陸上自衛隊のイラクからの撤退開始にあたって−−−−−−−
イラク戦争への加担をやめ、空自部隊を含む全ての自衛隊を撤退せよ!
−−秋の臨時国会、来年の通常国会を見通して、憲法改悪反対、教基法改悪反対の闘いを強めよう−−
◎空自の活動の強化・拡大反対、自衛隊の無条件完全撤退、イラク戦争・占領から全面的に手を引け
◎憲法改悪反対、教基法改悪反対、共謀罪反対
◎「防衛省」設置法案反対、海外派兵「恒久法」反対
◎辺野古の新基地建設反対、米軍再編=在日米軍基地再編反対、3兆円負担反対


[1]航空自衛隊の活動の強化・拡大反対!これ以上イラク戦争に加担するな。これ以上憲法を踏みにじるな。

(1) 日本政府は6月20日、イラクからの陸上自衛隊の撤退を決定し、撤収作業を開始しました。私たちは、イラクへの2年半にわたる自衛隊の派兵が、ブッシュの無法な侵略戦争、国際法を無視した先制攻撃戦争、イラクの数十万人もの人々を殺害した大虐殺戦争に対する加担であったことを改めて厳しく糾弾します。
 自衛隊はこの期間に第10次隊まで総計5500人もの地上部隊をイラクに海外派兵しました。言うまでもなくそれは、自衛隊史上最大の海外派兵であり、武装地上部隊の派兵、戦後初めての戦場への部隊派兵でした。正真正銘、憲法9条違反です。自衛隊は、「復興支援」の美名のもと、米軍の後方支援も含め、イラク侵略戦争に加担し続けてきたのです。
 自衛隊のイラク派兵は、米国のための、米軍との同盟関係維持のための派兵でした。各国が相次いでイラクからの撤退を決定する中、今春には帰るつもりが、米国に恫喝されズルズルとずれ込み、いまようやく米側から地上部隊の撤収の「許可」が出たのです。
 全てが万事、米軍の意のままにしか動けないのが、今の小泉政権と自衛隊のやり方なのです。この対米従属的な対応そのものの中に、米軍との軍事一体化の危険が端的に出ています。後述するように、一旦正式に「恒久法」なる米軍とのグローバルな軍事介入体制を決めてしまえばどうなるのか。憲法を改悪して、英軍のように先頭に立って進撃する軍事行動、虐殺行為を米軍と一緒にやればどうなるのか。空恐ろしくなります。


(2) 小泉政権は、陸上自衛隊の撤退は決定しましたが、ブッシュのイラク戦争への加担をやめた訳ではありません。いや、それどころかますます露骨な形で加担しようとしているのです。しかし、政府や新聞・テレビは、まるで自衛隊が全て撤退するかのように印象付けようとしています。航空自衛隊の活動は、大したことがないものであるかのような報道をしています。とんでもありません。

 額賀防衛庁長官は、陸上自衛隊の撤退命令と併せて、航空自衛隊の活動の強化・拡大を表明しました。これまでクウェート―イラク南部タリル空港及びバスラ間に限られてきた輸送先を、バグダッド空港と北部アルビル空港に拡大し、曲がりなりにもサマワに駐留する自衛隊への物資輸送と人道支援物資の輸送が中心とされてきた航空自衛隊の任務を、イラクの、特にバグダッドや北部のアンビルなどで掃討作戦を展開する武装米兵やその戦闘物資を輸送する露骨な侵略戦争支援中心に転換しようというのです。同時に、米軍などとの連絡調整、情報収集に当たる空自の「バグダッド連絡班」を編成する方針を打ち出しています。多国籍軍の一員として、米軍の作戦行動にますます組み込まれていこうとしているのです。
※イラク自衛隊 空自は活動継続、北部空港にも輸送拡大(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060621-00000001-maip-pol

 バグダッド周辺やイラク北部、いわゆるスンニ派三角地帯は、この3年で2500人を越える米兵が死んだ、そしてそれをはるかに超える数万人、あるいは10万人ものイラク人が殺された正真正銘の戦場です。ここに自衛隊を送ることは「憲法違反」そのものに該当することは言うまでもありません。日本政府は、さすがに、大規模な掃討作戦が展開されているバグダッドが「非戦闘地域だ」とはいえず、バグダッド空港だけを地域全体から切り離して「非戦闘地域だ」と強弁し、「自衛隊の行くところが非戦闘地域」という小泉流の論理をいまだに振り回しています。しかし、空港近くでは何度も航空機が攻撃され、1年半前にはイギリスの輸送機が撃墜されました。これらの地域は紛れもなく「戦闘地域」なのです。
※バグダッド空港は「非戦闘地域」=多国籍軍が安全確保−防衛長官(時事通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060622-00000067-jij-pol


