コロンビア:「民主的治安」の失敗
ヘザ・ハンソン&ロヘルス・ロメロ・ペナ
2005年5月17日
原文はNACLA米州レポート 38(6)
アルフレド・コレア・デ・アンドレイス教授は、バランキージャのコミュニティで尊敬を集めていた存在であり、平和活動家でもあった。彼はマグダレナ大学の学長で、以前はノース大学とシモン・ボリバル大学の教授だった。2004年6月17日、コロンビア行政治安局(DAS)のエージェントが、元ゲリラが提供した情報にしたがって、彼を反逆罪で拘留した。その後コレアはすべての告発について無関係であるとされ釈放されたが、拘留されたという事実の刻印はその後も残された。ちょうど3カ月後の9月17日、彼は暗殺され、暗殺者の身元はわかっていない。
コロンビアを知るほとんどの人は、コレアの悲劇的な死は、コロンビア紛争の論理を例示していると考えている。この論理のもとでは、ゲリラと協力していると非難を受けた人々は----その告発の背後にどんな真実が隠されていようと----、民間人を支配し続けるための道具として選択的暴力に訴える武装集団の標的とされる。残念ながら、コレア教授の身に起きたことは、コロンビアでは日常的に繰り返し起きている。アレヴァロ・ウリベ大統領の「民主的治安」政策のもとで恣意的に拘留された多くの人は、釈放されても、猜疑や脅迫、暗殺が待っているだけなのである[1]。
ウリベの「民主的治安」戦略は、ブッシュ政権の「対テロ戦争」と同じ政治的ディスコースに依拠しており、またブッシュ政権の「対テロ戦争」から支援を受けている。このディスコースのもとで彼は、コロンビアの「テロリスト集団」とどんな代償を払っても戦うということになっている。ウリベによると、「コロンビア国家は理屈の上では[市民に]あらゆる自由を提供してきたが、その自由はテロにより上書きされてしまった」。ウリベは、いつも政府の行動をテロリストに対する戦争として描き出し、現在のコロンビア内の武力紛争を歴史的視点から眺めてそこに政治社会的要素があることを認めようとしない。「コロンビアに武力紛争はない」とウリベは言う。「ゲリラが独裁者に対して戦う他の国々では武力紛争が存在した。ここコロンビアには独裁はない。コロンビアには確固たる完全な民主主義がある。コロンビアは少数のテロリストによる挑戦を受けているに過ぎない」[2]。
米国政府のテロ組織リストによると、コロンビアには三つのテロリスト・グループがある。準軍組織AUC(コロンビア自警軍連合)、そしてFARC(コロンビア革命軍)とELN(民族解放軍)という二つのゲリラである。けれども、ウリベ政権はこれらのグループを同じに扱おうとはしていない。ウリベ政権は「国家安全保障」のために三方面作戦を進めている:準軍組織との交渉、FARC攻撃、そして司法憲政改革である。この三つとも、プラン・コロンビアによる米国政府からの財政支援に依存している。また、これらの戦略は暴力の続行と治安悪化をもたらしている。
ウリベ政権の初年度、2002年8月から2003年7月の間に、政府は4362件の恣意的拘留を行なった。それ以前の6年間に記録されている恣意的拘留2869年と比較して、目を見張る増加である。さらに、ウリベ政権の最初の2年で、サムペル政権(1994年から1998年)の4年よりも非戦闘員が多く死亡している。誘拐は年間約2000件で続いており、2003年1月から2004年6月の間に少なくとも33万7953人の人々が強制的に住むところを追われた[3]。こうした数字はコロンビア人の大多数の安全にとって本当に恐ろしい状況を示している。また人権上の心配も緊急のものである。
それにもかかわらず、ウリベ政権は、コロンビアは2年前と較べてより安全になったと主張する:超法規的処刑も虐殺も減った、と。政府はこの主張の根拠として政府公式の統計、そしてAUCとの和平交渉の進展を持ち出す。同様に、コロンビアの平和コミッショナー、ルイス・カルロス・レストレポは、準軍組織が一方的停戦を宣言し交渉に入った2003年、準軍組織が犯した殺人や虐殺、誘拐は、前の年よりも大幅に減ったと報告した。
