2007/12/22 | 川崎女児いじめPTSD事件の民事裁判判決 | |
2007年12月21日(金)、東京地裁川崎支部1号法廷にて、午前10時から川崎女児いじめPTSD事件の民事裁判(平成16年(ワ)第247号)の判決があった。裁判長は駒谷孝雄氏、裁判官は鈴木正紀氏、古賀英武氏。 約55ある傍聴席は、Kさん側の傍聴人でほぼ満杯だった。浜松から服部太郎くん(000126)のお母さんも駆けつけていた。双方の弁護士は法廷には来ておらず、原告の父と母のみが座った。 裁判官が、いじめた児童2人の両親に、連帯して100万円の損害賠償を支払うよう命じた。100万円の内80万円はKさんへの慰謝料。20万円を弁護士費用とした。 なお、Kさんの両親への損害賠償は認められなかった。 法廷では主文のみが読み上げられ、判決の詳細については、会場を移して記者会見を兼ねた報告会が開催された。 原告代理人の森近薫弁護士が、遅れてやってきた。 64ページに及ぶという判決文にさっと目を通して、概要を説明してくれる。 当時、小学校3年生だったKさんへのいじめを裁判所は「対等な児童相互間の軋轢(あつれき)」のなかでも、けっして軽微ではない、多数で、長期にわたる、執拗な、被害者の心身に耐え難い精神的な苦痛を与えるものであった」と認定。 クラス全体のいじめを認める一方で、男児Aのいじめを暴力的なものとし、積極的に関わっていたと認定。 男児のいじめには判決文のなかの10行程度を割き、一方で、女児Bのいじめについては3ページにわたって、慎重に記載していたという。 女児Bはいじめの中心的な役割を果たしていたとまでは言えないが、「仮病」と言ったり、悪口に加担していたことは明らかとして、「共同違法行為」を認めた。 ただし、Kさんの被害については、「精神的苦痛」を認めたものの原告側が主張するPTSDを認めるには至らなかった。 また、「ハーフ」「中国人ぽい」「中国に帰れ」などと言われたことは認めたものの、民族差別については触れなかったという。 一方で。A、B保護者の責任について、監督責任を果たしたとはいえないとした。また、懇談会での被告が「被害者側にも落ち度がある」といった発言をしたことは認めたが、名誉毀損は認めなかった。 発言があったとしても、名誉=社会的評価の低下をもたらすには至っていないという。従って、父親が中国人であることを理由にいじめられたにもかかわらず、Kさん両親への損害賠償は認めなかった。 原告であるKさんの両親は「ある程度満足しています」と話した。自分たちの損害は認められなかったものの、娘の名誉が回復されたことを何より喜んでいた。 KさんのPTSDの治療は、発生から7年たって、高校1年生になった今も継続している。 それでも、判決の日の朝、さわやかな顔で起きてきて、「今日は判決の日だね」と言ったという。もしかしたら棄却される可能性についての不安は感じられなかったという。 やれるだけのことはやったという達成感と、きっといい判決が下るだろうという期待があった。 「私を支えてくださった人たちに感謝している」と伝えてほしいとの伝言をお母さんがKさんから預かってきていた。 また、両親は言った。この裁判の意味として、娘を救いたかったというのはもちろんあるが、いじめに悩んでいる、困っている人のなんらかの助力になればと思って始めたと。 実際に、男児Aの髪引っ張ったり、殴ったり、蹴ったりという直接暴力的ないじめだけでなく、女児Bの言葉や態度でのいじめが精神的な苦痛、損害を与えたと認められたことは大きい。 私はほかには、小森香澄さんいじめ自殺の裁判の1審判決で認められた例しか知らない。(me060404参照) 背景には、川崎市教育委員会の情報開示が大きく貢献している。 調査と被害者への報告があったからこそ、頑ななまでにいじめを認めようとしない、謝罪を拒み続けた2人の児童の両親に「判決」という形で、違法性を突きつけることができた。 多くの学校、教育委員会が、児童生徒のプライバシーを盾に、被害者への情報開示を拒んでいる。情報開示することは、児童生徒との信頼関係を損なうこと、子どもたちのためによくないこととしている。 しかし川崎市の事例のどこに、子どもたちの不利益があっただろう。 もちろん、加害児童の両親は民事裁判で訴えられた。しかし、Kさんの両親は最初から裁判に訴えていたわけではない。真摯な謝罪と再発防止を再三お願いして、拒否され続けた。そればかりか、誹謗・中傷などの攻撃まで受けた。 そこまでして、やむなく民事裁判に持ち込んだ。 A、Bの両親は、自分たちで自ら反省することができなかった。しかし、判決をみれば認めざるを得ないのではないか。このような目にあうと思えば、親も子も少しは誰かを傷つけることへの抑止力になるだろう。 被害者の親子は教師や学校を信じることはできなくとも、少なくとも教育委員会の対応に対しては、誠意を感じて、損害賠償の対象にしていない。 被告だけではなく、ほとんどのクラス児童がいじめに加担していたという。子どもたちは、いじめは不法行為であること、どんなにみんなで口裏をあわせて「やっていない」と言っても、大人が真剣に調べればわかってしまうこと、やったことに対しては責任を取らなければならないということを学んだろう。 学校教師も、この結果を見れば、最初から被害児童の側に自分たちが立っていればと思ったのではないか。 Kさんの被害、深い心の傷は裁判で認められ、賠償金をもらったところで取り返しはつかない。また、100万円という金額にしても、Kさん一家の精神的な苦痛、誹謗中傷から転居をせざるを得なくなったこと、仕事への多大な影響、裁判にかかる費用を考えれば、金銭面だけの収支をみても大きなマイナスになっていることだろう。 しかし、このいじめ事件は、教訓として生かされることになったと思う。 学校、教育委員会は、被害者と対立するのではなく、共同していじめの事実を突き止め、謝罪するべき人たちに謝罪を促し、補償すべきものには賠償を行い、そして、再発防止に努めてほしい。 この事件をすでに起きてしまったいじめ事件解決のひとつのモデルケースとしてほしい。 なお、被告側が控訴する可能性はまだ残されている。しかし、控訴しても互いのためによいことなど何もないことを理解して、この結果を真摯に受け止め、今こそ自分たちの行動を振り返り、今後の人生にプラスの教訓として生かしてほしいと願う。 川崎女児いじめPTSD事件のサイト内リンクは以下の通り。参照してほしい。 me061112 me070305 me070513 なお、「川崎W女児いじめ裁判を支える会」のサイト http://wjyoji.sakura.ne.jp/ に事件詳細があります。 ※2008年1月8日をもって控訴期限満了。被告側の控訴はなく一審判決確定。 |
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