反占領・平和レポート NO.10 (2002/03/28)

兵役を拒否したヤイール君の収監直前の声明/
NHK「兵役拒否−−イスラエル18歳の決断−−」



■3月17日(日)NHK総合テレビで放映された「兵役拒否−−イスラエル18歳の決断−−」を多くの方がご覧になったと思います。この中で、兵役拒否を宣言していたヤイール君が、18歳の誕生日から約2か月後に出頭を命じられることになっていたのが急に早まり、通知された翌日出頭しなければならなくなって、仲間にeメールを送る場面がありました。番組では非常に短い要約だけが字幕で流れましたが、実は彼のその時のメール文はもっと長く、18歳の文章とは思えない力強さでした。というよりヒューマニズムを越えるイスラエル社会の変革を求める宣言でもあるのです。私たちもびっくりしました。そのヤイール君のeメールによる声明の全文を翻訳紹介します。この声明は、イスラエルの民主的・進歩的政党、ODA("The Organization for Democratic Action", 『民主的行動のための組織』)の隔月刊英字誌「チャレンジ("Challenge")」第71号に掲載されたものです。

■ヤイール君たちは、昨年夏の終わりごろ62名でシャロン首相宛ての手紙を公表しました。そこでは、こう述べられています。「私たちはイスラエル政府や軍の攻撃、人種差別的政策に抗議し、私たちがその政策に加わるつもりのないことを告知したいと思います。私たちは、イスラエル国家によって行われている、人権を踏みつけるような行為に激しく反対します。」「私たちは、自分たちの良心の要求に従うことが私たちの願いであり、またパレスチナ人民への抑圧行為に加担することを拒否いたします。」「私たちは、同年代の人達に呼びかけていますが、同様に、兵役に就いている人々、職業軍人、そして予備役の方々にも同様に、私たちの例に続くよう呼びかけます。」(「パレスチナ・オリーブ」のサイト(http://www5a.biglobe.ne.jp/~polive/index.html)に、この手紙の全訳と中心になった5人のインタヴューの翻訳が掲載されています。)
 ヤイール君たちは、実は、イスラエル国内でユダヤ人とアラブ人(パレスチナ人)の平等な共生を実現しようと活動している人々と深く結びついているのです。イスラエル国内で差別され抑圧されながら暮らしているアラブ人(イスラエル全人口約600万人のうち約100万人)の闘いがあります。それを支援しいっしょに闘っているユダヤ人がいます。彼ら彼女らは、イスラエル内のアラブ人(パレスチナ人)の、特に女性と子供たちの教育に力を入れています。その人々が、イスラエル内のパレスチナ人の子供たちのサマーキャンプを企画し、更にそれに参加した子供たちとユダヤ人の若者たちとの交流会・討論会を組織しました。ヤイール君たちは、それに参加してパレスチナ人の若者たちと交流し討論し、占領地での実態など現実を知るようになっていったのです。

■昨年12月29日のエルサレムでの反占領行進にヤイール君の仲間も参加していました。そこで、彼ら彼女らの中で初めて軍刑務所に収監されたヤイール君の顔写真と収監直前の声明を刷り込んだ絵葉書が配られていました。年が明けて、予備役将兵たちのあの軍務拒否宣言が新聞に公表されましたが、それは、ヤイール君たち高校生の闘いに大人たちが応えたという意味合いをもっています。そのヤイール君たちと親しく接し支えている人たち(イスラエル国内のパレスチナ人女性、そして共に闘っているユダヤ人女性)が来日し、仙台、東京、大阪で講演しました。NHKの番組では、孤立したヤイール君は高校を中退しアルバイトで生活していると紹介されていましたが、彼女たちによれば、ヤイール君は無事高校を卒業する運びとなったそうです。イスラエル国内の世論の変化が背景にあるのでしょう。あの番組の取材のときには、ヤイール君は中退するつもりだったのだと思います。それほど周囲の逆風が強かったのだと思います。
 でも急速な変化が起こりはじめました。今年2月9日のテルアビブでの集会でヤイール君の仲間が発言しました。アメリカのベトナム反戦がたった一人のデモから始まったことを述べながら、力強いアピールをして、集会参加者の熱烈な拍手喝采を浴びていました。まさにヤイール君たちが切り開いた闘いが、燎原の火のごとく拡大しはじめました。恐れを知らぬ若者たちの、正義を希求してやまない直情が、さまざまなしがらみと利害にがんじがらめにされている大人たちをも動かしはじめました。

