第145回 衆議院本会議 1999年5月13日

地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案


   〔議長退席、副議長着席〕

○副議長(渡部恒三君) 春名直章君。

    〔春名直章君登壇〕

○春名直章君 私は、日本共産党を代表して、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案に関連して、総理並びに自治大臣に質問いたします。

 まず、四百七十五本にも及ぶ法律改正を一括して提出した問題であります。

 そもそも、日本の全法律の約三分の一に当たる膨大なものを一括法として提出して、充実した審議が可能とお考えなのかどうか。国会審議の著しい軽視ではありませんか。総理の見解をまず伺うものであります。

 憲法で地方自治の本旨がうたわれて半世紀。理念として認められた自治体の行政権、財政権、自治立法権は、三割自治との言葉にあらわされるように、歴代自民党政権のもとで著しく制約されてまいりました。今、地方分権というのであれば、この国の支配、統制とそのための制度こそ廃止すべきであります。そして、憲法がうたう地方自治の本旨を構成する住民自治と団体自治を保障することこそが求められているのであります。

 ところが、あなた方の言う地方分権論は、専ら国と地方の役割分担という角度、また、行政改革のためにという視点しか聞こえてこないのであります。総理、一体あなたは、地方分権の魂をどうお考えなのでしょうか。地方自治の本旨の実現、すなわち自治体の行財政権、自治立法権を拡大することこそ必要ではないでしょうか。総理の基本認識を伺いたいと思います。

 権限と税財源の充実という点で、本法案には見るべきものがほとんどありません。しかし、今日、地方自治体の借金が百七十兆円を超え、東京、大阪、神奈川、愛知など大都市圏の自治体ですら赤字転落が現実問題となっているこの姿を見れば、税財源の移譲こそが待ったなしの課題ではないですか。一体いつまでにどのように実行するのか、明確にしていただきたいのであります。

 次に、法案の具体的な内容について伺いたいと思います。

 住民の直接選挙で選ばれた知事や市町村長を国の機関として、国の事務を行わせる機関委任事務制度の廃止は、当然のことであります。問題はその後であります。この法案では国の関与が縮小する保証がないのであります。

 第一に、機関委任事務の割り振りの問題です。分権推進委員会の中間報告では、原則として地方公共団体の自治事務とするとうたわれていました。ところが、結果は、法定受託事務が全体の四割を占めるまでに膨れ上がったのであります。なぜ、これほど法定受託事務が多くなったのですか。法定受託事務に代執行という制度が温存され、最終的に国の強い関与ができるからではありませんか。

 第二に、その少なくなった自治事務にすら代執行という仕組みが導入されていることは重大であります。政府の地方分権推進計画にも、自治事務については国の行政機関は代執行することができないと明言されていたではありませんか。これは、自治体に対する国の統制を強化するものではありませんか。

 第三に、関与の原則を規定しておきながら、その一方で、国の行政機関が自治事務と同一の事務をみずからの権限に属する事務として処理する場合の方式の規定を置いている問題であります。なぜ、このような規定が必要なのですか。この規定は、自治事務であっても、国が判断し、省令を含む法令を定めさえすれば、国のいかなる関与も認められるというものであります。これでは、関与の基本原則を法定化したといっても、その原則を定めた意味がなくなるのではありませんか。

 また、違憲の疑いのある内閣総理大臣の是正措置要求を、各大臣にまで広げたのはなぜでしょうか。これによって、例えば高知の非核港湾条例制定への政府の介入のように、港湾管理に直接権限のない外務省が、担任する事務と判断すれば、地方の事務に介入する道を正式に開くことができるのであります。総理大臣に限定されていた是正措置の権限をそれぞれの大臣に広げることは、まさに国の関与を飛躍的に強めるものではありませんか。

 第四に、現行自治法の自治大臣の技術的助言、勧告規定をそのまま改正案に盛り込んだのはなぜでしょうか。全国で荒れ狂っている自治体リストラの旗振りとなった九八年十一月の自治事務次官通達、国の公共事業積み増し路線に地方自治体を巻き込み、自治体財政の破綻を招いた財政課長内簡などは、この規定を根拠にして出されております。地方自治を担当する自治省こそ、率先してこうした規定を削除すべきではありませんか。

 以上の諸点について、自治大臣の明確な答弁を求めるものであります。(拍手)

