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死の影の谷間から
<死の影の谷間から>
ムミア・アブ=ジャマール/著
今井恭平/訳
現代人文社/刊
これまでの情報ログ
From: ICFFMAJ@aol.com
Date: Thu, 17 Jan 2002
Subject: Fwd: Where Mumia's case stands

インターナショナルコンサーンドファミリーアンドフレンズ・オブ・ムミア・アブ=ジャマール発

ムミア裁判の現状について

2002年1月17日

原文へは、このページの末尾からリンクしています。


 (2001年)12月18日、ヤーン【連邦地裁判事】は、州裁判所によるムミア有罪判決を維持する判決を下した。しかし同時に、ムミア側の連邦裁判所への上訴理由の第25項に関連しては、セイボ判事【ペンシルベニア州一般訴訟法廷の一審担当判事】が、量刑決定段階で陪審員に行った説示が不適当なものであったと判示した。
 州裁判所のアルバート・セイボ判事は、もし陪審員がムミアに死刑よりも軽い刑を言い渡す場合は、全員一致でなければならないと告げた。しかし、これは間違っている。もし仮釈放なしの終身刑を宣告するとしたら、単純に多数決による決定で可能だったのである。

 ヤーンは、死刑執行命令の無効を宣告し、ペンシルベニア州に対し、6ヶ月以内に、新しい陪審団の下で、量刑決定のための公判を開くように命じた。もし州政府がこの命令に従わなかった場合は、ムミアの判決は仮釈放なしの終身刑になる。
 ペンシルベニア州は、ただちに連邦上訴裁判所に上訴し、ヤーン判決を覆えし、あくまでもムミアを処刑しようとしている。この上訴で州側が敗訴した場合、州がその後、何を画策しているのかは定かではない。

 ペンシルベニア州当局は、新たに陪審を選出し【公判が開かれること】を恐れている。なぜなら、われわれ側が【ムミア無罪の新たな】証拠、つまりアーノルド・ビバリーの自白調書、【フィラデルフィア市】警察の汚職とフォークナー【巡査】殺害への関与などを示す証拠を提出することを恐れているからである。彼らが恐れているのは、新しい陪審がもし選出されることになったとして、また彼らは終身刑か死刑か以外の選択肢をもたないとされていたとしても、こうした新証拠を示された場合に、終身刑を宣告すること自体を拒絶するのではないかということである。

 モーリン・フォークナー【殺害されたダニエル・フォークナー巡査の妻】の代理人 Michael Smerconish 弁護士は、連邦上訴審で、ヤーン判決が覆らなかった場合も、これで事件を終わりにしたいと望んでいることを発表した。つまり、ムミアが【死刑にならなくとも】終身刑になる方を選んだのである。【訳註1】
 この観点は、商業メディアでも同様である。彼らは死刑に反対する国内外からの世論の圧力を感じており、ムミアを巡る戦いに、終身刑という形で幕を下ろしたいと望んでいるのである。
 ムミア弁護団の側も、連邦上訴裁判所に上訴し、有罪判決そのものの破棄を求めていく予定である。

 だが、ここに一つ障害がある。「反テロリズムおよび効果的死刑法」【訳註2】によって、われわれが上訴しうるのは、ヤーンが「上訴適格性」【訳註3】を認めた諸点に限られるということである。
 ヤーンは、裁定を下した30項目のうち、上記のように、われわれが控訴した諸点の中の第25項にしか同意していない。ほかの29項目は却下したのである。ただし、第16項についてはわれわれに上訴適格性の証明書を与えた。この項は、14人の黒人陪審員のうち11人を排除したのは憲法による保護に対する違反だというわれわれの主張に関するものである。ヤーンはわれわれに同意はしないながら、上訴適格性の証明書は与えたのである。
 したがって、その他のすべての論点については、われわれには上訴の権利が自動的には生じないということである。連邦上訴裁判所は、現状では、他の論点について判断する必要性すらないのである。これが、「反テロリズムおよび効果的死刑法」の直接の結果であり、この反動的な法律は、連邦裁判所へ上訴することが出来る、という人身保護(habeas corpus)に関する憲法上の権利を著しく制限している。
 だが、わが方としては、連邦上訴裁判所に対して、全ての論点にわたって上訴適格性を認めるように求める予定である。上訴裁判所は、どのようにでも決定できる権限をもっているが、検討する義務を負っているのは第16項に関してのみである。

