■有事法制は廃案に向けあと一歩−−5/24強行採決阻止のうねりが生み出した有利な状況。 5月15日晩、「与党が5月24日衆院通過を目指す」との与党強行採決の第一報以来3週間近くが経ち、局面は大きく変わりました。有事法制に反対する全国各地の市民一人一人の抗議の声が、5/24、5/23を頂点とする社民党や共産党などの大衆的な共同行動が、地方自治体の首長らが、弁護士や知識人たちが、反対や疑念や慎重審議を求めるうねりを作り出し、国会や政府与党に文字通り集中し、その結果5月24日の強行採決を断念に追い込んだのです。 小泉政権とその与党は、いわゆる重要法案をごり押しするだけでまるで政権末期症状です。今日の新聞報道ではメディア規制法については今国会成立断念とのことです。政府与党が割れ始めました。自治体も声を挙げました。これまで沈黙していた人々もようやく発言し始めました。小泉首相の支持率は80%から40%に落下しました。有事法制の賛否が40:46と遂に反対が多数派に転化しました。議会で圧倒的多数を支配する与党が行き詰まり始めたのです。 それもこれも5月24日の強行採決阻止の衝撃が生み出したものです。有事法制反対が一つの潮流とうねりになりました。全国民が一斉に動いたわけではありません。しかし有事法制に反対し危機感を持つ様々な人々の声、護憲の声、平和を希求する声、戦前を繰り返したくない声−−これらまだまだ少数ながら必死に頑張って声を挙げた市民一人一人の意見表明の結果が、瞬発力のように一つの流れを作り出したのです。廃案まであと一歩です。自信を持って大胆に行動しましょう! ■ここ数日が正念場。当面の焦点は有事法制担当3閣僚の罷免。ここに攻撃を集中し廃案へ! 有事法制をめぐる与野党の対立関係は再び正念場を迎えています。国会会期延長に反対、野党は法案修正協議に応じるな、有事法制を廃案に!−−この流れにダメ押しをするのは、福田−安倍−中谷、この3閣僚を辞任に追い込むことです。5月15日、私たちは与党の強行採決を阻止するため、必死になって家族や友人や知人に訴えました。同じように再び抗議の声を集中しましょう。今度は矛先は福田官房長官、安倍官房副長官、中谷防衛庁長官の3人です。 彼らは主要閣僚であるだけでなく、有事法制に責任を持つ大臣です。彼らにはもはや答弁する資格はありません。「国是」の否定をほのめかす者が政府を代表して答弁したり、国民の監視を公然と行ったり市民の人権侵害をしている者が有事法制で国民の権利制限について語ることなど絶対許してはなりません。 野党4党は「非核三原則見直し」発言の責任を取らせて福田官房長官を罷免すること、この発言を「どうってことないよ」と擁護した小泉首相の発言を追及する集中審議を要求しました。これを拒否した政府・与党に対して「武力攻撃事態特別委員会」の審議をボイコットする対応に出ています。防衛庁の情報公開請求者に対する身元・思想調査問題でも防衛庁の組織全体が関わる犯罪・人権侵害であるのに、それを隠蔽し個人の責任に押しつけようとした中谷防衛庁長官の罷免を要求しています。今こそ末期症状の中で吹き出した小泉政権の汚点、弱点を突き、その責任を徹底的に追及しましょう。 ■単なる「失言」ではない。有事法制の最重要論点−−核ミサイルによる先制攻撃論に踏み込もうとした福田・安倍コンビ。 言うまでもなく「非核三原則」は、政府よって変化する単なる「政策」ではありません。憲法に次ぐ「国是」であり、国際的には核兵器不拡散条約(NPT)と相まって核武装も他国の核持ち込みもしないという対外公約そのものでもあります。当然、閣僚にとっては遵守すべき最重要の根本原則です。この根本原則を内閣の中枢、ナンバー2である官房長官が見直しを公言するなど許されないことです。その責任がいかに大きいかは国内の被爆者をはじめ多くの市民に大きなショックを与え、アジア諸国から国際的な批判を呼び起こしていることから明らかです。 小泉首相は直ちに福田官房長官を罷免すべきです。 新聞やTVではほとんど触れられていないのですが、重要なことは、一連の日本核武装発言が単なる「失言」や「軽口」ではないことです。