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『亜空間通信』453号(2002/12/09)
【米大統領モーローンかモーランか心理学用語訳の軽度精神薄弱を避けた朝日記事】
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転送、転載、引用、訳出、大歓迎!
たまには朝日新聞を褒めてやりたいのだが、やはり、難があった。以下は、いかにも朝日新聞らしく、自社の記者の自前の記事ではなくて、寄稿者に頼る軽い「揶揄」なので、こちらとしても軽く揶揄するしかない。
私は、この件で、カナダの首相補佐官がブッシュを形容した原語がmoronなりとの情報を得た直後、以下に収録したような注釈をほどこした。
[以下、引用]
http://www.jca.apc.org/~altmedka/aiaiai-84-aku438.html
『亜空間通信』438号(2002/11/12)
【ブッシュ"白痴"とNATO会議でカナダ高官が罵り紛糾CNN特番に至る経過総集編】
[引用終わり]
moronについては、どこかで書いた記憶があった。以下の電網検索で、即座に自分の文章が発見出来た。以下、抜粋紹介する。
中野好夫、悪人礼賛、憎まれ愚痴を検索しました。 約4件中1 - 3件目
[以下、引用]
http://www.jca.apc.org/~altmedka/pro-16.html
元日本共産党『二重秘密党員』の遺言
悪人礼賛[中略]
精神的奇形 [ルビ:モーローン。註] [中略]
註:原語はmoron。ギリシャ語の「愚か」に由来し、わがiMac内臓の小学館ランダムハウス辞書には、心理「軽度精神薄弱者」
さて、以下が、事件発生の11月22日から数えて12日後の朝日新聞記事である。
[以下、引用]
『朝日新聞』(2002.12.04.夕)
「柳瀬尚紀の猫舌三昧」
アメリカが咳すればカナダの首相報道官の女性が米国大統領をmoron呼ばわりしたことで辞任した。発音はモーラン。本紙の訳語は「うすのろ」、他紙には「まぬけ」も見える。
1910年、米国の心理学会が愚かの意のギリシア語から案出した語だ。もしジェイムズ・ジョイスの造語なら、妄乱[ルビ:モーラン]、耄乱[同前]、朦乱[同前]などの訳語が当たりそうだが、ジョイス作品には一度も現れない。この種の語が豊かなジョイス語彙に、どういうわけか入り込まなかった。ちなみにオーウェルの『牧師の娘』(35年)には《うつけ[ルビ:シリー]ジャック、苺みたいな三角形の赤ら顔の三等モーラン》というのがある。
この語に配慮を記している米国の英語辞典もあり、報道官は別の語を選べば問題はなかったのかも知れない。「たりないのよ。あの人」「もーっ、おめでたいんだから」「つたく、あのおたんちん」「なんや、あのあほんだら」「しようのないとんちき」「テキサスの与太郎さんだもの」……
やっぱり、いけませんな。公人たる存在は、筆者のごとき単独猫的極私人と違い、思ったことを口にしてはいけません。
最初、首相が件[くだん]の女性をかばった。今日の対米姿勢がちよっぴり垣間見えたように思う。かつてはこんなふうに揶揄[やゆ]された国。
Ours is a sovereign nation
Bows to no foreign will
But whenever they cough in Washington
they spit in Parliament hillspitは風邪がこじれて喉[のど]にからむ痰[たん]を吐くの意。脚韻を踏むこの4行風刺詩は、ジョウ・ワレスのものとされる。共産主義に傾倒し投獄もされたカナダのコラムニスト・労働者詩人。同国人の批評家ノースローップ・フライはこう評価する。「器用で鋭敏な詩書きが、愚直な韻文をものしているふりをしているにすぎない」
《わが国確たる主権持つ
異国の風よどこぞ吹く
然[しか]るにアメリカ咳[せき]一つ
カナダ国会痰を吐く》
米国の咳込みは激しくなる一方だが・…。(英文学者)
[引用終わり]
さすがは難解この上ない《フィネガンズウェイク》の訳者だけのことはある。大先輩の英文学者、中野好夫の片仮名表記、「モーローン」をアメリカの田舎訛りで「モーラーン」としてみたり、芸は細かい。
確かに、わが卓上玩具電算機に内蔵の小学館ランダムハウスよりは詳しい。しかし、これっくらいの語源説明は、私にだって、近所の図書館で「雄牛浅瀬」(oxford)とかのコケ脅かしの大型辞書を引く暇さえあれば、簡単にできる。訳業が商売ならば、自宅に所蔵しているのが常識である。私は、訳業を商売にしていない。
さてさて、そこで、少し揶揄すると、「1910年、米国の心理学会が愚かの意のギリシア語から案出した語」とまで詳しく記しながら、なぜ、さらには、なぜ、その「米国の心理学会」の学術用語としての定義を示さないのか、さらには、日本の「心理学会」の学術用語としての訳および定義を示さないのか。寝起き[ウェイク]が悪かったのか、それとも、怯えたのか。
「単独猫的極私人」を自称する筆者が、そこまで書けなかったのなら、なぜ、この欄の担当者が、補佐しないのか。ああ、要するに、やはり、昔の人が言いました「朝日似非紳士」の後裔たちなのである。
以上。