さしさわりのない会話を3人の面会者と交互にして、「そろそろ時間です」と看守に言われたら、ゴビンダさんは、客野さんの方に身をのり出して真剣な顔で、「渋谷警察が、アパートから持ち出した家族の写真を、ぜひ、返して欲しいのです」と言いました。
久しぶりの面会で、はなやいだ気分の私は、ゴビンダさんのこの言葉で脳天をガツーンとうたれました。
「神さま、私はやってない!」と私たちにむかって叫んだあの日から、ゴビンダさんは、時がとまったまま、何も変わっていないのだ・・・私には、こんな長い時間が過ぎ、いろいろな出来事があり、日常がありましたが、ゴビンダさんには、あの日がずっと続いていることに気がつきました。
家族とすごした日々が、写真の中にしかないのです。あの日から止まったままの悪夢のような日々。せめて写真をとりもどしたい・・・という強い思いがせまってきました。
日本で自由だったとき、家族のために働き、部屋に帰ってくると、きっと毎日、家族の写真を見ていたのでしょう。どうかゴビンダさんのところに写真がもどってきますように・・・また、再審が早く実現しますように・・・
三田玲子