第8回日本軍「慰安婦」問題解決のためのアジア連帯会議(ソウル)報告
――「アジア」から「世界」へ、国際連帯の力で戦時性暴力の根絶をめざす――


アジア連帯会議会場内
 5月19日から21日、韓国挺身隊問題対策協議会(以下、挺対協)の主催するこの会議は、1992年8月に歴史的一歩を踏み出してから15年の歳月を経て第8回を迎えた。ソウルで開催されたこの会議には、「アジア連帯15年、今後の課題と連帯のために!」をテーマに、南北朝鮮(韓国と朝鮮民主主義人民共和国)をはじめ、日本、台湾、フィリピン、インドネシアのほか、オブザーバーとしてアメリカ、オーストラリア、ドイツからも参加した。
 被害者ハルモニたちも大邸(テグ)やナヌムの家などから支援者らと共に駆けつけ、台湾とフィリピンからも被害者が参加し証言した。台湾から来られた方は90歳、日本人支援者に脇を抱えられるように登壇する姿は痛々しい。高齢化する被害者たちの中で、どうにか体が動く人は皆ここに結集したということなのだろう。何とか被害者の方々が生きているうちに解決を、という私たちの悲願に残された時間はもうリミットが近づいている。

参加された被害者ハルモニたち
 しかし、参加者の表情に悲壮感はない。国際社会がこの問題に目を開きつつある確かな手ごたえを誰もが感じていたからではないか。米議会下院で、日本政府に「慰安婦」問題解決を迫る121号決議案への賛同者が急増し採択の可能性が高まる中、今回の会議は韓国内外で注目されるタイムリーな形で開催された。会議は、安倍首相と右翼政治家による日本軍性奴隷犯罪の否定と国家責任回避、過去の侵略戦争の美化、憲法9条改悪など戦争国家への動きを強く警戒し厳しく批判した。

 アジア連帯会議は、各国で進められている活動の状況を共有し、アジアの女性たちが共に連帯して活動する共同行動を決定するなど、重要な役割を担う場となってきた。95年3月の第3回会議では、「国民基金」による運動の撹乱・妨害・分裂にもかかわらず、アジア被害諸国からの参加者は「国民基金」に反対する立場で強く結束した。会議の主催者・挺対協が確信をもって闘いを牽引していくことができた背景には、このようなアジアにおける国際的な連帯活動があったのである。2000年東京で開催された「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」という画期的な取り組みを成功させることができたのも、アジア連帯という基本的枠組みがあったからこそである。

会場内展示物
日本軍「慰安婦」アリラン
 会議は、日本、北朝鮮、フィリピンからの連帯のあいさつに続いて、基調報告となる「テーマ発表」が行われた。挺対協ユン・ミヒャン共同代表は、第1回から第7回の会議での主要な争点をていねいにふり返り、15年の闘いを謙虚に総括した上で、残された課題「今何をなすべきか」に言及した。それらは、続く各国からの活動報告と討議を踏まえたうえで決議文に集約されている。(第8回アジア連帯会議決議文・参照)
 彼女は、常に国際連帯の意義を強調する。私の知る限り彼女の報告やあいさつの中に「クッジェ・ヨンデ(国際連帯)」の言葉が聞かれないことは一度もなかったように思う。あたかも、これまでの苦しい道のりを支えてきたものが何であったかを自らに言い聞かせ、決意を新たにしているかのようである。

 挺対協はもともと、「暫定的に」発足した小さな市民活動団体だった。これほど長期にわたる闘いをすることになろうとは思ってもいなかったと、ユン・ミヒャンさんは語っていた。その小さな市民団体がここまで粘り強く闘い続け、これほどの国際会議を開催していることに大きな共感を覚えないではいられない。今回、はじめて挺対協から正式な招請文をいただいて参加した。日本からの参加者はこれまでで最も多い47名。予定より大幅に増えたそうである。その中の一人に加えてもらったことは、それだけの自覚と責任を引き受けることでもある。

