イラクの人道的危機を加速する自衛隊派兵
「人道復興支援」最大の妨害者は米英軍と軍政権力


T.はじめに−−人道復興支援を進める唯一の出発点は米英軍の撤兵と軍政の解体。

(1)イラク人道的危機の実態把握もせずに何が「人道復興支援」か。言葉をもてあそぶな!
 米軍は現在、イラク各地で、とりわけバグダッド北部、北西部の「スンニ派トライアングル」と言われる地域を中心に、激しい戦闘を繰り広げています。戦車、ヘリ、重火器を用いて、イラク民衆の抵抗を圧殺、子どもも含めて平然と民間人の殺害を続けています。民衆の抵抗と反発が強まれば強まるほど、誰が敵か分からなくなり、辺り構わず撃ちまくっているのです。「ベトナム化」が始まりつつあります。
 まさにこんな状況下でイラクへ自衛隊を派遣することは、米軍の軍事弾圧、民衆虐殺へのあからさまな加担でしかありません。この点については、私たちはこれまでも繰り返し主張してきました。
※「苦境に立つ米英の軍事占領(その1)」(署名事務局)
※「これは大量殺りくだ! 米軍が占領に抵抗するイラク民衆100人以上を無差別に殺害!」(署名事務局)

 今回私たちが主張したいのは、イラク特措法の本質である自衛隊=軍隊派兵をカモフラージュするために持ち出されている「人道復興支援」という表向きの「目的」のウソを暴くこと、その真の実態を示すことです。法案には「国連安保理決議第1483号を踏まえ、人道復興支援活動等を行うこと」とありますが、これはデタラメなのです。

 政府与党は、イラク民衆の人道的危機の現状を真剣に調査した事実も、その実態を国民に公表したこともありません。彼らがどさくさ紛れにやったのは、自衛隊派兵の条件と場所を確認しに現地米軍政当局に出かけただけです。イラク民衆など眼中にありません。デタラメもいいところ。ただ国民をだますためにだけ「人道復興支援」の言葉を法案にちりばめ、その実は軍隊の派兵と銃撃戦・砲撃戦の準備しか考えていないのです。私たちはまずもって、こういう政府与党のふざけた姿勢を弾劾します。

(2)米軍政に加担することは人道的危機を加速するだけ。
 一体誰が「人道復興支援」を妨げているのか。一体何がイラクの人道的危機解決の壁になっているのか。それを明らかにせずして、一足飛びに「人道復興」を隠れ蓑に自衛隊を派兵することなど、暴論でしかありません。
 結論を先に言えば、米英の占領権力と戦闘の継続こそが人道復興支援の最大の妨げになっているのです。従って人道的支援をするには、米英軍の撤兵と占領権力の解体が大前提なのです。従ってまたこの米英占領と占領軍の軍事作戦に加勢することは、人道復興支援への妨害行為以外の何物でもないのです。この結論は、2ヶ月も前に『第三世界のための医療』(第三世界での医療活動を行なうベルギーのアソシエーション)からのアピールと宣言「イラクにおける重大な人道的犯罪の責任者である占領権力へ」(バグダッド 2003年4月16日)で主張されたことでもあります。事態は更に悪化しているのです。
※パリ在住のジャーナリスト中村富美子さんが私たちに送って下さったアピールを参照。
 「『第三世界のための医療』 からのアピールと宣言 イラクにおける重大な人道的犯罪の責任者である占領権力へ

 米英軍の軍政は立ち往生していると言っても過言ではありません。ORHAは何もしないままCPAに組織替えになり、ガーナーはブレマーにすげ替えになり、今度再び、クリントン政権の高官に手助けをしてもらわなければ何も進まない状況に陥っているのです。
※<イラク復興>クリントン時代の高官派遣 米国防総省(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030628-00001004-mai-int

 イラクの現状は悲惨なものです。イラク民衆にとっての真の苦しみはこれから始まるのかも知れません。イラク全土の治安はどんどん悪化しています。多くの民衆は職もなく、その日の食事を細々と始まった配給に頼らざるを得ません。社会的インフラは破壊され、いまだに電気が通っていない箇所も多くあります。上下水道システムは破壊され、都市は汚水・汚物・ゴミで溢れています。消毒された安全な飲み水の入手は困難であり、汚染された水を飲ざるをえない子供たちの間には、コレラ、赤痢などの疾病が襲いかかっています。栄養不足の子供たちも多く、生まれてくる子供たちに至っては、未熟児が多かったり、成長が遅かったり、その生存が危ぶまれています。医療体制が崩壊させられたので、助かる子どもも大人も病状悪化で犠牲になっているのです。戦争の結果がどれほど民衆を苦しめているのか、現実は残酷なまでにこのことを語っています。

