「対テロ戦争」、米軍再編(トランスフォーメーション)の本質は“石油の軍事的支配”
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(1) 軍事問題の専門家であり石油問題にも通じている米ハンプシャー大学のマイケル・T・クレア教授が公表した最新の論文を翻訳紹介します。リベラル系サイトZnetに掲載(原文はTomDispatch掲載)された「石油戦争」という表題の短いものです。
これは教授の最新刊『血と石油:アメリカの増大する石油依存の危険と諸結果』(Blood
and Oil:The Dangers and Consequences of America's
Growing Petroleum Dependency)の内容の一部を盛り込んだものです。ブッシュのアメリカは、従来以上にますます石油がぶ飲み経済・石油浪費構造を拡張し石油の対外依存を極限にまで高めていること、そして世界中の石油を大量にかき集めるため、石油を商業ベース、貿易関係・市場取引を通じて“購入する”のではなく、軍事力で無理矢理“奪い取る”“強奪する”方法を国家戦略の機軸に据えたことを暴露しています。石油・エネルギー戦略の「軍事化」です。
石油資源を戦争で略奪するというのはまさに第一次世界大戦、第二次世界大戦を引き起こしたあの植民地争奪戦争、古典的な帝国主義、強盗的な帝国主義のどう猛性を想起させるものです。
イラク戦争を論じたりそれに反対する人々の間でも、またマス・メディアの間でも、軍事問題と石油問題を切り離したり、米による軍事覇権と石油覇権を切り離すのが一般的傾向です。しかしこれは根本的な誤りです。米国にとっては軍事的覇権と石油支配は不可分に結び付いているのです。まさに「石油の一滴は血の一滴」なのです。
米英によるイラク侵略の本質も同じでした。純粋軍事覇権のためにだけイラクを侵略し占領しているのではありません。そこが中東という“石油の地政学”の中心地だからであり、膨大な石油の埋蔵量があるからです。私たちはパンフレット『イラク:石油のための戦争−ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか』(2002年11月)において、彼の著作『世界資源戦争』(廣済堂出版、2002年)を再評価し、イラク戦争を「石油のための戦争」であると規定しました。併せてご検討ください。
※「イラク:石油のための戦争−ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか」(署名事務局)
※「戦争の車輪に油をさす石油」Oiling the Wheels of War マイケル・T・クレア 「The
Nation」 2002.10.7
※「石油と戦争」Oil and War ゴパル・ダヤネーニ&ボブ・ウイング WAR-TIMES
(www.war-times.org) 2002年6月 第3号
※イラク侵略の目的からありとあらゆ屁理屈をこねて軍事覇権と石油覇権を切り離そうとする議論を批判した私たちの論説「石油強奪と戦争特需:対イラク戦争は石油=軍事帝国アメリカの“巨大公共事業”−「石油動機説批判」「石油無関係説」のいかがわしさ−」(署名事務局) も参照ください。
(2) 原文の副題「トランスフォーミング」というのは、言うまでもなく、ラムズフェルド国防長官が本腰を入れて展開中の「米軍の世界的再編」=「トランスフォーメーション」をもじったものです。クレア教授は、米軍のグローバルな再編はいわばグローバルな石油防衛軍の創設であると主張しているのです。
「トランスフォーメーション」のキーワードは「不安定の孤」です。石油資源が存在するのは中東、カスピ海・中央アジア、中南米、アフリカなど全世界に広がっているのですが、中でも最大の石油資源の集中地域は、東アジア・東南アジアから中東、カスピ海・中央アジア、北アフリカに及ぶ広大な地域です。この地域は宗教紛争・地域紛争、民族紛争が絶えず、イスラム教が支配的な地域と重なっており、同時にこれまでの米国の侵略・干渉史の中心地域であったが故に民衆レベルで反米傾向が非常に強い地域でもあります。米はこうした反米地域を「不安定の孤」と規定し、「対テロ戦争」の口実の下に、ここに米軍の様々なレベルの基地や拠点、中継地、兵站基地などを展開・建設しようと目論んでいるのです。