テーマ発表
挺対協ユン・ミヒャン共同代表
 用意されていた分厚い冊子は基調、各国の報告、資料などを、それぞれ韓国語、英語、日本語で収録している。在日の友人が二人、挺対協で働いているが、彼女たちが今回活躍したであろうことは想像に難くない。そうした積み重ねがこの闘いの底力になっていると感じた。VAWW-NETジャパンや、大阪民主女性会(ヨソンフェ)をはじめ日本国内各地でこの問題に地道に取り組んできた人々との交流も大切な成果である。
 「残された時間」はわずかだが、それに縛られることは未来に希望を託そうとする被害者たちの本意ではない。「アジア連帯」から「戦時下性暴力の解決をめざす国際連帯会議」への拡大発展をめざそうという挺対協の力強い新たな提起が、すべての日本軍「慰安婦」被害者の存在に、その闘いに、新たな重みを加えようとしている。「日本政府は動かずとも世界が動き始めた」(ユン・ミヒャン共同代表)ことを、参加者全てが実感したであろう2泊3日だった。
 会議は全日程を終えた後、参加者全員で、We shall overcome を歌って散会した。

2007年5月28日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 N・Y



<カンパのお願い>
  日本軍「慰安婦」被害者の名誉と尊厳回復のための韓国ソウル「戦争と女性の人権 博物館建設基金」にご協力下さい。建設予定地を確保したにもかかわらず、必要な資金が不足していることから着工を1年延期せざるをえないという厳しい実情にあります。皆様の支援を再度心からお願いいたします。



 行動提起 
 6月14日(木)11:00、国会前で安倍首相の暴言に抗議し撤回を求める中央行動をやろうと、会議終了後に集まった日本からの参加者の間で提起がありました。当初は、米議会での決議案が採択されたら、というものでしたが、それはそれで各地で行動をおこすとして、いつになるか分からない決議採択に依拠するのではなく、私たちの声を国会に届けようというものです。詳細はその場では決まりませんでしたが、日時だけを決めてそれぞれの主張、スタイルで集まろう、というものです。平日の昼間ですが、ご都合のつく方、ぜひご参加ください。詳細は後日おしらせします。




第8回 日本軍「慰安婦」問題の解決のためのアジア連帯会議 決議

 2007年5月19日から21日まで「アジア連帯15年、今後の課題と連帯のために」をテーマにソウルにて開催された第8回日本軍「慰安婦」問題の解決のためのアジア連帯会議には、南北朝鮮、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、オランダに加え、アメリカ、ドイツ、オーストラリアから参加した。

 1991年、長い沈黙を破った日本軍「慰安婦」被害者の勇気ある証言以来、私たちは生存者たちの苦痛を分かち合い心身の傷を癒すために努力しながら、国連をはじめとする国際機関による日本政府への謝罪や賠償などの勧告や、2000年の日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷において「天皇有罪」を勝ち取ったが、これらは日本軍「慰安婦」問題の解決を通して、女性の人権と平和、正義を実現するべく努めてきたアジアと国際社会の連帯活動の成果であった。

 一方、日本政府が法的責任を回避するために設置した「女性のためのアジア平和国民基金」(国民基金)を2007年3月末で解散したが、日本軍「慰安婦」問題の解決策ではなかったことが確認された。日本政府は、日本軍「慰安婦」犯罪に対する公式謝罪と賠償及び真相究明と再発防止を通じて、人類の普遍的価値の実現に寄与するどころか、安倍首相をはじめ、政治家たちは日本軍性奴隷犯罪に対し国家責任を回避する発言を繰り返している。更に、侵略戦争と植民地支配の教訓を反故にし、日本国憲法9条の改悪を試み、戦争国家への回帰を進めている。

 しかし、米国下院議会の121号決議案の採択の動き、カナダやオーストラリアの議会での決議案採択に向けた努力、国際人権団体の連帯の広がりなどから見られるように、これは生存者や加害・被害該当国家の市民だけの問題ではなく、普遍的かつ未来志向的な課題であるとの認識が広がり深まっている。

 そこで私たちは、希望の中で連帯の力を一層固く確信しつつ、以下のように決議する。

1. 私たちはアメリカをはじめ各国の議会で進められている日本軍「慰安婦」関連の決議案を支持・支援し、その採択のためのあらゆる行動に取り組む。

2. 私たちは、1993年の「河野談話」の見直しに反対し、真相究明及び国家賠償のための立法措置を通じて、政策的実行と責任を伴った公式謝罪と賠償、真相究明と再発防止措置をとることを強く要求する。