 改正法案では、国の関与が縮小されない、むしろ一層国の介入、関与があからさまに強化されるようになると、今一斉に批判、心配の声が広がっています。総理、この声にどうおこたえになるのでしょうか。本法案が最大の焦点だとした関与の縮小に資するものとなっていないのなら、一体何のための法律改正かということになるのであります。総理の見解を改めて問うものであります。

 一括法案には、関与の問題だけでなく、多数の重大問題があることを指摘しなければなりません。

 その第一は、上からの市町村合併の推進という問題であります。

 住民が主人公という地方自治の大原則に照らすなら、市町村合併問題は、何よりも住民の圧倒的多数の意思、合意が前提とならなければなりません。今、その合意形成のシステムがないもとで、合併促進の見地からのみ特例制度を拡大するならば、ますます住民合意のない合併が推進させられることになるのではありませんか。総理は、このやり方が地方自治の形骸化をもたらすものと考えないのでしょうか。

 そもそも、地方分権と市町村合併は全く別次元の問題であります。推進委員会も、分権の受け皿としての合併は退けるとの立場だったのではありませんか。地方分権一括法に合併特例法を盛り込むこと自身、私は重大な問題だと考えますが、総理の答弁を求めるものであります。

 第二は、地方議員定数削減の問題であります。

 改正案は、法定定数の上限の見直しを行い、既に各自治体の条例によって定数削減を行われている上に、さらに二百三十七人もの定数削減を強要するものとなっています。この改悪により、人口区分によっては、五十年以上も前の第二次世界大戦中の議員定数よりも少なくなる自治体すら出てくるのであります。

 地方議会の活性化は、地方分権の重要テーマの一つではありませんか。権限移譲が進むのであれば、それをチェックする地方議会の役割は今後ますます大きくなるのであります。なぜ定数削減なのか、国民に納得できる説明をすべきであります。地方分権に真っ向から逆行する定数削減をなぜ上から強要するのか、自治大臣の明確な答弁を求めるものであります。

 第三に、米軍用地特別措置法の改定を盛り込んでいる問題であります。

 憲法二十九条は国民の財産権を保障し、公共のためにやむを得ず私有財産を収用、使用する場合でも、公正な手続と正当な補償を厳しく求めています。この憲法規定に基づき、戦後の土地収用制度は、地方自治体の独立した機関である収用委員会の審理を経て、初めて土地の強制使用、収用ができるとしてきたのであります。

 ところが、政府は、この精神を踏みにじり、九七年四月、収用委員会の裁決を経なくとも、契約期限が切れている土地であっても、手続中の土地について、暫定使用という名目で継続して使用できるという改悪を強行したのであります。

 今回の再改定案は、その上に、これまで市町村長や県知事に行わせてきた土地調書への署名捺印、いわゆる代理署名や裁決申請書の公告縦覧を、国の直接執行事務として取り上げた上に、さらに、新たな米軍基地の強制使用に際して、収用委員会が一定期間内に緊急裁決をしなかった場合、あるいは緊急裁決を却下した場合に、総理大臣みずからが使用または収用の裁決ができるとしているのであります。総理大臣が収用委員会にかわって裁決をすることになれば、収用委員会の審理は形だけのものとならざるを得ません。

 総理、この改定は、市町村長や知事の関与を完全に排除し、地主や地元関係者など、地方の意見反映の機会を根底から奪うものであります。このような改定は、地方分権の名に値しないばかりか、憲法三十一条の適法手続の原則にも反するものではあり明確にお答え願いたいと思います。
 新ガイドラインで、日本は米側に対して、周辺事態への対応として、新たな基地の提供を適時適切に行う、このことを約束しています。この改悪は、こうした米側への約束を果たすためのものではありませんか。総理の明確な答弁を求め、徹底的な審議を強く主張して、私の質問を終わります。(拍手)

 〔内閣総理大臣小渕恵三君登壇〕

○内閣総理大臣(小渕恵三君) 春名直章議員にお答え申し上げます。

 まず、本法案の形式についてのお尋ねがありました。

 地方分権一括法案は、地方分権の推進を図るという同一の趣旨、目的を有するものであること、また、改正の大宗を占める機関委任事務の廃止等については、通則法としての地方自治法と関係法律が相互に関連していることなどの理由で一括法としたものであり、むしろ意味ある効果的な審議ができるものと考えております。

