニ派が92パーセントと最も多く、米軍への攻撃を支持している人との間に相関関係があるという。アメリカが恒久基地を建設し居座るの危険性を認識すればするほど、米軍への攻撃を支持することになる。
 また、イラク人の47パーセントが、アメリカ軍に対する攻撃を支持している。特にスンニ派の中では実に88パーセントが支持している。
 このような世論調査結果は、昨年10月にイラクの大学の研究チームが行った「秘密世論調査」
とほとんど同じである。
シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その21 イラク民間人犠牲者とブッシュ政権の戦争犯罪(下) イラクでは誰と誰が闘っているのか−−「テロリスト」だけを誇張し、地元のレジスタンスを消し去るマスコミの報道−− (署名事務局)

 また、12月2日に米メリーランド大学と米世論調査会社ゾグビーが発表した、サウジアラビアやエジプト、レバノンなど中東6カ国で行った共同世論調査でも、イラク戦争によって中東の平和が「むしろ損なわれた」との回答が81%に達し、「中東の民主化」を掲げたブッシュの戦争政策が、中東の市民たちによって拒絶されていることを明らかにしている。イラク戦争の目的は「石油」「中東地域の支配」ととらえられており、イラク戦争で「より平和になった」との回答はわずか6%にすぎなかった。



[6]米軍危機の新しい局面−−過小戦力問題と空軍を中心としたイラク占領支配への転換。

(1)州兵を中心としたローテーションの危機。
 私たちは、約1年前、米軍の過小戦力問題をあきらかにした。一年経って、この米軍の危機、過小兵力問題は、米兵戦死者が2200人を超えたこととあわせ、カウンター・リクルーター(新兵勧誘反対)闘争の前進、戦死者家族の闘いの中でより一層深化し、また、カトリーナで州兵問題がクローズアップされ、アメリカの内政問題、治安問題、災害問題にまで波及している。今や、この州兵の無尽蔵な使用をこれ以上続けることは不可能になっている。
[シリーズ米軍の危機:その1 総論] ベトナム戦争以来のゲリラ戦・市街戦、二巡目の派兵をきっかけに顕在化した過小戦力、急激に深刻化し増大し始めた損害 (署名事務局)
※IRAQ: US Army 'stretched to breaking point’(イラク:「限界点に伸ばされた米軍」)  http://www.informationclearinghouse.info/article11186.htm

 今年1月、米国防総省の委嘱を受けた米研究機関が、イラクやアフガニスタンへの大規模派兵で米陸軍の展開能力が限界に近づき、イラクの駐留規模維持は困難になっており、武装勢力を弱体化させることなどできない、とする報告書を出していたことが明らかになった。ペリー元国防長官らも、現在の戦争が米軍に重い負荷がかかっているとする報告書を提出した。これに対して、ラムズフェルド国防長官は1月25日の会見で「米軍は壊れていない」と苦しい弁明をした。
※米陸軍の展開能力限界に イラク駐留長期化で報告(共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060126-00000066-kyodo-int

 しかし、米上院軍事委員会は2月7日、07会計年度国防予算案提出を受け、ラムズフェルド国防長官らを呼んで公聴会を開いた。ペース統合参謀本部議長はイラクなどに大量動員されている州兵・予備兵について、「来年3月までに駐留米軍に占める割合を19%にする」と述べ、全体の5分の1程度まで削減する方針を明らかにした。
 これは、違法な州兵派兵が限界に達していることを示している。現行の16万から、13万、10万への縮小という数字は、ローテーション危機を反映し州兵を排除した、現実的な数字に他ならない。このままの規模の駐留軍を維持することは、2008〜2009年にかけて駐留部隊を4〜5回ローテーションさせる事になる。これは事実上不可能である。米陸軍は、戦闘部隊を維持することができないところまで追い込まれているのである。
※<米国>州兵を19%に削減 ペース統合参謀本部議長 (crisscross.com)http://www.crisscross.com/world/news/18038

 米軍危機の重要な背景には新兵募集(リクルート)危機がある。特に陸軍は、臨時ボーナスなどの優遇措置を打ち出して兵員数を維持してきた。しかし反戦運動はここにターゲットをおき、高校・大学からの勧誘活動の排除し、新兵募集を封じる闘いをねばり強く構築してきたのである。
シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その6 次々と生み出される反軍隊運動の様々な諸形態−−新兵募集反対運動、反徴兵制運動(署名事務局)