3. 私たちは日本政府に国連人権機関の勧告を実行することを要求し、国連人権理事会が日本軍性奴隷問題を引き続き扱っていくよう監視し要求する。

4. 私たちは各国の日本軍「慰安婦」問題を中心とする平和、女性博物館などのネットワーク活動を通して、民間レベルでの歴史記録や記憶の継承、市民教育に努める。

5. 日本軍「慰安婦」問題の解決のためのアジア連帯会議の15年の精神と活動成果を引継ぎこれを国際連帯会議へと拡大発展させる。

2007年5月21日
第8回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議参加者一同




第8回日本軍「慰安婦」問題を解決するためのアジア連帯会議
南北共同声明書


 かつて日本帝国主義は我々民族に拭えない傷と痛みを残した。日本帝国主義は侵略戦争を遂行するために、朝鮮の物的資源をすべて略奪し、徴用、徴兵、性奴隷として、私たちの祖父母、両親、兄弟たちを侵略戦争や苦役の様々な現場に拉致して行き、戦争が終わると戦場にそのまま置き去りにしたり、集団的に虐殺したり、軍の関係資料を組織的に焼却破棄し犯罪を隠蔽した。

 それにもかかわらず、日本政府は敗戦後、彼らが犯したひどい反人道的、反平和的犯罪について全く反省することなく法的な責任を履行しなかったばかりか、むしろ侵略の歴史を美化し戦犯たちを祀り上げるなど二重の罪を犯している。

 日本政府は国際社会が人類歴史上、例のない最も残酷な人権蹂躙行為としてみとめられている日本軍性奴隷犯罪について認めもせず、首相から閣僚会議に至るまで強制動員を否認するなど、犯罪の本質を歪曲・隠蔽し歴史を否定する行為を重ねている。

 また、在日同胞に対する弾圧と迫害を一層強めている。
 在日同胞は日帝が我が民族に不法に強要した強制連行と収奪の直接的な被害者であり、その子孫である。日本政府は在日朝鮮人に対する脅迫と暴言、暴行を行っている。右翼勢力の蛮行を黙認・助長するに止まらず、今日に至っては権力まで動員し在日同胞に対する逮捕と押収捜査など非常事態に見られるような人権蹂躙行為を敢行している。

 それだけではない。日本は未来社会の主役になる青少年たちに日本が過去アジアと太平洋地域の民衆たちにどのような苦痛を与えたかについて全く教育しないだけでなく、むしろ教育を通じて軍国主義的国家観を確立させようとし、首相をはじめ政治家たちが「靖国神社」参拝を強行し過去侵略戦争を美化し、軍国主義の復活を積極的に推進している。

 特に「平和憲法」を破棄し軍隊の保有を明記し軍事大国化を実現することによって、アジア地域に再び戦争の影を忍ばせようとしている。

 我が民族に強要された日帝の軍事的占領の歴史を正しく清算することは南北、海外すべての民族のゆるぎない意思であり、私たちは日本のこのような過去清算の回避、軍国主義の復活策動を決して見逃さないだろう。
 第8回日本軍「慰安婦」問題解決のためのアジア連帯会議に参加した南北海外の諸団体は日本の植民地下でおこなわれたすべての過去犯罪の早急な解決のために全民族的な連帯闘争を一層強化していくことを厳粛に声明し、次のように強力に要求する。

一、 日本政府は朝鮮半島に対する侵略と略奪、徴用と徴兵、日本軍性奴隷制など過去、我が民族に犯した犯罪に関するすべての資料を全面公開し、それに対する公式謝罪と賠償など法的な責任を履行するための政治的、法的な処置を至急施行しろ!
二、 日本の安倍首相と閣僚会議は去る3月に発表した日本軍性奴隷強制動員を否認する立場を直ちに撤回し「河野談話」を継承、発展させるための調査法案を制定し政府内に真相糾明委員会を設置しろ!
三、 日本政府は歴史歪曲、戦争犯罪に対しての美化を直ちに取りやめ、歴史教科書に日本軍「慰安婦」制度とすべての戦争犯罪、反人道的犯罪を正しく記録し再びこのような犯罪が起こらないように措置をとれ!
四、 日本政府は不当な対北朝鮮敵視政策を直ちに撤回し、在日同胞に対する民族的な差別弾圧行為を直ちに中断し在日同胞の人権保護のため社会的、制度的措置をとれ!
五、 日本政府は自衛隊法改正と「平和憲法」改悪で軍国主義を復活することによって世界平和を脅かす行動を直ちに中断しろ!

 私たちは今日まで過去清算を要求する連帯闘争で積み重ねた成果に基づいて日本政府から徹底的な真相究明と公式謝罪、完全な賠償を受け取るまで全民族的な団結を強化し続け世界の広範な女性及び人権団体と固く連帯しより一層、力強い闘争を広げていくだろう。

2007年5月21日
第8回日本軍「慰安婦」問題アジア連体会議 南北・海外同胞参加者一同