2008年7月24日(木)10時30分から、東京高裁424号法廷で、2002年7月31日、高校の柔道部合宿中の事故で植物状態になった斉野平(さいのひら)いずみさん(事故当時高1・現在22歳)の埼玉県を訴えた民事裁判控訴審(平成20年(ネ)2466)の第1回目が行われた。
裁判長は渡邉等氏、裁判官は高世三郎氏、ほか。
1審は、原告らが事故後4ヶ月後に生徒から聞き取りをした録音が、裁判での証言内容と矛盾するとして、「いずみさんが頭痛を訴えていた」「練習中に泣き出した」という内容が事実認定されず、原告敗訴。
控訴審では、代理人弁護士を一新して闘う。原田敬三弁護士、岡徹哉弁護士、荒木哲郎弁護士ら3人が弁護団を組む。
20人以上入る傍聴席はほぼ満席だった。
裁判長は、柔道の受け身について、最後にI女性顧問がかけて体落としに対するとるべき受け身の種類や受け身の仕方を文書だけでなく、今まで提出されていない画像や動くDVDのような形で提出するように、原告、被告双方に求めた。
次回は9月16日(火)1時25分から、東京高裁424号法廷にて口頭弁論。高裁では7割が1回で結審すると言われるなかで、とりあえず、審議が継続されることになった。
******************
柔道は格闘技のなかでも、事故が多い。
最新のものが出ていると思うが、自宅にあったもので数字を見てみると、日本体育・学校健康センター(現・独立行政法人日本スポーツ振興センター)発行の「学校の管理下の災害―18 基本統計 (負傷・疾病の概況)」によれば、日本体育・学校健康センター学校安全部が、平成11年度に災害給付を行った給付対象になった災害発生件数は112万件、平成12年度は116万件を超えている。
下記の数字は、平成11年度(1999年度)中に医療費や見舞金を支給した学校管理下における児童生徒等の災害を対象にしている。
体育的活動中の場合別発生率では、
順 位 |
1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
|
活動の種類 |
部活動 |
教科体育 |
体育的行事 |
体育的クラブ |
合 計 |
中学校 |
150,675人
(61.8%) |
81,075人
(33.2%) |
11,350人
(4.6%) |
875人
(0.4%) |
243,975人
(100%) |
活動の種類 |
部活動 |
教科体育 |
体育的行事 |
体育的クラブ |
合 計 |
高等学校 |
86,940人
(59.0%) |
49,660人
(33.7%) |
10,510人
7.1%) |
210人
(0.2%) |
147,320人
(100.0%) |
体育的活動中の運動種目別の場合別発生割合は、
順 位 |
1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
5位 |
6位 |
|
|
種 目 |
球 技 |
陸上競技 |
武 道 |
器械運動 |
体 操 |
水 泳 |
その他 |
合 計 |
中学校 |
177,450人
(73.7%) |
21,225人
(8.8%) |
18,275人
(7.6%) |
12,000人
(5.0%) |
4,375人
(1.8%) |
1,475人
(0.6%) |
5,900人
(2.5%) |
240,700人
(100.0%) |
種 目 |
球 技 |
武 道 |
陸上競技 |
器械運動 |
体 操 |
水 泳 |
その他 |
合 計 |
高等学校 |
115,430人
(78.1%) |
13,790人
(9.3%) |
7,770人
(5.3%) |
3,480人
(2.4%) |
2,150人
(1.5%) |
810人
(0.5%) |
4,330人
(2.9%) |
147,760人
(100.0%) |
武道の内訳を見ると
順 位 |
1位 |
2位 |
3位 |
|
合 計 |
種 目 |
柔 道 |
剣 道 |
相 撲 |
その他 |
合 計 |
中学校 |
13,250人
(72.5%) |
4,525人
(24.8%) |
300人
(1.6%) |
200人
(1.1%) |
18,275人
(100.0%) |
種 目 |
柔 道 |
剣 道 |
相 撲 |
その他 |