(3) イラク情勢はますます泥沼化しています。イラクでは、2006年5月20日に「正式政府」が発足し、米が勝手に描いた「政権委譲プロセス」が終了しました。しかし、この「政府」はあくまでも、バグダッドの「グリーンゾーン」という米軍が要塞のように閉じ籠もっている地区だけのことです。米軍がイラク統治の根幹を握り続ける、親米イラク人亡命者や有象無象の海千山千たちからなる傀儡政権なのです。「分断して支配する」−古くからの帝国主義的な支配なのです。真にイラク人民による統一政権ではありません。

 イラク全土を見渡せば、混乱は収まるどころか増幅しています。バグダッドやラマディでは、いまだに米軍とイラク治安部隊による大規模な掃討作戦が展開されています。イラク民衆は、彼らに殺され続けているのです。当然、連日のように米軍や傀儡政府への報復が相次いでいます。バスラでは、治安機能が完全に崩壊し非常事態宣言が出されているほどです。電気や上下水道の整備は回復せず、市民生活は悪化の一途をたどっています。イラク戦争は続いているのです。
※<イラク政府>バグダッドで大規模掃討作戦 報復攻撃阻止で (毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060614-00000131-mai-int
※米、イラクに1500人増派 国防総省「短期間の展開」強調(産経新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060601-00000011-san-int
※Eye on Ramadi (Updated 21 June 2006) electroniciraq.net http://electroniciraq.net/news/2375.shtml

 イラク市民を守るはずのイラク治安部隊が米軍とグルになって自国民をターゲットに掃討作戦を強行し、無差別に虐殺を繰り返す−−これこそが「イラク政府」の正体なのです。そして、これら掃討作戦と軍事支配、これに対するイラク民衆による抵抗と報復−−この地域こそが、米軍のために航空自衛隊がまさに活動を強化・拡大しようとしている首都と北部・北西部地域なのです。
 日本が支持し参戦したイラク戦争がもたらしたものは、破壊と混乱、殺害と憎悪に他なりません。航空自衛隊とはいえ、イラクに自衛隊を派兵させ続けることは、米・多国籍軍によるイラク人民の虐殺、産業・雇用・生活の破壊への加担そのものなのです。


(4) 米国内では、米兵が日常的に行っている住民虐殺の証拠が、ハディーサ、イシャキ、バスラ等々で行った映像や証言で次々と暴露され、政治問題化しています。グァンタナモの拘束施設では、米軍の捕虜虐待に抗議して3人の「容疑者」が「自殺」をしました。アムネスティ・インターナショナルは、ブッシュによる「対テロ戦争」の人権侵害を厳しく批判する年次報告を提出しました。2004年4月アブグレイブの虐待・拷問・虐殺が暴露された時以来の大スキャンダルに発展しようとしています。
イラク:ハディーサの市民無差別虐殺(署名事務局)
※収容の3容疑者が「自殺」 グアンタナモ米基地(共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060611-00000027-kyodo-int
※「対テロ戦争」で米に批判 アムネスティ年次報告 (共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060523-00000181-kyodo-int

 このような中で、米国ではシーハンさんをはじめとする死亡米兵の母親たちの闘い、米兵の家族や遺族たちの闘いが再び活発化し、ベトナム戦争の悲惨を知る高齢女性たちの運動「おばあちゃんの平和旅団」の平和行進などが開始されました。さらに帰還米兵たちが「イラクからの撤退」を掲げて次々と中間選挙に立候補する意向を表明するなど新しい動きが出ています。そしてついに米軍フォート・ルイス基地の陸軍第二歩兵師団第三旅団の最新鋭部隊「ストライカー旅団」の現役将校が、イラク派兵命令を拒否したのです。
※反戦おばあちゃん イラクからの即時撤退求め活動 NY(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060621-00000021-maip-int
※06米中間選挙:風は吹くのか/1 イラク政策 帰還兵、政府に反旗(毎日新聞)http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/america/usa_c/archive/news/2006/05/16/20060516ddm007030147000c.html
※Protests bring home lesson of Haditha  Lt. Watada refuses orders to Iraq(workers world)http://www.workers.org/2006/world/haditha-0622/