 現地を支配する米軍は、イラク民衆の苦しみを横目で見ながらも、自らの責任を何ら反省することなく事態を放置し、銃をぶっ放すことですべてを解決しようとしているのです。
 ブッシュのアメリカは、イラク民衆を救済し、イラク経済を「再建」し、社会を「復興」させる意志も能力も持っていません。彼らの狙いは、イラクをアメリカに刃向かわぬ従属国にし、中東地域全体に睨みを利かし、埋蔵量世界第二位の膨大な石油資源をかすめ取ることだけです。だから石油の略奪に関しては早々とその目的を達しつつあるのです。石油さえ分捕ることがきれば、イラク民衆が死のうと、この国がどんなに貧しい国になろうと構わないと、アメリカは考えているのです。

 イラクの人道的危機は爆発寸前の状況にあります。人道復興支援は今すぐに必要なことです。私たちはこれに反対しているのではありません。しかしイラク全土にわたる人道復興支援体制をスタートさせるには、平和を確保することが最低の条件なのです。少なくとも以下の前提条件が不可欠です。
−−何よりもまず第一に、5月以降に本格化している米英の軍事作戦、ゲリラ掃討戦、民衆弾圧、民衆虐殺を即刻中止することです。米英が戦闘と人殺しを止めなければ何も始めることができないのです。平和を確保することなしにはスムーズな人道援助は不可能なのです。
−−第二に、米英の軍政権力(CPA)を今すぐ解散し、米英軍が直ちにイラクから撤退することです。後述するように、米英は人道復興などやる気もその能力もないのです。今イラクを非合法に統治する米英の総督府権力を解体しなければ、世界中からの善意の人道復興支援も全て、米英が消尽してしまうでしょう。
−−第三に、戦争責任の追及です。米英が国際法を破って何の正当な理由もなしにイラクに侵略したわけですから、戦争の犠牲者へ謝罪し補償を行うことは当然のことです。イラクに加えたあらゆる人的・物的損失に対して、全面的かつ無条件に償うことは言うまでもありません。ましてや大量破壊兵器のウソがばれてしまったのです。占領権力の違法性と戦争責任は避けて通れないはずです。
−−第四に、イラク民衆による権力の樹立です。少なくともその道筋をつけることです。イラクのことはイラク人に委ねる、この当たり前の民族自決権の保証が必要です。国連との関係も彼らイラク人自らが決定すべき事なのです。

 軍事弾圧への加勢といい、軍政への加担といい、米英占領軍の使い走りをするためのイラク特措法は、イラクの人道的危機の解決とは全く正反対の道なのです。
 

U.まさに「石油のための戦争」−−イラク民衆の苦しみをよそに石油略奪を急ぐブッシュ政権と石油メジャーの野望。

(1)米英がやっているのはイラク石油の略奪のみ。
 バグダットでの戦闘が終結してから2ヶ月少しが経過した6月22日、イラク原油の輸出が再開されたました。イラク北部キルクーク油田からパイプラインによってトルコに送られたものです。28日には米系石油メジャーであるシェブロン・テキサコ(かつてライス大統領補佐官が社会取締役をしていた)の石油精製所に向けてタンカーが出発しました。
シェブロンを含めてフランス、スペイン、トルコなどの5社が1000万バレルのイラク石油の商権を獲得したのです。
※「Iraq oil to sail to U.S. ChevronTexaco gets contract for crude」Chronicle Staff and News Services June 25, 2003。
http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2003/06/25/BU264248.DTL


 生活基盤が破壊され、泥沼の日々の苦しみに満ちた生活から抜け出ることができないイラク民衆が存在する一方、石油産業だけは「復興」しているのです。まったく異常な事です。なぜ石油産業だけがこれほど早く「復興」しているのでしょうか。この点にこそ、イラク戦争におけるアメリカの真の目的=石油資源の確保が象徴されています。

 石油産業の復旧担当のマネージャーを務めるトム・ログズドン氏は、次のように語っています。@海兵隊は石油インフラを早期に押さえる十分な訓練を積んでいた。A作業班は(不眠不休の取り組みで!)、石油、ガス分離プラント、パイプライン、油井等の点検を実施した。B軍は油田地帯に敷設された地雷やその他の爆発物の除去をほぼ終えた。C労働者を早急に雇い入れた。等々。要するにアメリカは、石油確保の訓練を十分に積んだ米兵を派遣し、イラク民間居住区に今なお散らばる大量の地雷、不発弾にはお構いなく(それは米軍がまき散らしたものである!)、ひたすら油田地帯の「清掃」を繰り広げていたことを語っているのです。
※<イラク>原油輸出が3カ月ぶりに再開 戦後復興に弾み
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030623-00002060-mai-int
※イラク油田の現状と石油の生産・輸出の再開見通し
http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei030421_1.htm