単なる「非核三原則見直し」発言でもありません。小泉首相は「私が変えないと言っているのだから問題ないだろう」と責任逃れをしますが、とんでもありません。発言を取り消せばそれで済む問題ではないのです。 なぜか。一連の発言が有事法制と密接不可分だからです。福田・安倍両氏が連携して、有事法制の最大論点の一つ、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のノドン・テポドンというミサイルに対して、それを攻撃し壊滅させること、ミサイル危機台頭の際に有事法制を発動することを念頭に置いて、法的整備を目論んでいたことです。つまり有事法制を成立させた後に、「非核三原則の見直し」「核ミサイル保有」の法的フリーハンドを持っておこうということなのです。もう少し詳しく説明しましょう。 ■事の発端は『サンデー毎日』6月2日号の「安倍官房副長官核使用合憲発言」すっぱ抜き記事。 今日6月5日の日経新聞で経緯が書かれています。5月31日の定例記者会見で、記者団が「安倍氏がICBMや原子爆弾の保有は憲法上問題ないと言っているがどうか」と質問したのに対して、福田官房長官は「理屈、法理論から言えば持てるが、政治論として持っていない」と答えました。そして会見後の「政府首脳懇談」という「内閣記者会」(新聞・TVなど政治記者たち)と政府首脳とのオフレコの意見交換の場で、問題発言があったのです。−−「今では憲法にも見直し論議がある時代だから国際情勢が変わったり、国民世論が変わったり、国民世論が核を持つべきだとなれば、非核三原則が変わるかも知れないぞ。」 「政府首脳」とは一体誰なのか?6月4日に、それは福田官房長官だということが分かるまでは、新聞もTVも異常なほど、その発言者を隠してきました。そこに政府とマスコミの馴れ合い・癒着が露骨に出ているのですが、世論の高まりで遂に明らかにしなければならなくなったのです。 しかし事の発端は『サンデー毎日』6月2日号「政界激震 安倍晋三官房副長官が語ったものすごい中身『核兵器の使用は違憲ではない』」です。大問題に発展したので同誌は6月9日号に「安倍『有事法制』発言詳報」を8ページにわたり特集し掲載しました。更に最新号6月16日号では「安倍官房副長官に本誌が厳重抗議」と題して、安倍氏が国会答弁で「『サンデー毎日』は盗聴器と盗撮ビデオを仕掛けた」と非難したことに猛烈に反論したのです。 問題になったスクープ記事は、早稲田大学で5月13日に行われた安倍官房副長官の講演会、安倍氏と田原聡一郎氏との討論会の場での発言内容でした。私たちも、3号にわたる記事の中身を確認しました。まあ、確信犯というか、筋が通っているのです。 ■北朝鮮への核先制攻撃を正当化する新しい侵略の論理。 安倍氏の早稲田大学での5月13日の講演は、@ミサイル注入段階で攻撃しても専守防衛、A攻撃は兵士が行くと派兵になるが、ミサイルを撃ち込むのは問題ない。日本はそのためにICBMを持てるし、憲法上問題はない。B小型核兵器なら核保有はもちろん核使用も憲法上認められている。都市攻撃はダメだがミサイル基地の核兵器による先制攻撃は専守防衛だというものです。明らかに「先制攻撃論」を「核による先制攻撃論」に拡張したものです。しかも、従来の「ICBMは攻撃兵器だから持てない」という政府見解を勝手に正反対に偽造し、日本の核武装を否定した「非核三原則」を投げ捨てるようなことを言ったのです。 福田氏の問題発言は、この安倍氏の発言について聞かれて「非核三原則見直しもありうる」と答えたのですから、確かに議論は一貫しています。両者が結託して核による先制攻撃論に法理論的な道を開こうとしていることは明らかです。 現に、安倍氏の早稲田での講演の数日前、5月9日の有事法制特別委員会の審議で福田官房長官は「ミサイルに燃料を注入したら、攻撃に着手したとみなし基地を先制攻撃しても専守防衛の範囲」と答弁し専守防衛を先制攻撃論へと大拡張しているのです。「失言」や「放言」でないことは明らかです。 ■憲法上・法理論上も核保有・核使用は断じて許されない。 