従って「トランスフォーメーション」とは、戦後長期に渡る対ソ・対社会主義封じ込め向けの軍事力を、石油集中地域=「不安定な孤」を支配するための軍事力に根本的に修正すること、つまり東は日本・韓国と東アジア、西はドイツと、ソ連社会主義を包囲するように巨大な軍事力を固定的に貼り付けてきた米ソ冷戦時代の戦略配置を流動化させ抜本的に再編することなのです。米軍は、東の日本と西のドイツは出撃・司令拠点としてそのままにしておいて、「不安定な孤」に小さな拠点をたくさん建設し、石油資源を安定的に強奪するための油田・各種施設・パイプライン・石油積出港、タンカーとそのアクセスルート(シーレーン)等々を安定的に支配し確保するために全体として機動的・迅速的な軍事介入体制を構築しようとしているのです。
「不安定の孤」の西端はドイツです。11月2日の日経新聞「在欧米軍の再編、中東重視に」によれば、ドイツの大規模な米軍基地を縮小・閉鎖することで2万人を削減し、有事に米本土から緊急展開する「受け皿基地」をバルカン諸国、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア等々に幾つも建設するという計画が明らかにされました。
そして「不安定の孤」の東端は日本です。今問題になっている在沖米軍基地・在日米軍基地の再編も、この世界的な米軍再編の一環であり、石油支配のための軍事覇権の決定的に重要な一翼を日本が進んで担おうとするものなのです。小泉政権は日本を、戦争と軍事力で石油を強奪する加担者、米軍の共犯者に仕立てようとしているのです。
(3) クレア教授はこの論文で興味深い指摘を行っています。それは、イラク駐留米軍の多くが油田やパイプラインなどの石油施設に張り付いている、それはメディアでもあまり知られていないという事実です。おそらくイラク侵略が石油のための戦争であるということを覆い隠そうとの狙いからでしょう。私たちもてっきり、米軍はファルージャ攻撃、スンニ派三角地帯での「掃討作戦」にほとんど全部隊が動員されているものとばかり考えていました。イラク駐留の米軍兵力が決定的に不足しているというのも、この「石油防衛」の要素を含めて考えなければなりません。この論文の副題にある「石油防衛軍」はまさに今回のイラク侵略戦争で初めて露骨な形で出動したのではないでしょうか。
2004年11月30日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
<翻訳資料>
イラク戦争での米国の最初の軍事作戦で、海軍特殊部隊は沖合の石油積み出しプラットフォームを襲撃した。「ペルシャ湾の闇から音もなく急襲し、ネイビー・シールズ(海軍特殊部隊)は、今朝早く終了した大胆な襲撃で、2つのイラク石油ターミナルを奪取した。軽武装のイラクの防衛隊を圧倒し、巨大なイラク石油帝国に対して無血の勝利をつかみ取ったのだ。」と、3月22日、ニューヨーク・タイムズの記者は興奮気味に書いた。
1年半後、米軍兵士はこれらの重要な石油施設の支配を維持するために、いまだ苦闘している──そして、戦いはもはや無血ではない。4月24日、自爆テロリストを運んでいたと思われるボートが、コール・アル・アマヤ(Khor
al-Amaya)積み出しプラットフォームの近くで爆発し、それを阻止しようとした米国の2人の海軍兵士と1人の沿岸警備隊員が死亡した。他にも米国人は、イラクの「石油帝国」の多くの施設を守っている時に攻撃を受けた。
間違いなくイラクは二正面戦争へ発展した。イラクの都市を支配するための戦闘と、広範囲にわたる石油インフラストラクチュアを妨害工作と攻撃から守るための絶え間ない苦闘である。第1の争いは、米国の報道機関でも広く報道された。第2に注目した人は、はるかに少なかった。しかし、イラクの石油インフラストラクチュアの運命は、陣を敷いた都市と同様に重要だと分かるだろう。この争いに勝たないと、安定したイラク人の政府がいずれ現われるための経済的基礎は失われるだろう。「全体計画から見た大枠では、より大きな戦略上の重要性をもって我々の軍隊が展開する場所は、おそらく他にはないだろう」と、上級将校はニューヨーク・タイムズに語った。この認識のもとに、かなりの数の米軍兵士が石油を防衛する任務に割り当てられた。