(2)石油メジャーのフィクサーが石油略奪の陣頭指揮に立つ。
 また米軍は、石油施設、イラク石油省を攻撃しませんでした。米軍によって先導された略奪が全土で始まった時にも、彼らはイラク石油省だけは厳重に警備しました。早々と石油省の職員を復職させました。石油省のトップには、かっての局長であったサミル・ガドバン氏を任命しました。そして占領軍の石油部門の顧問団のトップに、元ロイヤル・ダッチ・シェル米国法人社長のフィリップ・キャロル氏を就任させたのです。
※イラク石油省代表に元計画局長、ORHAが任命
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt57/20030504AS2M0400H04052003.html

(3)「イラク開発基金」という名の“ドル還流システム”。
 アメリカの眼中には、石油産業の「復興支援」はあっても、“イラク民衆への支援”、“イラク国土の復興”がないことを、事実は物語っています。年内にアメリカは、戦前水準の日量200万〜300万バレルにまで「復興」させる計画です。現在の原油価格が1バレル当り約30ドルとすると、その生産額は1日当り6千万〜9千万ドル(70〜100億円)を超える巨額の富に相当します。年間に直すと220億ドル〜330億ドル(2兆6千億〜4兆円)にものぼるのです。

 しかし、はたしてその中の何%が、イラクの民衆に還元されるのでしょうか。驚く事なかれ、現在、国連で話し合われているイラク援助資金はそのわずか数日分、数億ドル(数百億円)をめぐる話し合いなのです。米英の侵略者たちがよだれを出しているのは、石油売却代金を自国企業に還流させることです。彼らに慈悲や良心はありません。生き馬の目を抜く。それだけです。

 米のイラク総督であるブレマーは、6月23日米紙に対してこう言いました。
−−イラクは今年末までに約50億ドル分(約5900億円)の石油を売却するが、手数料や湾岸戦争の賠償金の名目でまずアメリカがその3割、15億ドルを収奪する。
−−残り35億ドル(約4130億円)も、開発事業を賄う基金に預託する。この米が管理する「イラク開発基金」こそが、アメリカによる“イラク石油略奪システム”、“ドル還流システム”なのです。つまり米軍政が、これを“金庫”代わりにして、米英の石油メジャー、多国籍企業、土建企業などへ、「イラク復興」を口実にして大規模プロジェクト(いわゆる箱物)を発注し、公共事業としてくれてやりをやるのです。石油を売却したドルはイラク民衆のために使われるのではなく、米系多国籍企業を介してアメリカに還流するのです。
※イラク、石油50億ドル分売却へ=米文民行政官(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030623-00000496-jij-bus_all

(4)戦争はブッシュ政権の一大公共事業。「復興資金」は米系多国籍企業に流れている。
 イラクに投入された「復興資金」も、米系多国籍企業に還流するシステムが形作られています。米政府の資金も、他国からの資金も、ブレマー総督が全権力を握る軍政当局によって、米系多国籍企業に優先的に振り分けられます。すでにベクテル社を筆頭に、ブッシュ政権の息のかかった企業が次々と「復興事業」を受注しています。例えば下表に挙げた油田消化・修復作業を受注した「ケロッグ・ブラウ・アンド・ルートン社」ですが、この企業はチェイニー副大統領が社長を務めたエネルギー・建設大手ハリバートン社の子会社です。さすがにこのようなやり口に対して、同盟国のイギリス産業界からもクレームが上がりました。「湾岸戦争後の復興では米政府がクウェート政府高官と組んで、事業の大半を持っていった。・・・今回、英国は米国に忠誠を誓ったのだから、配慮して欲しい」と(3/27毎日新聞)。しかしイギリスの言い分も所詮は、「戦利品」をよこせといった、身勝手な言い分に過ぎません。
※米英の多国籍企業の進出を暴露するリーフレットが反戦労働団体から出ている。
「The Corporate Invasion of Iraq」Prepared by U.S. Labor Against the War (USLAW)for The Workers of Iraq and The International Labor Movement。
http://uslaboragainstwar.org/images/CorpInvasion.promo.1.4.pdf