合 計 |
高等学校 |
9,840人
(71.4%) |
1,910人
(138%) |
240人
(1.7%) |
1,800人
(13.1%) |
13,790人
(100.0%) |
武道の部位別負傷発生割合を見ると
|
種 目 |
頭 部 |
顔 部 |
体幹部 |
上肢部 |
下肢部 |
合 計 |
中学校 |
柔 道 |
925人
(7.0%) |
350人
(2.6%) |
3,650人
(27.6%) |
3,700人
(27.9%) |
4,625人
(34.9%) |
13,250人
100.0(%) |
剣 道 |
175人
(3.9%) |
425人
(9.4%) |
475人
(10.5%) |
1,200人
(26.5%) |
2,250人
(49.7%) |
4,525人
(100.0%) |
相 撲 |
0人
(0.0%) |
25人
(8.4%) |
100人
(33.3%) |
100人
(33.3%) |
75人
(25.0%) |
300人
(100.0%) |
その他 |
25人
(12.5%) |
50人
(25.0%) |
0人
(0.0%) |
75人
(37.5%) |
50人
(25.0%) |
200人
(100.0%) |
総 数 |
1,125人
6.2(%) |
850人
(4.6%) |
4,225人
(23.1%) |
5,075人
(27.8%) |
7,000人
(38.3%) |
18,275人
(100.0%) |
高等学校 |
柔 道 |
580人
(5.9%) |
540人
(5.5%) |
3,130人
(31.8%) |
2,150人
(21.8%) |
3,440人
(35.0%) |
9,840人
(100.0%) |
剣 道 |
80人
(4.2%) |
160人
(8.4%) |
190人
(9.9%) |
500人
(26.2%) |
980人
(51.3%) |
1,910人
(100.0%) |
相 撲 |
20人
(8.3%) |
50人
(20.9%) |
40人
(16.7%) |
20人
(8.3%) |
110人
(45.8%) |
240人
(100.0%) |
その他 |
70人
(3.9%) |
380人
(21.1%) |
200人
(11.1%) |
530人
(29.5%) |
620人
(34.4%) |
1,800人
(100.0%) |
総 数 |
750人
(5.4%) |
1,130人
(8.2%) |
3,560人
(25.8%) |
3,200人
(23.2%) |
5,150人
(37.4%) |
13,790人
(100.0%) |
つまり、学校災害の発生は、部活動のなかで発生する割合が半分以上を占めており、武道のなかでは柔道が7割以上を占めるなど、だんとつに多い。その柔道で、頭部を負傷する割合は他の種目に比べてもけっして少なくない。
なお、日本体育・学校健康センター(現・独立行政法人日本スポーツ振興センター)発行の「学校の管理下の死亡・障害」平成13年度版の、
死亡事故に対する解説では、
「柔道は、投げ技、おさえ技、絞め技、関節技を用いて勝敗を競うだけに事故も多い。特に、相手に投げられたときに事故が発生しやすいが、投げられた者の受け身の未熟と相手の技が不正確で受け身がとりにくい場合に発生している。
基礎的な面に多くの時間をかけ、技術の基本を守った練習が必要である。
また、本事例のように、一般に柔道場は夏は暑く、その上柔道着は厚く、熱さがこもるため熱中症になりやすい。
そのため、生徒の健康状態を指導者は常に把握を十分しておかなければならない。」
と書いてある。
同じく障がい事故に対する解説では、
「柔道は、投げ技、おさえ技、絞め技、関節技を用いて争う対人競技である。相手の柔道着を握って、自由に、力いっぱい技を競い合うため、思わぬ所で多くの障害事故が発生している。
そのため、事故事例からもわかるように、
・技を掛けられ倒れ後頭部・顔・肘・膝を打つ・当てる
・技の攻防中、相手の腕・脚などが当たる
・技の攻防中に腕・脚をねじる
・技の攻防中に手をつき、そこに体重がかかり荷重がかかる
などによる事故である。
柔道の指導にあたっては、
基本的な受け身の練習をする、