準軍組織----この10年間にコロンビアで起きた政治的暴力の約70%を準軍組織が行なっていたと推測される----が行う暴力の減少は重要であるが、それでも一方的停戦の最初の一年間(2002年12月から2003年12月)で、準軍組織は、自ら宣言した停戦にあからさまに違反して、362件の殺人、16件の虐殺と180件の誘拐を犯していたことを指摘しなくてはならない。準軍組織に制圧された多くの地域に暮らす民間人にとって、これが「安全」な状況であるとは言い難い[4]。
コロンビアの政治的反対派(野党)やコロンビア市民社会のメンバー、国際組織や外国政府はいずれも準軍組織との和平交渉には本質的な矛盾があるとしてこれを批判してきた。批判は、準軍組織が麻薬取引に関わっていること、和平交渉が準軍組織を実効的に解体しないこと、準軍組織が犯した犯罪に対する真実・正義・賠償が必要であることを強調してきた[5]。
正義の問題について、もっとも大きな問題は、準軍組織が犯してきた多数の人道に対する罪、そして国際人権諸法と国際人道諸法への違反を実効的に処罰することを伴う。コロンビアの国会議員からなる連合が提案した法案では、人道に対する罪の処罰はたったの5年から10年の禁固であり、さらにウリベの最近の提案では最小刑期はまったく指定していない。この新たな法案によると次のような馬鹿げた状況が作り出されることになる:現在、マピリパン虐殺を阻止しなかったという罪状で裁判を受けている上級コロンビア軍士官は30年から40年の禁固刑判決を受ける可能性があるが、一方で、新たな法案によると実際に虐殺を犯した準軍組織は自らが犯した人道に対する罪で5年から10年以上の禁固刑判決は受けないことになる[6]。それにもかかわらず、米州機構(OAS)の積極的な支持のもと、準軍組織との和平プロセスは奨められ、2005年2月2日までに、準軍組織兵士3784人が復員している[7]。
実際のところ、大統領に就任してからウリベがとった和平と治安の政策は、準軍組織と交渉する一方でゲリラとりわけFARCに阿智して軍事的攻撃を加えるというものだった。コロンビアでも外国でもほとんど伝えられていないが、コロンビア政府は様々な地域でFARCに対する軍事作戦を積極的に進めてきた。とりわけ大きいのは、現在コロンビア南部地域で進められているプラン・パトリオタ(愛国計画)であり、対象地域にはパストラナ政権がゲリラとの和平交渉の際に非軍事化した地域が含まれている。
プラン・パトリオタでは米軍顧問団の積極的な支援を受けた約1万5000人のコロンビア軍兵士が動員されている。ウリベ政府とコロンビア軍は、プラン・パトリオタの勝利は可能であるとし、2004年10月から2005年2月までにFARCのメンバー328人が戦闘から退いたことを強調する。167人は戦闘で殺され、123人が拘束され、38人が自ら降服したと[8]。
しかしながら、今年1月末から2月上旬、FARCは以前の非軍事化地域で攻撃的な軍事行動に出、劇的な反撃を行なっている。FARCは11台の車を燃やしたほか、攻撃で軍兵士66人を殺している。事実、FARCの上層部はプラン・パトリオタは失敗であり、自分たちのい統計によるとコロンビア軍は最近の18カ月で4717人の犠牲を出していると述べている。1825人の死者と2301人の負傷者であると[9]。
政府とゲリラが提供する情報が大きく違うので、プラン・パトリオタの結果の全容を推測するのは不可能であるが、明らかなことが二つある。第一に、今日まで、プラン・パトリオタ----1996年の「征服作戦」以来FARCに対して行われた最大の軍事作戦----は、大規模な軍事資源を動員したにもかかわらず、はっきりした大勝利や戦略的進展を手にしていないことである。第二に、これまでの攻撃でつまらない結果しか得られていないコロンビア軍は、米国政府の財政支援に大きく依存し続けるだけでなく、米軍の戦略的・軍事的支援にも依存し続けることになるだろう。
準軍組織との交渉およびFARCへの攻撃に加えて、ウリベ政権の国家安全保障計画が採用した第三の大きな核は、抜本的な法律と憲政の改革である。この提案の中には、2001年9月11日のあと米国愛国法で導入された変化に驚くほど似ているものもある。「治安」と軍機能の効率を改善すると称して、ウリベ政権は、市民的自由と基本的人権の保障を制限する提案をしたのである。
