麻薬戦争におけるブラジルの関与

2002年7月15日
ロナルド・J・モーガン
コロンビア・ジャーナル原文

ブラジルは、1999年にプラン・コロンビアが表面化するとほとんど同時に、コロンビアとの国境の治安活動を強化し始めた。3年間の軍事活動拡張を経て、今やブラジルとコロンビアの国境地帯には、新たな施設が林立している。新たな空軍基地、海軍基地、タバティンガから「犬の頭」と呼ばれる地点(コロンビアとブラジルとベネスエラが接する地点)までをカバーする国境小隊などである。アマゾン地域のテフェ市を拠点とする新たなジャングル旅団が1000マイルに及ぶ国境地帯に駐屯する2500名の軍隊を支援している。こうした地上部隊は、海軍及び海兵隊に加え、サン・ガブリエル・ダ・カチョエイラ空軍基地の航空機により補完されている。

約10万人の、ほとんどが先住民からなるこの地域で、ブラジル軍はまた、新たな道路、橋、学校、保険診療所、井戸、川船のドックを設置してきた。こうしたブラジルの作戦は、カラ・ノルテといわれていた昔の開発計画を化粧直ししたもので、1450万ドルの軍事治安費用と1040万ドルの社会開発予算からなり、そのほとんどがコロンビアとの国境地帯に費やされる。

ブラジル政府はまた、国境地帯にコブラ作戦として知られる200名の連邦警察を派遣している。国境の治安を強化し、麻薬貿易を阻止するためである。ブラジル政府は、こうしたプログラムはアマゾンを保護することを目的とする予防的措置であり、ほとんどの活動は麻薬貿易の統制、不法伐採の阻止、不法金鉱採掘者の追放にあてられていると述べている。

1996年にブラジルとレイセオン社は、アマゾン監視システム(SIVAM)という14億ドルのレーダー・システム建設を始めていた。1992年のリオ・アース・コンファレンスで鳴り物入りで発表されたこのプロジェクトは、現在約7割完了しており、マナウスで7月25日に公式に開始される予定である。このシステムはレーダー基地と航空偵察を利用し、そして、航空状態や水上移動、国境活動の監視やあらゆる種類の通信傍受のために衛生からある程度の支援を得ることにもなっている。SIVAMはまた、気象状況と土地の利用を監視し、アマゾン地域の遠隔通信を容易なものとする。

もともとこれはアマゾンの熱帯雨林を様々な不法利用から守るために計画されたものであるが、マンタ=FOL型の偵察機能により、麻薬パイロットのブラジル入りを阻み、また、国境部隊にタイムリーな情報を提供することができる。ブラジル空軍によると、2001年には200機ほどが不法にブラジルに進入していると推定しており、コロンビアやペルーと同様に、撃墜を許可する法制をブラジル政府に求めている。昨年、米国=ペルー共同プログラムのもとで、教会使節の航空機が撃墜されるという事故があった。

国境地帯の治安強化を開始した際、ブラジルは、米国が後押しするプラン・コロンビアの一部になることには関心がないことを強調していた。2000年10月、ブラジルの諜報副長官ヘクトル・ブレッカー海軍大将は、ブラジル議会に対して、プラン・コロンビアが及ぼすだろう影響によりブラジルは国境地帯で警察・環境・社会行動プログラムを適用しなくてはならないかもしれないことは明らかであるが、「ブラジルのアマゾン地域で多国籍の軍事活動を行うことは受け入れられない」と述べていた。

ブラジル議会の公聴会では、コロンビアにおける農薬空中散布がブラジルのアマゾン地帯に及ぼす影響が強調され、また、菌類薬剤がブラジルのジャングルの川に沿った合法的な作物を破壊するかもしれないことが強調された。ブレッカーは、「コロンビアのプツマヨ川やカケタ川で散布されているグリフォサートのような化学薬物やフサリウム・オキシスポルムのような生物物質が、それぞれ、ブラジルのイカ川やジャプラ川に流入しないか」と憂慮している。

