テロ特措法の延長を阻止しよう! −−戦争国家づくり、改憲策動に痛打を!−−
はじめに
(1)9月10日から臨時国会が始まる。最大の攻防は11月1日に期限が切れるテロ特措法延長問題である。安倍自民党の参院選での惨敗と参議院での民主党の躍進、衆参のねじれによって、インド洋からの自衛隊の撤退が、極めて現実的な課題として浮上することになった。民主党・小沢は政略的な思惑も含め、今のところ延長阻止の姿勢を崩していない。反戦平和運動にとってかつてない有利な状況が生まれている。アフガニスタン戦争への加担を続けてブッシュと共に泥沼化の道を歩むのか、ブッシュの「対テロ戦争」にNOを突きつけ、インド洋から自衛隊を撤退させるのか、いよいよ正念場を迎える。
安倍の求心力低下、党内の混乱と政治的混迷はとどまるところを知らない。8月27日の組閣人事では、派閥の領袖クラスと安倍批判でパフォーマンスを演じた人物を取り込むことで挙党体制を演出した。安倍退陣論を押さえ込む事だけを目的とした組閣である。しかし、自民党惨敗責任の張本人が開き直り、首相の座にしがみついている下で、「人事刷新」などできるはずがない。満を持しての内閣改造に対する世論の支持も「思ったより低調」(自民党幹部)だ。「麻生・桝添効果」で支持率を若干回復しているものの、依然「危険水域」にある。多くの世論調査で、内閣発足当初から不支持が支持を上回る危機的状況にある。また、テロ特措法の延長に反対する世論も、賛成を大きく上回っている。
矛盾が爆発するのは時間の問題だ。早速、新農相のスキャンダルが吹き出した。国会論戦が始まれば間違いなく、わずかに上がった支持率も再び下げに転じるだろう。世論喚起と闘いで、テロ特措法延長阻止は可能である。
※改造内閣支持33%、不支持なお53% 本社世論調査(朝日新聞)
http://www.asahi.com/politics/update/0828/TKY200708280452.html
※テロ特措法延長に反対54・6% 民主、自信深める(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070830-00000926-san-pol
(2)安倍は「美しい国」「戦後レジームからの脱却」など政権発足当初から掲げてきたスローガンを封印し、「暮らし」を全面に掲げざるをえなくなった。8月15日の靖国参拝を強行することはできなかった。次の臨時国会でも憲法審査会設立のメドは立っていない。集団的自衛権の有識者会議は10月にも最終報告を出すと伝えられるがその結論は棚上げされるのは間違いない。沖縄では、海上自衛隊まで動員して緒に付けようとした違法なアセス計画書の受け取りを沖縄県が拒否し、辺野古新基地建設については膠着状態が続いている。
参院選は、安倍自民党と安倍路線そのものに厳しい不信任を突きつけた。安倍が最大の政権公約とする憲法改悪について支持か反対かがストレートに問われたわけではなかったが、人民生活を無視しイデオロギー的な右翼強硬路線を走り続ける安倍の政治姿勢が、また日米同盟のグローバル同盟化と戦争国家化が、選挙民によって否定されたことは間違いない。安倍が選挙前に思い描いていたような、秋にも憲法審議会の設置し3年後の改憲発議に向けて走り出すというシナリオは大きく後退することになった。
しかしもちろん、安倍の急速な戦争国家化の道が一時的にテンポを遅らせたとしても、日本の支配層の既定路線、すなわち日米軍事同盟強化と、防衛省昇格を重大な契機とする海外派兵の本来任務化と海外派兵の動きは強い衝動として存在し続ける。憲法改悪についても安倍は断念していない。当面憲法改悪の具体的動きが後景に退くのは間違いないが、すでに国民投票法は成立しており、改憲に向けた地均しである教基法改悪と教育三法の改悪の具体化が始まる。反戦平和運動、憲法改悪反対闘争は、安倍自民党惨敗によって得られた時間的余地を最大限利用し、広範な反戦平和、改憲反対の世論を形成していくことに全力を挙げなければならない。
その最初の課題が、テロ特措法の延長の阻止である。インド洋からの自衛艦の撤収を勝ち取ることで、安倍の日米同盟強化路線、戦争国家づくりに打撃を与えよう。
2007年8月31日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
[1]アフガニスタン情勢の泥沼化と反米武装闘争の激化−−「対テロ戦争」とは侵略戦争そのもの。そしてそれは破綻した
