来年、ブラジルへ送るパソコンの一部を活用して、PassoはCDIと共同で、サンパウロのスラム・コミュニティに情報技術と市民権のための学校を一校開設します。このスラム・コミュニティは、住民たちの自助組織「モンチ・アズール・コミュニティ協会」によって1979年以来、青少年のための教育活動等が行われている場所です。Passo賛同団体のひとつ、CRIが1988年から同協会と協力関係にあることから、今回の学校開設予定地に決定しました。
「学校開設プロジェクト」では、情報技術の取得を通して、スラムの青少年が自信を得ること、権利意識を向上させること、職業を得る機会を広げることを目指すとともに、青少年によるコンピュータを使った自発的・創造的な地域活動を促進していきます。
また、Passoが学校開設の全過程にCDIと共同で関わることで、CDIの理念と方法論を吸収し、今後のPassoの、他の発展途上国および日本国内における活動の展開に役立てていきます。
コミュニティの人びとが現在抱えている問題は? そしてその問題を解決・改善するために、情報技術をどう活用できるのか? また、コンピュータ学校の未来の先生となるべき若者たちの養成や、コミュニティによる学校自主運営への道筋づくり…。
コミュニティと対話を重ねながら、地域に真に根づく学校を、コミュニティ、そしてCDIと共につくりあげていきたいと考えています。
モンチ・アズール・コミュニティ協会は1979年、サンパウロ市南西部のスラム「モンチ・アズール」の住民たちの自助組織として発足しました。
現在は、スラム「モンチ・アズール」、近隣の別のスラム「ペイーニャ」、市郊外の貧困地域「オリゾンチ・アズール地区」の3か所で、保育園(乳幼児)や学童保育所(青少年)、診療所の運営、職業訓練および生産活動(木工、再生紙、布製人形、パン屋)、などの多彩な活動を行っています。協会で働くメンバーは、ボランティアも含めて約100人。そのうち6割が、コミュニティの住民自身です。
ブラジルの都市部には、住む場所のない貧しい人びとが、川べりや崖地、緑地、湿地などの利用されていない公共の土地を不法占拠してできたスラムが多数存在します。ブラジルではこのような場所を「ファベーラ」と呼び、人口約1000万人の大都市サンパウロには、2000か所以上のファベーラに市人口の約15%が暮らしていると言われています。(リオデジャネイロ市/人口:約600万人。ファベーラ数:約720か所)
ファベーラの住民の多くは、都市の工業化が進んだ1970年代をピークに、貧しい農村地帯から職を求めて家族で大都市へと移り住んできた人びとです。「麻薬や犯罪の巣窟」と一般市民から恐れられるファベーラですが、実際は、貧しい庶民たちの活気に満ちた生活の場でもあります。しかし教育を受ける機会の不足などから、低賃金の未熟練労働の仕事しか得られないことが多く、次世代へと受け継がれる「貧困の悪循環」が深刻な問題となっています。
ブラジルは豊かな資源に恵まれ農業や工業が発達する、国民総生産第8位(8060億ドル/97年)の大国です。同時に、貧富の差の非常に激しい国で、所得最上位10%の富裕層がGDPの半分を独占しているという状況にあります。
林立する高層ビル、ひしめくファベーラ。サンパウロやリオデジャネイロなどの大都市は、まるで先進国と第三世界が隣り合わせに同居しているかのようです。そしてファベーラでは、高い失業率、不安定な生活、都会の生活への不適応などのさまざまな要因を背景に、アルコールやドラッグへの依存、家庭崩壊、犯罪や暴力のまん延…と、青少年を取り巻く環境が年々悪化しています。
どうすればファベーラの若者が、自尊心や権利意識や将来への夢を持って、自分自身の人生をたくましく切り開いていけるのか? CDIの活動は、この問いに対するひとつの答えだと言えるでしょう。それは単に「高度情報化社会にファベーラも追い付こう」といった次元ではなく、抱える問題をコミュニティ自身が解決・改善するための、有用かつ魅力的な道具としてコンピュータをとらえるところに最大の特長があります。
その意味からも、自主と自立を求めて着実に歩んできたモンチ・アズール・コミュニティ協会でコンピュータ学校を開くことは、とても意義のあることだと考えています。
写真撮影:下郷さとみさん
最終更新: 2001/07/12