世界中のどの国もその国の国民を定めるための法律(=国籍法)を持っている。国籍を得るための方法としては、出生による取得と本人の意思に基づく申請による取得とがある。ここでは出生による取得について取り上げよう。出生による取得の場合には、親の国籍によるもの(=血統主義)と、生まれた場所によるもの(=生地主義)に大別される。
日本は伝統的な血統主義の国で、近年までは、日本人父親の子供にしか国籍が与えられない父系血統主義をとっていた。例えば、タイ人男性と日本人女性の間の子供には日本国籍が与えられていなかった。
1985年国籍法が改定され、日本人母親の子供にも日本国籍が与えられる父母両系血統主義が採られることになった。このほか、帰化条件に関しても男女平等になった。ところが、外国人女性と日本人男性の間の子供にも日本国籍が与えられると、これまで以上に二重国籍者が増えることになるため、国籍選択制度という、二重国籍者を管理・排除しようとする仕組みが導入されることになった。
国籍法改定後には、生まれつきの二重国籍者は22歳に達するまでに、国籍を選択しなければならない。国籍選択の方法としては、一方の国籍の選択宣言または一方の国籍の離脱がある。ポイントとなるのは、この国籍選択宣言というもの。「日本国籍を選択し、外国の国籍を放棄します。」という宣言を行うのだが、この宣言は必ずしも外国の国籍を捨てていなくても可能だ。実際、オーストラリアや韓国は、この宣言が自国の国籍には何ら影響しないと明言している。宣言が効力を発する国もあるようだが、そもそも日本の国籍選択制度のことを正確に知っている国が少なく、また宣言が外国に通告されることもないようだ。つまり、この宣言は「選択」というよりはむしろ、日本政府に対して日本国民になるという形式的な意思の表明に近い。
期限内に選択をしないと、法務大臣名で本人に書類が送られ、国籍の選択をするように催告がなされる。催告を受けた者が1カ月以内に日本国籍を選択しなければ、日本国籍を喪失することになる。
二重国籍が不都合とされるのは、たいていの場合、国家の側からとらえたもので、外交的保護(国外の国民の保護)と兵役義務に関して特に問題となる。個人の立場からいえば、二重国籍者はパスポートを2つ持てて便利かもしれない。