(1)テロ特措法は、9・11に対する「報復」として米国が開始したアフガニスタン戦争に対する支援のために制定された戦争協力法である。日本は、米・有志連合軍艦船や武装ヘリへの燃料供給によって、アフガニスタンへの出撃に加担した。数千、数万のアフガン人民を殺戮し、主権国家であるタリバン政権を崩壊させた無法きわまりない侵略戦争、荒廃した国土を更に破壊し最貧国を戦争で打ちのめした残虐きわまりない侵略戦争に加担した責任を徹底して追及しなければならない。時限立法であったはずのこの法律は、アフガニスタン戦争が基本的に集結した後も、何の根拠もなく3回にわたって延長され、イラク戦争の攻撃に加わる米英艦船に対する給油さえ行い、集団的自衛権を禁じた憲法はおろか、この特措法そのものの条文にも反する違法行為、違憲行為を繰り返してきたのである。
(2)アフガニスタン戦争とはいったい何なのか。それは正真正銘の侵略戦争のこと、殺戮と破壊のことである。以下にアフガニスタン情勢の直近の状況を概観することで明らかにしたい。
現地情勢は再び緊迫し、米とNATO軍による激しい空爆と地上での掃討作戦が、南部を中心に大規模に展開される局面に入っている。米軍によって連日多数の市民が殺害されている。治安悪化と生活基盤の破壊は最悪の状態にある。いわばアフガニスタンの「イラク化」であり、泥沼化である。これによってテロ特措法による自衛艦のインド洋派遣は、アフガニスタン侵略戦争への加担であるという性格が再び前面にでることになった。
−−6月23日、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)は、南部へルマンド州を空爆し、女性9人と幼児3人を含む住民少なくとも25人を殺戮した。
−−7月22日、23日の二日間にわたって、ヘルマンド州、カンダハル州、パクティカ州、ザブル州などで大規模な掃討作戦が行われた。
−−8月4日、米・NATO軍は同じくヘルマンド州に大規模な無差別空爆を加えた。病院関係者は40名以上の民間人が病院に運びこまれたと証言した。
−−8月15日から、米軍は、東部のトラボラ地区周辺で、空爆と地上戦を含む極めて大規模な軍事作戦を開始した。、
−−8月23日、ヘルマンド州で、タリバンと交戦していた英軍兵士が、米軍機の攻撃を受け、兵士3人が死亡した。英兵に対する米軍の誤爆は、敵味方が交錯する激しい戦闘を示している。
−−米軍主体の多国籍軍は8月28日、南部カンダハルで、激しい空爆を加えた。
等々。
一般市民の甚大な被害に対して、アフガニスタン国防省スポークスマンは「民間人がいたとしても10人未満だろう」などと開き直り、「民間人かどうかをどうやって見分けられるのか。銃を地面に置いていたら民間人で、肩にしょっていたらそうではないのか」と、無差別殺戮を正当化している。しかしこれは裏を返せば、武器を取って反米武装闘争を繰り広げているのがアフガニスタンの一般市民であることを公然と認めていることを意味する。
※NATO軍がアフガニスタン南部を空爆、住民25人が死亡(AFP)
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2243135/1714663
(3)イラク戦争の陰に隠れて注目されてこなかったが、アフガン戦争=「不朽の自由作戦」は2001年10月以降も実に6年にわたって継続されてきた。変化は2005年ごろから見え始めていたが、2006年の夏から秋には決定的なものになった。米軍はタリバン政権崩壊以降、執拗な掃討作戦によって、旧タリバン勢力の「残党」はほぼ一掃されたと考えていたが、タリバン勢力が態勢を再構築し、大攻勢に転じたのである。
その背景には、米軍が、南部・東南部・東部の農村などでの掃討作戦の中で、「誤爆」、「誤射」、家宅捜査と住民捕縛などによって住民の犠牲をもたらし住民たちの反感を広範に生み出してきたことがある。そして米が傀儡政権として擁立したカルザイ政権はタリバンの掃討作戦を最優先し、人民生活を耐え難いまでに破壊してきたのである。治安が極度に悪化したでけでなく、毎年の干ばつのもとで、灌漑設備は米軍によって破壊されたまま放置され、主食である小麦の生産は激減、深刻な食糧不足、飢餓と乾きが住民を襲った。商業メディアはケシ栽培が小麦生産を駆逐したように宣伝しているがそれは全く逆である。ケシ栽培に頼らなければ生きていけない状況に追い込まれているのだ。そのような人道的危機に陥った南部地域を中心に、タリバン勢力は人々の生活基盤の再構築に関わりながら人民の支持を勝ち取り軍事的攻勢を強める条件を獲得していった。村を破壊し、村民を虐殺しまくる米軍とそれを容認するカルザイ政権に対する怒りが、タリバン勢力への支持の拡大と大攻勢となって現れたのだ。タリバンは、「民衆蜂起」路線をとり、南部からアフガン全土に広げていく方針とも言われている。実際タリバンの攻撃や戦闘は南部地域を中心に、全国各地に広がっている。昨年まで比較的平穏とされた北部や西部、警戒の厳重な首都カブールでも起きるまでになった。