当局幹部は、この任務がやがてイラク軍に引き継がれるだろうと主張するが、その栄光の瞬間は、遠くへと日毎に後退しているように見える。米軍がイラクにとどまる限り、間違いなくそのうちのかなりの数が、非常に脆弱なパイプライン、精油所、積み出し施設その他の石油施設の防衛に、時間を費やすだろう。数千マイルのパイプラインや数百の主要施設が危険にさらされているので、この任務は、要求が際限ないこと、そして危険が緩和されないことがわかるだろう。今のところ、ゲリラは、イラクの石油パイプラインを、自分で選んだ時と場所で襲うことができるように見える。その攻撃はしばしば大きな爆発と銃撃を引き起こす。
パイプラインの防衛
石油施設があちこちにまき散らされるように存在し、国の経済が石油収入に大きく依存するイラクでの戦争では、石油を守る役割が固有の特徴だと主張されてきた。しかしイラクは、米軍が石油の流れを守るための日常の任務で生命を危険にさらしている、唯一の国という訳ではない。コロンビア、サウジアラビア、グルジア共和国でも、米国の要員が、パイプラインと精油所を防衛したり、あるいは、この任務を割り当てられた地元の軍を監督して、日夜過ごしている。米海軍兵は、ペルシャ湾、アラビア海、南シナ海、そして米国とその同盟国に石油を送るその他の航路に沿う海で、石油防衛のパトロールをしている。実際、米軍は、ますますグローバルな石油防衛軍へと転換している。
グルジア共和国の状況は、この傾向の最適な例だ。1992年のソ連解体以来、米国の石油会社や政府高官は、カスピ海沿岸の巨大な石油と天然ガス資源へのアクセスを獲得するよう努めてきた──特にアゼルバイジャン、イラン、カザフスタン、トルクメニスタンで。2000億バレルもの未開発の石油が、カスピ海地域でまもなく発見されると考える専門家もいる。これは、米国内の埋蔵量の約7倍だ。しかし、カスピ海自体は陸に囲まれており、西側の市場へその石油を輸送する唯一の方法は、コーカサス地域──アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアから、チェチェン、ダゲスタン、イングーシ、北オセチアという戦争で混乱したロシアの共和国を包含する地域──を横断するパイプラインによるものだ。
この極度に不安定な地域を通る大規模なパイプラインを、米国企業が現在建設中だ。アゼルバイジャンのバクーからグルジアのトビリシを通ってトルコのジェイハンまで、1,000マイルにわたる危険な地域の中を延びているそのパイプラインは、やがて西側へ1日当たり100万バレルの石油を運ぶ予定だ。しかし、全長にわたって、イスラムの軍事組織や民族独立派による妨害工作の絶え間ない脅威に直面するだろう。米国は、既にその防衛に対する重要な責任を負っている。グルジア軍に数百万ドルの兵器と装備を提供し、この死活的に重要な送油管の防衛を担当するグルジア軍を訓練し助言する軍事専門家をトビリシに配置した。2005年か2006年にパイプラインが石油を輸送し始め、この地域での戦闘が激しくなれば、この米国のプレゼンスは、ただただ拡大するだけということになりそうだ。
あるいは、戦闘態勢を取っているコロンビアを見てみよう。ここでは米軍が、この国の脆弱な石油パイプラインの防衛に対する責任をますます大きく負うようになっている。この死活的に重要な送油管によって、ゲリラ活動が活発な内陸地域の油田の原油がカリブ海沿岸の港に運ばれ、原油はそこから米国その他の買い手に向けて船積みできるようになるのだ。左翼ゲリラは何年も、コロンビアの政府にとってぜひとも必要な収入を奪うために、パイプライン──外国の搾取と首都ボゴタのエリートによる支配の具体的な表現とみなされている──に対する妨害工作を行ってきた。コロンビア政府を支えること、および同政府の対ゲリラ戦能力を強化することを狙い、ワシントンは、アラウカ州のオキシデンタル・ペトロリアムの豊富な油田とカリブ海沿岸とを結ぶ唯一の送油管であるカノリモン(Cano-Limon)パイプラインを手始めに、石油インフラストラクチュアの安全保障を強化するために既に何億ドルも費やしている。この努力の一部として、現在ノースカロライナ州フォートブラッグの米陸軍特殊部隊の要員が、コロンビア軍の新しい派遣部隊の訓練、装備、指導を支援している。この部隊の唯一の任務は、パイプラインを防衛し、その480マイルのルート沿いでゲリラと戦うことである、ということになるだろう。
石油と不安定
