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死の影の谷間から
<死の影の谷間から>
ムミア・アブ=ジャマール/著
今井恭平/訳
現代人文社/刊
これまでの情報ログ

ムミア裁判の現状

2002年6月26日


以下は、ムミア支援組織からのレポートで、ムミア裁判に関する最新情報です。
原文へのリンクは、日本語末尾にあります。

今井恭平/訳


(1)
 昨年12月、連邦地裁のヤーン判事が下した、ムミアの判決を仮釈放なしの終身刑に減刑するという決定に対して、検察・弁護双方が上訴を行っている。現在は、この双方からの上訴に対する連邦上訴裁判所(第三巡回区法廷)による回答を待っている段階である。 上訴によって、ムミアがおかれている状況には変化はなく、従来と同じく死刑囚監房で1日23時間はいっさい外にも出られず、面会の場合も厚いガラスで相手と隔てられたままである。
 上訴裁判所は、双方からの上訴に対して、かなり幅のある決定を下しうる権限をもっており、終身刑という判決をくつがえす可能性も、あらたな量刑を言い渡すこともありうる。

(2)
 ムミアの現在の弁護団は、すでに解任された前任の弁護士、レン・ワイングラスとダン・ウィリアムズが行ってきた再審請求裁判を、もう一度やり直すように要求している。つまり、前弁護団は、ムミアの無実を証明する可能性のある証拠の提出を怠り、無罪を立証することを避け、十分な弁護活動をすることを怠ったという理由で、やり直しを要求しているのである。現弁護団は、この申し立てを、ペンシルベニア州最高裁と連邦上訴裁判所の双方に対して行っている。
 6月11日、連邦上訴裁判所は、この件でペンシルベニア州最高裁が最終決定を下すまでの間、いっさいの審理を中断すると決定した。この決定それ自身は、裁判の進行方法についてのとくに変わった点はない決定にすぎないが、これからさらにかなりの時間がかかることを示唆している。彼らは、われわれを疲弊させようとしているのだ。

(3)
 一方、ペンシルベニア州最高裁では、きわめて興味深く、重要なやりとりが行われている。ムミアの弁護団は、ロナルド・キャスティーユ州最高裁判事が、かつて州裁判所がムミアの上訴を退けた際の担当地方検察官であったことを取り上げ、この裁判において利害関係をもっているとして、判事本人を証人喚問しようとしているのである。自分がかつてムミアの上訴を退けたその当の事件をまた自分自身が担当することを問題にしているのである。
資料:キャスティーユ判事の忌避を申し立てる上訴人(ムミア)からの申立書

 最初の再審請求の際、ムミアの前弁護団は、ムミアの権利についてバトソン違反があったと主張した。バトソン違反とは、バトソン裁判で示された、陪審選定における人種差別の事例だが、ムミア裁判では、この事例に明確に当てはまる形で、陪審団からアフリカ系アメリカ人の排除が行われた、というのである。
 1998年には、前弁護団は、ジャック・マクメイアンによって作成されたビデオテープを証拠採用するように法廷に要求した。そのテープとは、陪審団から黒人を排除する際に、どのようにして、それが人種による選別ではないように見せかけるか、ということをフィラデルフィアの検察官たちに教育するために使われたものである。このビデオは、1986年にバストン法廷で陪審員選定における人種差別を禁止する判例が出されたのにあわせて作成されたものであり、バストン法廷の人種差別禁止の決定を出し抜く目的で作られたことは明白である。
 キャスティーユ判事を含む州最高裁は、前弁護団のこの請求【検察が人種差別を組織的に行っていたことを示すビデオテープの証拠採用】を却下した。
 ムミアの現弁護団は、キャスティーユ判事にはこのテープが証拠採用されては困る明らかな利害関係が存在している、と指摘している。
 テープの証拠採用を却下するにあたって、州最高裁は、このテープはたんに一人の検察官の個人的見解を示しているだけで、地方検察局としての総意をしめしているものではない、と判示した。だが、ムミア弁護団は、このテープにはフィラデルフィア市と、その当時の地方検察官としてのキャスティーユ判事その人の印章があることを示した。
 このように、バストン問題、人種問題、あるいはマクメイアンテープの証拠採用などに関わるキャスティーユ判事の判決は、まったく誤ったものである。何故なら彼自身が、このテープの実際上の提案者であり、その使用を止めなかったからである。さらに、自分がこのテープの関係者であったことを隠したまま、テープの証拠採用を却下したことはきわめて不誠実で不適切である。
 ムミア事件において人種問題が中心的な問題であることは周知の通りである。すなわち、ムミアがかつてブラックパンサー党のメンバーであったことや、彼がMOVEの支持者であること、そして彼の黒人問題に関するきわだった活動や著作など、また記録に残っている通りのアルバート・セイボ判事(一審の裁判官)の人種差別的な法廷での訴訟指揮と、元法廷書記官のテリ・モーラ・カーターが証言した彼の発言「あのニガーをフライにする手助けをしてやろう」については言うまでもない。したがって、キャスティーユが職務執行の過程でバストン判例に違反した可能性や彼自身の人種的偏見が問題とされ、マクメイアンテープの制作と配布に関与していたと疑われるのは当然のことである。ましてそのテープには彼の名前が記されているのである。

 この問題と、それをめぐる法廷論争は、大きな争点となっていく可能性を秘めている。キャスティーユ州最高裁判事が問題のテープの使用に関わっており、したがってバストン判例違反を犯していることは明白である。加えて、彼はテープとの関わりを否認したことにおいて、自分の行為を隠蔽した件で有罪である。最後に、彼はムミアに関わる決定あるいは少なくともテープに関わる決定において、自分で担当からはずれるべきであったにも関わらずそうしなかった点でも有罪である。

 こうした諸問題はヤーン連邦地裁判事がムミアの釈放と再審の機会を与えることを拒み、有罪判決を維持したことによって、連邦上訴審に持ち越された。分けても、昨年、多くの死刑事件において、陪審選定の問題が大きくクローズアップされている。こうした中で、人種問題と陪審選定過程の問題は、ムミアの有罪判決を覆すためにきわめて大きな争点となっていくと思われる。最高裁は、予想通り(テープ採用を)却下したが、ムミア弁護団は、再審査の申立を行っている。この問題を素通りさせてはならない。

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