所沢高校 Non-Official 資料80526b

国連・子どもの権利委員会へのＮＧＯ追加情報
1998年5月26日(火)提出予定
1998年5月26日提出予定
〔国連・子どもの権利委員会へのＮＧＯ追加情報〕

【県立高校卒業式・入学式をめぐる重大な条約１２条等違反事件】
――日本の教育行政当局は本条約の学校への適用に否定的である――
　埼玉県立所沢高等学校において、卒業式・入学式の在り方をめぐり、校長および県
教育委員会・文部省が子どもの権利条約第１２条に規定されている「子どもの意見の
尊重」原則や「子どもの参加権」、および第１４条の子どもの思想・良心・信教の自
由、第５条の子どもの権利行使に関する父母の指示・助言権、等を重大に侵害する主
張および行為を行った。文部省は、校長・県教委の行為を支持しており、全国に波及
する恐れがある。

〔事実経過〕
　埼玉県立所沢高等学校は、「自主・自立」を一貫して学校の基本方針とし、生徒の
自主的・自治的活動を援助・推進してきた。その過程において、以下の『決議文』
『生徒会権利章典』『協議規定』生み出され、現在も有効なものとして存在している。
（１）所沢高校生徒会は１９９０年以降、①『「日の丸・君が代」に関する決議文』
　　および②『生徒会権利章典』を毎年度の生徒総会で採択・確認している。①の
　　『決議文』の要旨は次のようである。“法律上「国旗」「国歌」と定められてい
　　ず、賛否両論がある「日の丸」「君が代」を〈強制〉することは、日本国憲法第
　　１９条で保障されている思想・良心の自由を侵害するものである。それゆえ生徒
　　会は儀式その他における「日の丸」の掲揚及び「君が代」の斉唱の強制に反対す
　　る。”また、②の『権利章典』の要旨は次のようである。“学校は生徒と教職員
　　とによって構成されており、その構成員一人一人の主張は尊重される。思想の自
　　由は保障される。これらの自由は、他人の権利を侵さない範囲において有効であ
　　り、又常に責任を伴うものであることを忘れてはならない。”この内②は、「所
　　沢高等学校」名で発行されている「生徒手帳」（生徒に配布される校則集）にも
　　毎年（1997年度・1998年度）掲載されている。
（２）同校では生徒会と職員会議の合意により『生徒会活動に関する職員・生徒の協
　　議会規定』が、１９８２年７月５日から施行され、今日まで有効に運用されてい
　　る。これも、生徒手帳に毎年（1997年度・1998年度も）掲載されている。同規定
　　によれば、生徒会諸機関の決定事項を職員会議が否決する場合は、職員代表１０
　　名生徒代表１０名による協議会を開き、十分に協議する（第２条、第３条）。協
　　議会を行った後も生徒側が職員会議の決定を納得しない場合は、職員会議は再度
　　審議しなければならない（第５条）。――生徒たちはこのシステムを、“所沢高
　　校システム”と呼んできた。

　１９９７年３月末まで在任した校長たちは、これらを尊重し、入学式・卒業式の場
に「日の丸・君が代」を持ち込まなかった。１９９７年４月９日に予定されている入
学式に関しても、生徒会・職員会議は従来どおりの入学式を行うことで合意し、準備
を進めていた。
　１９９７年４月１日に同校に赴任したＵ校長は、１９９７年度入学式に関する生徒
会と職員会議の具体的合意や『決議』『協議会規定』等を一切無視し、前日の４月８
日に突然「日の丸・君が代」付きの入学式の実施を指示した。生徒との合意に反する
として緊急職員会議が翌４月９日に行われたが、校長・教頭・事務長の３名は途中退
席し、３名のみで「日の丸・君が代」付きの入学式を実施しようとした。生徒会の抗
議の中、式の継続は不可能となった。

　その後、何度もＵ校長と生徒会、ＰＴＡ、職員会議の話し合いの場が持たれた。生
徒会・職員会議およびＰＴＡはこの１５年間も積み上げられてきた“所高システム”
と前述の『決議』『協議会規定』の尊重を要求した。Ｕ校長は断固として次の主張を
変えなかった。
①「卒業式」「入学式」は学習指導要領（文部省「告示」）に従い、「日の丸」掲揚
　と「君が代」斉唱を含んだものでなければならない。
②「卒業式」「入学式」ガ学校教育施行規則で「校長が行う」と規定している卒業認
　定および卒業証書授与、入学許可の場である。
③生徒は“指導される”立場にあるものであり、学校行事の一つである卒業式・入学
　式のやり方を決める権限は、学校の最高責任者である校長にある。

　職員会議、ＰＴＡは、県教育委員会に対して、生徒・父母・教職員の声に全く耳を
貸さない校長に対する指導を、後には転任要求の請願等をした。しかし、県教育委員
会は校長の学習指導要領遵守の姿勢は正しいと、教職員・ＰＴＡの要求を拒絶した。
　生徒会は、このような経緯の中で、校長は“「卒業式」「入学式」には学習指導要
領に従い「日の丸・君が代」を導入しなければならない”というのであるから、「卒
業式」「入学式」という名称を用いず、それに代わるものとして「卒業記念祭」「入
学を祝う会」を行う旨、生徒総会で決議した（１９９７年１１月１１日）。職員会議
はそれを承認した。職員会議の中で校長はその決定に反対しなかった。しかしその後、
校長は“職員会議は決定権を持つものではない。最終決定権は校長が有する。「卒業
式」を校長権限において行う”旨の態度表明を生徒・教職員・父母に対して行った。
卒業生には“「卒業式」が校長から卒業認定と卒業証書の授与を行うの場である”旨
を記した“脅迫的”な葉書を送った。