紛争に陥りがちな、慢性的に不安定な国々の脆弱な石油施設の防衛を支援するのに、米軍人を利用することは、既にある重大な3つの要素を必ず拡張する。絶えず高まりつつある米国の輸入石油への依存、先進国から開発途上国への石油生産のグローバルなシフト、我々の海外エネルギー政策の高まりつつある軍事化。
国内の産出量が、1日当たり1160万バレル(11.6mbd)という最大(あるいは「ピーク」)産出量に達した1972年以来、輸入石油への米国の依存は着実に増大し続けている。国内の生産は現在1日当たり約900万バレル(9mbd)になっており、より古い油田が採り尽くされるにつれて減り続けると予想されている。(たとえ、ブッシュ政権の望みどおりアラスカの北極圏国立野生動物保護区から石油がやがて採掘されたとしても、この減少傾向は逆転することはないだろう。)しかし、我々の総石油消費量は上向きのままだ。現在20mbdに接近しており、2025年までに29mbdに達すると見込まれている。これは、国内の総石油供給量のうち、より多くの量が輸入されなければならないということを意味する――現在は11mbd(米国の総消費量の約55%)、しかし2025年は20mbd(消費量の69%)。
このような外国石油頼みの増大以上に重要なのは、その石油の中でシェアが拡大するものが、敵対的な、戦争で混乱した開発途上諸国からのものであり、カナダやノルウェーのような友好的で安定した国々からのものではないだろう、ということだ。なぜそうなるかというと、開発途上世界の多くの生産国がまだ未開発の石油の巨大な埋蔵量を有する一方、より古い工業国はその石油遺産の大部分を既に消費してしまっているからだ。その結果、我々は世界の石油採掘の重心の歴史的なシフトを見ているのだ――北半球の工業国から南半球の開発途上国への。そうした南の国々は、民族や宗教の争いがあったり、過激派組織の居場所であったり、あるいはそれらすべてが組み合わさっていたりして分裂し、多くの場合、政治的に不安定だ。
これらの国々における歴史的に根深い対立がどんなものであっても、石油産出自身が、通常さらなる不安定化要因として作用する。石油の富がなければ貧しく開発の遅れていた国々に石油の富が突然注入されることは、石油収入の分配を巡る執拗な争いに結びつき、民族や宗教の違いに沿ってしばしば刻まれている富める者と貧しい者との間の分裂を、深くする傾向がある。そのような混乱を防ぐために、サウジアラビアの王室やアゼルバイジャンやカザフスタンの新しい石油権力者のような支配エリートは、公の場での異議の表明を制限あるいは禁止し、反対運動を弾圧するための国家治安部隊の抑圧的な機構に依存する。合法的平和的な異議の表明がこうしたやり方で排除されると、反対勢力は武力による反乱やテロリズムを行う以外には、すぐに選択可能な道が見つからない。
この状況には、検討に値する別の側面がある。開発途上世界の新たに独立した産油国の多くはかつて植民地であり、以前の欧州の帝国主義勢力への深い敵意を抱いている。米国は、この帝国主義の伝統の現代における相続者だと、これらの国々の多数の人々に見なされている。グローバリゼーションによって引き起こされた社会的経済的な傷(トラウマ)に対する、増大していく憤りは、米国に向けられる。これらの地域への米国の関与の主要な動機は石油だと見られているので、また、巨大な米石油会社がまさに米国の力の具体化と見なされているので、石油に関するもの――パイプライン、油井、精油所、積み出しプラットフォーム――は、正当で人目を引く攻撃目標だと、反政府運動家は見なしている。ここから、イラクのパイプライン、サウジアラビアの石油会社事務所、イエメンの石油タンカーへの襲撃が出てくる。
エネルギー政策の軍事化
米国の指導者は一貫したやり方で、つまり石油の流れが妨害されないことを保障するために軍事的手段を採用することによって、石油生産地域の安定に対するこの体系的な難題に対応してきた。このアプローチは、第2次世界大戦後、イランでのソ連の冒険主義と中東での汎アラブ主義の台頭がペルシャ湾石油調達の安全を脅かすように思われた時、トルーマンとアイゼンハワー政権によって最初に採用された。それは、1980年1月にカーター大統領によって正式に表明された。この時彼は、ソ連のアフガニスタン占領とイランのイスラム革命に対応して、「アメリカ合衆国の重大な利益」の中にペルシャ湾の石油の流れの安全があり、この利益を保護するためには「軍事力を含む必要ないかなる手段も」我々は使用するだろう、と発表したのだ。石油の流れの防衛に軍事力を使用するというカーターの原則は、その後、父ブッシュ大統領が1990−91のペルシャ湾岸戦争への米国の介入を正当化するために引き合いに出し、さらに、最近のイラクへの我々の侵略に基礎的な戦略上の論理的根拠を与えた。
