2012/7/5 | 大津いじめ自殺裁判と、自殺直後の調査の大切さ (7/6 一部追記) | |
2011年10月11日、滋賀県大津市のマンションから、市立中学校の男子生徒(中2・13)が投身自殺し、その後、背景に悪質ないじめがあったと判明した。保護者の方は、いじめ行為をした男子生徒3人とその保護者、大津市を相手に、約7720万円の損害賠償を求めて、大津地裁で裁判中だ。 男子生徒が亡くなった10月11日という日。実は、2005年10月11日には、埼玉県北本市の中井佑美さん(中1・12)、翌2006年10月11日には、福岡県筑前町の森啓祐くん(中2・13)が自殺した命日でもある。 (今月9日には東京地裁で、中井佑美さんいじめ自殺裁判判決 裁判情報 Diar 参照) 大津市立中学校の男子生徒の自殺で、1週間以上たった10月17日から19日にかけて、学校はアンケート調査を実施している。 その結果、約8割の生徒が回答したという。 今回、そのアンケート結果のより詳しい内容が、メディアで報道されている。 すなわち、 「(男子生徒が)自殺の練習をさせられていた」と回答した生徒が15人。 15人は全員、人から聞いた伝聞で、記名回答は3人、残り12人は無記名。 15人の学年内訳は、1年生は回答した約50人中10人、2年生は回答した約230人中3人、3年生が約55人中2人だったという。 「金を取られていたと聞いた」などの回答が13人。 「万引きをさせられていた」などの回答が15人。 「(いじめの事実を)先生は知っていた」との回答が15人。 たくさんのいじめ情報が書かれていたにも関わらず、市教委はこれらのアンケート結果について、無記名だったことを理由に、詳しい追跡調査を行っていなかったという。(44人はアンケートに記名のうえ、同生徒に対する暴行やいじめについて書いているという) これは、いつも隠ぺいする学校が使う手だ。 記名されているものについては、個人のプライバシーがあるから、遺族には見せられないという。そして、自分たちは個別に生徒を説得する。「君が直接、見たわけではないよね」「間違っていたらたいへんなことになるんだよ。名誉棄損、人権侵害だよ。」「本当に、絶対、間違いないの? 見間違い、聞き間違いってこともあるんじゃない?」 なかには、意見を変えなかったために、机を叩かれたり、机を蹴飛ばされた生徒もいる。 いじめを見たと書いた生徒が少なければ、学校推薦をチラつかせたり、内申その他で脅しをかけたりして、内容を訂正させる。 「よくよく聞いてみたら、別の子のことだった」「この中学校のことではなく、前の学校でのことだった」「単に噂で聞いただけだった」と。 そして、無記名の場合、無記名だから信用できないという。 しかし、生徒が亡くなって時間が経っていないときのアンケートに、わざわざ嘘を書くだろうか。それこそ、学校、教委は子どもたちをそこまで信用していないのか。 アンケートはあくまで、調査のきっかけにしかすぎない。闇雲に事実調査をしても出てこないだろうから、ある程度、的を絞る。 全くいじめの兆候はなかったのか?あるいは、いじめは日常的にあったのか?人目につくところで行われていたのか?主にいじめられていた場所は?人間関係は?時間帯は? そして、多くの場合、全く誰にも知られていないとわかれば、子どもたちは口をつぐんでしまうが、すでにばれていると思えば正直に話す。 今回、学校が自殺の背景調査に使用した調査票は、テレビ報道から察するに、 平成22年度児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議 審議のまとめ http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/063_1/gaiyou/__icsFiles/afieldfile/2011/06/01/1306734_01_1.pdf の52頁にあるアンケート用紙。 これは、2009年にNPO法人ジェントルハートプロジェクトで、作成して、提案したもの(学校事故・事件の当事者と親の 「知る権利」)を一部変更して、協力者会議が採用したものだ。(オリジナル資料 も参照) 私たちがこのアンケートを提案したのには、理由がある。 自殺があると多くの場合、学校は児童生徒にアンケートをとるが、書いた子どものプライバシーや書かれたひとのプライバシー、あるいは間違った情報が書かれていた場合には人権侵害になるからと言って、遺族には見せない。 そして、アンケートをとったが、自殺の原因となるようなことは何も書かれていなかった、いじめについても書かれていなかったという。 遺族が何とかそのアンケートを見たいと思って、民事裁判で争っても、結局は、書いた生徒たちとの信頼関係を盾に裁判所も開示を認めない。そのくせ、小森さん(980725)の裁判のように、作文の開示を一審で原告が勝訴した裁判の控訴審で、和解の材料として提示してくる。 児童生徒の自殺後にアンケートや作文を書いた子どもたちは、本当に、遺族にはこの内容を知られたくないと考えていたのだろうか。むしろ逆で、次のいじめのターゲットにされるリスクを冒してでも、学校の先生や遺族に本当のことを知ってほしかったのではないだろうか。いじめをして、友だちを自殺に追い込んだ子どもたちを野放しにはしてほしくなかったのではないか。 そこで、最初から遺族にアンケートを見せることを前提に、書いてもらったらどうだろうと思った。 遺族に知られたくない子どもは書いてはくれないかもしれない。しかし、自殺直後であれば、まだ子どもたちは、学校がこの事実を隠したがっていることを知らない。いじめの加害者も取り返しのつかないことをしてしまったと動揺していることが多いので、口封じが進んでいない。