※Taliban lay plans for Islamic intifada(Asia Times)
http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/HJ06Df01.html
※アフガニスタン情勢の転換の性格についてリベラルな立場から明らかにしたのが、国際的なシンクタンク「 サンリス協議会」が昨年9月に出した報告である。治安の悪化するヘルマンド、カンダハル、ヘラート、ナンガハルの各州にわたる広範囲の現地調査に基づく報告は、「タリバンがアフガニスタンの南半分を支配し、日ごとに勢力を拡大している」とし、米の占領支配の失敗を結論付けた。また「ネオ・タリバンと呼ばれている人たちは、国内部族の出身であり、外国の要素は確認されていない」として、反米闘争が、外国から流入した「テロリスト」ではなく米軍によって痛めつけられたアフガニスタン人民自身によって担われていることを正当に評価している。報告書は「米国主導の国際社会は援助資金を軍事作戦や治安維持に費やしている」と米軍の戦争と占領支配を厳しく指弾している。
http://www.senliscouncil.net/modules/publications/014_publication(The Senlis Council )
http://ipsnews.net/news.asp?idnews=34595(Ipsnews)
※5月21日放送のNHKクローズアップ現代『アフガニスタン 麻薬との闘い』は、ケシ栽培に以外にまともな収入の道がないアフガニスタンの農民の窮状をレポートしている。密売組織に買いたたかれるだけでなく、飢えや病気の痛みを和らげるために、自分の子どもたちにまで阿片を吸引させている。絶望の中にいるアフガニスタンの人々について、ペシャワール会の中村哲氏は「問題は大干ばつ。重要なのは人々が生きていく基盤を作ることだ」と話している。
(4)米軍を震え上がらせた象徴的な事件が、今年の2月27日、アフガニスタンの首都カブール北方にあるバグラム米空軍基地の検問所で起こった。それは、アフガニスタン訪問中で同基地に滞在していたチェイニー米副大統領を狙った「自爆テロ」である。チェイニーは無事であったが、厳重な警戒の中で、米空軍基地に被害を与えるまでに反米武装勢力の力が強まっていることを知らしめた。
また、別の指標では、アフガニスタンでの「自爆テロ」は、2005年では17件、2006年では123件と、過去2年で6倍に増加している。2006年の自爆テロによる死者は237人にのぼると国連が報告したが、簡易爆破装置(IED)による死者はさらに519人とNATOは報告している。これら「自爆テロ」とタリバンの関係は必ずしも明確ではない。しかし、家を奪われ、家族を奪われ、村を奪われた貧しい人々が侵略者たちへ命がけの抵抗闘争を開始するまでに事態は極まってきていることは間違いない。
米軍は今年4月、アフガニスタンへの増派を決定したが、それは、1000人弱の軍事教官の派遣(NATO全体では3400人)にすぎない。しかも、その主要な所属は米国内で派兵の是非が大問題になっている州兵であり、追加派遣と米軍兵士の駐留期間の現行12カ月から15カ月への3カ月間延長とセットであった。イラク戦争の泥沼化で米軍の過剰展開と過小戦力問題が深刻化している下で、もはやアフガニスタンヘの増派を行う余裕など無くなっているのだ。
アメリカが当初目論んでいた、アフガン国軍の育成による治安活動の強化という方針は完全に破綻している。兵員は、目標である7万人の半分も集まっていない。カブールなどでは失業率が40%を越えていることから、他に働き口がない貧しい若者が軍に入隊するが士気は全く上がらず、脱走する兵士は後を絶たない。国軍ではまともな治安活動ができず、米欧の部隊が直接軍事力を行使してタリバン部隊と戦闘を繰り返さざるを得なくなっている。しかもNATO勢力は手薄な兵力でタリバンとの戦闘が重荷になっており、米欧によるアフガニスタン支配はますます不安定なものとなっている。