易→難へ、単→複への技術段階を配慮した練習を指導する。
無理な技は行わないようにする、
学年差・技能差・体力差を考慮した練習と指導をする、
対人練習や予測される危険について安全指導を十分に行うなどが留意すべき点である。」
と書いてある。
日本体育・学校健康センター(現・独立行政法人日本スポーツ振興センター)発行の「学校の管理下の死亡・障害」の平成10年度版と11年度版のなかから、柔道で頭を打つ事故を中心に掲載されている事例を拾ってみた。
(平成10年度版には平成8年度の事故が、平成11年度には平成9年度の事故が掲載されている。)
平成8年度(1996年度)は柔道による死亡事故は3件(中学1件・高校2件)、平成9年度(1997年度)は5件(高校5件)が発生していた。毎年、これだけの重要な事故が発生しているにもかかわらず、私たちはあまりにその危険性を知らされていない。
文部科学省は新学習指導要領で、平成23年度から武道を必修化するというが、柔道や剣道での事故の多さを把握したうえのことだろうか。必修化となれば、道場環境が整わなかったり、習熟した指導者がいないなどの問題がさらに噴出してくるだろう。
加えて、いじめが蔓延するなか、国は「武道の精神」を強調するが、むしろ、柔道技を面白半分にかけたり、竹刀でたたいたり突いたりという、相手を殺しかねない機会と技術を与えてしまうことにはならないだろうか。
大人たちの「精神論」で子どもたちが殺される危機感を感じる。
|
日本体育・学校健康センター発行の「学校の管理下の死亡・障害」平成10年度版・11年度版から、
柔道で頭を打つ事故を中心に |
掲 載 |
死亡 |
柔道部活動中、1人が6人を投げる約束練習をしていた時、3年生部員が本生徒を相手にして大内刈りをして、一度後ろへ下がった後、前へ引き出して崩れている状態を確認して背負い投げをかけた。本生徒は体勢を立て直そうとしたが頭部から投げ込み用のマットの上に落ち、一度は立って列の後ろへ戻りかけたが、崩れるように倒れた。連絡を受けた養護教諭が現場に直行し、けいれん、意識の状態をみて即座に救急車を手配し病院へ搬送後治療したが、翌日の夕方に死亡した。
(中1男、死―急性硬膜下血腫) |
平成
10年度版 |
死亡 |
柔道部活動時、準備運動をし、打ち込み等の練習後2年生との元立ち練習を行った。本生徒は相手に内股技を2回と大内刈りを1回かけられたが、受け身でかわしていた。始めて1分を過ぎたこ急に頭を抱えて座り込んだので担当教諭の指示で武道場のすみへ行き正座をしたが、前に倒れ意識がはっきりしない状態になったので救急車を手配し病院へ搬送し、手術を受けたが意識は戻らず6日後に死亡した。
(高1男、死―急性硬膜下血腫) |
平成
10年度版 |
障がい
5級 |
柔道部活動時、柔道場で立ち技乱取り中、相手の大外刈りが決まり腰から転倒し、そのまま後頭部を打った。
(高1男、障―精神・神経5級) |
平成
10年度版 |
障がい
14級 |
入部2日目の柔道部活動時、格技場で、約30回の受け身の練習を行い、頭部から落下のため体全体に痛みを覚えた。頭部外傷後後遺症、頸肩腕症候群と診断された。
(高1男、障―精神・神経14級) |
平成
10年度版 |
障がい
1級 |
柔道部活動時、練習前にふざけていて他の生徒に投げられ(バックドロップ状態)、首の付近から畳に落ち、頚椎を脱臼(だっきゅう)した。
(高2男、障―精神・神経1級) |
平成
10年度版 |
障がい
1級 |
柔道部活動中、学校外体育館で県高等学校柔道大会の個人戦に出場中、1、2、3回戦と勝ち進み4回戦目、相手選手に左内股をかけたが十分な効果がなかったため続けて技をかけた際、体を前方に低く曲げ頭から畳に突っ込み、頭頂部を強打した。
(高3男、障―精神・神経1級) |
平成
10年度版 |
障がい
1級 |
クラスマッチ(学校行事)の柔道の試合中、右四つに組み合っていた相手が左の内股ほかけた際、相手の右引き手が不十分なことと、本生徒が腰を引いたため内股がきれいに決まらず、頭部からねじるように落ち頚髄を損傷した。
(高3男、障―精神・神経1級) |
平成
10年度版 |
障がい
7級 |
柔道部活動時、柔道場で、乱取りけい古、寝技、整理運動を終え、座って他の部員のさらし巻きを手伝っているときに「頭が痛い」と2〜3度言いながら倒れ、そのまま意識不明になった。