 住民自治と団体自治の拡充強化等が必要ではないかとのお尋ねであります。

 今回の法案は、地方公共団体の自主性、自立性を高めることによりまして、地方公共団体がみずから決定のできる範囲が広がり、団体自治という面においてはもちろん、住民自治という面におきましても、大きな意義を有するものであると考えております。さらに、今回の法改正は、行財政権、自治立法権の拡充にもつながるものと受けとめております。

 地方への権限と税財源の移譲についてお尋ねですが、今回の法案におきましては、都市計画法、森林法などの改正による権限の移譲や特例市制度の創設などを行っております。また、地方分権推進計画に沿いまして、国と地方の役割分担を踏まえ、国庫補助負担金の積極的な整理合理化や事務権限の移譲などを推進し、地方税、地方交付税等の必要な地方一般財源の確保を図ることといたしております。

 今後とも、国から地方公共団体への事務権限の移譲や地方税財源の充実確保等、地方分権の一層の推進に向けて、積極的に取り組んでまいりたいと思います。

 国の関与についてのお尋ねでありましたが、法案におきましては、機関委任事務に係る国の包括的な指揮監督権を廃止し、関与の法定主義、基本原則、手続ルール及び係争処理制度を地方自治法に規定するとともに、個別の法律における関与についても見直しを行い、その整理縮小を図ったところであります。 市町村合併についてのお尋ねですが、行財政基盤の強化を図り、地方分権の成果を十分に生かすためにも、市町村合併を積極的に進めることが必要と考えております。その際、市町村の判断を尊重することは当然でありますが、都道府県の積極的な取り組みとあわせ、国としても、幅広い行財政措置を講じ、市町村合併を総合的に支援していくことが重要であると考えております。

 最後に、駐留軍用地特措法改正についてお尋ねがありましたが、これは、地方分権推進委員会の勧告を受けまして、国と地方公共団体との役割分担を明確にするという観点から、同法の事務について国が最終的に執行責任を担保し得る仕組みを講じようとするものであります。したがいまして、同法の改正については、地方分権に背くとの指摘は当たりませんし、また、周辺事態への対応に関連して行うものでもありません。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁いたさせます。(拍手)

    〔国務大臣野田毅君登壇〕

○国務大臣(野田毅君) 法定受託事務についてのお尋ねでありますが、地方分権推進委員会においては、法定受託事務となるべき事務についてのメルクマールを定め、地方分権推進の観点に立って、精力的に御審議をいただいたものであります。今回の法案は、この地方分権推進委員会の勧告を最大限尊重して閣議決定をいたしました地方分権推進計画に従って作成をしたものであります。 次に、国の代執行についてのお尋ねであります。

 代執行については、一般的な根拠規定として、地方自治法に第二百四十五条の八の規定を設けることとしておりますが、これは法定受託事務のみを対象とするものであります。自治事務に関しては、同法第二百四十五条の三第二項において、関与の基本原則として、できる限り代執行の制度を設けることのないようにしなければならないことを規定しているところであり、今後の個別法の制定、改正もこの基本原則に沿って行われることとなるものであります。

 次に、関与の基本原則についてのお尋ねでありますが、関与の基本原則を定める地方自治法第二百四十五条の三は、自治事務及び法定受託事務のそれぞれについて、関与の基本類型を示すとともに、自治事務に関する基本類型以外の関与等について、これを設けることのできる場合を限定しようとするものであり、各個別法においても、このような基本原則に則した関与の整理縮減がなされているところであります。

 それから、是正の要求等の主体についてのお尋ねでありますが、個別の法律において国の関与を規定する場合、行政事務を分担管理する各大臣の権限とするのが一般的であること、また、個別法に基づく関与をできるだけ廃止縮小しようとしたことから、地方自治法に基づく是正の要求等の主体についても各大臣とするのが適当と考えたものであります。

 なお、改正案においては、新たに国の関与に係る係争処理制度を設けることといたしておりまして、各大臣が直接その当事者となることで、権限行使についても十分慎重に行わせる効果があるものと考えております。

 次に、自治大臣の技術的助言、勧告についてのお尋ねであります。

 各大臣の助言、勧告は、専門的、個別的な見地から、特定の行政分野について行われるものでありますが、さらに、地方公共団体の組織及び運営の全体について、総合的な見地から、技術的な助言、勧告がなされることは、地方自治行政の円滑な運営に資するものであると考えております。

