あくまでも中谷防衛庁長官の罷免を要求する
−− 防衛庁の「情報公開」室は、自衛隊の市民監視・治安・弾圧活動の窓口だった!
●「調査報告書」を撤回すること。
●組織ぐるみのブラックリスト作り、身元・思想調査を違法行為だと認めること。
●一切のブラックリスト作りを中止すること。
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T.はじめに
(1)幕引きは許されない。
自衛隊が情報公開を請求した市民を逆に身元調査、思想調査していた事件に関連して、中谷防衛庁長官は20日夕、中谷長官自身の給与自主返納と、柳沢協二官房長らの更迭、幹部職員ら29人に減給や戒告など自衛隊法の懲戒処分を含む処分を発表しました。調達実施本部背任事件以来の大量処分と言われます。しかし、ブラックリスト問題はこれで終わったのでしょうか。事件の真相が明らかにされ責任が取られたのでしょうか。
私たちはそう思いません。防衛庁が提出した調査報告書(「海幕三等海佐開示請求者リスト事案等に係る調査報告書」)は、事件を一部職員の個人的な違法行為に限定し、それ以外は単なる監督責任や認識の低さ、不適切な対応があっただけだとして済ませようとしています。自衛隊の組織的な犯罪全体は隠蔽し、そればかりか正当化して、そのまま続けようというひどいものです。
私たちは、このようなデタラメな調査報告書の撤回を求めます。事件の徹底した究明と責任追及を求めます。あくまでも中谷防衛庁長官の罷免を要求します。
与党と防衛庁は、40ページの「調査報告書」全文を隠し、わずか4ページの概要だけを発表して、防衛庁・自衛隊組織ぐるみの犯罪を隠蔽しようとしました。山崎幹事長をはじめとする自公保の幹事長たちが、この隠蔽を命じたのです。小泉首相や福田官房長官も、別に報告書があるのを知っていながら黙っていました。この隠蔽工作についても、何ら責任問題が決着していません。山崎幹事長が「遺憾の意」を表明するだけで済む問題とは思いません。ましてや、小泉首相出席の集中審議で、防衛庁ブラックリスト問題、「非核三原則見直し」発言、「核保有合憲」発言など、この間の全ての問題の禊ぎとしてしまうことなど、絶対に許してはならないと思います。与党と防衛庁の責任を厳しく追及し、有事法制を廃案にさせなければなりません。
(2)「報告書」を認めると全省庁でブラックリスト作りが合法化される危険
今回の事件と「調査報告書」には、ざっと次の問題点があります。
まず第一に、情報公開を請求した人の職業や所属団体などの個人情報が、勝手に調査されリストにされて、本人の知らない内に外部に売り渡されていたということ、そのこと自体が個人情報保護の観点から、決して許されないことです。
第二に、情報公開請求に何ら必要のない情報がリストにされ、情報公開室のLANでいつでも閲覧できるようになっていたというのは、情報公開制度そのものの精神に真っ向から反するものです。
第三に、調査報告書を読むと、もっと恐ろしい、許せない事件の実態が浮かび上がってきます。それは情報公開制度を悪用、逆用して反自衛隊、反戦平和の市民や市民運動を監視し弾圧するための弾圧対象者リストを組織ぐるみで作っていたという事実です。報告書は、あくまでも数人の職員個人の違法行為と、認識不足、教育不足として描こうとしていますが、実際は、全く逆なのです。
そして第四に、何よりも、防衛庁は自衛隊の身元・思想調査を違法だとは認めていません。これからも続けようとしているのです。
制服組議員も多い自民党国防関係3部会の12日に開かれた会議では、「自衛官は暴走するくらいの方がいい」「どんどんやりなさいと言わないと情報を集める人は育たない」「リストを(外へ)流した人が悪いのであって、リストをつくった人はよくやったということではないか」などの発言が相次いだと言います(朝日新聞6月12日付)。言語道断です。
もし、今回の「報告書」が撤回されず、あいまいにされたり、責任者中谷防衛庁長官が罷免されず居座れば大変です。弾圧対象者リスト=ブラックリスト作り、監視対象者リスト作りが全省庁で「合法」となるからです。その意味で、有事法制廃案に向けた単なる手段ではなく、この事件そのものにきっちりとけじめをつけ、「報告書」の撤回と一切のブラックリスト作りの中止、責任者の罷免をさせなければならないのです。
私たちは、「概要」と「全文」を入手して検討しました。「報告書」そのものから浮かび上がる実態を明らかにしようと思います。
U.防衛庁・自衛隊が組織ぐるみでブラックリスト作り。市民の監視と予防弾圧に使われていた。