けれども、米国が、当初プラン・コロンビアは麻薬貿易を阻止するための作戦であるといいながら、対ゲリラ作戦に拡張しているように、麻薬に対する戦争におけるブラジルの役割も使命のずれが起こっている。最近の、ブラジル=コロンビア国境地帯における4000名が参加した空・陸・海の作戦行動は、ブラジルがゲリラと麻薬商人をブラジルの領土に入れさせないためには武力を使う意志があることを示している。

国境のブラジル側に対する米国の関与も増大している。2001年9月、対麻薬活動において米国と二国間合意書簡を交わした。これは、コブラ作戦をはじめとする対麻薬貿易作戦において相互協力と米国援助を求めるものである。この合意により、ブラジルの連邦警察と地方警察を統合的に統制する公共治安のための国家長官という新設の機構に対して資金が提供されることにもなった。

ブラジル大統領フェルナンド・エンリケ・カルドソは、今も公式にはプラン・コロンビアにブラジルは関与していないという立場を取っているが、2002年2月にコロンビアのアンドレス・パストラナ大統領がコロンビア革命軍(FARC)と合意した非武装地帯を撤回すると決断したときそれを強く支持した。カルドソはまた、5月にアレヴァロ・ウリベが選出されたときに、これを、「南米における民主的思考の活力を明確に示した例」と述べた。

ブラジルは否定しているが、この南米最大で最も人口の多い国が、麻薬戦争とコロンビア内戦にますます深く巻き込まれつつある。3月にブラジルの軍将校はペンタゴンを訪問し、米国側と意見交換をするとともに、ブラジルの国境地帯の治安・開発プログラムの状況説明を行っている。

米国西半球国務長官補佐官のオットー・ライヒは、最近ブラジルを訪問した際、コロンビア内戦への介入を国際化する希望を米国政府は持っていると表明した。「コロンビア民主主義(ママ)への脅威は、米国とブラジルだけでなく、西半球全体に対する脅威であると思う。そして諸国がたとえばプラン・コロンビアの影響流出を心配するならば、こうした国々は、コロンビア国境内部からのテロリストや麻薬商人の流出を阻止しないことをそれ以上に心配すべきである」と。

コブラ作戦も、その規模と洗練度を増加させている。2001年12月、ブラジルはタバティンガに新たな諜報センターを開いた。そのミッションは、国境活動の情報を整理し、それを、ペルー、エクアドル、コロンビア、米国と共有することである。さらに、ブラジルは、タバティンガからヴィラ・ビッテンコートに至る国境地帯に7つの警察施設を新たに設置する作業を終了した。

ブラジルは、コロンビア国境で血を流しておりまた犠牲を出してもいる。2月に、ブラジル軍はFARCゲリラの疑いのある船を攻撃し、アポポリスのそばで6名を殺害した。同じ月、ブラジル兵士が1名、曖昧な状況で失踪した。3月、197名のマクの先住民が、FARCに脅迫されたとしてヴィラ・ビテンコートに避難を求めてきた。5月の作戦では、ブラジル兵士2名が犠牲となった。1名は、タバティンガ郊外で負傷したが、そこではコロンビア人が関与していたようであるし、もう1名はリオ・ネグロ川沿いで失踪している。

ブラジリアのキャンパス風建物からカラ・ノルテを管理するロベルト・デ・パウラ・アヴェリノ大佐は、こうした事故を否定し、コロンビア側にFARCが存在するけれども国境地帯はとても平静であると主張する。また、正規のFARCゲリラによる大規模なブラジルへの侵攻は、「FARCは新たな敵を作ることに関心を持っているとは思わない」ので、ありそうにないとも考えている。