 また、米議会の会計検査院(GAO)の調査で、新兵募集をし易い後方支援部隊を増やすことで米軍定員を水増ししてきたことが明らかになったが、それも限界に来ている。イラク戦争での犠牲者、負傷者の増加によって、戦闘要員が不足しているのだ。
※Military's recruiting woes worse than previously realized; Concerns that Pentagon misled Congress(RAW STORY) http://rawstory.com/news/2005/Militarys_recruiting_woes_worse_than_previously_1117.html

 一方で、帰還米兵のPTSD(外傷後ストレス障害)と精神疾患問題の新たな報告書が出された。ウォルター・リード軍隊研究所がアメリカ医療連合ジャーナルで報告した研究によれば、イラク戦争の一年目の任務から帰還した兵士の8人に1人は、外傷後ストレス障害か他のなんらかの精神病と診断されている。さらに、イラクから帰還した米兵の3分の1は、最低1つのメンタル・ヘルスの診察を必要とし、5人に1人が戦闘によって精神的影響を受けていると報告している。
 湾岸戦争では、戦闘員の間の外傷後ストレス障害の割合が約10%から12%であった。専門家たちは、ストレス障害が現われるためには数か月から数年をしばしばとるので、割合は今後数年間に増大するだろうと予測している。
 外傷後ストレス障害は、恐ろしい物理的情緒的な事件によって、恐怖や苦しみ(フラッシュバック)、情緒的不安定、睡眠障害、短気、猜疑心、警戒感、うつ病、心配、集中力不足などを生み出す。湾岸戦争に比べて、非常に高い割合を示しているのは、現在のイラク戦争が地上戦を主体としているからに他ならない。アフガニスタンからの帰還兵11.3%、他の海外からの帰還兵8.5%と比較して、イラク帰還兵は19.1%と、突出している。
 しかし、リークホフは、調査が問題の数を過小評価していると考えている。なぜなら、上官から弱虫扱いされるのを恐れて、正確に申告しないからである。リークホフは言う、「私には、38人の部下がいた。1人は帰宅するや自分の足を撃った。彼らのうちの7人は離婚した。一人は精神疾患の治療中だ。そして1人は戻ってから数か月後に自殺した。」そして続ける、「必ずしも誰もが外傷後ストレス障害になって帰還するとは限らない。しかし、誰もが別人になって帰還するのだ。」
※Study Details Mental Health of War Veterans (commondreams.org)http://www.commondreams.org/headlines06/0301-06.htm 同様の症状は、英軍でも増大している。1300 troops in Iraq plagued by mental health problems(scotsman.com)http://news.scotsman.com/topics.cfm?tid=404&id=243422006


(2)「撤退論」のもとで進むイラク恒久基地建設。
 ブッシュ政権は、米軍のイラクからの部隊の削減に言及しながら、その一方では、すでに、イラク各地において巨大な恒久基地を建設している。知れられている大規模な米軍基地だけでも14ヶ所が明らかになっている。中東支配の拠点としてイラクへの長期駐留を着々と進めているのである。
※米の軍事情報サイト「GlobalSecurity.org」(http://www.globalsecurity.org/military/facility/iraq-intro.htm)は「Iraq Facilities」として、米軍の高級基地に関する常道を流している。ほとんどは主要紙の報道からの抜粋であるが、2004年10月の米軍によれば、17の基地が建設・使用されているとして具体名を挙げて列挙している。

 その中の一つ、アンバル州のアサド空軍基地を昨年から取材しているロンドン・テレグラフのオリバー・プール記者からの2月11日の報告では、「公式発表はされていないが、世界中に広がる米軍の軍事施設同様、何万もの米軍兵士を収容する巨大なキャンプ−−スーパー基地が計画され、建設されつつあるのは確実だ」として、アメリカの巨大都市がイラクに出現したかのような様子を伝えている。
 オリバーによれば、米軍基地は、交戦地帯の最前線というよりも、米国の郊外の一面に似ている。レストラン、地下鉄およびファースト・フード・ピザ店を備え、コーヒーショップや、サッカー競技場およびスイミング・プールさえある。基地は非常に広大で、2本のバス道路を内部に持ち、より多くの米兵を収容するための新しい宿泊施設を建設する労働者の姿があちこちに見られる。先月、赤信号が、すべての道路の交差点に設置されたのだが、その様子はまるでアメリカ国内にいるかのようであったという。
※Tomgram: A Permanent Basis for Withdrawal?Can You Say "Permanent Bases"? The American Press Can't」By Tom Engelhardt http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=59774