(高1男、障―精神・神経7級) |
平成
10年度版 |
死亡 |
柔道部活動中、本生徒は学校外武道館で県地区予選に参加し、軽量級の試合に出場していた際、相手に背負い投げをされ右前額部を畳に強打し、そのまま前方に倒れた。起き上がろうとしたが主審がそのまま安静にするよう指示し、数分の間は意識もあり正常の状態であったが、次第に意識が混濁し、生あくび、手足の硬直、失禁といった状態が見られるようになり救急車で病院へ移送し血腫除去の手術を受けたが、30分後に心臓が停止し死亡した。
(高1男、死―急性硬膜下血腫) |
平成
11年度版 |
死亡 |
柔道部活動中、柔道場で約束練習中、本生徒は3人目の相手に右足を刈られて受け身を取って倒れた。立ち上がろうとしたとき、ふらついて板壁に当たり座り込んだ。道場の端に寝かしたが、練習に参加しようと上体を動かしたので静止させたところ、けいれんし白眼になっていたのですぐに養護教諭を呼び、昏睡状態であったため、救急車で病院へ搬送し治療を行ったが脳死状態のまま、18日後に死亡した。
(高1男、死―脳ヘルニア) |
平成
11年度版 |
死亡 |
柔道部活動時、武道館で準備運動の後の乱取り中、2本目を終えたところで本生徒は気分不良、頭痛を訴え見学していたが、転倒し意識を失った。養護教諭が駆けつけたが、脈、呼吸はあるが意識がなく泡を吹いた状態であったので、直ちに救急車で病院へ搬送された。急性硬膜下血腫が認められ、脳死状態になり3時間後に死亡した。
(高1男、死―急性硬膜下血腫) |
平成
11年度版 |
死亡 |
柔道部活動時、柔道場で投げ込みの練習中、相手に大外刈りで投げられた際に受け身を取ったが頭部を畳で強打した。一度は立ち上がったものの再び倒れこんで意識不明となり、救急車で救急救命センターに搬送され一時容態に明るさが見えたものの、意識不明のまま11日後に死亡した。
(高1女、死―急性硬膜下血腫) |
平成
11年度版 |
障がい
9級 |
体育の授業中、屋内運動場で柔道のテストのために試合中、投げられた際に受け身に失敗し後頭部を強打した。その後担任が異常に気づき保健室に来室したところショック症状が起こり、2、3ヶ月に1回程度の発作が起こるようになった。
(中2男、障―精神・神経9級) |
平成
11年度版 |
障がい
1級 |
柔道部活動時、屋内運動場で活動準備時間中、遅れてきた本生徒に他の生徒がプロレス技をかけたところ、誤って本生徒は頭から落下し首から下が麻痺状態になった。
(高1男、障―精神・神経1級) |
平成
11年度版 |
障がい
5級 |
柔道部活動中、柔剣道場で乱取りのけい古中、本生徒が相手に投げられ道場のすみで泣いていたので顧問教諭が事情を聞いても泣くばかりであった。それから5分程して他の教諭から本生徒が廊下でいびきをかいて寝ていると知らせを受け、駆け付けてみるといびきをかいて寝ており、呼びかけても反応もなく吐いているようだたので救急車を呼び病院へ移送した。外傷による右大脳半球萎縮等の負傷をしており、障害が残った。
(高1女、障―精神・神経5級) |
平成
11年度版 |
※障がいの等級は1〜14まであり、等級1は「常に介護を要するもの」などいちばん重い。
学校での教育活動中の柔道死亡事故は毎年何件か発生している。下記にあげるのは、柔道に関わる事件や事故を新聞等で私が拾い集めたものだが、世間に公表されるものは氷山の一角でしかないということだろう。
分類 |
年月日 |
柔道に関する事件・事故概要 |
技かけ
頭強打
S610509 |
1961/5/9 |
埼玉県大宮市立南中学校の大谷立くん(中1・12)が、柔道クラブの練習中、頭を強打して意識不明となり、その後、意識は回復するが全介助を必要とする障がいを負った。 |
投げ技
頭強打
S730522 |
1973/5/22 |
岩手県国立一関工業高等専門学校の小野寺勇治くん(高1)が、課外活動の柔道で教官に投げられた後意識不明となり、急性硬膜下血腫で植物状態になった。
1977/2/10 1審、1984/9/28 2審とも棄却。 |
絞め技
窒息死 |
1984/8/24 |
愛知県豊橋市の市立羽田中学校で、柔道練習中に指導教諭に絞め技をかけられ、男子生徒(中2)が窒息死。解剖の結果死因は急性心不全と判明。 |