■ヤイール君は62人の仲間の先頭を切って収監されました。政府や国防軍、マスコミやイスラエル社会全体の有形無形のもの凄いプレッシャーが彼の上にのしかかっていることは容易に想像できます。私たちの一体どれほどが、彼と同じ立場に立ったときに、彼と同じような抵抗ができるだろうか。そう思うと、彼と彼らの仲間の正義感と人間性と真剣さは、半端なものではありません。遠く離れた日本の地で反戦平和運動に取り組む私たちにも峻厳さを持って迫ってくるようです。
 と同時に、私たちは彼を何とかして元気付けなければならないという思いに駆り立てられました。もう一度ここで、彼ら軍務拒否者を支援するオンライン署名運動に、一人でも多くの皆さんが参加してくださるよう呼びかけたいと思います。
 これも番組の中であったことですが、彼がやけどを負って一時帰宅が許されたときに、彼は持ち帰ったリュックの中から、本当にうれしそうに全世界からの励ましの手紙を父親に見せて、父親に読んで聞かせてもらっている場面がありました。(中には読めない手紙がありましたが、それでも身体全体で喜びを表現していました)やはり孤立した闘い、孤独な抵抗をしている時に、力になるのは共感や連帯のメッセージではないでしょうか。一通の手紙、一葉のはがきが、巨大なイスラエル国家と闘っている小さな闘士に大きな力とエネルギーを与えるのです。
 
 以下は、ヤイール君の収監直前の声明です。

2002年3月28日
アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名事務局




良心にもとづく拒否の声明

 私の名前は、ヤイール・ヒィルです。私は、18歳です。私はイスラエル軍への徴兵を拒否しました。そのため、まもなく軍刑務所へ送られます。私は、自分の拒否を動機づけている理由が多くの人々に分かち合ってもらえると信じ、収監される前にこの声明を書くことに決めました。
 私は、イスラエル軍のような巨大で暴力的な組織に加わることを命じられるとき、それがどんな活動にたずさわっているか、それが誰に奉仕しているか、と問わざるをえません。私の両親、先生方、友人たちは、こう答えます。国軍は自分と他の市民の安全を確保するために必要だ、と。でも、私はこの答えでは納得できません。私は、イスラエル国家がその樹立以来ずっと力づくで創り出そうとしてきた純粋にユダヤ人だけの場所が、どれほど私たちの安全を増してきたか、ということを見ようとしても見ることができません。私は、国家テロ−−それが引き起こす対抗テロよりもずっと残虐で広い範囲にわたる−−によってパレスチナ人の抵抗を抑圧することが、私もその一部であるこの社会に、どのように役立っているのかを見ようとしても見ることができません。国家の行為は、それは軍を通じて行われていますが、私や私が気づかう人々に一体どのように役立っているのでしょうか? イスラエル国家によって創り出された「無菌の」ユダヤ人スペースは、そこに住むユダヤ人住民にとってのゲットーです。それは、ユダヤ人が中東に溶け込んでいくことを妨げています。この場所で安全な人は誰もいません−−ユダヤ人も、アラブ人も。
 それでもなお、私に反対の人々はこう主張するかもしれません。イスラエルは民主主義国家であり、その軍隊は人民の軍隊だ、と。私は、そういう人々は一体どこに住んでいるのだろうと不思議に思います。私には、軍の行動に影響を与える力はありません。私の友人たちと私は、そうしようと努力はしていますが。私には、戦争をやめさせ、失業をなくし、不平等をなくすことができません。イスラエル市民の大多数は、現在のこの状態を変えたいと願っています。それでもなお、国は平和と福祉と平等を阻止するためのあらゆることを行っています。不思議なことに、あらゆることが資本家と将軍たちの利益に奉仕する結果となっています。
 イスラエルの軍人たちと資本家たちは、彼らのパレスチナ人の仲間たちといっしょになって、権力にとどまるためにできる限りのあらゆることを行っています。彼らのマスメディアと教育システムは、悪質なナショナリスティックな宣伝や憎しみや恐怖を広めています。そうすることで彼らは私たちを分断し支配しています。彼らは、アラブ人とユダヤ人を、東洋と西洋を、お互いにけしかけ、そのなかで統治し続けています。これらが私たちの本当の敵で、私たちが物理的経済的安全に到達することを妨げているものです。彼らに反対して、アラブ人とユダヤ人がいっしょに立ち上がるべきです。
 私は、今のこのような現実を受け入れたくはありません。ましてや、イスラエル軍に、またいかなるテロ組織にも、奉仕することによってそれに貢献することなど、したくはありません。




軍務拒否を宣言した兵士たちを支持し応援するオンライン署名へのご協力をあらためて呼びかけます!

 ヤイール君を元気付けるために、彼ら軍務拒否者を支援するオンライン署名運動に、一人でも多くの皆さんが参加してくださるようあらためて呼びかけたいと思います。

以下の順序で署名を行ってください。

(1)まず http://seruv.nethost.co.il/civeng.asp にアクセスします。
(2)赤字の「Name」欄のみが不可欠で、他は自由です。名前はローマ字式で書き込んだ方が良いと思います。IsraelかあるいはOutside Of israelかにチェックをして、City欄くらいは書き込んだ方が世界の人々に分かりやすいでしょう。これらを書き込んで、左下の「send」をクリックすれば、少しして「THANKS FOR THE SUPPORT!」の画面が出ます。これで完了です。
元のページに戻して「Non Israeli List」または「Full List」をクリックすれば自分の署名が入ったのを見ることができます。

次のページに拒否宣言の全文と拒否者名がすべて掲載されており、リアルタイムで軍務拒否者の人数を見ることができます。 http://seruv.nethost.co.il/defaultEng.asp

関連ページ:「占領地での軍務拒否を宣言した兵士たちを支持し応援するオンライン署名を!






 アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名運動 事務局