 最後に、今回の改正は、地方議員の定数を法律で定めるのではなく、一定の上限数の範囲内でそれぞれの地方公共団体が自主的、自立的に条例で定めることとするものであり、必ずしも定数の削減を一義的な目的とするものではありません。また、上限数の設定に当たっては、地方分権推進委員会第二次勧告において、基準の見直しに当たっては、減数条例の制定状況を十分に勘案することとされていることを踏まえたところであります。

 以上であります。(拍手) 

○副議長(渡部恒三君) 畠山健治郎君。 

   〔畠山健治郎君登壇〕

○畠山健治郎君

 私は、社会民主党・市民連合を代表いたし、議題となっておりますいわゆる地方分権一括法について、地方分権の基本課題と本法律案とのかかわり合いを中心に、総理並びに関係大臣にお尋ねをいたしたいと思います。

 地方分権の推進に関する国会決議以来六年、ようやく今日法律案が提案されましたことは、関係者のこれまでの御努力に深く敬意を表しながら、歓迎するものでございます。

 地方分権推進委員会の一連の指針勧告の経緯と本法律案を見ますと、地方分権はいまだ遠しの感をぬぐえません。と申しますのも、明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革と言われながら、住民と自治体の自己決定権の保障を基本に、新たな国家像を具体化する政治改革としての地方分権が、主として国の関与の縮小にとどまり、あたかも、これをもってして地方分権は終わったかの風潮さえ行政内部に見られるからであります。

 そればかりではありません。地方分権推進委員会の第三次指針勧告や法定受託事務の性格、自治事務に対する中央政府の関与等の法律内容においても許容しがたい部分が多々あり、これが地方分権に対する期待感を阻害する要因となっておることも、間違いのない事実であります。

 このような問題意識を持ちながらも、多くの困難を乗り越え、ここに至った本法律案については、我が党は全面的に否定するつもりは毛頭ございません。是正すべきは是正するとの立場から、徹底した審議を行う所存であり、内閣においても、こうした我が党の基本的態度に積極的にこたえるよう要請をしながら、質問に入らせていただきたいと思います。

 そこで、まず総理にお尋ねをいたします。

 総理は、本法律案をもってして地方分権は終わりと考えているのか、それとも、始まりの始まりと認識されていらっしゃるのか。よもや、これをもってして完結編とお考えになっているとは思いませんが、率直に見解をお示しいただきたいと思います。

 完結編と考えていないならば、本法律案において、今後の分権展望を具体的に示すことが必要であろうと考えます。そこで、提案をいたしますが、今回の法律制定が地方分権の一里塚であるとするならば、今法律の意義と今後の改革課題を改正地方自治法に前文としてうたい、それを担保する立場から、同法附則に改革期間を明示する必要があるのではないでしょうか。

 また、これと関連して、地方分権推進委員会の今後の扱いについて、来年をもって制度的に任務が終わる同委員会について、地方分権推進法を改正し、今回の改正に伴う地方分権の進行状況の監視はもとより、法定受託事務の一層の自治事務化、全く手つかずと言っていい権限移譲と、それを保障する税財源の移譲、そして地方分権の最も基本である住民自治の豊富化について、順次、指針勧告を求めることが必要であると考えますが、いかがでしょう。

 また、改正地方自治法の一条において、中央政府と自治体の政府間関係における役割分担を明示しておりますが、このような基本的事項と自治体の組織及び運営に関する事項を地方自治法のみで規定することは、どう見ても、適切とは思われません。憲法に定める地方自治の基本原理と制度的基本原則を定め、もって地方自治の本旨を実現する地方自治基本法を制定することが、今後の地方分権には不可欠と考えます。

 以上、四点にわたる提案について、総理並びに自治大臣の見解をお尋ねいたします。

 次に、法律案の基本的問題に絞って、幾つかお尋ねをいたします。

 今回の地方分権に係る制度改革の一つの目玉は、総理府に設けられる国地方係争処理委員会にあると思います。ところが、中央省庁等改革関連法案においては、この係争処理委員会は総務省に設置されることになっております。一体、これはどういうことでありましょうか。

 これでは、地方自治の所管省と係争処理委員会を分離した意味はないではありませんか。これでは、係争処理委員会の独立性並びに審査、勧告に対する自治体の信頼は極めて希薄なものとなってしまいます。少なくとも係争処理委員会については内閣府に置くべきであろうと思いますし、国家行政組織法上も三条委員会とすべきであると考えますが、総理並びに自治大臣の見解をお伺いいたします 現行地方自治法の制度的矛盾の一つに地方事務官問題があることは、申し上げるまでもございません。この問題が機関委任事務制度の廃止によって整理することについては大いに歓迎をいたしたいと思いますが、問題は、その整理の方向であります。