その中で最もショッキングな一つは、2003年12月10日(世界人権デー!)に議会が承認した憲法改革である。これにより、軍が、令状なしに、36時間にわたって人々を拘留し、家宅捜索をし、通信を傍受することができるようになった。さらに、これにより個人データの蓄積も許され、軍がそれを人々の動きを監視するために使うことができるようになった。さらに、この改革で、軍は司法・警察力を与えられ、これにより軍兵士が暴力事件----軍自身がその事件に関与している場合でも----の現場で証拠を集め容疑者に尋問することが許されることとなった[10]。
こうした「改革」の広い射程を見ると、「少数のテロリスト」の脅威が、国家と市民の間の関係を根本的に変えてしまったことがわかる。どうやら、「少数の」者たちに対する戦争のためには、すべての人々の権利と安全を攻撃する必要があるということらしい。この憲法改革は、国連人権高等弁務官の度重なる勧告に反し、また、コロンビア政府も署名している国際的な人権条約に違反するものであることを指摘しておく必要がある。
こうした状況を見るならば、ウリベの「民主的治安」に向けたグランド・プランは、コロンビア人の大多数の安全をかつてないほど奪うものであることは明らかである。ウリベ政権が治安計画の三要素を実施し続けるためには米国の積極的な政治・財政的支援が必要である。実際、コロンビア内戦に対するかつてないほどの米国の関与増大が進む可能性は高い。
ブッシュ米国大統領の先導にしたがって、ウリベはこうした政策を、テロリストの脅威からの自由と解放という言葉で粉飾して売り出すことを続けるだろう。「対テロ戦争」のディスコースは広範かつ多岐にわたり、どのような解釈も許容する。ウリベ政権はこのディスコースを利用して「テロリスト」グループの一つを攻撃し、別の「テロリスト」グループと交渉することを正当化しており、さらに、すべての人々の市民的・政治的権利を制限することを正当化している。コロンビアにとって不幸なことに、その代償は、紛争の継続、政治的不安定化の増大、人道的危機の悪化である可能性は高い。
注
[1] 米国のNGO12団体が2004年10月29日にアレヴァロ・ウリベ大統領に提出したオープンレターを参照。http://usofficeoncolombia.org/signon/detentions.pdf(2005年2月1日改訂)。
[2] 2004年11月BBCによるアレヴァロ・ウリベ大統領へのインタビュー「Queremos libertades efectivas」(実効的な自由を望む)。
[3] "En Contravia de las recomendaciones internacionales: 'Segridad Democratica,', derechos humanos y derecho internacional humaniario en Colombia: agosto de 2002-agosto de 2004." Colombian Commission of Jurists, 2004.
[4] High Commissioner for Peace, "Balance del cese de hostilidades," El Tiempo, February 20, 2004, p. 3.
[5] "Colombia: Letting Paramilitaries Off The Hook." Human Rights Watch, January 2005.
[6] "Con Razon Lloro," El Tiempo/Terra, Revista Semanaよりの引用。
[7] http://www.altocomisionadoparalapaz.gov.co/desmovilizaciones/2004/index.htmを参照(2004年2月12日改訂)。
[8] "Farc: ?Del repliegue tactico al asalto?," El Espectador, http://www.elespectador.com/judicial/nota3.htm(2004年2月12日改訂)。
[9] "Farc: ?Del repliegue tactico al asalto?," El Espectador.
