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戦争の車輪に油をさす石油
Oiling the Wheels of War
マイケル・T・クレア
「The Nation」 2002.10.7


 アメリカがイラク侵略のギアーをアップさせているときに、まだ答えられていない大きな疑問が存在し続けている。何故、ブッシュ政権は、11年間にわたって効果的に封じ込めてきた政府をこれほどまでに倒そうと決意しているのか?

 ホワイトハウスは、イラク攻撃を正当化するために、いくつかの理由を提出してきた。−−サダム・フセインは、核兵器をもうすぐ獲得する間近にある。侵攻は、核兵器や生物兵器、化学兵器が国際テロリストの手に渡るのを防ぐために必要である。等々。しかしながら、もう一つのファクターが同等に重要であるかもしれないのである。−−それは石油である。2つの中心的な関心が、この政権の思考の背後に横たわっている。第1に、アメリカは日々のエネルギー需要を満たすために、危険なほどに輸入原油に依存するようになってきている。そして第2に、イラクはサウジアラビアに次いで大きい未開発の原油埋蔵量をもっている。

 アメリカのますます増大する輸入原油への依存という問題は、2001年5月にホワイトハウスによって発表された「全米エネルギー政策報告(National Energy Policy Report)」で最初に提起された。この文書は、その主要な執筆者である副大統領の名にちなんで「チェイニー・レポート」として知られているが、それは次のことを明らかにした。2000年にはアメリカの石油消費量の半分が輸入によるものであった。それは2020年には2/3に跳ね上がるだろう。そして、アラスカでの採掘が語られてはいるが、一つのことは明らかであるとしている。つまり、将来のアメリカの石油供給の大部分は、ペルシャ湾岸諸国から調達されねばならないだろうということである。というのは、増大し続けるアメリカのエネルギー需要を満たす十分な潜在力をもっているのは、この地域だけだからである。そこで、この報告は、ペルシャ湾岸の石油供給地へのアクセスを増大させることに高い優先順位を置くように、ホワイトハウスに求めている。

 湾岸地域でのアメリカへの主要な供給者であるサウジアラビアの、安定性についての増大する懸念は、9.11テロ攻撃へのサウジの過激主義者の関わりが明らかになったことで高まったのだが、それは、アメリカの戦略家たちに、将来の不安定性がサウジの石油生産の低下(それはグローバルなリセッションの引き金になりうる)に導くような万一の場合に備えて、代替を用意しておくように促した。ロシアを代替要員として提案している戦略家たちもいるし、アゼルバイジャンやカザフスタンといったカスピ海周辺国家を代替要員とする者もいる。しかし、サウジのもしもの崩壊に際して、一つの国家だけが石油生産を本質的に増大させる能力をもっている。それはイラクである。イラクには 1,120億バレルの確認埋蔵量があって(ちなみにロシアは490億バレル、カスピ海諸国は150億バレル)、イラク単独でサウジアラビアの代替ができる。同時に、イラクの石油をコントロールすることができれば、アメリカの指導者たちは、パレスチナ人のためにアメリカが行動すべきだというサウジの要求をもっとたやすく無視することができる。そして、OPECの石油価格支配力を弱めることができる。

 イラクは、アメリカの石油戦略家たちにとって魅力的な、もう一つの重要なキーポイントをもっている。サウジアラビアの主要な地域が既に探査され権益が定まっているのに対して、イラクは、有望だが未だ探査されていない潜在的埋蔵量をもつ広大な地域を所有している。これらの地域には、世界最大の未確認で手つかずの埋蔵石油が隠されているかもしれない。−−それは、アラスカやアフリカ、カスピ海の未開発地域をはるかにしのぐものである。この地域を獲得する者は、21世紀の世界のエネルギー市場に巨大な影響力を行使できることになるだろう。

 このことを知っていて、そしてワシントンとの対決の同盟者を求めて、サダム・フセインは、もっとも有望な地域の使用権をヨーロッパ、ロシア、中国の石油会社に振り分けはじめた。国際エネルギー機関(IEA)の「2001年世界エネルギー展望(World Energy Outlook for 2001)」によれば、彼は既に、440億バレル と見積もられている地域についてそのような契約を決めた。−−これは、アメリカとカナダと(ヨーロッパ第1の生産者である)ノルウェーとを合わせた埋蔵量に匹敵する。現在の1バレル約25ドルのレートで計算すれば、それは、1兆1千億ドルと見積もられる契約である。

 そして、まさにここに厄介な点がある。バグダッドの新体制を担うべくワシントンによって選ばれたイラク反体制派は、サダム・フセイン打倒に協力しない国の企業とのあらゆる契約をすべて破棄すると脅している。「我々は、このような合意の全てを見直すだろう。」と、イラク民族会議(アメリカにバックアップされた反体制グループ)のロンドン事務所長が述べた。サダム・フセインによって取り決められた契約は、新政府によって承認されなければ無効とみなされるというのである。後を継いだ政権によって取り消されたフセイン時代の契約の大部分が、アメリカの石油会社に割り振られると予測されているのは驚くに当たらない。

 これは、近現代史における最大の石油略奪となるだろう。それはアメリカの石油企業−−多くはブッシュ政権の政府高官と結びついている−−に、数千億ドルから数兆ドルを提供し、アメリカの将来のエネルギー危機を回避することに資することになるだろう。しかし、その石油を獲得する過程で、アメリカ人兵士とイラクの民間人の血が流される。石油はそれだけの価値があるだろうか? この問いは、もし我々がイラク侵略のメリットを誠実に議論するのであれば、議会が必ず問わねばならない問題である。


※ 本論文の翻訳については、直接マイケル T.クレア教授から快諾を頂きました。
 また米誌 『The Nation』 の編集局にはクレア教授の論文の許諾でお世話を頂きました。