 もう一つの欺瞞がある。米軍は、削減される地上兵力を補完するために、先に述べたようにイラク軍の育成と合わせて空軍力の強化を狙っているのである。米軍内において部隊の部分撤退後の兵力編成の重要問題、米軍地位部隊の戦力を米空軍に置き換えていくことが検討されているという。すでに明らかにした空爆主体の攻撃は、空軍に軸足をおいた兵力展開と不可分なのである。
※Up in the Air?Where is the Iraq war headed next? (newyorker.com) http://www.newyorker.com/fact/content/articles/051205fa_fact



[7]米政府・軍主導で強行される石油資源の略奪。イラク経済を破壊するだけのネオリベラリズム政策の押しつけ。どん底のイラク市民の雇用と生活。

(1)IMFのショック療法の押しつけと復興利権・石油利権。
 しかし、このような無政策と泥沼化、危機のなかでも、イラク戦争の目的である石油利権、経済利権の獲得だけは着実にモノにしようという帝国主義の目論見は貫徹している。

 その一方で、すでに破壊し尽くされているイラク経済をさらに破滅させる政策が強行されようとしている。国際通貨基金(IMF)は、2005年12月24日、イラクに対する6億8500万ドルの貸し付けを承認する変わりに、国内経済の引き締めを要求した。復興の兆しすらないイラク経済に、アルゼンチンやロシアを経済破綻に追い込んだ、あの悪名高いショック療法を押し付けようというのである。彼らは一体どこまでイラクを滅茶苦茶にしたら気が済むのだろうか。
 財務長官ジョン・スノーは、「この取り決めは、イラクの経済的安定を支え、オープンで反映する経済の基盤をしく一助となるだろう」と直後の発表で述べている。すなわち、イラク経済を西側諸国に解放し、石油利権で得られる利益を、西側資本に還元せよと言うのである。IMFは、イラク政府が「石油製品への補助金を縮小し、石油製品用の国内市場への民間部門の参加を拡張して、賃金および年金紙幣を調整する」ことを約束させたという。
 補助金の削減によって、燃料価格は5〜8倍にも上昇し、「その動きは、ガソリン、灯油、燃料ガスおよび他の燃料の補助金に長く慣れていたイラク人に衝撃を与えた。」と伝えている。さらに、昨夏に比べればわずか半年で、ガソリン価格は5セントから65セントに、何と13倍に跳ね上がり、それに伴って、電気や公共機関にも深刻な影響を与えているという。
※IMF Occupies Iraq, Riots Follow (progresive)http://www.progressive.org/mag_wx010306
※Iraqis cope with life without lights(csmonitor.com)http://www.csmonitor.com/2006/0210/p01s03-woiq.html

 イラク政府による石油製品への補助金打ち切りと燃料価格の8倍上昇発表は、チェイニー副大統領によるバグダッドへの訪問と同時に起こった。副社長をつとめたハリバートンの石油子会社が、イラクの製油設備を修理し近代化する契約で、22億ドル受けとっている。ハリバートンにとっては、石油設備の破壊もまた利益をえる源泉なのだ。ベクテルは、米国国際開発庁(USAID)を通じて、病院の再建や修復のための下請けと金銭の分配について請負い、まともな復興事業も行わず私利私欲を肥やしている。
※ IRAQ: Election result will fuel armed resistance(greenleft)http://www.greenleft.org.au/back/2006/653/653p19b.htm