 まさに「復興事業」は米系多国籍企業の食い物なのです。各国からの「復興資金」の割当分も、アメリカの企業に吸い取られるシステムなのです。これと石油売却代金=「イラク開発基金」が「復興事業」の名目によって米系多国籍企業に還流するのです。
 つまり「復興支援」とは、アメリカが自らのビジネスチャンスを拡大する梃子でもあるのです。しかもその大半を自国のお金ではなく、全世界から寄せ集めたお金で行うものなのです。このようなシステムが存在する限り、イラク民衆のための、真のイラク「復興支援」活動が実現しないことは明らかです。こうした“略奪システム”を廃棄するにはどうすればいいか。それは米英軍の撤兵と軍政の解体以外にないのです。

表【米政府が発注した主なイラク復興事業例】
案件 発注元 受注企業 受注額
●油田消火・修復作業 国防総省 ケロッグ・ブラウ・アンド・ルートン(KBR) 70億j
●ウンムカスル港運営 国際開発庁 スティーブドリング・サービシズ・オブ・アメリカ 290万j
●学 校 国際開発庁 クリエイティブ・アソシエーツ・インターナショナル 100万j
●道路、学校など修復 国際開発庁 べクテル, パーソンズ 6億j
●病院等医療整備 国際開発庁 ABTアソシエーツ 1,000万j
●復興技術支援 国際開発庁 インターナショナル・リソーシズ・グループ 980万j
●自治体技術支援 国際開発庁 リサーチ・トライアングル・インスティチュ−ト 790万j
●空港管理事業 国際開発庁 スカイリンク・エア・アンド・ロジスティックサポート 250万j
http://www.iijnet.or.jp/IHCC/newasia07-perusha01-01-iraku-map01-joho01.htmlから)

 もちろん最近は、この「復興ビジネス」に群がる米系多国籍企業からも不安が出ています。自分たちが「ソフト・ターゲット」、つまりゲリラ戦の標的にされる危険を恐れているからです。
※「U.S. Contractor Sees Growing Hostility in Iraq」June 24, 2003 By Sue Pleming
http://www.headliner.nl/headliner.php?c=us&id=146572&abbr=reuters

(5)もう一つの略奪−−国営企業の米欧多国籍企業への払い下げ。
 ブレマー総督が目論んでいるのは、石油収入の略奪だけでも、その収入を当てにした「復興ビジネス」だけでもありません。フセイン政権時代のイラクの国営企業を「民営化」し、米欧の多国籍企業に売却しようとしているのです。海外からの投資を呼び込むためというのがその口実です。ブレマー自身が6月22日に発表しました。どこまでしゃぶり尽くすのでしょうか。
※「Overseer in Iraq Vows to Sell Off Government-Owned Companies 」by Edmund L. Andrews June 23, 2003 by the New York Times 。
http://www.commondreams.org/headlines03/0623-03.htm

(6)次々と破壊されるパイプラインーー石油略奪に対するイラク民衆の抗議。
 イラク民衆によるレジスタンスは、パイプライン爆破にも拡大しています。6月22日、26日と相次いで計画的なパイプライン爆破が報道されました。22日のバグダット西約140キロのヒート近くでの爆破には、真偽は明確ではありませんが、こ地域の部族が関与していたと言われています。なぜパイプラインを爆破するのかとの問いに、こう住民が答えたと言います。「ヒート住民は、イラクのものである資源を米国が奪取しているとみているからだ」と。

 パイプラインを爆破するイラク民衆を、誰が非難できるでしょうか。自国の富、イラク民衆の富を強奪する米軍に抗議することは正当な怒りではないのでしょうか。私たちは、イラク民衆のレジスタンスに強い共感を覚えます。イラクの民衆は、米軍が平和と民主主義をもたらす存在ではなく、自国の富を奪う略奪者、戦争と暴力的支配を押しつける排斥すべき存在であると思い始めています。イラクの石油資源にのみ関心を持ち、決してイラクを「復興」させる意志など持っていないことに気が付いてます。
※<イラク>パイプライン爆発 ドライミ族民兵が関与(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030624-00001015-mai-int


V.破壊されたイラク民衆の生活基盤−−湾岸戦争後の惨劇の再来。爆発寸前の人道的危機の現状。

(1)いつか見た光景ーーイラクで繰り返されようとしている12年前の惨劇。
「爆撃は、電力や通信といった生活必需サービスばかりではなく、食料、水道水、医療サービスまでも奪い、イラク市民の近代的生活に必要なほとんどの基本条件を破壊した。」
「・・・バスラではトラックにより飲料水が供給されていた。下水処理・衛生システムは破壊されたままで、通信システムの多くは機能不全のままであった。」
「医療・厚生施設も部分的にしか機能しておらず、病院はそのわずか25%の能力しか発揮できない状態だった。そして飢餓と病気により、毎日、何百人ものイラク人が生命の危機にさらされていた。」
「小児の死亡率は1991年末に3倍に増え、地方によっては4倍にもなった。」