福田氏も安倍氏も、核保有と核使用について憲法上、法理論上は許される、ただ政策上政治論上持たないだけだと断言しました。確かに歴代自民党政権も同じようなことを述べたことがあります。しかしとんでもない暴論です。 しかも有事法制という、朝鮮半島有事に備えて日米で攻撃する国家体制作りを強行する動きと期を一にしてぶち上げられた観測気球なのです。政府の中枢にいる内閣官房長官と官房副長官が口裏を合わせて歴代自民党政権の公式見解さえをも否定し、核先制攻撃に法的なフリーハンドを持たせようと画策しているのです。閣僚が遵守すべき「国是」の転換をほのめかして、世論に核による先制攻撃論を受け入れさせようということなのです。決して許されないことです。 ましてや私たちには平和憲法があります。戦争放棄、戦力不保持、交戦権否定の日本国憲法の平和主義の立場からして、戦力一般が違憲であり、戦争そのものを放棄しているのですから、その究極の形態である核兵器の保有や核兵器による先制攻撃戦争など論外です。 ■ブッシュ政権の対北朝鮮戦争政策に備える法理論的準備か? 福田−安倍ラインは、日本独自核武装を念頭に置いているのでしょうか?国内外世論から、それはそう簡単ではありません。では、なぜそんな危険なことをあえて議論の俎上に上げているのでしょうか?彼らの真意はあきらかではありません。 しかしアメリカによる対北朝鮮戦争の2つのシナリオ(あるいはそれらの同時進行)を想定し、その法理論上の準備をしているとは考えられないでしょうか。従来の法的枠組みの中でアメリカが北朝鮮を攻撃する場合には、「周辺事態」(後方支援にとどまる)、あるいは「安保条約6条事態」(基地の提供のみ)で日米が共同軍事行動に踏み切ることはできませんでした。ところがノドンにしろテポドンにしろ「北朝鮮のミサイルは平和目的はあり得ない。日本への攻撃以外にはあり得ない」と一方的に決めつけたとしたらどうでしょうか。福田−安倍ラインによれば、「燃料注入段階」で先制攻撃はOKです。「安保条約5条事態」(日本防衛)だと勝手に解釈して日米共同軍事行動が可能だという論理になるのです。そしてこれに有事法制をかませると、共同軍事行動だけではなく、国家総動員体制を発動することが出来るのです。 【シナリオT】アメリカの新しい核戦略との関係です。北朝鮮のミサイル基地を米日両軍で先制攻撃することを念頭に置いているとしか考えられません。先制攻撃には空爆と通常戦力によるものがこれまで構想されてきたものです。しかしブッシュ政権は、今年に入って、北朝鮮の地下の核製造施設を破壊するという口実で新たな小型核兵器の開発、新たな核戦略を打ち出しました。「抑止力の核」から「使える核」への核そのものの位置づけの根本的な転換です。アメリカが核先制攻撃したとき(あるいは先制核攻撃の脅迫をしたとき)、日本が有事法制を発動できるよう備えると政府や自民党国防族が考えても不思議ではないのです。 【シナリオU】それともアメリカの戦略ミサイル防衛(MD)の一環としての戦域ミサイル防衛(TMD)への参加を念頭に置いているのでしょうか?この構想は先制攻撃でも破壊できなかった北朝鮮のミサイルを、日本海や日本周辺で緊急態勢を敷き、上昇初期段階で迎撃するシステムです。この時に有事法制発動を考えても不思議ではありません。 しかしこうした朝鮮半島有事は、アメリカの戦争徴発によって作り出されるものなのです。1993−94年の「第二次朝鮮戦争危機」の真実が語っているように、アメリカ側が国連を使って戦争挑発的な「核開発疑惑」をでっち上げ、欧米と日本の政府とマス・メディアを総動員して北朝鮮を追い詰める形で意図的に引き起こすことなのです。しかしこれ自体がアメリカの侵略戦争への加担=集団自衛権行使に他なりません。文字通り、日本をアメリカの侵略戦争に巻き込む重大事態なのです。 ■防衛庁組織ぐるみの犯罪。人権侵害と隠蔽工作を徹底追及しよう。 海幕による情報公開申請者への身元・思想調査が、実際には防衛庁内局・陸海空幕全体で上から組織的に行われていたこと、しかも庁内LANで誰でも見られるようになっていたことが明らかになりました。