 これまで機関委任事務としてきた社会保険並びに職業安定事務について、何ゆえに中央政府の直接執行事務とするのか。法定受託事務に移行させることで事務処理に不都合が生ずるとは考えられません。しかも、当該事務、とりわけ社会保険事務にかかわるほとんどの地方事務官は地方公務員への身分移管を求めていることを直視するならば、少なくとも、事務については法定受託事務として、職員については都道府県に身分を移管すべきではありませんか。

 地方自治法施行以来のこの問題については多様な解決の方法があり、やみくもに中央政府に移すことは問題解決の柔軟性にみずから扉を閉じること、そして結果としてこれら業務の円滑な実施を阻害することになりかねません。国家公務員二五%削減を公約する総理、あなたは、法定受託事務とすることで何ら差しさわりのないこれら事務を、あえて中央政府の直接事務とすることが本当に妥当とお考えでいらっしゃるのですか。また、その結果、一万八千の国家公務員をふやすことも辞さないと考えていらっしゃるのですか。総理並びに厚生大臣の見解を承りたいと思います。

 ところで、本法律案には、地方分権推進委員会の指針勧告との関係で、見逃せない問題があります。それは自治事務と法定受託事務の問題であります。

 当初、推進委員会は、法定受託事務について、国民の利便性または事務処理の効率性の観点に比重を置き、法律またはこれらに基づく政令の定めるところにより自治体が処理をする云々との性格づけをいたしておりました。それが、いざ条文化されてみますと、「国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」との文言が加えられ、自治体の処理する事務との性格は極めて希薄なものとなっております。

 指針勧告とは異なるこのような文言としたのは一体なぜなのか。法文上の表現問題と伝えお聞きするところでありますが、本当のねらいは、法定受託事務を著しく拡大した結果、自治体の処理する事務との性格を薄め、中央政府の広範な関与を確保する必要があったためではありませんか。自治大臣の見解をお伺いいたします。

 自治事務と法定受託事務の区分の関係についても問題があります。改正地方自治法の二百四十五条の五及び二百五十条でも明らかなように、自治事務に対しても、中央政府は是正の要求及び是正の指示ができることとされており、さらには代執行も可能となるような規定さえ設けられておるからであります。

 そこで、お尋ねをいたしますが、一体、是正の要求と是正の指示とは、その効果において違いがあるのですか。もし、その効果は同一で、自治体は是正改善の法的義務を負うとすれば、一体、自治事務と法定受託事務との違いはどこにあるのか疑わしいと言わざるを得ません。また、自治事務に対するこのような関与が許されるなら、地方分権が進展すればするほど、関与の手続は整理されても、中央政府の自治体に対する法的拘束力は強いものとなるのではありませんか。
 しかも、これが許されるならば、もはや内閣は、ガイドライン法に基づいて、自治体への協力要請に関して、個別法の規定と考えを異にする自治体に対し、いつでも法的拘束力をかけることができることになりかねません。これは、事実上の有事立法の先取りにも等
しい。このような改正は、地方分権とは似ても非なるものと言わざるを得ません。(拍手)
 総理並びに自治大臣の見解をお伺いいたしたいと思います。
 改正地方自治法において、住民自治の豊富化に関する制度改正がほとんどなされていないことは、今回の地方分権の限界をよく示しておると思います。それどころか、議員の定数について上限を設けたことは、地方分権に対するあしき挑戦そのものと言っても過言で
はありません。この上限制が実施されれば、議員定数は上限を下回って条例化されることは必須であり、それがもたらす政治効果は、改正の意図する議会の活性化とはおよそ無縁なものとなることは明らかであります。
 議員定数をどれだけにするかは本来住民が決めることであり、それが地方分権のあり方ではありませんか。仮に法定化する場合でも必要なことは、住民自治を保障するという立場から、量的下限であることを忘れてはなりません。その意味で、上限制を下限制に転
換するよう、総理並びに自治大臣の発想の転換を強く促したいと思いますが、いかがでしょうか。
 最後に、一言、我が党の決意を申し上げたいと思います。
 村山内閣の地方分権推進法を指摘するまでもなく、本課題については、我が党はその推進をだれよりも早く主張し、実践をしてまいりました。そうした立場から本法律案を見たときに、地方分権の歩みはいまだ始まりの始まりにすぎません。これを第一歩に地方分権
をより確かな歩みとし、我が国民主主義の新たな礎石とするため、今後とも地方分権推進に全力を挙げることを申し上げ、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