アフガニスタンの「不朽の自由作戦」に参加する同盟軍の死者は2004年の58人から05年130人と急増し、06年には191人、そして07年は8月までですでに157人に達している。しかも、昨年5月にアメリカが駐留の権限をNATO軍に委譲したことから、同盟軍の犠牲者の約半分を米軍以外がしめるようになっている。これは、NATO諸国で撤退論が生まれてくる背景になっている。
※Iraq coalition casualty count Operation Enduring Freedom (Iraq Coalition Casualties)
http://www.icasualties.org/oef/
(5)アフガニスタンで起こっている事態こそ、「対テロ戦争」の破綻の証明である。彼らが言う「テロ」とは、彼らがイラク戦争で言うそれと同じことである。反米・反NATOの武装抵抗であり、民族解放的・民族独立的性格を帯びている。そうした抵抗を帝国主義的な、強大で組織的な軍事力によっては封じ込めることはできない。ブッシュが6年にわたってやってきたことは、アメリカ帝国主義とヨーロッパ帝国主義への憎悪と怒りを増幅させ、反米闘争を激化させることであった。米欧の帝国主義諸国はアフガニスタンでの掃討作戦を今すぐ中止し、全外国軍を撤退することが事態改善の第一歩である。
※9.11のその後、対テロ戦争の現場から:「テロリストとは一体なにか」(日本国際ボランティアセンター)
http://www.ngo-jvc.net/php/jvcphp_epdisp.php?ThreadName=a01&ArticleNo=23
[2]無線照会、臨検を行うインド洋有志連合艦隊への給油は事実上の戦争行為への加担!
(1)防衛省は8月23日、「自衛隊の活動状況及び実績」を発表し、テロ特置法に基づきインド洋で米英などの艦艇に補給活動を続けている海上自衛隊派遣部隊が、2001年12月の活動開始から今月20日までに11カ国の艦艇に計774回、約48万キロリットル(約220億円)の燃料を提供したことを明らかにした。防衛省統合幕僚監部によると、国別に回数が最も多い補給先は米海軍の補給艦や駆逐艦などで、全体の半分近い350回、パキスタンの駆逐艦は2番目に多い139回という。
日本の自衛隊は、「イスラム過激派」との闘いを演出するために派遣されたパキスタン軍艦船などに燃料を供給する事で、「有志連合軍」に引き留める役割を果たしている。これ自身が犯罪的だ。
パキスタンの他に、カナダ、ドイツ、ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、イタリア、ギリシャ、オランダ、スペイン−−この11ヶ国がこれまで自衛艦による燃料供給の対象となった国々である。アフガニスタンでは、「不朽の自由作戦(OEF)」の元に、米英仏韓など約20ヶ国がアフガン本土に部隊・将校等を派遣している一方、その重要な一環として、インド洋において「海上阻止活動」(OEF-MIO)が展開されている。今年4月の時点では米、英、仏、独、パキスタン、カナダ、ニュージーランド、日本の8ヶ国が17隻の艦船を派遣している。日本はこの中で「無料のガソリンスタンド」として重大な任務を果たしているのである。日本の占める位置は大きい。問題は、アフガニスタンでの無差別空爆などを含む大規模掃討作戦と連動して、17隻もの駆逐艦、護衛艦などの艦船がインド洋に常駐し、何をしているのか、自衛艦が援助している活動とはいかなるものなのかという事である。政府はこの「対テロ活動」の全貌を明らかにすべきである。
(2)インド洋を航行する艦船に手当たり次第「無線照会」し、「不審船」とみなすや臨検を加え、乗組員を「テロリスト」名目で拘束する−−これが、「海上阻止活動」(OEF-MIO)、日本がテロ特措法で燃料供給している多国籍軍が行っていることなのだ。それは、イラクで至る所に検問所を設け、無実の市民をテロリストとでっち上げて拘束するやり方と全く同じである。それはまた、米国内で全国民を対象にした盗聴と監視体制が敷かれ、とりわけイスラム系住民に対する不当拘束や逮捕が日常茶飯で起こっていることと不可分の関係にある。2005年11月には、CIAが全世界で不審人物を無条件に拘束監禁し、秘密基地に強制移送するという事件も暴露されている。問題は、何リットルの燃料を供給したのかだけではない。給油を受けた多国籍軍が公海上でいかなる犯罪行為を行っているのかだ。
