所高生の自由と教育を考える委員会だより
発行者:所高生の自由と教育を考える委員会
発行日:2000年12月22日(金)
所高生の自由と教育を考える委員会だより
所沢高校PTA
所高生の自由と教育を考える委員会発行
2000.12.22
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所高祭 特別学習会 『17歳の心を考える』報告
一昨年、昨年に引き続き、今年もまた所高察の『PTAの部屋』で、「所高生の自
由と教育を考える委員会」主催の特別学習会が、9月9日・10日の両日にわたって
行なわれました。2日間とも話題提供者をお招きし、「17歳の心を考える」という
テーマをめぐって活発な意見交換がなされました。2日間で計56名の方の参加があ
りました。以下に概要をお伝え致します。
* * *
第1日目は『今、様々な現場から』と題して、ともに「自由と教育」の委員である、
ろう学校教師の江口美和子さん、保健婦の佐久間京子さんのお二人に話題提供をお願
いし、子ども達をとりまく現状を、日頃感じていることを織り混ぜながら報告してい
ただきました。
今、子どもと共に生きる
E・M
■子ども達から聞こえてくる悲鳴
今、小中学校で約13万人が不登校、高校中退が12万人、保健室登校が5万人
(文部省発表)と言われている。そうした背景を抱える中、今春の佐賀のバスジャッ
ク事件、岡山の殺傷事件など、今17歳問題と言われる思春期中後期の事件が増えて
いる。こうした少年事件から見えてくるものは、人との関わりが希薄で、SOSのサ
インに気づき向かい合う大人の存在がなく、悲しみや苦しみを打ち明け合う友人もな
く、ひたすらストレスに耐えている子ども達の姿。特別な子ではなく、ごく普通のど
こにでもいるような子ども達が事件を起こしていることが問題。
こうした少年事件に対し、同世代の子ども達は根本原因は少年自身にあるのではな
く、社会のあり方、対応の仕方にあると訴える。社会全体の価値観、またそこに縛ら
れている親、大人の価値観が根本から変わらなければ今の子ども達の閉塞感は解消で
きない、と。「‥‥彼等に心から相談できる相手、心から泣いて笑える場所があれば
こういう結果にはならなかっただろう」「殺したいから殺したのではない、自分の存
在を確かめたかったのでは」「この国は、金、権力、学歴とかそんなガラクタででき
ている。‥‥少年達が、最後まで求めていたものは、愛であると思う」‥‥こうした
子ども達の声に、私達大人や教師は学んでいかなければならない。
また一方で、社会的ひきこもりが推定100万人いると言われる。自己肯定感を持
てない子、将釆に希望を見出せない子も増加している。混沌たる社会状況のもと、子
ども達はストレスだらけの中にいる。(内申書、推薦制度、ボランティア活動の点数
評価、偏差値での輪切り、序列化など)。子ども達は誰でも豊かな可能性を秘めてい
る。一人一人は孤立し、競争させられているが、内側には真の人間連帯を求めている
し、自己変革したいと願っている。そんな現実を丸ごと含めて、子ども達の求めに真
剣に答えているような大人でありたい。
■今、家庭は?
