に関する意見書
人権擁護推進審議会委員の皆様におかれましては、人権救済機関の設置に関するご検討に余念のないところと存じます。私どもは、日本でさまざまな人権問題にかかわるNPO/NGOとして、公権力によるさまざまな人権侵害に直面してきました。この立場から、新設が想定される人権救済機関の「公権力による人権侵害」にかかわる救済制度のあり方について、下記の意見を申し述べさせていただきたく存じます。 委員各位におかれては、この意見をご参照下さり、日本における望ましい人権救済制度の確立のため、ご審議下さるようお願い申し上げます。 記
1.日本に於ける公権力による人権侵害の実態 昨年11月28日に発表された貴会「人権救済制度に関する中間取りまとめ」では、「公権力による人権侵害のうち、差別・虐待に該当するものについて、調停、仲裁、勧告・ 公表、訴訟援助の手法により、積極的救済を図るべきである」としていますが、一方 で、行政不服審査、個別の不服申立の手続が整備されていること、捜査手続や拘禁・ 収容施設での虐待などについて付審判請求を含む刑事訴訟手続、内部的監査・監察や 苦情処理のシステムが設けられていることなどを挙げ、結論として「公権力による人 権侵害すべてを積極的救済の対象とすることは相当でない」と述べています。 私どもは、NPO/NGOとして、日本の公権力による人権侵害に直面し、問題解決のために手をつくしてきました。その経験に鑑みれば、私どもは貴審議会「中間とりまとめ」における、「公権力による人権侵害」の問題の深刻さに関する認識が、残念ながら十分でないのではないか、と感じざるを得ません。 日本の公権力による人権侵害の多くは、警察による捜査、法務省矯正局の管理する拘禁施設における処遇、法務省入国管理局の管理する収容施設における処遇、および「出入国管理及び難民認定法」の欠陥および恣意的な運用による難民不認定処分などに集中しています。また自衛隊や駐留アメリカ軍による人権侵害事例も、深刻な実態にあります。具体的内容は別紙「資料」で詳細を述べますが、まとめると以下のようなものが存在します。 (1)警察による捜査 ・警察署内の留置場への長期間の拘留 ・長時間にわたる連続した取り調べ ・長期間にわたる接見禁止処分 ・被差別当事者(在日外国人、部落出身者、同性愛者等)などへの不当な見込み捜査・被差別当事者(在日外国人、部落出身者、同性愛者、等)への差別的対応・留置場への勾留中の外部への通信の自由が確保されていないこと (2)拘禁施設に於ける処遇 ・刑務所において、拘禁中の面会、通信の自由がほとんど保障されていないこと ・厳正独居処分、拘束具の使用等、国際人権法に違反する非人道的な処遇が存在すること ・拘置所・刑務所において、被収容者に対する医療の提供が限定的かつ不十分であること。適切な医療を提供する施設がなく、外部への受診も極めて困難であること。 ・被収容者の生活態度等の評価が施設管理者の恣意に委ねられており、正当な申立が反抗とみなされ、懲罰的処遇が行われることがあること。 (3)入国管理局の収容施設に於ける処遇 ・収容中の面会、通信の自由が不十分であること。 ・入国警備官等による被収容者への暴力が存在すること。 ・収容施設に於ける被収容者への医療の提供が限定的かつ不十分であること。適切な医療を提供する施設がなく、外部への受診はほとんど不可能であること。 ・収容が極めて長期間にわたる場合があること。 (4)難民認定 ・入管難民法の「60日条項」(入国または難民となるべき事由の発生から60日を経過する前に難民申請しなければならないとする条項)により、本来難民となるべき申請者でも退去強制がなされる場合が多いこと。 ・難民認定・不認定処分の理由にかかわる公開が不十分であり、他の先進国よりも認定数が著しく少ないなど、難民認定制度の運用上著しい欠陥が存在すること。 ・難民不認定になった場合、収容施設に収容され、異議申し立てや訴訟を行った場合には収容施設に著しく長期間収容される場合があること。また、その後難民として認められた場合にも不当な収容に対する補償を行う制度がないこと。 (5)自衛隊及び駐留アメリカ軍による人権侵害 ・ 自衛体内の人権侵害事例としては、部落差別、障害者差別、同性愛者差別などの差別・虐待・暴力の事例が数多く発生しているものの、その密室性のゆえ外部に伝わることが少ない。また沖縄での駐留アメリカ軍による人権侵害事例も、日常的に発生しており枚挙に暇がない。 