 
(2)インフラ基盤の劣悪な状態の持続。イラク市民の生活悪化の進行。
 イラク人民は、米軍の攻撃や治安悪化、占領による破壊作用だけでなく、IMFの経済政策によって、またハリバートンやベクテルの利権略奪によって、さらに厳しいどん底の生活を強いられることになったのである。
 1月25日にイラクの労働省によってリリースされた数値によれば、貧困線以下で生活しているイラク人の数は、開戦以来増加し、人口の5分の1をしめるまでになっている。IMFとUNDP(国連開発計画)の協力で行われた研究では、約200万組のイラクの家族が貧困線の下で生活しており、1人1日当たり1ドル以下の生活を意味する。全国で約17万組の家族が生活補助をうけているというが、それを必要とするのは200万家族だ。
 子供の間の激しい栄養失調は占領開始以来40万人に登り、これは、開戦前のほぼ2倍になったことを意味する。子どもたちは、「タンパク質の危険なまでの欠乏」と慢性的な下痢によって栄養失調状態にあり、疾病にかかりやすい状態におかれている。
※IRAQ: Occupation increasing poverty(greenleft.org)http://www.greenleft.org.au/back/2006/655/655p20b.htm

 米政府の主張する「イラク復興」なるものがどんなにでたらめな状況にあるのか、米軍と米政府による統治がイラク戦争開始から3年も経ちながら文字通り復興など何もなく、イラクの民衆にとって重荷になっているだけであることは米政府の資料でさえ明らかにしている。「イラクにおける安定と安全の指標」という報告は国防総省が4ヶ月おきに議会に提出する報告書である。2006年2月の報告書には、イラクには何の復興も行われていないことが赤裸々に書かれている。石油生産量は210−140万バーレル/日で、戦前のピークである250万バーレル/日にさえ回復できない状態が続いている。

石油生産量
米国防省報告2006年2月よりhttp://www.dod.gov/home/features/Iraq_Reports/docs/2006-02-Report.pdf

 人々の生活に極めて重要な役割を果たす発電量も復興などというのはおこがましい状態である。発電量は2004年−05年を通じてほとんど変化せず、戦争前水準と大差ないままである。しかし、要求される電力(約130000MWh)はますます増加しており、実際の発電量(約100000MWh)との乖離は大きくなり、電力事情は悪化するばかりである。必要電力の75%程度しかみたされないので、深刻な停電が続いている。バグダッドでは電力の利用できる時間は1日6.1時間にすぎず、イラク全土平均でも12.3時間にとどまっている。電気はエアコンなどだけでなく浄水など市民生活にとって最も基本的なインフラを支えているのであって、この改善が3年経って全くなされていないことは、市民の苦痛と我慢が限界を超えていることを示している。

電力生産と需要
米国防省報告2006年2月よりhttp://www.dod.gov/home/features/Iraq_Reports/docs/2006-02-Report.pdf

 国防総省の報告書は、イラク人部隊の増員を成果としてあげているが(米軍の肩代わりを行うために絶対必要とされているもの)、同時に、抵抗勢力による攻撃が全く減少せず、逆に増えるばかりであることをはっきりと示している。また、イラク兵を前に出して掃討作戦をさせる、あるいは無人偵察機と空爆に重点を移すことで米兵の犠牲を減らしているが、イラク兵の犠牲はかえって急増し、双方あわせると2004年1−3月の1日あたり40人のレベルから80人以上へと急増し続けていることをしめしている。
※Measuring Stability and Security in Iraq(米国防総省)http://www.dod.gov/home/features/Iraq_Report/Index.html
※最近の中東情勢から(IDCJ) http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei051221_4.htm

 米軍は、西部のシリア国境地帯で集中的に空爆を行い、反政府勢力を閉じこめ殲滅する作戦をとっているため、シリアとの国境が閉鎖され、物資の供給が著しく滞り、人々の生活悪化に拍車をかけている。これとは別に、病院の破壊と医師・医療関係者の拘束、医療物資の不足、電力供給の停止、給水施設の破壊と清潔な水の不足、食糧の不足、学校の破壊等々で人々の生活は忍耐の限度を超えている。
 
 イラクの富が、アメリカの石油産業や軍需産業、「復興」ビジネスの餌食になることを阻止するために、イラク石油施設に対する攻撃は、反米勢力の主要な標的の一つとなってきた。昨年はこれで7380億円の損失を被ったという報告がある。およそ130万バレルの日産は、イラク戦争開戦前の250万バレルの約半分である。
 すでにで明らかにしたように、反米武装勢力は、電気や水という生活関連施設を破壊しない一方、石油施設を集中して攻撃するという方針を明確にしている。
※イラク石油施設、武装勢力襲撃で昨年7380億円の損失(日経新聞)http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060220AT2M1900X20022006.html