たった一人で食事をとっている子が珍しくない。データによると、家族揃って食事
をしている子は母親にほめられ、父親に相談し、誕生日を祝ってもらった思い出を多
く持っているのに対し、個食の傾向にある子はそれが少なく、学習意欲や自己肯定感
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も弱い状況にあり、イライラしている子も多い。そういう子に学校で落ち着く場所を
聞くと、職員室、相談室、保健室の順という結果が出て、安定している子に比べて、
大人との関係をより多く求めている様子がうかがえる。
■教育現場の現状
2002年からの学校完全五日制の実施は、公教育の後退と、一方での教育の商品
化、市場化の拡大をもたらしかねない。教育基本法改正の声や、大学入学年齢制限の
撤廃に見られる超エリート選抜の発想、奉仕活動の強要など首を傾げたくなる動きも
多い。国連子どもの権利委員会の勧告では日本の教育制度によって子ども達がストレ
スにさらされ、発達障害に陥っていることが懸念されている。それに対し、日本の教
育課程審議会は「今の日本の教育は概ね良好」と答申している。
■今、求められること
教育改革の出発点は「子ども」。子どもの声を生かした学校づくり、子どもの成長
を支える新しい指導が、今本当に必要なのでは。しんどい中でも一生懸命生きている
子どもの言葉に耳を傾け、問題行動の背景にある子ども達の声をまっすぐ受けとめな
くては。子どもと共感し合い、子ども達が自分が好き、人間が大好きという思い、自
己肯定感を育てることが、私達教員の教育実践の基本ではないのか。私達は子ども達
と共に今を生きていかなければいけない。
保健婦活動の中で感じている思春期のこころの問題
S・K
■思春期を支えるたまり場の確保を
保健所には年齢を問わず、あらゆるライフサイクルの相談が持ち込まれる。その中
で思春期に関しては心の健康問題が多い。本人からは対人関係や性の悩みが、家族か
らは閉じこもり、家庭内暴力、拒食や過食、自殺企図、薬物依存などの相談がある。
その背景には地域全体に支えられているのではなく、孤立した現代の家族の形がある。
心の病にかかった方の相談を受けると、学校生活のストレスも要因となっていて、ほ
とんどがいじめを体験している。それに対し、様々な保健所事業を通し支援をしてい
るが、学校も含めて地域社会全体の取り組みがないと解決は困難と痛感している。
一人息子で、優秀な父親に対して重圧感を抱いた男性が、自己否定に陥って20年
近く閉じこもっていたが、デイケアによる集団の中での交流で、生きる力の基盤を取
り戻し自己肯定感を得て驚く程変わって行った。ゲームセンターやコンビニエンスス
トアなどではなく、困った時にきちんとSOSを受けとめてくれる見守りの大人の存
在がある安全なたまり場の確保が、思春期の問題を考えていく上で大切だと思う。そ
れと同様に高校生活においても、たまり場の必要性を感じる。
また、人格障害という診断をされて保健所を訪れる症例をみると、トラウマ的な傷
つき体験をしたり、親がしいたレールに乗って生活して来たりして、感情コントロー
ル、対人関係能力が弱く、社会に適応できないケースが多い。自分の責任で行動して、
その結果を自分で引き受けるという実際の生活体験の積み重ねが大事。今はメディア
やビデオ、ゲームなどの影響を受けて、現実と仮想の区別がつかなくなって、その境
界が曖昧になっている感覚がある。
■思春期を生きる力
思春期を生きる力はどうしたら育つのかということを考えると、所高でこれ迄大事
にして発た教育理念や伝統と重なることを感じている。横並び意識の強さを改め、違
いをお互いに認め合う関係づくりが自己肯定感につながって行く。所高祭や体育祭で
皆が盛り上がる一方で、参加できなくて冷めている子もいる。それぞれが違っていて
いい、ありのままの自分でいいんだと言える個々の大切さを守っていきたい。
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2日目は、89年から98年迄所高にいらして、最後の2年間PTAの担当をされ
た難波隆之先生と、今年の春に異動がある迄、主に生徒会の担当をしていらした軽部
敬子先生をお招きして、「高校教師の立場から」という視点で、現在の教育をとりま
く環境と、これからの展望に向けて示唆する内容のお話をいただきました。概要をお
届け致します。
今できること、考えること
〜この悲劇をくり返さない為に〜
N・T(川越工業高校教諭)
■社会現象を見る
社会現象を見るということで、まずは学級崩壊を押さえないと、これは幼児教育に
も根があるのでは。今は少子化で、自己中心的な子が増えている。小学校は学級担任
制だが、教科担当制の中学、高校は収拾がつかなくなってもその時間だけの授業崩壊
にしかならない。所高でも3年になると受験に直結の科目は熱心に取り組むが、他の
授業は漫画を読むなど積極的な参加をしなくなる。
次に4、5年前から言われている新しい荒れについてだが、これは普通のおとなし
い子が突然爆発的に凶暴になり、結末を予測しないで攻撃をする特徴がある。今、高
校生が起こしている問題は、小、中学校で積み重なって来たものが17歳ではじけた
もので根が深い。いじめを目にした周囲が正義感や社会性を持っていれば、悪化しな
いで早い段階で止められて17歳で爆発はしない。
だが、人は人、自分は自分、閑心がある子とだけ接触するという姿勢や、ルールに
対する気持ちが希薄になって来ていて、食事を例にあげても、親と子が別々な食事を
色々な所で食べ合っている現状がある。ひとつの現象を解決する提案はできるが、そ
のこと以前も直さなければいけないという複雑さがある。
ここで自殺は防げるという提案をしたい。学校に行けば、嫌な奴がいて嫌な目に合
う。だったら学校に行かなければいい。家庭は傷ついた子ども達が帰って乗るオアシ
ス。家庭に避難することを常に親が言っていれば、とりあえず自殺迄には至らないだ
ろう。
今、不登校は13万人。これ迄の6−3−3制の学校制度のシステム、制度的疲労
が噴き出している典型である。だが、長引くと、ひきこもりの現象になり、それが快
楽へと移行し扉から出て来なくなる。それには家族の開わり方が大切で、適切に専門
家の所へ行けば徐々に改善していく。
保健室で聞かれる子ども達の悩みは、家庭環境や異性問題、対人関係のストレスの
他、進路に関することが多い。進路室に相談に行くと、成績のデータから自分の将来
の夢から遠ざかる方向に話が行ってしまう。だから、その悩みを保健室に来てこぼす。
また、この頃は約1/3の子が朝食抜き。そういう子は脳に血液や栄養が届かない為、
集中力が無くなり落ち着いて勉強できない。
11歳を対象に行なったアンケート調査から、日本の子ども達は他国に比ペて自己
評価が低く、将来に対しても楽観的ではなく悲観的にあるという結実がでた。では、
今後どうしたらよいか。
■学校の新しい形・機能を考える
学校は基本的には生徒、教師で創られて、そこに保護者も入るという視点で来た。
その他に専門家や技術者も入れなくては、現在おかれている症状を解決する学校は創
れないのではないか。
これ迄の知識遍重型の詰め込み教育はやめ、基本的な知識を身につけることが大事。
発想を変え、国際的な理解を含めた、わかる、学ぶという意味の学習をする。
その中から得意な分野を作っていき、自分がもっとやりたいと思ったことをすれば
いい。座学ばかりではなく、普通高校も技能学習を取り入れる。また運動系、芸術系、
伝統文化の専門家の指導があれば、間違いなくその道の基礎は学べるだろう。とにか
く学校に何となく来て何も面白いことがないのではなくこ何かを得て帰れば、生徒は
また学校へ来るし、登校する価値が生まれる。
そして学校側は、まず21世紀に対応することを考えた上でのカリキュラムの見直
しをする。座学だけではなく、リアルなものを実際に映像で観なくては、生徒は自分
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の物として受けとめられない。その為にも、図書、資料、視聴覚設備の充実、情報の
アクセスをはかる。更には、心のケアをする専門相談員がいて、その設備が必要であ
る。また、学校は人と人が触れ合う場所がなくては。情報交換、意見交換ができて、
仲間を募集する揚がないと。例えば空き教室を開放して、くつろげる空間を持つ。
広場(フォーラム)を持つ。
所高は外部からの容易な交流については風通しが良い。外からの指摘や働きかけ、
評価があって、レベルアップする。特色ある学校ならば、学校紹介をどんどんしたら
良い。そして、学校は生涯学習の場として一般に開放し、地域との交流の場にしたら
いい。
大人たちに求められていること
K・K(所沢東高校教諭)
■生きてゆく上で大切なこと
子どもたちの問題を云々する以前に、大人たちがたいへんなストレスを抱えている
社会に突入していることをまず押さえたい。ゆっくり時を生きている大人が非常に少
なくなったと思う。昔は畑仕事をしたり一日中縫い物をしている、おじいさん、おば
あさんが傍らにいて、その方たちはよい学校をでたからとか、高い地位にあったから