 ブッシュの支持率はやや回復したと言われていますが、政権の「死に体」化は続いています。今秋の米中間選挙を前にして、イラク戦争の泥沼化は、ブッシュ共和党にとって最大の弱点になっています。日本政府は、これ以上イラク戦争に加担すべきではありません。航空自衛隊を含め、今すぐ全自衛隊を撤退させるべきです。



[2]「大量破壊兵器」はなかった。「復興支援」もデタラメ−−ウソとデマに終始した自衛隊派兵。

(1) 小泉首相は、撤収決定時の記者会見でイラク戦争について、「さまざまな措置は正しかった」「イラク政府からも住民からも高い評価と信頼を受け、感謝のうちに撤収できることはたいへんよかった」と自画自賛し、「日本の陸自部隊の人道復興支援は一定の役割を果たした」と語りました。しかしこれは全くのデマであり、事実の歪曲に他なりません。

 そもそも「イラク戦争の大義」が全くのでっち上げです。核兵器開発、化学兵器保有という「イラクによる大量破壊兵器保有の危険性」は、ブッシュ政権が、イラク戦争を強行するための口実だったのです。イラク石油の略奪、中東を支配するための軍事覇権が狙いだったのです。
 大量破壊兵器の保有がでっち上げであったことは、2004年10月米政府大量破壊兵器調査団ドルファー報告が「イラクには大量破壊兵器はなかった」「開発計画もなかった」と最終的に確定し、2005年の12月には、他でもないブッシュ大統領自身がこのことを認めざるを得なくなったのです。イギリスでも、2005年5月、ブッシュによる情報ねつ造をイギリス議会で証言したダウニングストリートメモが暴露され、ブレア首相が語った「イラクは45分以内に大量破壊兵器を実戦配備出来る」との情報も全くのでっち上げであったことが明らかになっています。
小泉首相は「大量破壊兵器がある」と国民をペテンにかけてイラク侵略を支持し自衛隊派兵まで強行した責任を取れ!(署名事務局)
開戦責任追及の原点に立ち返るべき時(署名事務局)
小泉首相はイラク戦争支持の誤りを認めよ(署名事務局)
※The secret Downing Street memo(TIMES)http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2087-1593607,00.html

 しかもその後、大量破壊兵器保有のでっち上げは、反対する政府高官を黙らせるために夫人がCIAのスパイであることまでメディアに漏らしたという、CIA工作員秘密漏洩大スキャンダルにまで発展し、これへのチェイニーやブッシュの関与が取りざたされ、さらに今でも捏造の事実が次々と暴露されています。
※CIA Officer Claims US Ignored Warnings About WMD Errors (commondreams.org)http://www.commondreams.org/headlines06/0625-06.htm

 ところが、小泉首相は何の証拠もなしに「大量破壊兵器がある」と繰り返しただけでなく、いまだにそれが誤りであったことを認めようとしていません。戦争に何の根拠も無かったこと、すなわち国際法に反する侵略戦争であったことは明らかです。それを支持し、兵を出せと要求されて憲法を蹂躙してまで自衛隊をイラクに派兵した小泉首相の責任は明らかです。「イラクの脅威」「大量破壊兵器の危険」がウソであったことが判明した後も、何の理由もなく自衛隊を居座らせ続けた責任は重大です。ましてやブッシュの「お許し」をもらうまでズルズルと居続けたことなど到底許されないことです。