これらの問題に通底するのは、 @ 拘禁・矯正・収容施設・軍隊等において外部との通信の自由が極めて制限されており、当局側による徹底した監視が存在すること、 A 公的な救済制度の活用を試みた場合、当局側から不当な制裁や懲罰を受ける危険性が高いことなどから、 B 貴審議会「中間取りまとめ」で挙げられているような救済のための諸制度が実質的にはほとんど機能していないということです。 このような事実に鑑みれば、これらの公権力による人権侵害の問題に関しては、人権救済機関は、そのすべてを積極的救済の対象とするほか、可能なあらゆる手段を通じて公権力による人権侵害の実態を把握し、それを是正する強力な権限をもつことが必要です。 2.「公権力による人権侵害」に対処するための人権救済機関の組織のあり方 (1)人権救済機関の独立性の確保 上記に見たように、「公権力による人権侵害」は警察および法務省矯正局、法務省入国管理局の管轄する分野に集中しています。「中間取りまとめ」では、新設の人権救済機関は法務省人権擁護局の改組によって設置することになっていますが、この事実を鑑みれば、人権救済機関が「公権力による人権侵害」に対し適切な解決を行うためには、法務省の傘下におくことは考えられません。人権救済機関は法務省から明確に分離して、政府から独立した準司法機関として設置すべきです。また、人材も現行の人権擁護局および各法務局・地方法務局の人権擁護部門、現行「人権擁護委員」の活用だけでなく、被差別当事者やNGO/NPOを含めたより広い分野から、人権救済を担う上で必要な人材を各界から幅広く募集すべきです。 (2)「公権力による人権侵害」に対する調査と実効的解決の権限 政府からの完全な独立を担保とした上で、「人権救済機関」はとくに「公権力による人権侵害」に関して、実効性ある解決を行いうる強力な権限をもつべきです。具体的には、積極的救済の手法として、以下のことがらが可能となるような権限が必要であると考えられます。 ・拘禁・収容施設に対する無条件の抜き打ち的な立ち入り調査権限 ・拘禁・収容施設における処遇に関する是正勧告 ・拘禁・収容施設における医療設備等の整備に関する勧告 ・拘禁・収容施設における人員配置等に関する是正勧告 また、「公権力による人権侵害」が多発している矯正施設・収容施設などでは、被収容者に人権救済のための諸制度が教示されていないこと、外部との通信の自由が極めて制限されているため、制度の利用が困難であること、当局による不当な懲罰や制裁などへの恐れから、被収容者が制度の利用をためらってしまうことなどの理由により、そもそも人権侵害の実態が外部に明らかにならない状況が存在します。そこで、人権救済機関は、これらの施設内の人権状況を把握するため、以下の方法を検討すべきです。 ・拘禁・収容施設の被収容者への「人権救済機関」の存在及び利用方法の周知徹底 ・拘禁・収容施設に関するオンブズマン機能の設置 (拘置所・刑務所の場合は書簡、入管収容所の場合は電話での通報制度の設置) ・拘禁・収容施設における設備や処遇実態に関する強制的調査 また、人権救済機関の人権教育・啓発機能の充実に鑑み、以下のことが検討されるべきです。 ・拘禁・収容施設職員に対する人権研修の徹底 ・警察職員に対する人権研修の徹底 ・人権研修に於ける被差別当事者のNPO/NGOの活用 さらに、上記実態に鑑み、人権救済機関の政策提言機能の充実の観点から、以下のことが検討されるべきです。 ・拘禁・収容施設における処遇に関する法令の是正や新規立法措置に関する提言 ・難民認定にかかわる法令の是正や新規立法措置に関する提言 3.「公権力による人権侵害」を具体的に解決できる人権救済機関を 上記のように、日本では「公権力による人権侵害」は依然として続いており、国際的な非難を受けざるを得ない実態が存在しています。こうした実態を改め、国際社会に名誉ある地位を築くためにも、人権救済機関が「公権力による人権侵害」の救済を具体的に遂行できることが極めて重要です。 私たちは、貴審議会が第2号諮問に対する答申において、新設の人権救済機関について、政府からの完全な独立性の確保および、「公権力による人権侵害」を実効性をもって解決できる権限を兼ね備えた機構として設置することを、ぜひとも明記していただきたいと考えております。この条件が備わっていなければ、人権救済機関としては極めて不十分であり、「人権」に名を借りた新たな権力装置を一つ増やすだけに終わることは確実です。被差別当事者およびNPO/NGOは、そのような組織を必要としておりません。 是非とも貴審議会のご賢察を賜りたく、よろしくお願い申しあげます。 添付資料:
以上
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