ミニ学習会報告

「環境ホルモンって?」

角田望


1)きっかけ

 やたらとセンセーショナルな話題が目につく環境ホルモン.精子の数が減っているだの知能の低下が起こっているだのと騒いでいるかと思えばなんと子どもが「キレる」のまで環境ホルモンが原因だという.知らなきゃなぁ・・と思いつつも,何となく面倒で「流行に乗るのもしゃくに障る」と妙ないいわけを考えたりで過ごしてきた.

 そんなわたしの目の前に一冊の本が何の前触れもなく突然現れる.かの有名な『奪われし未来』であった.父の職場の同僚がなんと私のために購入してくれたもの,とのこと.

 「いったい何のために?」と疑問を抱きつつも「もらったからには感想の一つでも言わなければ」という考えも働き私はその本を手に取ることになった.所詮人間はこういった何らかの「外圧」なしには動けないのかもしれない.

 とにもかくにもこれで私は環境ホルモンを知るための入り口に立ったのである.それが今回のミニ学習会につながるとも知らずに・・

2)概要

1.そもそもホルモンって何なのか

「環境ホルモン」と,「ホルモン」なる4文字が含まれているからには人間の体にあるあのホルモンと何か関係があるのだろう.というわけでホルモンについて少し確認をした.

ごくごく簡単に言ってしまうとつまりホルモンとは

  1. ごく微量で
  2. 血液中を駆けめぐり
  3. 体内のいろいろな器官に働きかけて何をどれだけつくればいいかを指示することで
  4. 生殖や代謝や成長を司る
  5. 化学メッセンジャーである ということなのだ

2.内分泌攪乱化学物質=環境ホルモンの作用

 さて,本題の環境ホルモン(正式には内分泌攪乱化学物質という).こいつはホルモンのレセプター(受容体)に対してホルモンと同じような働きをする物質である.その結果,不要なものが過剰にできたり必要なものが不足し,生体の正常な機能が果たせなくなるのだ.働き方は様々で例えばPCB,DDTなどは女性ホルモンの一種であるエストロジェンに似た作用を示し,DDEやビンクロゾリンといった物質は男性ホルモンの一種であるアンドロジェンの作用を阻害する.しかし,その働き方の仕組みについてはまだわかっていないことが多い.

3.実際の汚染例

 この項ではこれまでに世界各地で起きた環境ホルモンが原因であろうと思われる汚染を具体的にあげて紹介した.もっとも特徴的なのはカナダ,アポプカ湖での事例で,事故でDDTが大量に流れ込んだ後,湖のワニの数が90%も激減し,孵化したわずかなワニもそのうちほとんどがメスで,オスも卵巣を持っているなど限りなくメスに近い状態であったという.

4.環境ホルモン汚染の特徴

 環境ホルモン汚染の大きな特徴として次の4つがあげられる.

  1. 非常に微量で大きな作用を及ぼす
  2. 汚染源から遠く離れたところで汚染源近くより大きな被害を受けることがある
  3. 現れた現象と原因となる化学物質の因果関係がわかりにくく立証しにくい
  4. とにかくわからないことが多い

5.現在とられている対策

 この項では環境庁,諸外国,国際機関等における環境ホルモンに対する取り組みについて取り上げた.しかし現時点ではどこもまだこの新たな問題についてとまどっている状況のようで「とにかくわからないことが多すぎる.まず調べてみよう,対策はそれからだ」という段階にあるように思われた.

3)感想

 例会後企画を担当したのはこれが初めてだったため,はじめは少し緊張してしまったが,途中「男性にも女性ホルモンがあったとは!」「ppmとはなんぞや?」などといった意外なところで(?)驚きや疑問の声があがり,そこからいろいろな話題に発展して和やかな雰囲気になったので,少なからずほっとした.これが偽らざる第一の感想である.クローバーや大豆に環境ホルモンのようなエストロジェン様物質が含まれるという「植物ホルモン」の話題も意外に皆の関心を集め,ひとしきり盛り上がった.

 さて,今回のテーマである環境ホルモンそのものについてだが,事態の深刻さを知って何らかの対策を早急に立てる必要性を感じた人と,そうでない人がいた.そうでない人は,環境ホルモンの問題がそんなに大げさに取り上げられるべきものなのかという点に疑問を感じるという.確かにこれだけセンセーショナルに報道されれば何が本当かというのは非常に見分けにくい.情報の受け手側の不安に乗じて読者獲得のためにやたらと恐怖をあおり立てるような書き立て方をしているとすれば,報道が実際よりも誇張されたものとなっている可能性はある.しかし私の個人的な意見としては,多少煽動的な部分があったとしてもやはり世論の盛り上がりというのは歓迎すべきことなのではないかと思う.一部の学者が環境ホルモンについていくら冷静に事態を分析し,正論を述べたとしても関心を持つ人が少なければ解決につながりようがない.

 環境ホルモンという名前自体に疑問を感じるという意見もあった.環境という曖昧な表現を使ってごまかしている感じが否めない.内分泌攪乱化学物質の方がよっぽどわかりやすくてよい・・確かに私も80%そう思う.きっとそんな曖昧な名前を付けるから想像が無限に広がってややこしくなるのだ.しかしこのなぞめいた名前ゆえにこの問題は人々に関心を持たれている,ともいえないだろうか.はじめの関心の持ち方はその程度でもそれをきっかけにいろいろと知っていけばいいのかもしれない.

 等々私にとっていろいろと考えさせられることの多い初例会後企画であった.私のつたない説明を聞いてくださったみなさまに感謝の意を表してこの報告を終わりたいと思う. どうもありがとうございました.

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