   〔内閣総理大臣小渕恵三君登壇〕

○内閣総理大臣(小渕恵三君) 畠山健治郎議員にお答え申し上げます。

 地方分権の認識について、まずお尋ねがございました。

 地方分権は、二十一世紀にふさわしい我が国の基本的行政システムを構築するものであります。地方分権は今や実行の段階を迎えていると認識をいたしており、まずは本法案を今国会においてぜひとも成立させていただき、地方分権を具体的な形で進めるとともに、今後とも、地方分権の一層の推進に向けて、地方分権推進計画を踏まえた、国から地方公共団体への事務権限の移譲や地方税財源の充実確保に積極的に取り組んでまいりたいと思います。

 地方分権推進委員会についてお尋ねがありましたが、同委員会は、地方分権推進計画の作成のための指針の勧告と、計画の実施状況の監視機能を有しており、平成十二年七月の存置期間までは、同委員会の活動を見守るべきものと考えております。地方分権推進法の期限切れの後の体制につきましては、その時点での状況を踏まえ判断すべきこととなろうと考えております。

 社会保険事務や職業安定事務についてお尋ねですが、地方事務官が従事しているこれらの事務は、地方分権推進委員会の勧告を受けまして、地方分権推進計画において、国の直接執行事務とし、これに従事する地方事務官はそれぞれ厚生事務官及び労働事務官とすることといたしたところであり、今般、この計画に沿って法案を提出したところであります。

 地方事務官は現在でも国家公務員でありまして、その定員は国家公務員の総数に算入されておりますので、地方事務官制度の廃止によりましても、国家公務員数が増加することにはなりません。

 地方事務に関する関与についてお尋ねでありますが、今回の改正におきまして、地方公共団体の自治事務に対する関与は、必要最小限のものとするとともに、手続ルールや係争処理手続などを新しく設けることといたしておりまして、地方分権の趣旨を実現するものとなっているものと考えております。

 なお、周辺事態安全確保法案に基づく地方公共団体の協力との関係につきましては、仮に、自治事務につきまして地方公共団体の長の対応がその権限について定めた個別の法令に違反するような場合、地方自治法に基づく措置をとることも法律論としては考えられますが、地方公共団体の長は協力の求めに応じて権限を適切に行使していただけるものと考えております。

 最後に、議員定数の定め方についてのお尋ねでした。

 地方公共団体の自己決定権を拡大する観点から、今回、地方公共団体みずからがその条例をもって議員定数を定めることといたしたものであります。このような場合にあっても、必要に応じ、法律において何らかの基準を定めておくことが適当でありまして、議員定数に関する歴史的経緯や地方行政を取り巻く状況を勘案いたしまして、法律において人口区分ごとに上限数を設けることといたしたものであります。 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣野田毅君登壇〕

○国務大臣(野田毅君) 改正地方自治法に今回の改正の意義や今後の改革課題などを規定してはどうかとのお尋ねでございますが、地方分権の推進は、新しい時代にふさわしい我が国の行政システムを構築するために、まず取り組まなければならない重要課題でありまして、このことについては、今や広く共通の認識が得られているものと考えております。先ほど総理からも御答弁をいたしましたように、今後とも、幅広く必要な検討を行い、法律改正を含め、地方分権の一層の推進に強い決意で取り組んでまいる所存であります。

 次に、地方自治基本法の制定についての御提案がございましたが、現行の地方自治法は、国と地方公共団体との基本的関係の確立を目的といたしておりまして、まさに地方自治に関する基本的な法律であると考えております。地方自治法の内容を充実することが、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を真に保障していくことにつながるものと考えております。

 次に、国地方係争処理委員会についてのお尋ねでありますが、国地方係争処理委員会は、公平中立な立場から、国の関与について審査し、勧告等を行う機関であります。このため、委員の任命につきまして、特に両議院の同意を必要とするなどの規定を設けているものであります。今回の中央省庁等改革の考え方に従い、国地方係争処理委員会が総務省に設置された場合であっても、これらの規定により、委員会の中立性、公平性、職権行使の独立性は十分に保障されているものと考えております。

