小泉靖国参拝違憲台湾訴訟控訴審判決傍聴記
小泉首相の靖国参拝は「憲法違反」!小泉首相は靖国参拝をやめよ!
台湾の人々の運動が日本の違憲訴訟の歴史を塗り替える
−−日本人に突きつけられた植民地支配、戦争責任の真の清算−−
2005年9月30日、大阪高等裁判所で、小泉靖国参拝違憲大阪第二次訴訟(台湾訴訟)の控訴審の判決が出されました。結果はメディアで大々的に報じられたように、小泉首相の靖国参拝は、職務としてなされた公的なものであり、それは憲法が禁じる宗教的行為に当るとして、明確に憲法違反の判断を下したものでした。原告らが主張する権利侵害の訴えについても、これまでの裁判に比べると一歩踏み込んだ内容でした。憲法で定められた思想良心の自由、信教の自由は、単に直接的な強制や禁止だけでなく、布教、宣伝等による圧迫、干渉から内心を保護するものととらえ、これまでの裁判では一蹴されてきた戦没者の祭祀に関する自己決定権の存在を認めたものでした。しかしながら、損害賠償の認定については、首相の行為が直接原告らに向けられたものではないというただ一点をもって退けられてしまいました。
判決の当日、私は原告の人々の思いがなんらかの形で実ってほしいと願いながら裁判所に向かいました。果たして昨今の政治情勢におもねる判決となるのか、それとも逆に何らかのストップをかける判決となるのか。正直なところあまり大きな期待はしていませんでした。というのも、今年7月26日の小泉靖国参拝違憲大阪第一次訴訟(アジア訴訟)の大阪高裁における控訴審判決では、かろうじて一審の判断、すなわち、首相の行為は公的なものであるという点を確認したに過ぎず、そこから憲法判断にむけて一歩も前進することはありませんでした。弁護士さんの言い方を借りれば「つまらない判決」でした。
さて、裁判所に到着し、いつものように傍聴券の抽選のために芝生前のロープで区切られた場所で待っていると、遠くから勇壮なかけ声が聞こえてきました。台湾原住民原告の方々がやってきたのです。手には大きな写真パネルを抱えていました。そこには台湾原住民が日本軍兵士によって首を切られる瞬間が映っていました。
今回の抽選では久々に当りを引き当て、法廷内に入ることができました。裁判官の入廷の後2分間の写真撮影。その直後、裁判長による判決が読み上げられました。
「控訴人らの請求を棄却する。」
ぼそっとした声で言った後、何らの内容の説明もしないまま、そそくさと法廷から退場していきました。ああ、こんな光景を何度見たことか! 原告、支援者の人々からは「不当判決だ!」「理由を明らかにせよ!」などの怒号が飛び、一方靖国の支援者からは拍手と万歳三唱、そして「すばらしい判決だ!」といった喜びの声があがりました。
私は悲しみがじわじわとこみ上げてきました。あれほどの訴えが一言で退けられる…。やりきれない思いでいっぱいでした。原告の人々は「謝罪」等々の要求を書いた紙を一人ひとりが高く手に持ち裁判所を退出していきました。そして抗議の声をあげた後、その紙をずたずたに引きちぎってしまいました。原告の人々の悲憤はこうした行動に示されるほどにすさまじく深いものでした。
しかしながら、その時、新聞記者から弁護士の方に判決文の内容が伝えられてきました。「違憲」の言葉が入っているというのです。意外な成り行きにその周辺にいた人々は驚いて弁護士の言葉に耳を傾けました。さらに詳しい話が明らかになってきました。どうやら福岡地裁での判断よりも更に踏み込んだ内容で、実質勝訴らしいという話なのです。
それを聞いて、今度は私の胸に感激がひたひたと押し寄せてきました。日本の裁判史上かつてない判断が出されたのは、やはりチワス・アリさんを筆頭に台湾原住民原告の人々の力が大きかったと思います。今年6月17日に行なわれたチワス・アリさんの本人尋問は、明らかに頑なな裁判官の心を揺り動かしました。普通は双方の弁護士のみが尋問を行なうのですが、裁判官自身がいくつかの尋問をしたのです。これは異例のことで、裁判官がこの裁判に真剣に取り組んでいる姿勢の表れでした。弁護士の方は、この点を捉えて、「ひょっとしたら…」と期待を表明していましたが、まさにその通りのことが起こりました。
しかし、裁判所は原告の損害賠償請求に対しては棄却してしまいました。日本が台湾を植民地とし、その原住民の人々を戦争に駆り出し、戦死させ、それを現在の日本の首相が顕彰することで台湾の人々が感じた苦痛については、結局のところ、損害賠償には値しないという判断だったのです。これは今の日本の裁判所の限界であり、そしてまた日本の運動の限界だと思います。
チワス・アリさんはこの判決を受けて、「憲法違反かどうかは日本人の問題であって、日本人ではない私たちにとっては、それは大きな問題ではない。私たちは自らの尊厳を取り戻すために闘っているのだ。」と述べました。
それは、この違憲判決を喜んでいるだけではいけない、植民地支配・戦争責任の清算はまだまだ終わっていない、という私たち日本人に突きつけられた重い問題提起です。
この判決を足がかりにして、さらに真の謝罪と反省、そして未来への和解に向かって進めるかどうかは、私たち自身の肩にかかっているのだと思います。
2005年9月30日 (大阪Na)
[参照]
●小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団 大阪訴訟HP
http://www005.upp.so-net.ne.jp/noyasukuni/
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