　１９９８年３月９日、校長主催の「卒業式」と、生徒会・職員会議の合意に基づく
「卒業記念祭」とが行われた。校長の「卒業式」の強行は、校長の独裁的学校運営は
同校の民主的慣行を権力的に破壊するものであるという猛烈な反発を呼び、「式」に
参加した卒業生は４２３名中１８名（４．３％）に過ぎなかった。「卒業記念祭」に
は、ほぼ全員が出席した。

　同年４月９日の「入学式」に向けて、校長・県教育委員会・文部省は緊密な連絡を
取り（毎日新聞、産経新聞の報道による）、より強力（権力的）な手段を講じた。
（ａ）３月１８日の入学説明会において生徒会の決議を尊重した説明を行ったＴ教諭
　　（新１年生担任教員団代表）を、校長の意に反する主旨の発言を行ったとして懲
　　戒処分（戒告、昇給延伸）した。しかも、処分決定は、校長からの報告の受理
　　（３月２４日）から教育委員会の決定（３月２５日）まで２日間という驚くべき
　　短期間に、本人からの事情聴取という最低限の適正手続き（デュー・プロセス）
　　も踏まえられずになされた〔本件は現在、不当処分として人事委員会に提訴中で
　　ある〕。
（ｂ）「埼玉県教育委員会」および「校長」の名前で、「お子さまが埼玉県立所沢高
　　等学校の生徒となるためには、入学式に出席し、校長による入学許可を受けなけ
　　ればなりません」とする、“脅迫的”文書を同校の全ての新入生・保護者に郵送
　　した。

　これらの校長・県教育委員会の対応や、生徒の意見表明権・参加権擁護の行動を取っ
た学年教員団代表のＴ教諭に対する懲戒処分は、子どもの権利条約の精神・規定に反
するものであり、国内法から見ても違法なものであるという弁護士・研究者の「声明」
や「意見書」が校長・県教委に提出された。だが、校長・県教育委員会はそれらを無
視した。
　「入学式」不参加＝入学不許可という“脅し”にも拘らず、「入学式」への新入生
の参加率は約６０％にしか達しなかった。それに対し、生徒会主催の「入学を祝う会」
には、「入学式」への不参加を自から選択した約４０％の新入生を含め、ほぼ全員が
出席した。「入学式」に欠席した約４０％の新入生の「入学不許可」は、入学式への
出席が入学許可の法的要件となるという法令・行政解釈・判例は全く存在しない不法・
不当な主張（脅迫）であったが故に、実際にはなし得なかった。ただし、「入学を祝
う会」の準備を行っていた約１００名の在校生は、校長により「欠課」扱いという、
不利益な扱いを受けた。

〔本件の問題点〕
①日本において、【憲法→条約→学校教育法（法律）→学校教育法施行規則（文部省
　令）→学習指導要領（文部省告示）】という順で優先されることは“上位法優先の
　原則”として確立した原則（通説）となっている。それにも拘らず同校の校長・県
　教育委員会および文部大臣は学校教育法施行規則（文部省令）第２８、５９、６３
　の２条および学習指導要領（文部省告示）の文言のみを根拠にし、それらを遵守し
　て卒業式・入学式は行われるべきであると主張した。そしてその主張に基づき職務
　命令を教職員に出し、「入学を祝う会」の説明を担当した学年教員団代表の教員に
　懲戒処分を課し、生徒・保護者にも公的文書を郵送して校長の主張に従うよう強要
　した。その主張には、上位法である子どもの権利条約に規定されている生徒の意見
　表明権・参加権（第１２条）、思想・良心・信教の自由（第１４条）、子どもの権
　利行使に関する父母の指示・助言権（第５条）や、それらの権利の制度的保障とな
　る生徒・父母・教職員の参加する「合議的学校運営」については一言も言及されて
　いない。この件に関する校長・教育行政当局の主張・行為は、学習指導要領（文部
　省告示）および校長の「独任的学校運営」を絶対化し、それらを日本国憲法・子ど
　もの権利条約・教育基本法等よりも優先させるものであり、子どもの権利条約の規
　定および趣旨に著しく反するものである。
②その後も文部大臣、文部省の教育課程審議会等は子どもの権利条約の規定・趣旨、
　ＣＲＣの日本政府あて“List of issues”の第１８項、第２１項などに全く言及せ
　ずに、“校長の独任的権限の強化”と“学習指導要領の徹底”を進める姿勢を表明
　している。この主張および実態が放置されるならば、校長の独任的権限と学習指導
　要領という壁に阻まれ、日本の全ての学校の中において全ての生徒は日本国憲法や
　国際人権規約・子どもの権利条約などの保障する人権および子どもの権利の主体と
　して扱われ得ず、また、父母の権利保障や合議的学校運営制度も窒息させられる危
　険性が極めて大きいと考える。

〔子どもの権利条約　市民・ＮＧＯ報告書をつくる会〕
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