過去2カ月、ブッシュ政権のプロパガンダ・マシンは、キューバにおける反対派の弾圧にメディアと人々の注意を集中させることにより、西半球における人権侵害の現実を歪めることに成功してきた。主流メディアが、従順かつ無批判に、75人のキューバ人反対派をキューバが投獄したことは、「米州地域で過去10年に起きた中で最も卑劣な政治的弾圧行為である」という馬鹿げたコメントを発表した国務省の気持ちを繰り返した。驚くべきことに、多くの進歩的な米国知識人が、地域の人権の文脈を省みないままにキューバの行為を批判する請願書に署名することによって、不注意にも、ブッシュ政権が自らの政治的アジェンダを達成するために行っている西半球の人権の実状に対するねじ曲げに荷担してしまった。
主流メディアも知識人たちが署名した請願書も、ブッシュ政権が、一方でキューバを地域最悪の人権侵害政府と非難しながら、同時に、西半球最悪の人権侵害を侵している右派準軍組織「死の部隊」と緊密な同盟関係にあるコロンビア軍に毎年何億ドルもを提供しているという偽善に言及しなかった。
カストロ政権が、閉ざされた短い裁判で、法の適正な手続きなしに、非暴力で抗議したことに対して禁固6年から28年という過度に重い判決を下したことに対して怒りを覚えるのは当然である。けれども、この取締が、現在も続けられる経済封鎖をはじめとする40年以上に及ぶワシントンのキューバ政府に対する無数の攻撃行為という文脈でなされたことは思い起こしておくべきであろう。
ハバナの米国外交使節団長ジェームズ・ケーソンは、使節団の米国利益代表部の中で、繰り返し、反対派活動家と独立ジャーナリストに面会していた。彼はまた、キューバ中を旅し、反対派グループと会い、また、反カストロのマイアミ発のラジオ局ラジオ・マルティをキューバ人が聞けるよう、何千という短波ラジオを配っていた。3月10日、キューバ政府は、ケーソンに対し、挑発的な発言を止め、反対派と会うことを止めるよう求めた。ケーソンはキューバ政府の要求を無視し、そうした行為を止めるよう求める手紙を受け取ったわずか2日後に、自宅で反対派の会合を開催した。
ブッシュ政権が、現在の米国の政治体制を転覆すると宣言するグループを積極的に組織し資金提供する外国の大使館あるいは領事館の公的代表を我慢するというのは、ほとんどあり得ない。実際、2001年9月11日、ニューヨーク等に航空機が突入した後、ブッシュ政権は、米国内のグループが海外からの資金を得て米国を攻撃することを恐れて、特に中東の住民をはじめとする多くの住民の市民的自由を制限した。さらに、5月13日、ブッシュ政権は、14名のキューバ人外交官を米国から国外追放処分とした。この中には、「米国にとって害となると思われる活動に、公式の指命外で関与した」として退去命令を出された7名のニューヨーク国連本部のキューバ代表部大使も含まれていた。
こうした用語は、スパイ行為を表す外交用語であることがしばしばであるが、FBIのオフィシャルたちは、この追放は、何ら特定のスパイ行為によるものではないと述べている。ある上級FBIオフィシャルは、追放の決定はホワイトハウスと国務省の「最上級レベル」でなされたものであり、「この時期にこの行動に出ることは、我々は推薦しない」と述べた。こうした発言は、キューバの外交官たちはスパイ行為には関与しておらず、国外追放はキューバと米国の間の緊張をさらにエスカレートさせるためのブッシュ政権による政治的な決断であるという、キューバの主張を支持している。
その間、米国国務省は、ケーソンがキューバ国内を旅しキューバ人反対派と会っていることについて、ケーソンは、キューバを平和的に民主主義に移行させようとしているとして、それを擁護した。キューバ政府が、ケーソンの行為を、ブッシュ大統領がキューバ外交官について言ったと同様、キューバにとって「外となると思われる活動」に従事していると見なすことは疑いない。その外交官が、40年以上にわたってキューバ政府を転覆しようとしてきた国の代表であるならば、なおさらである。
75名のキューバ人反対派が、米国政府からどれだけの情報と資金を受けていたかにかかわらず、裁判から明らかな法の適正な手続きの欠如と、秘密法廷で下された判決の重さは、正当化されるものではない。この裁判は、ブッシュ政権に、キューバの人権レコードを非難するための新たな弾薬を与えたことになる。けれども、米国の主流メディアと進歩的知識人は、ブッシュ政権による人権侵害の政治化という偽善に注意を払っていない。
キューバが反対派を逮捕し、最近、国連人権委員会にキューバが再選された後、国連経済社会委員会の米国大使シチャン・シブは、ワシントンは「キューバが西半球最悪の人権侵害国である」と見なしていると名指しで宣言した。2003年4月3日には、米国国務省報道官フィリップ・T・リーカーが、「カストロ政権の行為は、米州地域で過去10年に起きた中で最も卑劣な政治的弾圧行為である」と宣言した。その一方で、3月に発表された国連人権報告が、昨年、米国の支援を受けたコロンビア軍による人権侵害への直接関与はエスカレートしており、「そうした人権侵害行為の多くは、新政府[アレバロ・ウリベ大統領の政府]の治安政策の一環として実行されている」と述べたことに対して、ワシントンは何の公式コメントも発表していない。