 要するに、処刑命令を無効とした点で、われわれは決定的な勝利をおさめたのだ、と全ての人が理解している。ムミアはまだ生きている。少なくとも、今しばらくは。これは、われわれの長年の戦いと、ムミア側が獲得してきた大きな力のもたらしたものである。
 だが、これで戦いが終わったなどというにはほど遠い。法律専門家たちは、法廷での争いは、少なくとも数年、たぶん3〜4年かそれ以上続くだろうと予想している。
 ヤーンが判断を下したのは、ムミアの前弁護団【訳註4】が提出した上訴趣意書に対してだけにすぎない、と言わざるを得ない。効率的死刑法を盾にして、ヤーンは、ムミアの新弁護団が提出した上訴趣意の新しい部分については、まったく検討することを拒否した。つまりそれが、ムミアではなく、自分が警官を殺害したのだ、と告白しているアーノルド・ビバリーの調書などを含む新証拠である。
 この点が、わが方も上訴するという主な論点である。ヤーンは、ビバリーの自白は、もし信用できるものだとしても、提出期限を切れている、と述べた。彼はまた、自分の従前からの判決の立場である「無実は弁護にならない」を引用した。彼の判決の全ては、効率的死刑法に従ったものであり、セイボ判事の事実認定を「正しいものと推定する」という原則によって立つものである。 【訳註5】

 われわれの前途は厳しいものである。ムミアの解放は、依然としてわれわれの力が、彼を処刑するのは高くつきすぎる、と思わせられるかどうかにかかっている。これは政治問題である。なによりも重要な政治問題なのである。
 もしもヤーンがムミアに無罪を言い渡す気があったのなら、われわれが提出した無数の憲法上の論点や証拠の中から、いくらでも根拠を見出すことは出来たはずである。

 今後の予定としては、1月21日の定例のマーチン・ルーサー・キング行進への参加から、裁判資金を集めるための2月のコンサートや、5月のシビックセンターでの大衆デモなど、多くのものが計画されている。われわれは、政治闘争を指導するのを助ける実行力ある全国チームを全国規模で結成するうえでも、指導的役割を果たしてきた。
 ムミア支援運動の質的な広がりを実現し、戦いをより深く、学校や組合や教会、そしてありとあらゆるグループに広げていかなければならない。
 われわれの戦いは、ムミアをこの時点まで生かし続けた。彼らは、この政治的に困難な状況の中では、処刑によるリスクを負いたくないというところまで来たのだ。
 私は、近々またムミアに面会に行くことになると思う。何か質問があれば、私に電話してほしい。ご支援と連帯に感謝する。
団結と闘争。

ジェフ・マクラー
今井恭平/訳


【訳註1】
ヤーン判決の直後は、モーリン・フォークナーは、終身刑には不満であるという強い抗議を表明したと報じられていた。
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【訳註2】
The Anti-terrorism and Effective Death Penalty Act
1996年、クリントン政権が制定した一連の反テロ法の一つで、死刑裁判の迅速化をねらったもの。
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【訳註3】
「上訴適格性」は certificate of appealability の暫定訳語です。法律専門用語としては、他の定訳があるのかもしれません。
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【訳註4】
ムミアは2001年2月に、1995年の再審請求開始以来の弁護団を全員解任し、同年5月に、現在の新弁護団が結成された。
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【訳註5】
「反テロリズムおよび効率的死刑法」は、連邦裁判所が独自に事実認定を行うことを制限することで死刑裁判の迅速化をはかろうとしており、州裁判所の事実認定が正しい、という前提のもとに連邦裁判が行われるように規定している。これは、事実上、連邦裁判所に上訴する権利を有名無実化するものとして批判されている。
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