攻撃回数


イラク人(緑)と連合軍(青)の犠牲者
米国防省報告2006年2月よりhttp://www.dod.gov/home/features/Iraq_Reports/docs/2006-02-Report.pdf

[8]3月18〜19日 米英と世界の反戦運動は大規模な反戦行動を計画。

(1)依然としてイラク情勢は世界情勢の“中心環”。ブッシュの軍事外交政策の、とりわけ中東政策の行き詰まり。
 ブッシュ政権の危機の根底には、言うまでもなくイラク戦争の泥沼化がある。その意味でイラク情勢は、世界情勢の中心環であり続けている。イラク情勢は、ブッシュ政権の弱点の最大の要因であり、軍事外交政策にとっての最大の足かせであり、アメリカと西側同盟諸国、有志連合諸国の間の矛盾の集中点でもある。未曾有の軍事費、数十万人に登ると見られているイラク人死者、2300人に達する米兵死者、米軍の戦力の問題、アフガニスタン、イラクと続きさらなる長期戦争の方針とその限界等々。失速し末期症状にあるこの侵略政権ブッシュに一体どこまで付いていくのか。

 ブッシュ政権は、さらに大きな痛手を被ることになった。10年ぶりに行われたパレスチナ選挙で、強硬派のハマスが圧勝し、隷従・屈服を拒否するパレスチナ人民の意志の強さを示したのである。これは「第三のインティファーダ」とさえ言われている。「オスロ合意」を押しつけ、ファタハを抱き込み、金で腐敗させ反占領闘争を封じ込めようとしてきた帝国主義的目論見が破綻した。欧米諸国は、早速経済制裁を露骨に言明することでハマスへの圧力をかけようとしたが、ロシアのハマスとの対話表明で、そしてそれにフランスが同調する動きを見せ、その一角が揺らいでいる。ロシアでの会談で、ハマスは、「問題はハマスではなくイスラエルの側にある」として、イスラエルの撤退や分離壁の撤去など、原則的立場を明確にした。ハマス勝利は、イラク泥沼化とともに、ブッシュ政権の「中東民主化」路線の破綻、中東政策の破綻でもある。

 また、デンマークのムハンマド風刺画事件に対する全世界的な抗議行動の爆発は、米を中心とする先進国の、イスラム教徒蔑視、アラブ蔑視に対する怒りの強さを表している。それは、ヨーロッパ諸国へ移民、出稼ぎ労働者として渡り差別を受けているイスラム教徒たちの怒りであるとともに、イラクへの戦争、9.11以降のアラブ・イスラム系への監視と弾圧、アブグレイブ・グァンタナモなどでの陵辱と拷問・虐殺に対する怒りである。この抗議行動は、ピークを越えたとは言えくすぶり続けている。3月2日のブッシュのパキスタン訪問では、大規模な抗議行動が巻き起こった。

 中東においては、アフガン戦争、イラク戦争に続いて、さらにはイランにまで攻撃を加えようとする、イランの「核開発」問題とブッシュによるイラン攻撃の危険性に対して、欧米の反戦平和運動は強い警鐘を鳴らし始めた。イランに対する戦争を阻止するために新しいサイトが立ち上り、国際オンライン署名が開始されている。
 しかし米によるイラン攻撃は容易ではない。もし攻撃すれば、イラク国内で反米闘争が激化しイラクの占領支配がそれこそ根底から動揺する可能性を秘めている。なぜなら、イラクで昨年12月に行われたイラク議会選挙でシーア派が多数を占めたからである。ブッシュ政権は、イラク占領の破綻という冒険を冒すことなしにはイランに対する攻撃を仕掛けることはできないというジレンマに陥っているのである。
※「Stop War On Iran 」http://stopwaroniran.org/