※イラク戦争開戦3周年にあたって==ブッシュ政権:腐敗とスキャンダル、イラク占領支配の最後的行き詰まりと末期症状。 (署名事務局)
※映画紹介「グアンタナモ、僕たちが見た真実」 (署名事務局)
(3)ここに、「国際テロの根絶を目指して−テロ特措法の4年−」と題したパンフレットがある。2005年10月、テロ特措法の延長の正当性を宣伝するために防衛庁(当時)が出したものである。Q&Aで「海上阻止活動では、具体的にどのような成果があがっているのですか?」との問いに対して「立ち入り検査などにより麻薬や武器を押収するとともに、多数の乗組員を拘束しています。」と答え、さらに「このうち数十名はアルカイダとの関係も疑われています。」などと誇らしげに書いている。そして「『OEF-MIO』参加国艦艇は、作戦海域に海自の補給艦がほぼ切れ目なく存在し続けていることによって艦艇が頻繁に補給地へ帰港する必要がなくなり、長期にわたる作戦継続が可能となっています。」などと成果を誇示しているのである。
※このパンフレットには以下のような記述がある。「12月15日分と併せて拘留した33名のうち、10名はアル・カイダへの関与の疑いあり。」(2002年12月20日)「OEF-MIO参加哨戒機が発見したダウ船に対し、OEF-MIO参加艦艇が乗船検査を実施。大麻を発見、押収し、乗組員を拘留(アルカイダその他のテロリストグループとの関係について疑いあり)。」(2003年1月1日)「乗船検査を行った船舶は、人員の負傷や船舶の損傷が認められ、中からイラン、イエメン等の大量の通貨を発見。」(2003年9月)http://www.mod.go.jp/j/library/pamphlet/tero/003.pdf
しかし、私たちはここで重大な疑問を持たざるを得ない。「アルカイダとの関係が疑われ」たという数十名は本当にアルカイダであったのか。武器や大麻、「イラン、イエメン等の大量の通貨」は犯罪やテロリストの根拠なのか。麻薬は犯罪であるにしてもそれは有志連合軍が公海上で捜査や拘束の対象となるべきものなのか。そもそもOEF-MIOによって何人の「テロリスト」と「アルカイダ」が拘束されたのか。さらにいえば、「アルカイダ」「テロリスト」とは何なのか。
(4)また、外務省が2005年10月に出した「テロ特措法に基づく日本の努力」という文書では、2001年9月以降有志連合軍の派遣艦船が行った無線照会(航行する船舶に対して行き先などを尋ねる)が約137000回、不審船に対する武装兵による臨検(強制乗船調査)は約11000回に登るとなっている。単純に平均すると実に一日100回近い無線照会、そして一日7〜8回もの臨検が行われているのである。外務省は、その結果として麻薬や、武器弾薬が押収されているとし、さらに、「OEF-MIOを含むテロとの戦いのこれらの努力の結果、アルカイダの多くのリーダーおよびメンバーが殺害されるか逮捕されている」とここでは「テロリストの殺害」さえ成果として誇示しているのだ。
しかし何度も言うが、これら「アルカイダ」、「テロリスト」の拘束自体が不当であるだけでなく、本当に「テロリスト」であったのか、麻薬や乗組員が本当にテロと関係しているのかさえ明らかになっていないのである。
※Japan's Efforts based on Anti-Terrorism Special Measures Law
http://www.mofa.go.jp/policy/terrorism/effort0510.html
※2005年10月18日の衆議院のテロ防止特別委員会の答弁で、防衛庁運用局長の山崎信之郎は、「OEF・MIOによりまして麻薬等について押収している例示的なものが、我々としても各国から報告をいただいておりますけれども、それが直接テロとの関係においてどういう結びつきがあるのかということについての明確な説明というのは、まだ聞いておりません。」と答えている。テロとの関係は定かでないがとりあえず押収する、「テロリスト」かどうかはわからないがとりあえず乗組員を拘束する−−こんなことが許されるのか。