防衛庁の調査報告書が、マスコミや野党の追及で、違法だと認めざるを得なくなったのは、今回のスキャンダルの発端となった、海幕の情報公開室員である三等海佐(A三等海佐)が作成し外部に配布したとされる「開示請求者リスト」と、空幕情報公開室のS三佐とT三佐が東京地方調査隊に渡したとされるリスト、そして防衛施設庁がLANに掲示したリストの3つだけです。報告書は、これらを担当室員の個人的な行為として説明しようと懸命ですが、明らかに組織的な犯罪だったことは間違いありません。
*防衛庁の報告書は、事件に関与した20人に上る関係者にA〜Zの記号を付けています。
(1)情報公開室は自衛隊による市民監視機関だった。
海幕のA三佐は、「受験者(○○で失格)の母」「反戦自衛官」などの個人情報を記載した開示請求者リストを、防衛庁内局や陸海空各幕の情報公開室と海自の中央調査隊などに配布していました。空幕情報公開室のリストは東京地方調査隊に渡されていました。
情報公開請求者の身元や思想についての情報を含んだリストが渡された調査隊というのは、防衛庁長官直轄で陸海空自衛隊に置かれ、警務隊と共に治安情報を収集している組織です。自衛隊の中で市民監視や反自衛隊対策、治安対策を担当する機関です。情報公開を請求した市民の個人情報のリストを本人の知らない内に勝手に作っていた事それ自体が許し難いことなのに、事もあろうに、それが自衛隊の市民監視機関に定期的に渡されていたのです。
調査報告書によると、空幕情報公開室から東京地方調査隊員に渡されたリストは、昨年5〜7月から今年3月までの1年足らずの間で15回にも及びます(P.22,23、以下数字は報告書の頁)。月に1〜2度くらいの頻度で定期的に渡されていたことになります。調査隊では、リストを受け取った隊員が調査隊長に内容の報告まで行っています(P.23)。空幕公開室では、S三佐が昨年8月に転勤したあとも、後任者T三佐に引き継がれて、調査隊への受け渡しが継続されていました(P.23)。
海幕公開室のリストを受け取った海自中央調査隊の隊員も、リストをプリンターに出力し、調査隊長などに閲覧させています(P.8)。今年3月にA三佐が転勤したあと、適切な後任者がいなかったので、海幕公開室長がリストを引き継いで保管したと言います(P.9)。明らかに、調査隊へのブラックリスト提供が、組織的に正規の業務として行われていたのです。こうした継続性、系統性のどこが組織ぐるみでないと言えるでしょうか。
さらに驚くべき事は、こうしたことが、情報公開法の施行にともなって、情報公開室が設置された当初から、調査隊の主導で準備されてきたということです。海幕のA三佐は、海上自衛隊の調査部門に所属していたとされます。一昨年8月に海幕情報公開室の準備室員となり、請求文書の開示・不開示の審査基準作りを担当、昨年4月、情報公開法施行と共に、公開室員となります。そして1年間ブラックリスト作りをやってこの3月に、海自岩国調査分遣隊長に転出しています(P.2)。リストは最初のハードコピーから海自の調査課情報保全室に送られ(昨年4月)、そして今年3月まで更新分がFDやMOで送られていました(P.6)。実はこの海佐は、海自調査課の隊員としてリスト作りを業務として行っていたのではないでしょうか。だから海自調査課にリストが保管されていたのです。
防衛庁の情報公開室は、最初から自衛隊の調査部門=市民監視・治安機関によって作られ、調査隊員がこの業務を担当してきたことになります。防衛庁の情報公開室は、まるで調査隊の出先機関のような存在だったのです。
ある意味では、これは当然の事なのかもしれません。なぜなら、自衛隊そのものが、市民を監視し弾圧する対象としか見ていないということです。しかし、防衛庁の中で、自衛隊制服組の力が強まり、好き放題やり出すことだけは、許してはなりません。自衛隊の危険な本質が暴露された今回のような事件を徹底的に批判し足かせを嵌めることが重要なことです。
(2)防衛庁の組織をあげてブラックリスト作り
このようなブラックリスト作りは、海幕と空幕の公開室員だけが行ったのではありません。防衛庁内局、陸海空各幕、防衛施設庁を含む防衛庁の全ての情報公開室で行われていました。しかも、相互に調べた情報を交換しあっていました。防衛庁は、全部の情報公開請求者について、開示請求に必要な氏名などだけでなく、「オンブズマン」「市民団体」「○○新聞」等と記入されたリストを作っているのです。報告書が明らかにしたリストは、全部で10種類に上ります。空幕のS三佐が調査隊に流したのは公開室のリストに氏名等を付け加えただけのものでした。海幕のA三佐も自分でインターネット等を使って調べた他、各幕の公開室員から聞いた情報でリストを作ったと語っています。
行政文書開示請求書に記述されたもの以外から、請求者本人の知らない内に収集されてリストにされた個人情報が、防衛庁の報告書によっても、内局で101件、陸幕で141件、空幕で6件もありました。窓口における請求者とのやりとり、名刺、書籍、過去の資料、室員の既知の情報などによって作成されたと言います。自衛隊が情報公開を請求した人の身元調査・思想調査を組織的に、業務として行っていたことの厳然たる証拠です。
(3)ブラックリストを使って開示/非開示を裁定。情報公開法の精神を真っ向から否定するもの。
報告書は、これら防衛庁が勝手に調べてLANに掲載した請求者の所属団体等の個人情報を情報公開業務の「進行管理」のためと説明していますが、これはどういうことなのでしょう。なぜ、情報公開業務のために、請求書記載以外の情報が必要なのでしょうか。
実は、LANに掲載された個人情報を参照しながら、公開請求情報の開示・不開示が決裁されていた可能性が指摘されています(毎日新聞6月10日付)。朝日新聞(6月12日付)によると、防衛庁首脳は、「明らかなスパイと研究熱心な学生とでは、情報公開の内容に扱いを変えていけないのか。」と、リスト作成を公然と弁護しているといいます。これは、情報公開法の精神に真っ向から反するものです。
報告書は、各幕のリストを切り離して説明し、あたかもそれぞれが別々に作られたかのように記述していますが、防衛庁内局と海幕、空幕では「進行管理表」と称する個人情報リストが、陸幕と施設庁では「業務処理状況一覧表」と称する個人情報リストがLAN(*)に掲載されていました。施設庁を除きすべてのリストに開示請求書以外の個人情報が記載されていました(*)。各幕共通の基本フォームに従って個人情報リストが作成されていた可能性があります。
*海幕は公開室内のLAN、その他は全庁LAN。
*施設庁のリストにも請求者の所属が記載されていたが、開示請求書の氏名欄に記載されたもののみだったとされている。
(4)ブラックリスト作りは反対運動に対する監視と弾圧
行政機関に対する文書情報の公開請求は、政府の政策に反対する市民の運動の重要な武器になっていました。情報公開法自体が、政府と官僚の秘密主義とのねばり強い闘争によって闘いとられてきた国民の権利です。防衛庁がやったことは、情報公開を武器とした反対運動、とりわけ反基地闘争、反自衛隊闘争に対して、公開する情報を制御し、運動を妨害しようとすることであり、一方では運動への予防弾圧を行うものです。
私たちは、このような防衛庁・自衛隊の狙いをはねつけ、情報公開法の一層厳格な実施を押しつけていかなければなりません。
V.身元・思想調査の違法性を認めず、ブラックリスト作りを「合法」とする防衛庁報告書
防衛庁の報告書は、このような犯罪的なブラックリスト作成のきわめて限られた部分だけしか違法性を認めていません。しかも一部職員の行為として処理し、組織的な関与を否定しています。防衛庁内局と各幕のLANに載せたリストは、氏名を削ったリストで「個人を特定できる情報が入っていない」から「違法でない」と詭弁を使って、ブラックリスト作りそのもの、身元・思想調査を組織的に行っていたことそのものは正当化し、今後も続けようとしています。私たちは、これを徹底的に批判し、責任を追及していかなければならないと思います。
現行法を自分に都合の良いように解釈して、ブラックリスト作りの違法性をごまかそうとする彼らのやり口について、少し立ち入って批判しておきたいと思います。
(1)現に、身元・思想調査が行われたことは明らか。このことについての断罪が必要。
既に述べたように、職種や所属団体などの個人情報が、行政文書開示請求書に記述されたもの以外から収集されてリストにされたということです。これだけで十分違法行為と言えるでしょう。
「行政機関の保有する電算機処理に係る個人情報保護法」により、個人情報ファイルの保有そのものに明確な法的根拠が求められています。自衛隊が収集した個人情報のすべてについて、いかなる法的根拠に基づくものかを、説明できなければなりません。「情報公開の事務の範囲内」という説明はデタラメです。
(2)「個人が特定できない」はウソ。
「個人を特定できる情報が入っていない」ことを理由に違法性がないというのは、まったく都合の良い解釈と言えます。
この点について、毎日新聞がかなり詳しい批判を載せました(6月10日付、12日付)。「別々に保存されたリストが一つの行政機関内で保有されていれば、容易に照合可能で、いずれも個人情報に当たる」(堀部政男中央大法学部教授)のです。
各幕がLANに掲載した「進行管理表」や「業務処理状況一覧表」には、いずれも請求番号や整理番号が付いていました。氏名が記載されていなくても、請求書番号や請求書原本ファイルが同一の担当課に保管されていれば容易に照合でき、個人を特定できるのです。
現に、空幕情報公開室員は、防衛庁情報公開室の「進行管理表」をダウンロードして、開示請求書から氏名等を入力して、調査隊に渡していたのです(P.23)。月に1〜2回の頻度でこんなことをやっていた訳ですから、容易に個人名を照合できたということです。それにもかかわらず、この公開室員の行為は違法だがこのリストそのものは違法でないというのはデタラメです。
そもそも、氏名をイニシャルにしてLANに載せたリストを作成するには、その元になった一覧表が必ず存在したはずです。現に、陸幕のLANに掲載されていた「情報公開概要報告」のグラフをダブルクリックすると、「開示請求受状況一覧表」を閲覧できたといいます。そこには、開示請求者区分として新聞社名、法人名、個人名等が記載されていましたが、今年5月30日までそれに気づかなかったというのです(P.16)。昨年7月から1年近くLANに載っていたのに、それは担当者限りの資料として作成した「一過性の作業用基礎データ」だから「個人情報ファイル」には該当しない、問題ないというのです(P.21)。まさに、何とでも言えるというやつです。
こんな欺瞞的な都合のいい法律解釈を許せば、今後も堂々と違法が続けられます。
(3)情報公開法に違反する。
リスト作成そのものの違法性を否定するもう一つの根拠、防衛庁による身元調査を「情報公開の事務の範囲内」と説明することのなかに、情報公開法の精神の真っ向からの否定があります。既に指摘したように、請求者の所属団体や職業によって公開する情報が決められるようなことがあってはなりません。
「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」は、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。」とさだめ、請求に必要な用件としては、「開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名」を要求しているだけです。そして行政機関の長には、「開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。」と義務を定めています。なるほど「国の安全が害されるおそれ」があるときなどのいくつかの例外がもうけてはいますが、請求者の職業や思想による制限を認めていません。防衛庁が請求用件と無関係の個人情報を収集したことは、情報公開法の条文そのもの、その基本精神に対する明確な違反です。
(4)総務省が「合法」と太鼓判を押した。−−もし今回の事件をうやむやにすれば全ての省庁でブラックリスト作りが合法化される。
防衛庁は、この「違法でない」という結論を、総務省に問い合わせて確認したと言います。そうだとすれば、行政機関の情報公開を推進する責任者である総務省が、今回のような、ブラックリスト作りを違法でないとする勝手な法律解釈をしていることになります。そうなれば、事は防衛庁だけでなく、全ての省庁でのブラックリスト作りも容認されることになります。本当に総務省は、防衛庁の報告書のように解釈するのだなと確認を迫らなければなりません。そして、とりわけ住民基本台帳、納税者番号が、市民全体の思想調査に使われる危険性が、ますますリアルになったことを問題にし、これを撤回させていかなければなりません。
(5)何よりも憲法の定める思想・信条の自由に反する
ブラックリストの作成そのもの、組織ぐるみで行われた個人情報の調査活動そのもの、それを市民監視・治安活動に利用したこと、それはすべて極めて悪質な人権侵害事件であり、国家による組織犯罪といえます。その点を、報告書も、中谷防衛庁長官も、小泉首相も、一切認めようとしていません。これは、何よりも憲法の保証する思想・信条の自由に違反するものです。ここには、国を(実は官僚と軍隊を)守るためには、一般市民の基本的人権を制限することも当然という思想が貫かれています。これは、有事法制にも共通するものであり、憲法の国民主権、基本的人権の原則に真っ向から敵対するものです。
@ 私たちは、防衛庁・自衛隊の身元・思想調査を正当化する防衛庁の「調査報告書」の撤回を求めます。
A 私たちは防衛庁・自衛隊の身元・思想調査そのもの、ブラックリスト作りそのものの禁止を求めます。
B 政府・総務省が、全省庁で防衛庁・自衛隊と同様のブラックリスト作り、身元・思想調査そのものを違憲・違法と認めるよう求めます。
2002年6月20日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
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