(2) さらに「人道復興支援」も全くのデタラメでした。米軍支援、イラク参戦をカモフラージュするためのパフォーマンスというのが事の本質です。どれもこれも、自衛隊が行かなくても、武装部隊を出さなくても、別の形でやった方が良いものばかりだったのです。
 要塞のように宿営地を守り固め、外部をイラク人護衛に守ってもらって、自衛隊の野戦用の小規模な「浄水装置」(1日浄水量100トン程度)で水を造っていた−−これが自衛隊の「給水活動」の実態でした。自衛隊が行った「給水活動」とは、本格的な給水施設を修理、運転し水の不足する地域に配って回ったフランスのNGO(ACTED)のわずか数分の一の規模で、その足下にも及ばない微々たる量だったのです。そして要した費用はこのNGOの数百倍にも上るのです。しかも陸上自衛隊は2005年2月、今から一年半近くも前に、「復興支援活動」の最大の目玉であったはずの給水活動を終了しています。
 「医療支援」とは、事実上自衛隊の医官が病院を視察・指導しただけです。確かにその回数は286回にのぼるといいます。政府はムサンナ州の乳児死亡率が1/3に劇的に改善されたと胸を張りますが、それは自衛隊の医官の活動によるのではなく、自衛隊が地元に受け入れられるために配った医薬品が薬不足による乳児死亡率を改善したにすぎないのです。「成果」と胸を張る前に、医薬品不足、衛生状態の悪化、慢性的な電力不足等の要因をもたらし、またもたらし続けている戦争と占領こそが糾弾されなければならないでしょう。その戦争が、乳児死亡率を劇的に高め、人々を「緩慢に」殺し続けているのです。このような戦争を支持し参戦しながら、破壊された病院を巡回するだけの「支援」とは・・・。人をバカにするのもほどほどにしてほしいものです。

 自衛隊は本当に有効な人道復興支援を行ったのでしょうか。それは予算面から明らかです。自衛隊のイラク派遣費用は年間400億円にものぼり、2年半で1000億円にものぼりました。その費用は大半が自衛隊員の人件費(1日3万円)であり、それに宿営地防護のためのガードマンの費用、そして地元住民を作業に雇用する人件費が加わったのです。全体のうちでわずかな部分が復興のために使われたにすぎません。(もちろんこれとは別に政府ODAから昨年までに1500億円もの無償援助が行われましたが、これは自衛隊が武装して乗り込まなくても可能なものです)。こんなパフォーマンス、宣伝中心の「人道復興支援」なのですから、未だに電気など基本的インフラが回復していないということは、当然すぎるほど当然のことなのです。

 「雇用支援」「道路復旧」等々、その他の「人道復興支援」も全て、現地の人々に任せた方が効率が良いものばかりでした。しかし、もっと本質的な事は、そもそも米国がイラクに侵略戦争を仕掛けなければ、こんな子供騙しの「人道復興支援」など必要なかったはずだということです。そんなブッシュを支持し参戦までした小泉の責任は重大です。


(3) 「サマワは非戦闘地域」という主張はどうだったでしょう。これまた虚構でした。陸上自衛隊宿営地は期間内に14回のロケット弾、迫撃砲による攻撃を受けました。この攻撃で死傷者が出なかったのは単なる偶然でしかありません。夜中にロケットが飛ぶ度に隊員は飛び起きて避難用コンテナに走り込んで待避したと言います。いつ周りから攻撃されるかわからないため、ついには周辺の監視用に無人偵察ヘリを持ち込み空から監視せざるを得なくなりました。昨年6月23日にはサマワ近郊で自衛隊車列のすぐ横で路肩爆弾が炸裂し、車両が損傷しました。さらに自衛隊の車両ではありませんが、自衛隊が物資の輸送契約を結ぶトレーラーが攻撃を受け炎上しました。

 6月24日、麻生外相は千葉市で講演し、自衛隊が置かれていた状態を図らずも吐露しています。「2年半の間に1人の犠牲者もなく、人道復興支援をやり遂げてくれた。野球で言えばノーヒットノーランぐらいすごいことだ」。一人の犠牲もなく任務を終えたのはノーヒットノーランくらい珍しいこと、奇跡的なことであったというのです。必ず死ぬに違いない、犠牲が出るに違いない−−そういう地域こそ「戦闘地域」に他ならないのではないでしょうか。
 自衛隊員は、宿営地にこもって攻撃を避け、緊張を強いられびくびくしながらあるいは地元住民に武器を向けて装甲車で記念式典などに出席し、子どもたちにバッジを配ったり、食事をしたりし、ホームページ用の写真撮影をして帰るだけのパフォーマンスを繰り返して来たのです。
 