パウラ・アヴェリノの分析は、コロンビアの不法武装グループについて最近オットー・ライヒが述べた宣言と対極にある。ライヒは、「こうしたものたち(武装グループ)がコロンビア領土のより大きな範囲を統制しようとするときには、自分たちのビジネス、つまり麻薬とテロリズムをほかの国々に対して利用することは間違いない。私はこれらのグループがコロンビアだけを武力で奪取しようとしているだけとは思わない。こうした人々が国境というものを知っているとは思わない。新たな言葉を使うなら、国境なきテロリストである。」

人は自らに即して他人を評価しがちです。国境なき国家テロの親玉である米国が、国境なきテロリストという考えを導入するのは自然なことのように思えます。

ライヒの分析にFARCが同意しないのは驚くことではない。ブラジリアにおけるFARC国際委員会代表オリヴェリオ・メドナは、FARC司令官たちは部隊を隣国には入らないよう命じている。「我々は、隣国も相互に同じようにすることを望んでいる。どんな意味での相互性か?我々が隣国の領土で問題を起こさないなら、隣国政府も介入をせず、コロンビアの国内問題にからめ取られるのを避けるべきである。我々はコロンビア以外のいかなる国家に対しても問題ではない。」

メドナは、FARCによる越境侵入という議論は、FARCの信頼を失わせようとする政策の一部であると述べる。「エクアドルのジャングルに木が倒れたら、それがFARCのせいであるというのだ。ペルで牛が一頭朝死んでいたら、FARCだという。我々の計画には、地域のいかなる国への介入も含まれていない」と。

ブラジル大学の国際関係教授アルシデス・コスタ・ボスは、コロンビア問題はブラジルでは重大な政策問題ではないと言う。「国内政策の中で、国家安全保証問題は非常に重要度が低い。人々の意見にも特に強い主張はない。過去数年間で、大きな問題とされているのは経済問題だ」と述べる。彼はさらに、次のことを強調する。「これまでブラジルは積極的役割を果たすことに抵抗していた」が、もしコロンビアが地域同盟と協力を求めるならば、コスタ・ボスは、ブラジルは恐らく協力するだろうと考えている。

どのような言葉を使おうと、ブラジルは、情報共有を通して、そしてブラジル内で、麻薬と武器商売及び暴力流出を止めるために軍事・警察活動を強化することにより、コロンビア内戦に関与することになっている。左派労働党のルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルバが秋に予定されている大統領選で選出されたとしてもこの傾向は続きそうである。

アマゾンのアクレ州から選出されたブラジル上院の労働党議員ティアン・ヴィアナは、労働党はブラジルにおける米軍基地と米軍には反対だが、諜報、訓練、協力で協力することについては、ブラジル側が実行する限り、支持すると述べている。「ブラジル領アマゾンには、ボリビア、ペルー、コロンビアから、麻薬取引と秘密の材木輸出に従事するグループの侵入がある」とヴィアナは言う。「アマゾンは非常に保護が少ない。軍と諜報作戦の必要がある」。

コブラ・プログラムは米国の関与に適したものであり、米国麻薬取締局(DEA)の担当官がブラジル領アマゾンの作戦を視察した昨年以来、ブラジルと米国の協力は強化されている。ブラジル連邦警察と米国DEAは、コロンビアでの、ブラジルの麻薬王ルイ・フェルナンド・ダ・コスタ(フェルナンド・ベイラ=マー:海辺のフレディ)逮捕、そしてルイス・フェルナンドの側近レオマル・オリヴェイラ・バルボサのパラグアイでの逮捕で協力しあった。

DEA長官アサ・ハッチンソンが最近米国議会で証言したところによると、コロンビアとブラジルのDEAエージェントは、現在、FARCの第16フロントのトマス・モリナ・カラカス逮捕を試みているという。DEAはまた、DEAとブラジル警察の特殊チームを、実地でのマネー・ロンダリング調査に当たらせているという。コロンビアの麻薬マネーの25%もが、ブラジルの口座に隠されていると主張しているのである。