(5)さらに、悪名高いアブグレイブ、グァンタナモと同様、インド洋には「船上監獄」なるものが存在し、秘密裏に「拘束者」が送られ、拷問を受けているという情報さえある。多国籍軍がインド洋で臨検・拘束した「容疑者」をそのまま秘密基地に連行すると言うことはストレートには考えられない。しかし本当にありえないのか。では「容疑者」として拘束された乗組員は、どうなったのか。有罪とされたのか。無罪とされたのか。そもそもどこに送られているのか。今も拘束されているのか、解放されたのか。弁護士が付けられまともな裁判が受けられているのか。一体これまで何人の乗組員が「容疑者」として拘束されたのか。そもそも日本政府は、有志連合軍が行っている活動とその結果を知っているのか。
政府がこれを「成果」と言うのであれば、給油何リットルしたかだけではなく、協力したOEF=MIOによって行われたすべての「成果」を公表すべきである。政府はこの全貌をあきらかにすべきである。
※国連のテロ問題特別報告者のマンフレッド・ノワク氏ら複数の人物が、全世界に米軍の秘密監獄が存在を指摘し、その一つはインド洋海域にある「船上監獄」だという。それは、ディエゴガルシア島米軍基地に存在しているともいわれているし、また、収容人員10名程度の米軍艦船上に作られた監獄ともいわれている。
※ CIA under fire for secret detentions Indian Ocean atoll alleged abuse site
http://www.globalsecurity.org/org/news/2005/050702-island-torture.htm
※Hidden Torture Centers The CIA’s Secret Prisons in Europe
http://www.voltairenet.org/article131384.html
(6)先述の今年8月23日に防衛省が提出した「自衛隊の活動状況及び実績」では、活動開始からこれまで臨検を延べ1万1000回以上、無線照会を14万回以上実施したことが報告されている。これは先の外務省の数字とほとんど同じである。この文書では、さらに「不審船等が減少した」結果、無線照会数が04年の4万1000回から06年には9000回へと減ったことが明らかにされ、活動量が激減したことを記している。
※海上自衛隊のインド洋での給油先、米艦船が半数近く(朝日新聞)
http://www.asahi.com/politics/update/0823/TKY200708230303.html
臨検や不当拘束をやりまくった結果、有志連合艦船の活動海域が、いつ「テロリスト」とでっち上げられて拿捕されるかわからない恐怖の海域となり航行する船舶が減った結果なのか、無線照会や臨検の活動規模そのものが低下した結果なのかはわからない。しかし、彼らが言うように本当に「不審船が減少」したのだとしても、それはイラクやアフガニスタンの情勢を見れば一目瞭然であるように、「テロ活動」(米とその同盟軍を標的とした軍事的攻撃と反米武装闘争)そのものが減少したわけではなく、拡大・激化している。
無線照会や臨検が減少したかどうかに関わらず、インド洋における有志連合軍の軍事的プレゼンスは紛れもない武力による威嚇であり、戦争行為であり、地域の重大な脅威である。それへの自衛艦の派遣は重大な憲法違反である。臨検、押収、拘束を公海上で我が物顔でおこなう多国籍軍艦船と共に行動し、燃料を供給しているならば前線も後方支援もない。文字通り一体化している。燃料を供給した米艦船がその場で臨検を始めたならば、それは共同軍事作戦である。軍事用語で言う「臨検」とは、戦時下の公海上で他国の船を停船させ武装部隊を乗り移らせて行き先や積み荷を規制する戦闘行為であり、まさに自衛艦が派遣されているインド洋は公海上で臨検やり放題の戦争状態にあるということなのである。実際に世界中どこを探しても、このような海域は存在しない。しかも当初は、米英を含め55隻以上の艦船が派遣されていたことを考えれば、派遣艦船が激減した元で、最後の最後まで日本が自衛艦を派遣させ続ける犯罪性が問題になるだろう。。
(7)おびただしい数の無実の市民が「アルカイダ」「テロリスト」とでっち上げられ、9.11の容疑を着せられ、不当に逮捕・拘束され、その少なからぬ数の人々が「行方不明」になっている。ところがそもそも9.11の真相さえ明らかになっていない。アルカイダによる犯行が確認されていないし、アルカイダと旧タリバン政権との関係も不明である。またアルカイダとイラクとの関係は明確に否定されている。アルカイダとテロリストを持ち出せば、何でも正当化されるということ自身が許されない。「テロ対策」「テロ防止」に名を借りた人権侵害、監視国家化、イスラム系市民の不当拘束、さらには公海上での臨検と戦争行為、これら不法行為を徹底して批判し、追及しなければならない。絶対にやめさせなければならない。これ以上「対テロ戦争」に加担させてはならない。