投獄されたキューバ人反対派の28人はジャーナリストである。これは恐るべきことであるが、コロンビアでコロンビア政府がジャーナリストを殺害し続けている記録と対比してみると、色を失う。キューバ政府による弾圧と同じ月の3月、3名のコロンビア人ジャーナリストが暗殺された。その一人フイス・エデュアルド・アルフォンソの名前は、右派準軍組織であるコロンビア自衛軍連合(AUC)の「死のリスト」に記載されていた。このAUCは、米国が支援するコロンビア軍と緊密な同盟関係にある。このリストに記載されていた10名のジャーナリストのうち2名が殺され、他の8人はアラウカ地域を逃げ出した。ちなみに、このアラウカ地域は、米軍特殊部隊の兵士が現在、ワシントンによる世界的な「対テロ戦争」の一環として作戦を進めている地域である(サラベナの攻防を参照)。
ニューヨークに本部を置くジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、コロンビアでは、昨年、「8人のジャーナリストとメディア関係者が殺され、約60人が誘拐されたり脅迫されたり肉体的な攻撃を受け、20名以上が活動地域やコロンビアから逃げ出さざるを得なくなった。そして爆発物による8件の攻撃と攻撃未遂とが報告されている」。ブッシュ政権は上機嫌でキューバにおける人権侵害にスポットライトをあてているが、コロンビアでジャーナリストが働かなくてはならない危険な状況を無視している。ワシントンの同盟諸国における人権侵害に光を当てる仕事は、CPJのようなNGOが行わざるを得ない。CPJは次のように述べている。「コロンビア政府がこうした犯罪を処罰しないために、不処罰の雰囲気が永続化し、メディアが暴力に広く晒されることとなり、多くのジャーナリストがそのために亡命している」。過去15年間に、116人以上のジャーナリストがコロンビアで殺害されている。
さらに、ウリベ政権が最近コロンビアで、「対テロ戦争」の一部としてメディア検閲を強化しようとしていることについても、ブッシュ政権は何のコメントも出していない。コロンビア大統領は、コロンビア議会に対して、「テロリズムに対する戦いにとって非生産的」と思われる記事を発表したり、「敵の立場やイメージを持ち上げる」と政府が考えるような記事を発表したものは、誰であれ、8年から12年の禁固刑とする、という対テロ法案を通そうとしている。政府に対して批判的なメディアの地方放送局もまた、閉鎖される可能性がある。
コロンビアでジャーナリストとして働くのが危険であるのは明らかだが、コロンビア政府とワシントンが後押しする新自由主義経済アジェンダの押しつけに反対する労働組合指導者になるのは、自殺するも同然である。ブッシュ政権は、カストロ政権を悪魔化するために、キューバ政府による反対派の弾圧を指摘するのに熱心だが、政府に批判的なコロンビアの労働組合員に対して続けられている虐殺に対しては沈黙したままである。過去15年間に、コロンビアでは、3000人以上の労働組合指導者が殺されたが、容疑者はただの一人も裁判にかけられていない。昨年1年間だけで、184人の労働組合員がコロンビアで殺された。これは、コロンビア以外の全世界で殺された労働組合員の数よりも多いのである。人権団体によると、米国の支援を受けたコロンビア軍と緊密な関係を持つ準軍組織「死の部隊」が、こうした労働組合員殺害の圧倒的多数を行なっている。
キューバの最近の行動を強く批判する国務省の発言とは全く対称的に、米国国務長官コリン・パウエルが、2002年12月にボゴタでウリベ大統領と面会したとき、コロンビア軍による人権侵害の悪化と準軍組織「死の部隊」との密接な関係については、何の批判もなされなかった。実際のところは、逆に、パウエル国務長官は、米国がコロンビアに、2003年、大部分が軍事援助からなる5億7300万ドルの援助を与えると述べた。これは2002年の3億ドルからの大規模な増額である。先週、アムネスティ・インターナショナルは、G8諸国による武器輸出を批判し、コロンビアといった人権侵害諸国に対する米国の武器提供を厳しくするよう求めた。コロンビアは、現在、イスラエルとエジプトに次ぐ、世界第三位の米国軍事援助の受け取り手なのである。
キューバ政府に対して最近の反対派弾圧に対して圧力をかける必要があるが、ブッシュ政権が、キューバの行為を「米州地域で過去10年に起きた中で最も卑劣な政治的弾圧行為」と言うのは馬鹿げている。主要メディアが今ひとたび政府の宣伝屋となり、従順な態度で今月のホワイトハウスの外敵を悪魔化しているのは別に驚きではない。けれども、非常に多くの進歩的知識人が、キューバを批判しながら、キューバ政府による弾圧を人権の政治化に利用しようとするブッシュ政権の戦略を批判しない請願書に署名するのは驚くべきことである。カストロ政権が最近犯したような人権侵害を批判する責任を我々全てが負っているが、同時に、自らの政治的アジェンダのために西半球地域の人権状況の現実を歪曲する自らの政府を批判することも、全く同様に重要である。
2003年5月20日は、東チモールの主権回復(独立)1周年です。1999年、インドネシア軍と民兵による脅迫と殺害・破壊の中、インドネシアによる不法占領継続を拒絶し、解放と独立を選び取った東チモール。今、インドネシア軍による東チモールでの人権侵害を不処罰なまま大目に見ることを決めた国際社会に勇気づけられたインドネシア軍は、5月19日に発布された軍事非常事態宣言のもと、アチェで大規模な殺害と破壊を進めようとしています。長年にわたり、このインドネシアに対する最大の武器提供国はアメリカ合州国であり、最大の援助国は日本でした。米国の大規模な支援を受けてインドネシアが東チモールで犯した人権侵害の一部についてはこちらを、やはり米国の肝いりで進められたグアテマラの人権侵害についてはこちらをご覧下さい。