ブラジルを大きな協力関係に誘い込むことにより、機材や訓練、作戦、開発プロジェクト、そして10年にわたるブラジル内での麻薬使用と麻薬関係暴力を促す資金がより多く入手可能になることを意味している。ブッシュ政権の アンデス地域イニシアチブは、今年、ブラジルに6百万ドルの麻薬対策援助と1260万ドルの社会開発資金提供を求めており、2003年のブッシュ政権の予算要求では、さらに麻薬対策資金として1200万ドルを求めている。

最近、ブラジルとペルーとエクアドルの大統領は、共同で、プラン・コロンビアの流出を扱うための国境地帯社会計画のために、米州開発銀行から13億ドルの貸借を要求している。ブラジルのカルドソ大統領は、6月19日の国家スピーチで麻薬に対する戦いを、以前のハイパーインフレに対する闘いになぞらえて、国の最重要事項であるとした。同時に、政府は、ブラジルに170万人のコカイン中毒者が存在すると推定されるという研究結果を発表した。

ブラジル国内での麻薬消費の増大とコカイン処理設備の増加は米国の麻薬戦争を阻害するものであると見られている。ブラジルの麻薬商人たちは自分たちのブランドの行き先を確保しており、ブラジルの大規模な化学工場からは麻薬精製に必要な化学物質入手の機会が得られる。

ブラジル中で麻薬商人は活動的かつ力を持っている。2001年の麻薬貿易と不処罰に関する議会調査では、800名に対する訴追が求められたが、そこには政治家や警察官も含まれていた。

麻薬市場としてブラジルが米国やヨーロッパに匹敵するようにまでなることを恐れ、米国はブラジルの麻薬政策を下手にいじり回そうとしている。米国はブラジルにおける新規の一連の麻薬法廷をデザインしたほか、米国式のDARE学校麻薬防止プログラムに資金提供を行っている。麻薬消費に対するブラジル人の態度についての研究も支援している。

麻薬は、ブラジルの巨大な刑事暴力問題や若者の殺人の増大のもとであると考えられている。リオデジャネイロでは、1万人が、麻薬配布と路上販売に関与していると言われている。国際労働機構(ILO)の研究によると、それに従事しているものの多くは子供である。「1995年以来より沢山の子供たちが麻薬取引に手を出したことが明らかになった。8歳の若さで取引に手を出し始める」とブラジルのILO子供労働部門長ペドロ・アメリコ・F・オリヴェイラは述べる。「こうした人々は貧しい人の中でも最も貧しい中からくる。片親家族である。親は働き子供は学校にいかない」。子供の麻薬商人たちの平均寿命は?オリヴェイラは、1年、と答えた。

ヒューマンライツ・ウォッチが最近発表した報告によると、ブラジル警察が拷問と殺害を頻繁に利用するため、さらに悪化している。ブラジル人調査ジャーナリストであるティム・ロペスが麻薬商売を行うギャングに殺害されたことにより、警察はリオデジャネイロのスラムを大規模に鎮圧した。これは、今後起こりうる過酷な行動を予想させる。ブラジル連邦政府が開始した共同タスクフォースは、軍諜報部を含んだもので、連邦警察と地方警察部隊の両方を利用する。ブラジルの問題を抱えた都市部を軍事占領せよと提唱する人々もいる。

カルドソ政権により昨年から麻薬戦争が急激にエスカレートしたことで、爆発寸前の社会状況をさらに悪化させる恐れがある。コスタ・ボスは、麻薬戦争の過剰な軍事化は、特に貧しい地域では、取締プログラムを注意深く考えないと、逆方向を向き爆発する可能性があると述べている。

「我々の国内状況は非常に微妙で危険である。今まさにリオで進められていることは社会対立を生み出している。軍を呼び込めば、内戦の扉は開かれるだろう。コロンビアの問題を解決するどころか、それをここで再現することになるだろう。」

ロナルド・J・モーガンはラテン・アメリカを専門とするフリーランス・ライター。


  益岡賢 2002年7月16日

一つ上へ] [コロンビア・ページ] [トップ・ページ