(4) しかし、「一人の犠牲もなく、人道復興支援をやり遂げてくれた」は真実ではありません。イラクから帰還した自衛隊員のうちすでに6人が自殺しています。6月24日、衆院イラク委員会答弁で、額賀長官自身が明らかにしました。これは、3月時点で公表された数字よりも増えています。
※「平成18年6月22日 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会」 http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm
※撤収決定で閉会中審査 衆院イラク特別委(東京新聞)http://www.tokyo-np.co.jp/feature/iraq/060622T1617.shtml
※イラク経験した5人が自殺 陸上・航空自衛隊(東京新聞)http://www.tokyo-np.co.jp/feature/iraq/060311T1600.shtml

 これは一般の自衛隊員の約2倍も高い自殺率です。国会答弁で政府は原因を明らかにしていません。しかし、自殺の原因を調べて明らかにすべきです。イラクに送られた自衛隊員は、24時間攻撃にさらされる異常な緊張感の元に置かれ、いつ攻撃してくるかわからない戦場での恐怖心を抱かされ、極度の精神的肉体的ストレスにさらされました。さらには灼熱の砂漠で、劣化ウランのチリが舞い上がる条件下で駐留を強いられたのです。PTSDになり、自殺や殺人などの犯罪を犯すのは米兵だけではないのです。自衛隊員の自殺率が急増したことを深刻に捉えなければなりません。彼らはイラク派兵の犠牲者なのです。


(5) イラクの陸上自衛隊隊部隊はすでに撤退を開始しています。イラクで自衛隊が使った車両や物資はイラク人ドライバーの運転するトレーラーでクウェートまで運んでもらうといいます。自衛隊員の人員は輸送機でクウェートに向かう手はずです。サマワ−クウェート間が危険で自衛隊員に犠牲が出てはいけないからだといいます。これほどわかりやすい例はありません。日本の車両をイラク人ドライバーに運転してもらう異常さをどうとらえればよいのか。イラクは全土が今も戦場であることは、このことに端的に現れているのです。

 自衛隊はイラクの復興に役立ったのでしょうか。答えは否です。自衛隊自身が認める通り、電力も、仕事も回復のためにほとんど何の役にも立ちませんでした。サマワ住民の中には、自衛隊への不満が渦巻いています。それが爆発したのが、昨年12月に起こった住民による自衛隊車両への投石事件でした。日本のマスコミはサドル派がやったと宣伝しています。しかしそれは事実ではありません。多くは失業者からなるサマワでも貧しい人々から強い反発を受け「直ちに撤退せよ」、「米軍に協力するな」と警告されたのです。
 サマワ中心部で6月4日、電力不足などに怒った市民約500人が激しいデモを繰り広げました。人々は「電気も水もない。生活は最低だ」などと叫び、占領支配への怒りを口にしました。イラク全土についてはいえば、それまであった日本に対する信頼と強い「親日感情」を米軍への加担で裏切ったのです。侵略軍である米軍に加担して軍隊を送ったことで、長年培われてきた日本と日本人への信頼が反感や憎悪、米国の代理人という唾棄すべき対象、あるいは米国に平身低頭しかできない情けない国という風に変わったのです。
※デモ暴徒化、17人負傷 サマワ、電力不足に怒り (共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060605-00000015-kyodo-int


(6) 自衛隊撤退に当たって、改めて問わなければならないのは、日本のマス・メディアの堕落です。「大量破壊兵器」のでっち上げ、「人道復興支援」のデタラメ、憲法違反の派兵、そしてイラク派兵自衛隊員の自殺・・・等々。マスコミが小泉政権のイラク政策を追及する機会はいくらでもあったはずです。9・11以降、あれだけ翼賛化した米国のマスコミでさえ、ここ1年は、イラク戦争を巡る様々なウソやでっち上げ、スキャンダルを追及してきました。ところが日本のマスコミはどうでしょうか。何一つ、小泉首相を追及しませんでした。新聞やテレビがなぜこうしたイラク侵略の実相と小泉の責任を本気で追及しないのか。今後の「恒久法」の国会審議を考えたら、翼賛化し、真実を真実として報道しなくなったマス・メディアの責任を厳しく追及しないわけには行きません。