 ここに紹介したのは、現在のイラクではありません。12年前の湾岸戦後のイラクの現状を記録した『湾岸戦争−いま戦争はこうして作られる』(ラムゼー・クラーク)からの抜粋です。今イラクで進行している状況と非常に似通っているのがお分かりだと思います。
 同書には続いて、湾岸戦争終了後の恐るべき調査結果が紹介されています。「6週間にわたる苛烈な爆撃と破壊的な長期の制裁により、数万人のイラク市民が死に追いやられた。・・・調査によると、イラクに対する米国の攻撃でおそらく15万人以上の市民が死亡した。この中には少なく見積もっても10万人にのぼる戦後の死者が含まれている。」
 湾岸戦争では、国土、生産力、社会的インフラなどを徹底的に破壊された結果、戦後になって多くの犠牲者が出ていたというのです。

 たしかに湾岸戦争と今回の戦争を単純に比較することはできないでしょう。湾岸戦争では、イラクへの懲罰として、バスラなど大都市への猛烈なじゅうたん爆撃がありました。そしてその後の経済制裁が著しくイラク民衆を苦しめたのです。生きていく上で必要不可欠の生活必需品、工業や社会的インフラを修復し復興させるための部品や資材の多くが輸入禁止になり、まさにそのために多くのイラク人が殺されたのです。

 しかし今の米英による軍事占領は、イラク民衆にとってはかつての経済制裁と何が違うというのでしょうか。生活必需品が入らない。工業や社会的インフラの修復は全く進まない。人道的危機がどんどん悪化する。治安の悪化を考えると経済制裁当時よりも、もっと深刻なのかも知れません。等々。
 今イラクでは、湾岸戦争後以上にひどい事態が進行中なのです。戦争が終わった後にこそ多くの民衆が犠牲になったという事実は、今後のイラクの行く末を暗示しているように思えてなりません。

(2)すでに始まっている湾岸戦争終結後の人道的危機の再来。猛暑が心配。
 現地の様子を伝える様々な情報が日々伝わってきます。何よりもすでに始まっている猛暑が心配です。都市における治安はいまだに回復していません。イラクの人道的危機の発端から現在の危機的な状況に至るまで、その全責任は、アメリカにあります。バグダッドに侵攻した米軍は、イラク民衆に対して意図的に略奪をそそのかしました。米英軍の駐留と治安維持の要望がイラク側から出るようにし向けるためです。そしてこれがイラク全土における略奪の嵐の始まりとなったのです。
※ TUP速報53号 「バグダッド略奪は、米軍が引き起こした」
http://www.egroups.co.jp/message/TUP-Bulletin/41 参照。

 しかし今問題になっている「治安悪化」は全く質的に異なるものです。それはイラク人どうしの矛盾・対立ではありません。米軍に対する反米・反占領闘争であり、武力制圧に対する武装闘争なのです。それはれっきとした反米・反帝の民族解放闘争であり、全く正当なイラク民衆の権利です。それを一緒くたにして「治安悪化」にひとくくりすることは許されないことです。
 とにかく米英軍はイラク民衆の抵抗に手を焼き、刃向かって来る者たちを無差別に殺害・弾圧することに血眼になっています。否、もはや制御できなくなっています。この軍事作戦と民衆弾圧こそが今まさに、インフラ・医療・教育等、民衆の生活の根本にかかわる問題に深刻なダメージを与えているのです。そのどれもが、イラクの民衆にとっては戦争が終わっていないことを明らかにしています。