(2)ブッシュの支持率の低落と孤立化。就任以来の最低記録を次々と更新。
 ブッシュの支持率は低下し、アメリカの外交政策の孤立化、イラク戦争への反対の世論の高まりを示す調査結果が相次いで発表されている。
 3月10〜11日に米CNNとUSAトゥデー、ギャラップ社が実施した最新の共同世論調査で、ブッシュ大統領の支持率が36%と、同調査の過去最低を更新した。前回調査の40%からさらに低下した。今選挙が行われたら共和、民主どちらの党の候補者に投票するかについては39%が共和党、55%が民主党と回答。1992年の調査開始以来の大差がついた。
※ブッシュ大統領の支持率、過去最低を更新=ギャラップ世論調査(ロイター)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060314-00000301-reu-int
※米大統領支持率最低に イラク、港湾問題が影響(共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060314-00000032-kyodo-int

 また、2月28日にCBSが行った調査では、大統領の支持率は34%に低下した。またイラク問題に対する大統領の対応への支持率は、1月の37%から30%に低下した。これは、過去最低である。また、全体の62%がイラクでの秩序回復努力が成功していないとの考えを示し、1月の54%から増加した。一方、成功しているとの回答は、1月の45%から36%に急落した。
※米大統領支持率、過去最低の34%に低下=CBS世論調査 http://news.goo.ne.jp/news/reuters/kokusai/20060228/JAPAN-204790.html

 レモイン大学とゾグビーの調査では、イラクで任務に当たっている米軍要員の72%が、米軍は今後1年以内に撤退すべきと考えていることが明らかになった。また、ほぼ4人に1人が米軍は直ちに撤退すべきと回答した。イラクに派遣されている米兵の中に、厭戦気分が拡大していっていることを物語っている。
※Most Troops Want Swift US Pull-Out from Iraq (commondreams.org) http://www.commondreams.org/headlines06/0228-09.htm

 2月26日の州知事協会の冬の会合で、民主党だけでなく共和党の知事までが、ブッシュ政権が、ハリケーン、洪水、トルネード、山火事や他の緊急事態に対して備えるべき州兵を奪い取っていると批判した。イラク戦争への州兵派遣は各州に深刻な影響を与えている。
※Bush Policies Are Weakening National Guard, Governors Say(commondreams.org)http://www.commondreams.org/headlines06/0227-02.htm

 ノーベル賞受賞者らが、イラクからの撤退を要求する声明を発表した。1976年にノーベル平和賞を受賞した北アイルランドのマイリード・コリガン・マグワイア、2005年にノーベル文学賞を受賞したイギリスのハロルド・ピンター、そして1980年にノーベル文学賞を受賞したアルゼンチンのアドルフォ・ペレス・エスキベルである。彼らは、アメリカ・イギリスの戦争と占領支配を、「強盗行為」「国家テロ」「国際法の理念に対する蹂躙」「死と暴力と開発のビジネス」などと激しく非難し、尊敬すべき市民らによって阻止されるだろうと声明で語っている。イラク戦争と占領支配に反対する国際的行動を、全世界で3月25日に行うことを呼びかけている。
※Nobel Laureates Join Call to End Iraq Occupation (oneworld.net)http://us.oneworld.net/article/view/128238/1/


(3)アメリカの反戦平和運動と反グローバリズム運動の結合で、米軍をイラクから撤退させよう!
 アメリカと全世界の反戦平和運動は、3月18日、3月19日を最大の結集点として闘いを集中しようとしている。反戦平和運動と、新自由主義に対抗する「もう一つの世界は可能だ」を合い言葉とする反グローバリズムの運動とが、新しい活力と必然性をもって結びつき始めている。
 反グローバリズム運動の世界的な結集の場である世界社会フォーラムは、第6回目となる今年1月、マリのバマコ、次いでベネズエラのカラカスで開催され、さらに3月にはパキスタンのカラチで開催されようとしている。
 このうちカラカスで開催された世界社会フォーラムには、息子をイラク戦争で失い、ブッシュ大統領の責任を追及する大衆的な運動を展開しているシンディ・シーハンさんが招待され、ベネズエラのチャベス大統領らと大いに親交を深め、意気投合した。シーハンさんは4月に再度ブッシュの牧場前で抗議行動を行うことを計画しているが、チャベス大統領もそれに支持を表明している。
※ブッシュの牧場におけるシーハンの新しい抗議計画(2006年1月29日ベネズエラ、カラカス、AP通信)http://www.abcnews.go.com/International/wireStory?id=1555061