[3]テロ特措法延長のもう一つの狙いは、インド洋への自衛艦派遣の恒常化と常駐
(1)海上自衛隊艦船のインド洋派遣は、自衛隊にとってもうひとつの重要な意味を持つ。それは海外派兵の恒常化と経験や実績の蓄積という側面である。実に補給艦の派遣回数が61回、派遣自衛艦延べ1万千人を越えていることに現れている。呉、横須賀、舞鶴、佐世保、大湊と海上自衛隊基地をふんだんに使い、補給艦と護衛艦を別の基地から出航させ合流させるなど、この派遣形態そのものが一つの訓練になっているのである。そして艦船の派遣と帰還を頻繁に繰り返し、また交代を繰り返すことで、そのルートにある海域や港湾の情報や教訓を蓄積し、さらに派兵要員に経験を積ませていくということである。
そうして日米の実務上の軍事一体化を強め、情報、通信等々を共有していくという側面である。まさにこのルートは、中東から北東アジアに至る「不安定の弧」をつなぐシーレーンに他ならない。そしてこの地域こそ、米が敵視・警戒するイスラム地域や中国、朝鮮民主主義人民共和国が連なっているのである。2006年11月第二護衛隊指揮官として派遣された久野敬市一佐は「ペルシャ湾の海象や気象、砂塵による電波障害の特性まで体得できた」と語っている。自衛艦が補給活動をおこなう周辺には、国籍もすぐにはわからない多数の船舶や航空機が航行しており、自衛隊員は常時「不測の事態」に対応できる態勢を維持することが要求される。外気温度は最高40℃を超え、甲板上は約70℃以上になることもあるなどの厳しい環境になれなければならない。自衛隊にとっては絶好の実戦訓練となっているのだ。
※東京新聞 5月27日朝刊「新防人考 日常化するインド洋派遣」
(2)憲法改悪、集団的自衛権の行使解禁、恒久法制定等々が後景に退くことで、海外派兵を恒常化、既成事実化する手段としてのテロ特措法の意味が、政府支配層にとってこれまでになく高まった。海上自衛隊は、インド洋、アラビア海に駐留することを既得権としてしがみつく。そして、一旦海外派兵されて軍事的任務に就いてしまえば、元々の法律の規定はないがしろにされ、自衛隊はそれが本質的に持つ軍の論理に基づいて行動をエスカレートさせる。テロ特措法の「拡大解釈」によるイラク戦争への加担も、派遣ルートの情報収集もそうである。
このような軍の論理の危険性をまざまざと示したのが、イラク先遣隊長の佐藤正久が「駆けつけ警護」を行うつもりだったことを明らかにしたことである。しかも単なる「駆けつけ警護」ではない。佐藤は、「(オランダ軍が攻撃されれば)情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる。巻き込まれない限りは(武器使用が可能な)正当防衛、緊急避難の状況はつくり出せない」と語ったのである。これは、集団的自衛権の行使として、憲法上許されていない、他国軍が攻撃された場合の「駆けつけ警護」を、佐藤が隊長という立場で行う意図を持っていたということを意味する。その際、武器使用の基準が満たされる「正当防衛」状態を作り出すために、「あえて巻き込まれる」ことまでを想定したというのである。佐藤が派遣された根拠法であるイラク特措法でもテロ特措法でも、こんなことは認められていない。部隊長の判断で、事態を意識的にエスカレートさせ、自衛隊員を武器使用から戦闘行為へさらには交戦状態へと引き吊り込んでいく、極めて危険な発想である。柳条湖事件をも彷彿させる。しかも、駆けつけ警護は佐藤個人の意志ではなく、自衛隊の内部資料に書かれているという。
テロ特措法が延長され、インド洋への派遣が継続されることは、自衛隊の暴走と戦争挑発の危険を絶えず生み出し続けるのことを意味する。
[4]「海上阻止活動」が行った「対テロ活動」の全貌を明らかにさせ、徹底して追及しよう。インド洋からの自衛隊の撤退を勝ち取ろう