 次に、法定受託事務の定義についてのお尋ねでありますが、今回の法案における定義は、法定受託事務が、その適正な処理を確保することに国として相対的に高い責任と関心を有する事務であるという性格を、文言上、より明確に表現したものでありまして、実質的な内容の変更を伴うものではございません。したがって、この定義によりまして、法定受託事務に対する国の関与のあり方が変わるものではございません。

 次に、是正の要求と是正の指示は、地方公共団体の事務処理が違法な場合などにその是正改善を図るために設けられた規定であり、ともに関与を受けた地方公共団体が是正改善すべき法的義務を負うという点では共通するものがあります。

 しかし、是正の指示が、是正改善の具体的措置の内容についてまで及び、それに従う義務が発生するのに対し、是正の要求は、自治事務に対する関与であることを考慮し、具体的措置の内容には及ばず、地方公共団体の裁量にゆだねられている点において異なります。

 なお、法定受託事務については、許認可や指示などが相対的に広く認められ、最終的には代執行を行うことができることとされているなど、関与のあり方について、自治事務とは大きく異なっておるものでございます。

 最後に、議員定数の定め方についてのお尋ねでありますが、地方公共団体の自己決定権を拡大する観点から、今回、地方公共団体みずからがその条例をもって議員定数を定めることとしたものであります。このような場合にありましても、必要に応じ、法律において何らかの基準を定めておくことが適当であり、議員定数に関する歴史的経緯や地方行政を取り巻く状況を勘案して、法律において人口区分ごとに上限数を設けることとしたものであります。

 なお、上限数の設定に当たっては、地方分権推進委員会第二次勧告において、基準の見直しに当たっては、減数条例の制定状況を十分に勘案することとされていることを踏まえたところであります。

 以上であります。(拍手)

    〔国務大臣宮下創平君登壇〕

○国務大臣(宮下創平君) 地方事務官に関する御質問でございますが、申すまでもなく、社会保険事業は、社会保障の根幹である国民皆保険、国民皆年金を確保するため、国の責任において実施しているものでございます。

 現在、社会保険関係事務は機関委任事務とされており、都道府県知事が職員を指揮監督することとされておりますが、これに従事している地方事務官は、現行制度におきましても、国家公務員試験の合格者から採用された国家公務員であり、給与や事務経費は国が全額負担し、出先機関である社会保険事務所も国有財産となっております。

 社会保険関係事務につきましては、地方分権推進委員会において、関係者からのヒアリングも踏まえまして、種々の角度から検討が行われたところであります。

 その結果、同委員会の第三次勧告におきましては、社会保険事務について、国が保険者として経営責任を負い、財政収支の均衡確保のために不断の経営努力を行うことが不可欠であること、また全国規模の事業体として効率的な事業運営を確保するために一体的な事務処理による運営が要請されているところであり、これらを踏まえまして、地方事務官が従事する社会保険関係事務は国の直接執行事務とし、地方事務官は厚生事務官とすることとされております。

 この第三次勧告を受け、地方分権推進計画が閣議決定され、今般の法案提出に至った次第であります。

 なお、地方事務官の定員につきましては、地方自治法施行規程に定められておりますが、現在でも国家公務員の総数に算入されておりますので、地方事務官を厚生事務官といたしましても、国家公務員の総数が増加するものではございません。 以上、答弁申し上げました。(拍手) 

   〔国務大臣太田誠一君登壇〕

○国務大臣(太田誠一君) お尋ねの国地方係争処理委員会については、今回の審議会の整理合理化方針に沿い、最もふさわしい所掌事務をつかさどる府省に置くこととし、地方自治制度を担う総務省をその設置先とすることとしたところであります。その独立性につきましては、同委員会の委員は、係争処理委員会の委員は、両議院の同意、衆議院と参議院の同意を得た上で総務大臣が任命を行うこととしておりまして、御懸念の点は当たらない。

 なお、係争処理委員会の国家行政組織法上の位置づけにつきましては、地方分権推進委員会において御議論があり、地方分権推進委員会の提言を踏まえまして、中立公平の確保を前提として、審議会、いわゆる八条機関といたしたところであります。今後、地方自治体の信頼を得つつ、適切な運営が図られますように努めてまいります。(拍手

)○副議長(渡部恒三君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――○

副議長(渡部恒三君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後三時二十六分散会


1   2   3


 出典:国会議事録検索システム


米軍用地特措法 改悪・再改悪 関連資料

沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック