経済関係
[社会的共通資本]
(宇沢弘文著)
【社会的共通資本】
書籍名:社会的共通資本
著者名:宇沢弘文
出版社:岩波書店
価 格:\600-(本体)
出版日:2000年11月20日 第1刷発行
【表紙表扉裏より】
社会的共通資本
ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に
維持する − このことを可能にする社会的装置が 「社会的共通資本」 である。
その考え方や役割を、経済学史のなかに位置づけ、農業、都市、医療、教育といった
具体的テーマに即して明示する。混迷の現代を切り拓く展望を説く、著者の思索の結
晶。
【目 次】
はしがき
序章 ゆたかな社会とは…………………………………………………………… 1
第1章 社会的共通資本の考え方………………………………………………… 11
第1節 社会的共通資本とは何か 12
第2節 市民的権利と経済学の考え方 24
第2章 農業と農村………………………………………………………………… 45
第1節 農の営み 46
第2節 農の再生を求めて 66
第3章 都市を考える……………………………………………………………… 93
第1節 社会的共通資本としての都市 94
第2節 自動車の社会的費用 100
第3節 都市思想の転換 115
第4章 学校教育を考える…………………………………………………………123
第1節 社会的共通資本としての教育 125
第2節 デューイとリベラル派の教育理論 132
第3節 ヴェプレンの大学論 146
第5章 社会的共通資本としての医療……………………………………………167
第6章 社会的共通資本としての金融制度………………………………………183
第1節 アメリカの金融危機 184
第2節 日本の金融危機 198
第7章 地球環境……………………………………………………………………203
第1節 人類史における環境 204
第2節 環境問題に関する二つの国際会議 215
第3節 地球温暖化 222
あとがき………………………………………………………………………………237
【P4-5】
社会的共通資本の考え方
はしがきに述べたように、社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むす
べての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある
社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。社
会的共通資本は、一人一人の人間的尊厳を守り、魂の自立を支え、市民の基本的権利
を最大限に維持するために、不可欠な役割を果たすものである。社会的共通資本は、
たとえ私有ないしは私的管理が認められているような希少資源から構成されていたと
しても、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営
される。社会的共通資本はこのように、純粋な意味における私的な資本ないしは希少
資源と対置されるが、その具体的な構成は先験的あるいは論理的基準にしたがって決
められるものではなく、あくまでも、それぞれの国ないし地域の自然的、歴史的、文
化的、社会的、経済的、技術的諸要因に依存して、政治的なプロセスを経て決められ
るものである。
社会的共通資本はいいかえれば、分権的市場経済制度が円滑に機能し、実質的所得
分配が安定的となるような制度的諸条件であるといってもよい。それは、アメリカの
生んだ偉大な経済学老ソースティン・ヴェブレソが唱えた制度主義の考え方を具体的
な形に表現したものである。ヴェブレンの制度主義の思想的根拠は、これもまたアメ
リカの生んだ偉大な哲学者ジョン・デューイのリベラリズムの思想にある。したがっ
て、社会的共通資本は決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、ま
た利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない。社会的共通資
本の各部門は、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたが
って管理・維持されなければならない。
社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大
きな範疇にわけて考えることができる。自然環境は、大気、水、森林、河川、湖沼、
海洋、沿岸湿地帯、土壌などである。社会的インフラストラクチャーは、道路、交通
機関、上下水道、電力・ガスなど、ふつう社会資本とよはれているものである。なお、
社会資本というとき、その土木工学的側面が強調されすぎるので、ここではあえて、
社会的インフラストラクチャーということにしたい。制度資本は、教育、医療、金融、
司法、行政などの制度をひろい意味での資本と考えようとするものである。
【P208-209】
自然環境を経済学的に考察しようとするときに、まず留意しなければならないのは、
自然環境に対して、人間が歴史的にどのようなかたちで関わりをもってきたかについ
てである。この問題は、広く、文化をどのようにとらえるかに関わるものであって、
狭義の意味における経済学の枠組みのなかに埋没されてしまってはならない。
「文化」というとき、伝統的社会における文化の意味と、近代的社会において用い
られる意味との問に本質的な差違が存在することをまず明確にしておきたい。
一八五四年、アメリカ・インディアンの酋長シャトルがいったといわれるつぎの言
葉は象徴的である。
「白人がわれわれの生き方を理解できないのはすでに周知のことである。白人にと
って、一つの土地は、他の土地と同じような意味を持つ存在でしかない。白人は夜忍
び込んできて、土地から、自分が必要とするものを何でもとってしまう余所者(よそ
もの)にすぎないからである。白人にとっては、大地は兄弟ではなく、敵である。一
つの土地を征服しては、また次の土地に向かってゆく。……白人は、自らの母親でも、
大地でも、自らの兄弟でも、また空までも、羊や宝石と同じように、売ったり、買っ
たり、台なしにしてしまったりすることのできる「もの」としか考えていない。白人
は、貪欲に、大地を食いつくし、あとには荒涼たる砂漠だけしか残らない」
【P224】
温室効果ガスのうちでもっとも重要な役割を果たすのが二酸化炭素(CO2)である。
大気中の二酸化炭素は、産業革命の時代までは極めて安定的な水準に維持されてい
た。ほぼ六千億トンであって、二八〇PPmの濃度が保たれていた。しかし、産業革命
以降の二百年ほどの間に、大気中の二酸化炭素は約二五%増えて、現在の七千五百億
トン、三百五十PPmの濃度になっている。
【表紙裏扉裏より】
岩波新書から
自動車の社会的費用 宇沢弘文著 B47
日本の教育を考える 宇沢弘文著 566
地球温暖化を考える 宇沢弘文著 403
金融システムの未来 堀内昭義著 545
―不良債権問題とビッグバン―
公共事業をどうするか 五十嵐敬喜・小川明雄著 492
(Web管理者記)
現在の「市場競争原理至上主義」を継続するかぎり、環境は悪化の道をたどるであ
ろう。その結果、飢えに苦しむ人々は増加の一途をたどり、難民といわれる人々も増
える出あろう。
21世紀が、どのような世界になるのか、下記の本を読んで、考えてみましょう。
書籍名:地球白書 2000-01
編著者:レスター・R・ブラウン( Lester R. Brown )
出版社:ダイヤモンド社
価 格:\2,600-(本体)
発行日:2000年3月16日 初版発行