[3]武装自衛隊の海外派兵、戦場での武器使用を実現するための「恒久法」と防衛庁の「省」昇格。

(1) イラク派兵は、武装した陸上自衛隊による、海外派兵への重大な第一歩ではありましたが、制約を課せられたのも事実でした。「非戦闘地域」「武器使用基準」等々で、デタラメな答弁を繰り返し、前述したようにただひたすら要塞に立てこもり、「復興支援」という隠れ蓑とパフォーマンスのもとで、駐留すること自体に意義を見い出したのです。このような歪められた形態を取らざるを得なくしたのは紛れもなく、日本国憲法の9条の存在とそれが海外派兵を禁止しているために法的根拠がなかったという事実でした。そして何よりも国民の反対世論でした。
 政府与党や自衛隊の幹部らが、イラク派兵を経て得た「教訓」は、驚くべきことにイギリス並の派兵と戦闘ができるようになるための法整備をすることでした。今度こそ、こんな面倒な制約なしに、世論や国会審議などのうるさい手続きなしに、簡単に、武器使用の制限も取り払って米軍を直接支援して戦場の真っ直中に自衛隊を派兵できるようにするつもりなのです。彼らは陸上自衛隊が「一人の犠牲もなく」帰ってきたことで安堵したのではないのです。おそらく自衛隊員の命など何とも思っていないでしょう。死んだって靖国神社に祭ってやればいい、それで済むと考えているのです。そんな事よりは、次の、おそらくは戦死者が出るであろう事態に米国と一緒に戦争に参加できるようにしておこうと考えているのです。


(2) イラクからの撤退と呼応するかのように、「海外派兵恒久法」制定の動きが出始めました。6月14日、石破元防衛庁長官を委員長とする自民党の防衛政策検討小委員会は、「恒久法」の素案を了承し、7月中にも条文化する方針を確認しました。
 この素案では、海外派兵の条件を大幅に緩和し、さらに武器使用の基準を緩和することで、イギリス並の海外派兵を可能にしようとしています。すなわち、武器使用基準では、「治安維持任務」や「警護活動」を明記し、イラクでも不可能であった住民への治安弾圧などでの武器使用を可能にしています。さらに、海外派兵基準では、「わが国として国際的協調の下に活動することが特に必要と認める事態」を加え、「国際的協調」というような、あいまいでどのようにも解釈できる基準を作ることで、「国際貢献」さえ口にすれば、武器を持って治安活動のために堂々と海外派兵できるような体制を作り上げようとしているのです。もっとも「国際的協調」「国際貢献」とは、今では「対米協調」「対米貢献」であることくらい、国民には気づかれてしまっていますが。
 しかもイラク戦争を巡っては、フランスやドイツ、中国、ロシア等と激しく対立した経緯から、国連決議や国際機関の要請がなくても、国会の事前承認などを条件に、自衛隊を派兵できることも併せて明記しようとしています。


(3) さらに、政府与党は、6月9日、国会の終盤の間際になって、どさくさ紛れに防衛省設置法案を上程しました。防衛庁の「省」昇格は、防衛施設庁を解体して防衛省に統合し、予算要求などの権限を強化し、自衛隊を運用する独立した機関として国際的に米英などの国防省と対等な関係を築くことを目的としています。
 しかし、それだけではありません。それは本格的な海外派兵を見込んだものなのです。防衛省設置法案と同時に提案されている自衛隊法の改定は、「付随的任務」とされている海外派兵=国連平和維持活動(PKO)や「国際平和協力活動」を「本来任務」とし、米国の侵略戦争に加担するための自衛隊の海外派兵を、「本土防衛」に並ぶ主要任務に格上げしようとしているのです。


(4) 有事法制の具体化が夏から秋にかけて本格的に開始されようとしています。昨年福井県だけで行われた有事実働訓練が、今年8月からは北海道、茨城、島根において行われ、全国化しようとしています。また、都道府県に続いて、市町村でも国民保護計画の今年度中の策定が義務づけられており、自衛隊OBの天下りのもとで、防衛庁・自衛隊を中心とした国民保護=有事体制の構築が進められようとしています。
※国民保護法:県と国共同、10月中旬に図上訓練 情報伝達など確認 /福井(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060614-00000205-mailo-l18
※<国民保護法>茨城など3道県、保護訓練実施へ 8月から (毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060613-00000033-mai-pol