なにより、友だちの死にショックを受けて、自分が守ってあげられなかったことを後悔している子どもたちもいるはずだ。 そこで、ジェントルハートプロジェクトのアンケート案には「なお、アンケートの内容は、自分の子どもに何があったかせめて真実を知りたいというご家族の願いに応える為に、ご家族にも報告することをご理解ください」と書いている。 しかし、協力者会議の案ではその部分が、「○○さんに何があったのか、真実を知りたいというご家族の願いにこたえるためでもあることをご理解ください」とぼかされてしまった。結果、私たちは、この言葉で、当然遺族に見せると信じて書いた子どもたちが、実際にはアンケートは遺族に見せられず、かえってだまし討ちにあうのではないかと、懸念する。 私たちは、このアンケートを児童生徒の自殺後3日以内に、全校生徒に実施するよう提案した。 しかし、同じ3日でも、協力者会議は、児童生徒の自殺後3日以内に、全教職員から聞き取り調査をするようにとの指針に変えた。そして、必要があれば、亡くなった生徒と関係の深かった児童生徒に聞き取り調査をするようにとした。 これには、私たちは反対している。過去の例を見ても、校長、教頭などの管理職が、他の教師らに聞き取り調査をして、かえってその時に、口封じをしたり、情報をもっている教師を遺族に接触させないよう画策するからだ。 そして、被害者の身近にいた児童生徒にも、それがいじめの加害者であれ、相談に乗っていた友人であれ、余計なことは一切、話さないようにと釘をさす。あるいは、遺族宅に行くときには前もって学校に連絡をするようにと言い、そこで何を話したか、見聞きしたかを生徒に報告させる。 スクールカウンセラーも同様に、隠蔽に利用されている。子どもたちの心のケアを前面に押し出しつつ、子どもから情報を集め、周囲には微妙な時期なので接するなと言う。そして、子どもには早く忘れて、以前の生活を取り戻すようにとアドバイスする。 文部科学省は、「自分たちにとって不都合なことを隠さないように」と表面上では、教育委員会や学校を諌めながら、運用面では、過去の例で隠蔽する言い訳に使われてきた理由づけを各所に散りばめ、遺族が直接、亡くなった子どもの情報に触れることのないように、学校や教委が堂々と事実を隠し通せるように、いじめ自殺をできるだけ認めないようにと、導いている。 それは、調査委員会についても同じで、調査の主体を学校や教育委員会にして、主導権、決定権を今まで事実を隠すことを慣例としてきた教育委員会に委ねている。 過去に、どのように事実が隠ぺいされてきたのか、どうすれば隠ぺいを防げるか、私たちの言葉に耳を傾けようとはしない。 原発事故で、東電の調査委員会が機能したか、考えてみればわかるだろう。 それでも今回、アンケート調査の結果、かなりの事実が出てきたことに、やはりアンケート案を出してよかったと思った。 中井佑美さんの事案でも、他の学校事故事件の調査でも、調査票のフォーマットが今までなかったために、平気で自殺した生徒の名前を一切言わなかったり、自殺者が出たことも、これがそのための調査を兼ねていることも言わずに、ただ「学校は楽しいですか?」などのアンケート調査をして、調査をしたが、これといった事実はなかったと結論づけてしまったりする。 裁判になると、各担任が口頭で子どもたちには説明したというが、それを聞いた記憶のある子どもはいない。そして、当時の同級生に聞いても、そのアンケートに佑美さんのことを書いてよいのか、何を書けばよいのかが、わからなかったという。 それでも、直後であれば、子どもたちは吐き出したいことをいっぱい心に抱えているので、質問に関係なく自分が見たことを書いてしまったりする。だから、関係のない内容でとったアンケートでさえ、簡単な集計だけで現物は見せられない。 今回、ぼかされてしまったものの「○○さんに何があったのか、真実を知りたいというご家族の願いにこたえるためでもあることをご理解ください」に反応して、ひとつには多くの子どもたちが書いてくれたのではないかと思う。 その気持ちを学校や教委は裏切り、加害者たちの反省の機会も奪ってしまった。 警察が不祥事を隠ぺいしたときには、少なくともメディアに大きく取り上げられたときには、それなりの処分を受けている。 しかし、学校や教委が不祥事を隠ぺいしても、文部科学省自ら「慎重になりすぎてしまったのが原因」と擁護したり、せいぜい部署を異動させるだけで大きな処分はない。 文科省が、学校や教委の隠ぺいに対して、もっと毅然とした態度をとっていたら、これほど全国各地の学校、教委に隠ぺい体質がはびこることはなかっただうろと思う。 今度こそ、隠ぺいできない仕組みづりに着手してほしいと思うが、文科省はほとぼりがさめるのを待っているだけで、果たしてどこまで本気で動くかは、メディアを始め社会の関心が何時まで続くかにかかっているかもしれない。 世界を震撼させた原発事故さえ簡単に忘れ去ってしまう国民性を、政治家たちも、官僚もなめきっている。 以下、参考まで。文科省のサイトから。 子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/04/__icsFiles/afieldfile/2010/11/16/1292763_02.pdf 児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について(通知) http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/010/1318820.htm |
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