(1)インド洋への自衛艦の派遣と給油活動は、以上に述べたように、@アメリカによる無法なアフガニスタン戦争への協力と加担、A特にイラクからの陸上自衛隊の撤退以降は、「対テロ戦争」への日本の協力の重要な柱、B海外派兵の恒常化、常態化のための地均しと既成事実化等々、幾重もの政治的軍事的意味を持つ。テロ特措法延長に対する米の執拗な要求は、米にとってもこの活動が不可欠と考えているからに他ならない。あの手この手をつかって切り崩しを図り、民主党の動揺と翻意を図ってくるだろう。
(2)民主党小沢は、テロ特措法の延長反対を鮮明にし、安倍政権との対決姿勢を強めている。しかし私たちは、これに期待し乗っかかるわけには行かない。商業メディアなどでは、臨時国会におけるテロ特措法の扱いについて、@民主党が廃止法案を提出し参院で可決、改正案の審議を拒否する、A民主党が参院の議論を引き延ばして期限れに持ち込む、B参院でテロ特措法延長反対を可決するが、衆院で再可決して成立させる、などいくつかのオプションが取りざたされている。その背景には、小沢は確かに反対を表明しているが、衆院の再可決を封じて廃案、期限切れに追い込むということまでは言明していないということがある。また、小沢は、「アメリカの軍事作戦は国連安保理によってオーソライズされていない」と主張し、国連主義を延長反対の最大の根拠としている。しかし国連を軸としたアフガニスタンへの駐留と支配を否定しているわけではない。小沢は、戦闘活動を行っている国際治安支援部隊(ISAF)をPKOと同一視し、アフガニスタン本土への日本からの治安部隊派遣さえ容認姿勢をとっている。このような小沢の姿勢、また民主党がこれまで一連の有事関連法や防衛省昇格法などに賛成してきた経緯をみれば、状況は極めて危ういと言わざるを得ない。民主党内では、前原らタカ派連中から絶えず延長容認論がだされ、対案としての「人道支援法」などのオプションも含めて、延長阻止がたえず動揺にさらされる条件がある。
(3)あくまでも目標はテロ特措法の延長を実際に阻止すること、11月1日の期限切れに持ち込み、インド洋での自衛艦の給油活動を中止させ、撤退を勝ち取ることである。単なる政治的駆け引きに終わらせてはならない。そのためには院外の大衆闘争と世論喚起が決定的に重要だ。
テロ特措法によって、アフガニスタンにおける無差別殺戮と破壊に日本が加担していること、民衆の生活をメチャメチャにし、治安悪化と混乱に拍車をかけることに加担していること、世界中で無実の人々を拘束し、「テロリスト」とでっち上げ収容所に送り込む「対テロ活動」の先棒を担いでいること−−これらの自覚と批判が必要である。特に「対テロ活動」「テロリスト」「アルカイダ」が持ち出されると何もいえないという風潮がマスコミにおいても、国会論戦においても存在している。「対テロ戦争」そのものが批判されなければならない。
民主党は、テロ特措法による自衛艦の給油実績やかかった費用などについて情報開示を要求する方針だ。しかし、問題はこれまでにOEF-MIOが行った活動の全貌を明らかにさせ、批判することである。臨検の回数やその実態、押収した麻薬と「テロ」とは関係していたのか、何人の乗組員が不当拘束されたのか、拘束された乗組員はどのように処遇されたのか、いかなる罪名で何年の刑期でどこに拘留されているのか等々を追及しなければならない。おそらく政府は答えられないだろう。そもそもそのようなことは把握していない可能性がある。しかし、それでは済まない。自らが支援した活動がもたらしている諸結果について、「よく知りません。アメリカから言われたのでとりあえず給油を続けています」では済まない。テロ特措法がテロの撲滅に役立っているかどうかというような一般的抽象的な議論がされてはならない。もちろん役立っているどころか、「テロ」が拡大しているのは言うまでもない。
(4)韓国ボランティアの人質問題は、米の侵略を支持し部隊を派遣する国が、反米勢力の標的となることを改めて明らかにした。アフガニスタン人民にとって、米に協力する国は、いかなる形態であろうと侵略戦争への加担者である。韓国はアフガニスタンからの撤退を表明した。オランダ、カナダ、ドイツなど国際治安支援部隊(ISAF)の参加国からは撤退論が急速に強まっている。また、オランダ、ベルギー、ギリシャ、スペインはインド洋のOEF-MIOへの派遣をすでにやめており、再派遣の予定はない。
日本が、インド洋から自衛艦を撤退させ「不朽の自由作戦」「海上阻止行動」と手を切るかつてないチャンスがやってきている。大衆運動を強化し、テロ特措法の延長を実際に阻止しよう。その力で、イラクからの自衛隊の完全撤退に突き進もう。安倍の戦争国家づくり、改憲策動を挫折させよう。