(5) これらは、米軍再編・基地移転と一体のものです。日本を、全世界での「対テロ戦争」、特に「不安定の弧」を想定した戦争の司令塔、出撃基地に変えるものです。小泉政権は、世界中への侵略体制強化を目的とする米軍再編に日本を組み込み、より全面的な基地の提供や自衛隊の米軍との一体化を進めようとしているのです。
 辺野古の海兵隊新基地建設に反対し、在日米軍基地の再編全体に反対すること、3兆円と言われる米軍のグァム移転費、米軍再編関連予算に反対する闘いが、今秋の臨時国会、来年の通常国会に向けて、今後ますます重要な課題になってきます。



[4]ますます高まる憲法改悪反対闘争の意義。イラク撤退、米軍再編反対闘争と結合して闘おう。
 
(1) 私たちは、イラクからの陸上自衛隊の撤収作業開始に当たって、ますます憲法改悪反対闘争の意義が高まっていることを痛感しています。
 イラク派兵の最大の目的は、国際社会で批判を浴びている米国を支える「同盟の証し」を示すため、日米軍事同盟強化のためでした。陸上自衛隊はいかなる形であろうと、サマワにしがみつき、「駐留」の既成事実を積み上げ、そのことによって、米の世界戦略に自らを組み込み、その一翼を担うことを示し続けたのです。
 それは同時に実戦経験のない陸上自衛隊員に戦場・戦闘体験をさせることでした。そのため、北海道から九州まで延べ5500人の自衛隊員を、予め市街戦訓練、つまりイラク市民を銃撃する訓練を繰り返した上でイラクに送り込み、戦場の緊張状態におき、実際の戦場を体験させるとともに、住民懐柔の方法など、侵略と制圧、治安弾圧の経験の蓄積を行ってきたのです。
 そして、このような対米戦闘支援をもとに、ブッシュに日本が盟友であることを確認してもらい、また、イラク戦争によって得られるはずの石油、天然ガスなどの資源、復興利権−−血を流してまで武力で石油を奪い取る帝国主義的植民地主義的やり方−−に食い込もうとしたのです。


(2) しかし、特に9.11以降アメリカが進めてきた「対テロ戦争」の破綻がここに来て噴出し始めています。イラク戦争・占領の泥沼化だけではありません。アフガニスタンでは、タリバンによる攻勢が強まるとともに、米軍はイラクをも上回る空爆と掃討作戦を実施せざるをえなくなっています。もちろんそれは大量の市民の虐殺につながり、現地の対米憎悪をかき立てています。
 ソマリアではイスラム原理主義勢力の支配が拡大しています。銃撃戦が勃発し、その影で米が暗躍していることが暴露されました。東チモールでも元兵士の反乱で、オーストラリアが軍を派兵せざるを得ない状況に至りました。アメリカの「対テロ戦争」は全世界各地で行き詰まり、その綻びが顕在化し始めました。日本政府は、このような破綻したブッシュの先制攻撃戦争戦略、単独行動主義政策に一体どこまでついて行くつもりなのでしょうか。今すぐストップをかけなければ大変なことになります。世界中に派兵し軍事介入をやりまくっている米軍はすでに限界に達し、「過剰展開」「過小兵力」状態にあります。猫の手も借りたいというのが実情です。そんな中で、自衛隊を
 人身御供に出すなど危険極まりないことです。ズルズルと戦闘に駆り出されることは必至です。


(3) すでに述べたように、極めていびつで歪められた形でしかイラク派兵を許さなかった現在の憲法9条の存在であり、それを擁護してきた反戦平和運動と国民世論です。9条というこの最後の一線を越えれば、待ち受けるのは武力行使です。米軍と一緒に戦闘することであり、途上国の一般市民の虐殺です。イラク戦争で言えば、イギリスのように最初から武力行使を目的に参戦し、殺戮と破壊の限りを尽くすことなのです。
9条2項改憲の欺瞞と危険を批判する −−最大の狙いはイギリスに次ぐ「派兵国家=武力行使」国家造り−−(署名事務局)

 私たちは、イラクからの自衛隊の即時無条件完全撤退を要求するとともに、憲法改悪に反対する闘い、国家に従順な国民をつくる教育基本法改悪に反対する闘いを強め、それらを結合して、「戦争国家」をつくるための策動を封じ込めていかなければなりません。私たちは、今回の自衛隊の部分撤退は、新たな闘いの出発点だと考えています。秋の臨時国会、来年の通常国会に向けて、ともに頑張りましょう。「戦争国家」つくりにストップをかけましょう。

2006年6月29日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局