 5月以降のイラクの人道的危機の現状について、最近の報道からざっと再現してみましょう。
−−医療体制の崩壊と危機は継続しています。それは、戦時に負傷した重症患者の対応に忙殺された状況とは全く異なるものです。現地を調査した国際赤十字委員会は、「バグダッドの病院は未だに深刻な状態にある」と語っています。また「(バグダットにおける)33の病院は、米主導の同盟軍がバグダットを陥落させた4月9日以後7週間以上を経過してもなお、治安の混乱によって、その活動が妨げられている。治安こそが、基礎的なサービスを実行していく上で最大の問題である。・・・略奪の危険性があるために、相当量の医薬品の配給を実施することができない」、「手榴弾、銃、死、これらがイラク人医師の日常業務のすべてを脅かして」おり医師は診療することすらままならない、このような状況が報告されています。いまだに病院では、電力と水の供給が停止しています。また医療スタッフに対する給料の支払いも実施されていません。基礎的な医薬品も不足しています。また医師不足も甚だしく、病院には治療を受けることのできない患者であふれています。助かる命の多くが失われているのです。
−−爆撃によって、電力供給システムが破壊され、給水システム、浄水システムは壊滅的な打撃を受けています。特に深刻な被害がバスラで起こっています。未だに40%の地域には水が供給されていません。ユニセフは、給水車によって水をクウェートから運び込んでいます。給水所のポンプのボルト、ネジ、ワイヤは略奪され、復旧の目途が立っていないのです。
−−汚水の処理も深刻です。排水ポンプ116台の内、稼働しているのは3台のみ。街は汚水であふれています。浄水場に残された消毒用の塩素はほとんど残されておらず、水を介した伝染病の爆発的蔓延が懸念されています。
−−子供たちに、コレラ、赤痢、腸チフスが襲いかかっています。昨年同月と比較しての今年5月のコレラの発生率が2.5倍の増加を示す報告も出されています。米軍侵攻以前、下痢によって100万人の子供たちが栄養失調の状態にあったといわれていますが、戦争と社会的インフラの崩壊が事態をさらに悪化させているのです。消毒された水の供給をストップさせ、汚水処理システムを破壊し、汚物収拾がなされなくなったために、劣悪な環境が子供たちの命を奪っているのです。
−−戦争は子供たちに最も大きな被害を与えています。12万6千人の赤ん坊が、戦争が始まって以来誕生しました。その中のどの赤ん坊もワクチンの接種を受けていません。否、5歳以下のすべての子供たちが、定期的なワクチンの接種の機会を失っているのです。疫病、伝染病への感染、ワクチンの接種を受けることができなかったことによる子どもちの犠牲者、その多くの尊い命は、戦争さえなければ命を失われることがなかったはずです。

 ここに取り上げた人道的危機の現状を概括してみたならば、湾岸戦争において戦争終結後に多くの犠牲者が生み出された状況が、今回も繰り返される兆候が現れています。国連やNGOが必至になっても、できることは限られています。にもかかわらず国連やNGOが活躍できる前提条件である平和が達成されていないのです。米英軍は戦闘をやめるどころかむしろ最近、イラク民衆からの抵抗を受け、戦闘と破壊を激化させています。それがさらにイラク民衆の憎しみを増幅させ米軍事占領への抵抗を強めているのです。繰り返します。「人道復興支援」の大前提は“平和”です。戦闘と破壊しかもたらさない米軍は、イラク民衆の人道的危機をさらに加速し悪化させるだけなのです。こんな米英軍に加勢するイラク特措法は、人道的危機を激化するだけのものです。
※Reuters AlertNet “ICRC says Baghdad hospitals still on critical list”(29 May 2003)
http://www.alertnet.org/thenews/newsdesk/L29547912.htm
※“Grenades,guns,death threats all in an Iraq doctor's day of work, says WHO”
http://electroniciraq.net/news/861.shtml
※BBC NEWS “Child sickness 'soars' in Iraq”(8 June 2003)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/2973564.stm
※CARE International UK “Iraq heading for summer of diarrhoea”(6 June 2003)
http://www.careinternational.org.uk/cgi-bin/display_mediarelease.cgi?mr_id=223
※Telegraph News  “After War, the terrible peace”(22 May 2003)
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2003/05/19/wirq19.xml
※最新のイラク人道危機の現状については、「イラクの衛生状態深刻 明石の看護師が現地報告」(6月24日)において紹介されています。若干以前の状況に関する情報も含まれていますが、直近のイラクにおける人道危機の状況に関しては、ほとんど改善されいないようです。 (抜粋)「現地の病院では子どもが下痢や脱水症状で死亡するなど飲み水の衛生状態の悪化が深刻」
「バグダッドにある小児病院では、一日五百人近い外来患者のうち、ほとんどが下痢などの消化器系の疾患だった。子どもの同疾患による死亡率は5―10%。脱水や肺炎で日に日に衰弱していく赤ちゃんを目の当たりにした。戦争の被害で電力が供給できず、飲み水の浄化槽やポンプが機能しないため、川の水などを飲料水にしていることが原因という。」
「気温が六〇度近くになる夏場はさらに水の衛生状況が悪くなる。飲み水を確保することが急務。だれも収集しなくなったゴミが野ざらしの状態で、夏場の伝染病も心配。」
「市民の間には、結局米軍は何もしてくれないとの不信感が強く、街は混乱していた。」
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sougou/030624ke113850.html