投げ技
頭強打 |
1986/9/ |
愛媛県松山市立中学校の体育、柔道の授業で、宮崎祐一くん(中3)が、教師の指示を受けた生徒に投げ技をかけられて、受け身に失敗。後頭部を打ち、授業終了後、意識不明になった。開頭手術を受けたが、控えめに見ても、労働力の10%が失われた。
1993/12/8 松山地裁で、市に1892万円の支払い命令。 |
リンチ |
1990/7/ |
千葉県松戸市内の中学校で、柔道部の練習中に1年生部員が頭を打ち2日後に死亡。
1年生の退部に対するリンチとみて、上級生5人を傷害致死容疑で送検。 |
技かけ
頭強打 |
1992/5/ |
沖縄県の豊見城高校で、柔道部の練習中、村山隼人くん(高1・15)が先輩部員から技をかけられ、頭などを強打。意識不明が50日以上も続き、死亡。
1994/7/20 那覇地裁で、県から両親に1千万円を払うことで和解。 |
熱中症 |
1992/7/28 |
山梨県南巨摩郡身延町の県立身延高校の体育館で柔道部の練習中、高校総体県代表の斎藤純くん(高2・16)が突然倒れ、救急車で近くの病院に運ばれたが、急性循環不全で死亡。純くんは学校の健康診断でこれまで異常はなかった。
この日の山梨県地方の最高気温は37.2度で、今年2番目の暑さ。熱中症による死亡とみられる。 |
技かけ
骨折 |
1993/4/10 |
大阪府淀川署で行われた柔道教室で、男子児童(小3)が乱取り稽古中に技をかけられて転倒。右足骨折で3カ月のけがをする。
1994/6/22 両親が指導員2人を相手取り、「初心者に対する注意義務を怠った」として、約150万円の治療費と慰謝料の支払いを求めて提訴。 |
受け身
頭強打 |
1994/6/20 |
新潟県中頚妙高高原町の妙高中学校で、部活動の柔道の受け身の練習中に、中島勇気くん(中1・12)が意識不明になる。翌日、脳挫傷で死亡。 |
熱中症 |
1994/8/8 |
岩手県盛岡市の武道館で、3校合同の柔道部合宿に参加していた盛岡中央高校の宮地航くん(高1・15)が、午後の立ち技の練習中に不調を訴え、すぐに病院に収容されたが死亡。
血液中のカリウム濃度が高まって心臓が圧迫されたことが死因と診断。 |
熱中症
S940810 |
1994/8/10 |
福島県会津若松市の県立高校柔道部の夏合宿で、成田直行くん(高2・16)が熱中症で倒れ、翌日死亡。
当日の気温は37.3度で、道場内はさらに気温が高く蒸し暑かったが、水分補給はなく、顧問は水分摂取を控えるよう指導していた。
1997/1/13 福島地裁若松支部で、積極的に塩分、水分を補給させなかった顧問教諭の過失を認め、県に損害賠償命令。 その後、和解成立 |
リンチ
001122 |
2000/11/22 |
千葉県の長生村立長生中学校で、体育教師(39)が、足のけがのため柔道の授業を見学していた男子生徒(中1・13)に暴力をふるい、視力の低下や腕の麻痺などの後遺症がのこるけがを負わせた。 |
投げ技
頭強打
S020731 |
2002/7/31 |
埼玉県の県立越谷総合技術高校の柔道部の合宿に参加していた女子部員・斉野平いずみさん(高1・16)が硬膜下血腫で倒れ、植物状態になる。 |
リンチ
031018 |
2003/10/8 |
福島県須賀川市の須賀川市立第一中学校の女子生徒(中1)が、柔道部の練習中倒れ、植物状態になる。当初、練習中の事故と思われていた。3ヵ月後、両親から依頼を受けた弁護士による生徒への聞き取り調査から、男子部長(中2・13)によるリンチまがいの練習を強要されて重傷を負ったことが判明。 |
リンチ |
2004/12/24 |
神奈川県横浜市の市立奈良中学校で、柔道部顧問の男性教師(26)が、男子生徒(中3・15)に連続して投げ技や絞め技をかけ、急性硬膜下血腫や脳挫傷などの傷害を負わせる。極端に記憶力が低下するなどの後遺症が残った。
2006/2/16 事故から2年たって市教委は両親に調査結果を郵送。乱取りや絞め技で気絶したことは認めたが、けがの発症原因については「判断できない」と回答。教師に「不適切な指導や体罰はなかった」とした。
2007/7/2 男性教師を傷害容疑で書類送検。
2007/12/14 両親が、男性教師と市、県ら慰謝料や介護保険費用など計1億8600万円を求めて提訴。 |