[10] Press Release, "Gobierno y congreso desafian a la comunidad internacional: Aprobadas facultades judiciales a las fuerzas militares." December 12, 2003. コロンビア法律家協会より。
5月は「フェアトレード月間」だそうです。ここや、ここに、フェアトレード・ショップのリンクがあります。
このところ、コロンビア関係情報が断片化していたので、今度は少しまとまった記事を紹介します。
コロンビアでは、「対テロ戦争」の名のもとに、様々な自由の制限がおおっぴらに進められ軍事警察国家化がいっそうおおやけに進められつつあります。その一方で、「新自由主義」の優等生として何の意味もないIMFからの資金借入などを進めているコロンビアの地元産業や商業はますます滅びつつあります(私の知人がやっていた肉屋もつぶれた)。
以前も書きましたが、口先の「主張」に基づいてではなく行動に基づいてこうした政策を評価するならば、これらは「失敗」ではなく、まさに意図された通りのことと解釈されます。
「こうした「改革」の広い射程を見ると、「少数のテロリスト」の脅威が、国家と市民の間の関係を根本的に変えてしまったことがわかる」というのは、日本の政治状況にもそのままあてはまります。「現実に合わぬ」とした憲法改正の動き(そうであれば、セクシスト社会の現実に合わせるために性差別的憲法を導入し、人種差別社会の現状に合わせるために人種差別条項を導入し、殺人が起きているという現実に合わせるために殺人を許容する憲法に変えるのだろうか、ということになりますが、実際、現在の政権党による憲法改正案や関係者の発言を聞いていると、まさにその通りのようです)。
以前に紹介したものも含め、いくつかイベントや情報の紹介です。
■無年給の在日外国人障害者・高齢者の救済を求める請願への署名依頼
http://munenkin.hp.infoseek.co.jp/に説明があります。
■ビルマ人マウンマウンさんの在留資格付与を求める署名
http://www.burmainfo.org/brcj/ua-mgmg_200505.htmlにあります。また、pdf版はhttp://www.burmainfo.org/brcj/ua-mgmg_200505.pdfです。
■日本の入管に関する報告会
『牛久入管センター面接支援の体験から
----外国人報道のかげにあるもの----』
日時:5月25日(水)
午後6時45分〜8時30分
お話:齋藤 紳二 さん
(さいたま教区終身助祭)
場所:カトリック麹町教会(聖イグナチオ教会)
信徒会館203B室
JR・東京メトロ四ツ谷駅下車すぐ、上智大学手前
参加費:無料
主催:カトリック麹町教会メルキゼデクの会
■辺野古
活発な反対活動を展開しているグループのグループの案内、「辺野古への海上基地建設・ボーリング調査を許さない実行委員会HP」には様々な情報があります。また、わかりやすいまとまった情報が、こちらにあります。4月29日の現地からのメッセージは、来れる人は来て下さいと呼びかけています。
意見の送り先については、こちらをご覧下さい。
また、阻止行動には人員・資金が必要になります。資金は漁船チャーター料、燃料代、修理代等々、1日に平均して30万円 近く(月で600万円)かかっています。この費用は全国のカンパでまかなっています。カンパ先は:
郵便振替番号:01700―7―66142
加入者名:ヘリ基地反対協議会
■リトル・バーズ
1999年前後、東ティモールでも活発な取材活動を続けた綿井健陽さんによるイラクのドキュメンタリー映画「Little Birds」、東京でロードショーが始まっています。ぜひご覧下さい。映画の公式サイトはこちら、綿井さんの公式サイトはこちらです。
なお、対応する本は、『リトルバーズ』(晶文社・1600円)として出版されています。こちらも様々なかたちでぜひ皆さんに知っていただきたい、あらためて見ていただきたい内容の本。
イラク関係では土井敏邦さんの映像「ファルージャ2004年4月」が完成したとのこと。私たちが編訳した本『ファルージャ2004年4月』とともに、ぜひどうぞ!