などという知識とは別の、日々の体験からにじみでた大切な哲学をぼそっと語ってく
れた。灰谷健次郎氏の『天の瞳』のやんちゃ坊主の少年も、大工さんをしているおじ
いちゃんの傍らにいるだけで癒されている。そういう大人が、子どもたちの周囲から
いなくなってしまった。
子どもたちは、「何の為に勉強をするの」と聞いてくるが、その答えとして「生き
るために勉強するんだよ」という答えを欲しがっていると思う。しかし、良い学校に
入るため、良い企業に就職するためというレールが一般的に敷かれていて、試験のた
びに順位や備差値を出されて脅迫されたりしながら、子どもたちは大人が想像する以
上にとても苦しい状況にあるのでは‥‥‥。
所高の場合は色々な行事を通して先輩と後輩が苦労を共にするので、生きて行く上
で大事なことを先輩から学んでゆく。また所高ではかつて(今は知りませんが)順位
を出すということの罪を教員はよく考えていた。ボタンひとつで簡単に順位が出てし
まう現在、そうした所高の先輩の教員の方々を知っていることは貴重なことであると
私自身感謝している。
■人と関わり合うことに意味がある。失敗しても、成功しても‥‥‥
17歳の事件が続いた時に、その記事を表面に、度続く幼児虐待等の大人のストレ
スがもたらす悲劇の記事を裏面に印刷して、現在勤めている学校の生徒たちに意見を
書かせた。すると、ほとんどの生徒が、自分と同じ年頃の若者に向かって「とにかく
誰にでもよいから相談してほしい」と書いていた。こうした事件を通じて、人と関わ
り合うことの大切さを子どもたち自身が感じている。学校は意識して、そうした人と
関わり合う場面を大切につくってゆかなければならないと思う。
ロングホームルームは、そういう意味でも貴重な時間だと思う。クラスの人たちが
非協力的だとか、どんな企画にしたら盛り上がるだろうとか、グラスの人たちと相談
する。生徒たちで放課後頭を悩ませて、担任に相談したりして、初めて1時間のロン
グホームルームができる。そんな風にして人と人とが関わって何かを作ってゆくこと
に意味がある。失敗を恐れるのではなく、失敗したらそこからまた考えて乗り越えよ
うとしてゆけば、さらに貴重な経験が生まれる。失敗しないようにと考えるのではな
く、失敗してもいいからよく考えてやってごらんという柔軟性や、懐ろの深さが、大
人たちに求められているのではないだろうか。
担当 E.M ・ S.K ・ M.H ・ M.M ・ K.K ・ T.Y
発行責任者 S.S(042-***-****)
(Web管理者記)
小中学校で約13万人が不登校、高校中退が12万人、保健室登校が5万人
(文部省発表)<上記文中より>
そして、これからは停学・退学等の処置が、それなりの理由があろうとも、容易に
可能となるようです。(他の子どもに迷惑だから・・・?)
何かしらの理由があろうとも、教育の機会を奪われた子ども達が、この世に中に、
社会人として生活をせざるを得ない、という状況が生まれますね。
これって、私には「公教育の放棄」としか思えません。
#自ら学校教育を否定する、というのは別の問題ですから、一緒にしないで下さいね。
世界中を見回して、1クラス40人以上という国・自治体は、どこでしょう?
(#今の教育現場での問題点が、「40人学級」だけとは言いませんが、・・・)
文科省は、「少人数学級を実施できる自治体があれば実施してもよい」と言いはじ
めましたが、このことは教育条件の整備(同じ条件で教育を受ける機会を保障する)
を放棄と私には思えます。
(#だったら、学習指導要領なんて真先になくしたらどうでしょう。→文科省さん)
今後は、公立学校はいらない、という方向に進むのでしょうか?
ところで、この「所高生の自由と教育を考える委員会だより」には、今の子ども達・
大人がストレスを感じていることについて掲載されています。このことは、日本では
顕著のようですが、下記の本を読むと日本だけのことではないようです。
ご関心がおありの方は、是非次の本を読んでみて下さい。
書籍名:それでも新資本主義についていくか
著者名:リチャード・セネット
出版社:ダイヤモンド社
発行日:1999年12月2日 第1刷発行
価 格:\1,800-(本体)
上記「新資本主義」にたいする解決策として、岩波新書の
書籍名:社会的共通資本
著者名:宇沢弘文
出版社:岩波
発行日:2000年11月20日 第1刷発行
価 格:\600-(本体)
などはどうでしょう。
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