もともと、この政策は、石油を産出する世界で最も重要な地域、ペルシャ湾岸地域に主として限定されていた。しかし、米国の輸入石油への需要が絶えず増えていく下で、米国の高官は、その政策をカスピ海沿岸、アフリカ、ラテンアメリカを含む、他の主要な産油地域まで拡大し始めた。この方向の第一歩はクリントン大統領が踏み出した。同大統領は、カスピ海沿岸の潜在的なエネルギーを開発するように努め、その地域の不安定性を心配し、アゼルバイジャンとカザフスタンを含む将来の供給国との、および通過する重要な国グルジアとの軍事的結び付きを確立した。バクーからジェイハンへのパイプライン敷設を最初に擁護したのも、関連する国々の軍事力を押し上げることでその送油管を守るという道に最初に踏み出したのも、クリントンだった。子ブッシュ大統領はこの努力に基礎を置き、これらの国への軍事援助を増加させて、グルジアに米国の軍事顧問を配置した。ブッシュはまた、カスピ海地域に常設の米軍基地建設を検討している。
概して、そうした動きは、「テロとの戦い」にとって重要なこととして正当化される。しかしながら、ペンタゴンと国務省の文書を綿密に読むと、反テロリズムと石油供給の防衛は、政権の思考の中で緊密に関連づけられていることが分かる。例えば、2004年、カザフスタンに「緊急対応部隊(rapid-reaction
brigad)」を創立するための資金を要求した時、国務省は、カスピ海での「石油プラットフォームに対する重大なテロリストの脅威に対応するカザフスタンの能力を強化する」ために、そうした軍が必要だと、議会に伝えた。
前述したように、今コロンビアでは、非常に似た展開が進行中だ。アフリカの産油地域における米国の軍事的プレゼンスも、それほど顕著でないが、急速に増大している。国防総省は、アンゴラとナイジェリアの軍への兵器供給を増やしており、それらの国の将校や下士官の要員の訓練を支援している。一方で、ペンタゴン高官は、セネガル、ガーナ、マリ、ウガンダ、ケニアに注目して、その地域に常設の米軍基地を求め始めた。これらの高官はそうした施設の必要性について説明する場合、テロリズムについてのみ話す傾向があるが、将校の1人は2003年6月にウォール・ストリート・ジャーナルのグレッグ・ジャフェに次のように伝えた。「[アフリカの]米軍の重要な任務は、ナイジェリアの油田の安全を保障することになるだろう。ナイジェリアの石油は将来、米国の石油輸入の25パーセントを占める可能性がある。」
我々の海軍もまた、外国の石油輸送の防衛に携わる割合が増えている。島国バーレーンに基地を置く海軍第5艦隊は、現在ペルシャ湾およびホルムズ海峡──ペルシャ湾をアラビア海とその先の大洋に接続する狭い水路──の死活的に重要なタンカー航路のパトロールに、多くの時間を費やしている。海軍はまた、南シナ海──油田が見込める海域で中国、ベトナム、フィリピン、マレーシアが領有を主張する──と、ペルシャ湾と米国の東アジアの同盟国とを結ぶ重要な海路であるマラッカ海峡において、死活的に重要なシーレーンを守る能力を強化した。海軍は、アフリカへの注意をも増やしている。ナイジェリアその他の重要な産油国に隣接する海域における米海軍のプレゼンスを増やすために、南大西洋も管轄している欧州司令部指揮下の空母機動部隊は、将来地中海滞在を短くし、「活動時間の半分を費やしてアフリカ西海岸を南下するだろう」と、最高司令官ジェームズ・ジョーンズ将軍は2003年5月に発表した。
そういう訳で、米軍の外国への関与の将来は次のようになる。反テロリズムと伝統的な国家安全保障のレトリックが、リスクの大きい軍の展開について外国へ説明するために用いられる一方、ますます多くの米軍兵士が、海外の油田、パイプライン、精油所、タンカー航路の防衛を引き受けるようになるだろう。そして、これらの施設へのゲリラとテロリストの攻撃は増加していきそうなので、米国人の生命へのリスクはそれに伴って増大するだろう。当然、我々は、外国から得る石油が1ガロン追加される毎に、より高い血の代償を払うことになるだろう。
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