 その運動の新しい息吹は、開会集会の場における彼女の演説に体現されている。
 彼女は「新しい世界は可能であり、そして必要なのです。…今の世界は壊れています。」と演説した。彼女は、愛する人々と当たり前の暮らしをすることを望む世界中の人々にとって、米国政府と大企業が破壊的な役割を果たしていることを糾弾した。
 彼女はブッシュ大統領をはじめとする政治家たちが自分の手を汚さず、米国民の若者を戦地に追いやり、赤ん坊や女性や老人たちを殺させていることを激しく非難した。
 さらに彼女は、ハリバートン、ベクテル、ゼネラル・エレクトリック、ウォルマートなどを名指しして、それらの企業が戦争と環境破壊と搾取によって大儲けをしていることを非難した。
 また、ベネズエラへの米政府の侵攻の危険性についても注意を喚起した。彼女はチャベス大統領が「独裁者」であるという米政府が流布したがっている考えをきっぱりと否定し、もし米国がベネズエラに侵攻するとしてもそれは「自由と民主主義」を流布するためではないと述べた。ベネズエラの人々は自由と民主主義を「既に手にしていることを知っている」のだから、と。
※「新しい世界は可能です」シンディ・シーハン(2006年1月26日,CommonDreams.org ) http://www.commondreams.org/views06/0126-24.htm

 カラカスに先立つバマコの集会でも、このカラカスの集会でも、世界社会フォーラムを単に活動家たちの経験と意見を交流する場とするだけでなく、具体的な行動提起につなげていこうとする意見が出された。ベネズエラのチャベス大統領は世界社会フォーラムを単なる「革命家の観光旅行」にしてはならないという言葉で、それを言い表した。
 世界社会フォーラムでは、3月18日のイラク占領反対国際デーを皮切りに、3月24日〜27日にエジプトのカイロでイラク占領に反対する会議を開催することが予定されている。さらに7月にサンクトペテルブルグで行われるG8サミットに対する抗議行動、9月の国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会に対する抗議行動などが呼びかけられている。
※World Social Forum: Series of Global Protests to Begin in March (世界の社会フォーラム:3月に始まる一連の世界的な抗議) http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=31960

 昨年夏、休暇中のブッシュの牧場で面会を求めるシーハンさんらの座り込み運動を大きな契機として、アメリカの反戦運動は前進を遂げ、各地でのねばり強い草の根運動を背景に、二大反戦センターANSWERとUFPJが初めて統一して首都ワシントンで30万人集会を開催するまでになった。私たちは、この動きが、民主党の幻想を断ち切り一大政治勢力として成長していく転機になるだろうと考えた。
シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その17 民主党への幻想を断ち切り、反戦運動が一大政治勢力へ成長(署名事務局)

 しかし、その後この二つの反戦センターは、再び統一歩調をとらないことになった。集会開催の事務的な原因と表面的にはされているが、しかし、その根底にはイスラム問題とパレスチナ問題があったとされている。すなわち、パレスチナ人民の抵抗闘争や、イラク人民のレジスタンスに対する態度が、両者の無視できない対立として残り続けているのである。そしてその背景には、民主党の強い影響がある。
 しかしこのことは、イラクの主権を勝ち取るためのイラク人の反米闘争が、またハマスを圧勝に導いたパレスチナ人民の「第三のインティファーダ」といわれる抵抗の強い意志が、世界の反戦平和運動の方針や目的と深く結びついていることを示していることに他ならない。それらに対する態度を曖昧にしては、力強い運動を構築することができないことを示しているのである。
※UFPJ leadership divides the anti-war movement (workers.org)http://www.workers.org/2005/us/ufpj-1229/
※The War Within the Antiwar Movement (counterpunch.org)http://www.counterpunch.org/brenner01102006.html

 イギリス、オーストラリアなど米軍の同盟国の部分撤退が開始され、小泉首相も陸自の撤退を表明している。しかし、空自の派兵、連絡要員の派兵などあくまで、占領支配に加担しようとしている。私たちは、イラク人民の主権の獲得、帝国主義的侵略戦争反対、植民地主義的占領統治反対という明確な立場に立って、即時無条件全面撤退を要求しなければならない。米軍はイラクから完全に手を引くべきである。そしてこれに加担する自衛隊は完全に撤退すべきである。