W.国連とNGOの関与を拒否し徹底して「人道復興支援」を妨害する米英占領当局とブッシュ政権。

(1)「人道復興支援」をやる意思も能力もないのに、国連や他国の関与を一切認めない犯罪的なブッシュ政権の態度。
 アメリカには、イラクを「復興」させる意志はありません。またその能力もありません。にもかかわらずブッシュは国連の関与を一切拒否しているのです。なぜか?国連や他国がイラク民衆のための援助を本格化すれば、軍事弾圧をするだけ事態を悪化するだけの米英の軍事占領のひどさがますます鮮明になり、占領反対、米英排斥の動きが加速するからです。誰が「人道復興支援」のヘゲモニーを握るのか。これは極めて重要な政治問題なのです。このことによって米英は今最も必要な人道復興支援を妨害しているのです。

 だから先のエビアン・サミットでは、イラクの「復興支援」問題を議題とすることを認めなかったのです。イラクの問題に国際社会は口出しするなと言わんばかり。血を流さない者には「戦利品」を分け与えない。そう言っているのです。そして今なお米軍は戦闘に明け暮れ、民衆を殺害し、逆らう者たちを徹底して弾圧し、武力による支配を強めています。その一方で石油輸出を再開し、イラクの富を我が物にしています。大統領側近のライス補佐官は、「血を流してイラクを解放した同盟国が主導的役割を果たすのは当然」と、戦争からの利益を当然のごとくアメリカが独占することを宣言しています。まさに戦争をビジネスチャンスとして利用し、イラク国民からむしり取れるもの全てを奪い去ろうとしてるのです。イラク「復興支援」は、結局はアメリカを潤すだけなのです。

(2)「戦費」「占領」に1600億ドル、「人道復興支援」に5億ドル。320:1 これがブッシュ政権の「人道復興支援」。
 12年前の湾岸戦争以来、アメリカが破壊し尽くしてきたイラクを「復興」させるのに必要な費用は、少なくとも1000億ドルが必要だと概算されています。「復興」の中身も大いに問題ですが、このような大金を、一体誰が負担するというのでしょか。

 ブッシュ政権はエビアン・サミットにて、G8の「復興支援」への関与を拒否しました。国連も一定の関与を認めはしましたが、本格的な関与は拒否したままです。それでは日本が肩代わりできるのでしょうか。米は日本に1〜2兆円程度の支出を迫っていると言われています。しかし破綻した財政状況と景気状況からみて、常識的にはそのような大金は出せません。(というのは今の小泉政権ならブッシュにせっつかれれば日本の労働者・勤労者を犠牲にして米にくれてやる可能性が大いにあるからです)

 当のアメリカは戦争や殺りくや破壊には惜しみなくお金を出しますが、「復興支援」に対しては全くお金を出すつもりはありません。現に3月の補正予算において、「直接の戦費」として約626億ドルもの大金を計上しました。また今後1年間の米駐留費として、1000億ドルの出費を見込んでいます。しかし同じ補正予算の中において、戦後のイラク「復興費用」として25億ドルしか計上していないのです。しかもその中の5億3千万ドルのみしか「人道支援」に充てないというのです。戦争と破壊にはお金は出すが「復興」はやる気なし、成り行き任せ。これがアメリカのやり方なのです。こんなばかな話はありません。

 こうしたブッシュ政権の滅茶苦茶なやり方の一切の犠牲を背負わされるのはイラク民衆なのです。アメリカは「人道復興支援」のお金を出さない。このようなやりたい放題のアメリカを誰もとがめることをしないし、誰もお金を出すこともしない、できない。そうなると、彼らの主張するイラク「復興支援」のお金を、一体誰が拠出するのでしょうか。結局イラクの「人道支援」「復興支援」は成し遂げられることもなく、永き将来にわたって、疲弊した国土と困窮しきった民衆が取り残されるということになるのです。本格的な国際的「復興支援」の討議の場はどんどん先送りされています。ようやく調整が付き10月に話し合われることで予定は発表されました。しかし取り仕切るのは日本、小泉政権です。ブッシュの飼い犬のような分身が会議を取り仕切るのです。最初から答えは出ています。イラク民衆が主人公となることはなく、イラク民衆のための人道復興支援でもあり得ません。会議の実質はアメリカが筋書きを書くことでしょう。他国に膨大な援助資金を押し付ける場になるか、さもなくば「戦利品」をめぐる分捕りあいがメインテーマになるでしょう。
※イラク支援国会合、10月に=日米欧など共催で合意−国連
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030625-00000901-jij-int

(3)アメリカの「尻拭い」に大わらわの国連。市場経済に反するとの理由で食料配給制を妨害する軍政当局。
 殺りくと破壊の限りを尽くしたアメリカに代わって現地で「人道援助」の最前線に立っているのが国連です。それだけに、戦争によって破壊されたものの代価の大きさ、イラクに実際に必要な「復興支援」、「人道支援」と現実の貧弱な対応とのギャップを痛感しているはずです。ユニセフ事務局ベラミー氏は、「イラクにおける私たちの緊急支援活動は、これまでユニセフが実施してきた支援活動の中でも、最大かつ最も複雑なものになるかもしれない」(3月末)と述べていました。その後の事態はその懸念通りに進行しています。