熱中症 |
2005/8/2 |
兵庫県神戸市の市立御影中学校の柔道部合宿に参加していた永原佑紀くん(中1・13)が熱中症による急性心不全で死亡。
柔道部顧問(29)は、体調不良となっていた佑紀くんの顔面を平手打ちにしたり、肩や腹をけるなどの体罰を加えていた。 |
リンチ |
2006/5/ |
徳島県南部の県立高校で、柔道部の上級生の男子部員ら4人(高2・高3)が、下級生男子部員(高1)の顔を殴るなどの暴行を加え、けがを負わせる。 |
リンチ |
2007/5/21 |
埼玉県の県立大宮工業高校の柔道部で、男子部員(高2)が下級生の男子部員(高1)を金属バットで殴ってけがを負わせる。
このとき以外にも、部員2人(高2)が、下級生部員(高1)に対して、鼻にからしを塗ったり、マヨネーズを飲ませる、裸にしてトイレットペーパーを巻きつけ互いにはがし合わせる、殴るなどしていた。
6/20 顧問が校長に報告。その間、2人の加害者は大会に出場していた。暴力を受けた部員1人が転校、もうひとりも転校を検討。 |
投げ技
頭強打 |
2008/5/27 |
長野県松本市の体育館で、地域のスポーツ団体「梓川少年柔道教室」のけいこに参加していた男児(小6・11)が、指導者の男性(35)に投げられた直後から体調不良を訴え、急性硬膜下血腫で意識不明の重体になる。 |
※当サイト及び「日本の子どもたち 戦後60年 学校事故・事件を中心に」データCD(Takeda作成)より
柔道は武道のなかでも特に事故が多く、死亡や重篤な障がいにつながりやすい。他の種目以上に高度の注意義務が発生すると思う。指導者は危険を自覚し、生徒の技量や体調にあった計画的な指導をしなければならないと思う。
とくに頭を強打することは死亡や全身麻痺などの障がいにつながりやすく、顧問だけでなく、生徒にもそのことを告知し、強く頭を打ったような場合、また頭痛や吐き気があるなどの場合、すみやかに顧問等に申し出ることの指導を徹底すべきだと思う。
また、申告があった場合、もしくは異常が感じられた場合には、すぐに病院に搬送して検査をするなどの措置をとるべきだ。
斉野平いずみさんの場合にも、顧問は本人の「頭が痛い」という訴えや泣いたことを否定しているが、仮に本人から具体的な訴えがなかったとしても、5日間の合宿のうち初日と2日目を除き、3日目、4日目、5日目と軽い練習のみで見学をしている。どのように具合が悪いのかを本人に詳しく尋ねるべきだったのではないか。
まして、1年生では、自分からは申し出にくいということもあるだろう。
顧問は「初日のくるぶしのけがだと思っていた」ということだが、ふつうに考えて、くるぶしが痛いだけの部員が、柔道場で寝ころがって休んでいるのは不自然だし、他校生徒もいるなかで、そのようなことをしていれば、怒鳴られたり、殴られたり、蹴られたりすることがむしろ普通ではないだろうか。「頭が痛い」と本人から聞いていたからこそ、寝た状態でいることが不自然ではなく、許されたのではないか。
柔道の初心者が、受け身をうまくとれず、頭を打つことは多い。熱中症の死亡事故が繰り返されてきたように、「今までも大したことにはならなかったから、今度もきっと大丈夫」という安易な考えが重篤な事故につながったのではないだろうか。
2003年7月31日、バレーボールの合宿中に死亡した草野恵さん(高1・15)の事件とも共通することが多い。(2008/7/1付け雑記帳参照)
高校1年生の女子生徒で、初めての合宿だったこと、技術的な面で頭を打ちやすかったこと、本人がまじめでがんばる性格だったこと、顧問が変調に気づくだけのサインはいくつも出ていたこと、事故後に保護者に対しての詳しい説明も謝罪もなかったこと、草野恵さんが倒れたのは7月29日だが亡くなったのは斉野平いずみさんが救急搬送された1年後の7月31日であること・・・。
いずみさんは、一命はとりとめたものの植物状態で、感染症などの恐れもあり、病院での24時間看護を受け続けている。
今年もこの猛暑のなか、全国で部活動の合宿が行われていることだろう。
「子どもが死ぬ」という危機感を大人たちがもっと持たない限り、悲劇は繰り返される。
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