先のブラックリストとは別のリストです。そして更に問題発覚後、LANは止められ証拠隠滅が計られました。あきれ果てるような防衛庁官僚・軍による人権侵害・犯罪行為です。 これまで国会で中谷防衛庁長官は「個人的におこなったもの」との弁明を繰り返しましたが、すでにその時点で組織的行為であったことを防衛庁幹部は知っていたことが暴露されたのです。中谷長官が全くのウソを答弁したことは明らかです。中谷長官は即刻罷免すべきです。 この事件で明らかになったのは防衛庁のどす黒い隠蔽体質です。市民である申請人について不法な身元調査、思想調査を行い、更にそれをリストにして相互に流しあうことなど許されないことです。「知り得た情報を漏らす」などという生やさしい事ではありません。国民全体を組織的計画的に監視し、市民に対してスパイ行為、犯罪行為を組織としてやっていたということなのです。 ■国民を敵視・監視し平気で人権蹂躙をする政府・防衛庁・自民党が有事法制を手にすれば一体どうなるか? 驚くべきことに、自民党安保3部会はこの犯罪行為を当然と擁護しました。「怪しい者を調べて何が悪い」「リスト作りは当然だ。問題はなぜ漏れたかだ」等々、言いたい放題です。まさしく内部告発者を吊し上げ、自分たちに都合の悪い軍事情報や機密情報を漏洩した者を逆に犯罪者に仕立て上げる発想なのです。個人情報保護法案の危険性そのものです。 すでに昨年の自衛隊法改悪で「防衛機密」を漏らした民間人やマスコミ関係者を厳罰に処すようねじ曲げる条項が強引に押し込まれました。「テロ対策特措法」成立のどさくさ紛れにです。しかも防衛庁長官によって、さまざまな情報が「防衛秘密」と一方的に指定され、知りたい情報も国民の目から隠されることになり、報道関係者に対してだけでなく、国会審議や国政調査権などにおいても重要軍事情報が隠される危険が生じました。 更にです。ブラックリストを作っているのは防衛庁だけでしょうか?誰も信じていません。有事法制発動時に戦争協力者と非協力者をあらかじめ知っておくことは権力者にとって決定的に重要なのです。反戦運動を弾圧しなければ戦争できないからです。まるで予防弾圧システムです。すでに中央省庁や地方自治体で、様々な個人情報が集約されリスト化されている恐ろしい実態が相次いで明るみに出ています。8月に住民基本台帳が国民総背番号制として正式に実用化されると一挙に危険は現実化するでしょう。政府の言うことを聞く忠実な国民と言うことを聞かない「非国民」への選別の危険です。 国民を敵視・監視し人権侵害を平気でする防衛庁や自民党に有事法制を与えたら一体どうなるか、考えてみて下さい。彼らが国民の自由や権利を制限する有事法制や個人情報保護法を出していることこそ、極めて危険なこと、市民の権利を危うくすることなのです。 ■内閣総掛かりで3人を擁護。小泉政権を追い詰めよう! 驚くべきことに6月4日、小泉内閣の閣僚たちから福田擁護の大合唱が起きました。「よくよく聞いてみれば別に(方針を)変えると言っているわけでもない」(坂口厚生労働相)、「真意はそこ(見直し)にはない」(片山総務相)、「(見直しを)おっしゃるはずがない」(森山法相)、「三原則を変える意志は毛頭なかったと思う」(大木環境相)、等々。 極めつけは小泉首相です。5月31日には「私の内閣は非核三原則を堅持する」と答えましたが、あくまでも「今は考えない」と期限付きの答えでした。やはり将来の原則変更を示唆するものでした。そして翌日、6月1日には開き直って「あれはどうってことないよ」と、核兵器の保持と使用の問題をいい加減な、どうでもいい問題として軽くしか考えていないことを自らの口から暴露したのです。そんなことお構いなしにワールドカップで大はしゃぎ。もうこんな首相や内閣を続かせてはなりません。3閣僚の罷免、有事法制廃案、国会会期延長阻止、倒閣の意気込みで小泉内閣を追い詰めましょう。
2002年6月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 |