 国連世界食料計画(WEP)が主導する形で6月1日、イラクにおける食料の配給が開始されました。6〜9月にかけ、月当り48万トンの食料を、国民すべての2700万人に配給しようというのです。この量とて十分なものではありません。WEPは、湾岸戦争後の経済制裁下における国民の貧困状態を大規模な調査を実施(2003年2月)、今月の19日にその内容を報告しました。5人に1人が慢性的な貧困に苦しめられていたという衝撃的な内容です。「基本的に必要な食料が毎月、無料で支給されていたにもかかわらず、460万人もの人々はすべて慢性的な貧困の中にあった」(WEP代表トーベン・デゥー氏)というのです。多くのイラクの民衆にとって配給の再開は、生死にかかわる重要な問題だったのです。しかしアメリカはこのイラク民衆の命綱ですら、自由主義経済システムに反するとして導入を渋り、今のところ期限に限定を設けているようなのです。その傲慢さには、あきれかえるばかりです。イラクの経済、社会の再建が成し遂げられるまで国連は、食料援助を継続し続けることになるでしょう。しかしその展望は未だに描けないのが実状です。

 国連は、戦争が始まった3月以降、20億ドルを超す「人道援助」に拠出してきました。そしてに新たに2億5900万ドルの拠出を求めています。地雷除去、教育の再建等、次々と新たな支出が発生しているのです。イラクの国民生活のあらゆる箇所が破壊され、再建される必要があることを示しています。しかし「人道援助」に支出された金額は、米軍に支出された軍事費やアメリカが牛耳る石油収入と比べると何と小さいことでしょうか。
※戦後のイラクでは慢性的な貧困が懸念される=世界食料計画
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030620-00000695-reu-int
※WEP調査報告。
http://www.wfp.org/newsroom/in_depth/Middle_East/Iraq/0306_Poverty_Survey.pdf

(4)「石油をカネで手に入れる時代は過ぎた」。軍事力で石油を強奪することを自衛隊派兵目的に含める小泉首相。
 イラクを軍事占領し続けるアメリカへの協力がどのようなことを意味するのか、以上述べてきた人道的危機の現状、それに対するブッシュ政権の対応を考えてみたならば明らかです。

 自衛隊を出兵し米英占領軍へ加勢することは、直接的に米軍の軍事支配、民衆弾圧、民衆虐殺への公然たる加担であるだけではありません。イラク人道支援の最大の障害になっている米軍を支援することで平和を遠避け、「人道」や「復興」とは正反対の道に巻き込むことなのです。

 そして実際にはアメリカと一緒になってイラク民衆から石油を強奪することです。アメリカの石油権益のおこぼれにあずかろうとするものです。最近、小泉首相はこの本音をポロッとこぼしました。「石油は金さえ出せば安く手に入るという時代は30年ぐらい前」と指摘し、エネルギー政策上からも自衛隊派遣の重要性を主張したのです。文脈から言えば、今は石油はカネでは手に入れることはできない、だから軍事力で取るしかない、そう言っているのです。なぜ国会でもメディアでも追及されないのでしょうか。全く信じがたい事です。自民党の一議員がガドバン石油相代行にガス油田開発で日本企業に門戸を開放する意向を示したことで有頂天になっていることからも、この石油・エネルギー問題が、政府与党の衝動力の一つになっていることは明らかです。
※エネルギー政策上も重要 イラク自衛隊派遣で首相(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030625-00000086-kyodo-pol
※「イラクのガス油田開発 日本企業に門戸」(日経新聞6/28)

 アメリカは「人道復興支援」を行う意志も能力もありません。当然こと、自衛隊ができることなど、何もありません。そもそも、「戦争状態」にあるイラクで何ができるというのでしょうか。日本政府が自衛隊派兵の根拠に「復興支援」、「人道支援」を掲げることは、とにかく部隊をイラクに派兵したいための隠れみのにすぎません。もし日本政府が、本気に「復興支援」、「人道支援」に取り組むというならば、ブッシュ支持を撤回し何よりもまずアメリカにイラクからの撤兵を要求すべきです。そして自衛隊ではなく、本当にイラクの復興に役立つ人材、資金提供を実施すべきなのです。
 私たちは、米軍支援法=「イラク特措法」に、断固反対します。「復興支援」、「人道支援」を隠れみのに自衛隊の派兵を正当化しようとする政府に、断固反対します。

2003年6月29日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局