米英は占領を中止し撤兵するしかない
小泉政権はイラク特措法を廃止せよ
−−イラク国連事務所の爆破事件について−−


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(1) 一個の巨大な自爆攻撃事件が米英のイラク占領支配を根底から揺さぶっている。8月19日午後4時、イラクの国連事務所が自爆攻撃によって爆破され、現地事務所は崩れ落ち壊滅的な打撃を被った。デメロ特別代表ら24名が死亡し86人以上の職員が負傷した。
 米兵に対するゲリラ的襲撃は5月下旬以降、日増しに先鋭化し激化しているが、今回の自爆攻撃の相手は米軍ではない。国連という新しい対象に対する攻撃である。「第2ムハンマド軍武装前衛部隊」という無名の組織が犯行声明を出した。

 今回の自爆攻撃は反米英・反占領の民族解放レジスタンスの大きな流れの一環である。イラク民衆のレジスタンスは、その対象の広がりにおいても、大規模化においても、同時多発性においても、8月に入って全く新しい段階に入った。
−−ヨルダン大使館の爆破は、親米政府が我が物顔でイラクで大使館業務を再開することへの警告を意味した。
−−同時多発的な石油施設や油送管への爆破は、イラクの石油資源を略奪することへの抵抗を意味する。
−−米英兵士だけではなく、デンマークやポーランドなど、米英の占領軍に加勢する「有志連合軍」兵士への襲撃も始まった。
−−攻撃は、首都の電力施設や水道施設へのサボタージュ闘争へも拡大している。
−−ゲリラ襲撃による米兵の死者は8月22日現在、65人に達した。

 そして今回の自爆攻撃は、この大きなレジスタンスの流れの中で新段階を象徴するものとなった。犯行声明は、「米国を支援するなら、いかなる国に対してもジハード(聖戦)を遂行する」と宣言、アラブ諸国であれイスラム諸国であれ、もちろん日本であれ、米英のイラク占領に加担する外国軍や外国人を例外なく攻撃の対象にすると警告した。

 ゲリラ闘争を闘う人々だけではない。イラクの一般民衆の声は全体として米英占領軍の撤退に収斂しつつある。中部スンニ派地域は言うまでもなく、南部バスラを中心とするシーア派地域でも反米英感情は急速に悪化している。今なお米英軍の駐留を望む部分は北部クルド地域の一部の人々だけである。

(2) 今回の惨劇の全責任は米英政府とその占領支配にある。アナン事務総長が言うように、事務所の治安維持の責任が米英占領軍にある、事件前に爆破の犯行予告が流れていたのに事前の安全確保を怠ったという意味だけではない。

 今回の事件の根本には、米英のイラク侵略戦争の帝国主義的な性格そのものがある。でっち上げの「証拠」と「イラク脅威論」。何の正当性も正義もないことが今や明らかとなった。どれだけ露骨に石油資源略奪の意図を前に出そうと、どれだけ無謀な帝国主義的・植民地主義的な世界支配の野望を前に出そうと、米英が一喝すれば、国連安保理や国際世論は黙って従うだろうとの思い上がりがあった。その圧倒的な軍事力で一撃すれば、「独裁国家」イラクは壊滅し、即降伏するだろうと考えた。野蛮で劣ったイラク民衆など瞬時にひれ伏し恭順するだろうという人種差別主義があった。今やこれら全てがファンタジーであることが明らかになった。

(3) 8月22日、ブッシュは「イラクはテロとの戦いの主戦場になった」「イラクにはより多くの外国軍隊が必要だし、そうなるだろう」と述べた。
 おかしいではないか。彼は5月1日、有頂天になって空母甲板でイラク戦争の「戦闘終結」を「テロとの戦い」の勝利として高らかに宣言したのではなかったか。「イラク解放は対テロ戦争での大きな進展だ」「テロ組織がイラクから大量破壊兵器を手に入れることはもうないだろう」と。
 世界最大最強のアメリカの軍事力を振りかざせば、テロなど一掃できる。“唯武器論”にとりつかれた単純なブッシュとネオコン(新保守主義者)の参謀たちはそう考えた。現実はどうか。全く正反対の方向に向かっている。
 今やイラクはアラブ・イスラム世界における巨大な反米運動の渦の集中点になりつつある。米政府の高官達は、事件後相次いで、「文明社会はひるまない」「我々はテロとの戦いを続ける。我々は勝利するだろう」と強がって見せたが、その声にはもはや自信は感じられない。

(4) またブッシュらは「これはイラク国民への挑戦だ」「世界全体に対する挑戦だ」と口を極めて非難したが、笑わせる。米英軍に問う。「なぜあなた達はそこにいるのか」「何のためにいるのか」。この問いは、今や何のために、誰のために戦っているのか訳が分からなくなったイラク現地で民衆弾圧に励む若い米英軍兵士たちのものでもある。そしてこれら兵士たちの早期帰還を求める家族の新しい反戦運動「兵士帰還運動」の主張でもある。
※「米兵を連れ戻そう−−米兵家族が反戦運動に立ち上がる」(署名事務局)

 一体誰が侵略者で、誰が虐殺者なのか。誰が侵略戦争という究極のテロを遂行した国家テロリストなのか。誰が8千人とも1万人とも言われる多数のイラク民衆を大量殺戮したのか。誰が2万人、3万人ものイラク民衆を負傷させたのか。そして今も掃討作戦という名の虐殺を続けているのか。誰が、何千人ものイラク民衆を逮捕・拘束し、一切の裁判もなしに、国際人道条約に違反して拷問し虐殺し続けているのか。
 一体誰が核兵器である劣化ウラン弾をばらまき、イラクの国土を放射能で汚染し民衆を被曝させ放射性障害で殺し苦しめているのか。誰が非人道兵器クラスター爆弾で多数の子ども達の命を奪ったあげく、今なお殺し続けているのか。一体誰が、数十万人、数百万人ものイラク人の職場を奪い失業させ、食糧不足を引き起こし、電気・下水道・医療衛生の人道的危機を生み出し苦しめているのか。等々。等々。

(5) 私たちが今目の当たりにしているのは、殺戮と破壊だけであり創造ではない。独裁者を倒してやる、圧政から解放してやる、国家を民主化してやると一方的に侵略した後に残されたアフガニスタンの惨状であり、イラクの惨状である。米英の軍事力を持ってすれば、民衆を殺し、生産力や土地や自然を破壊することはたやすい。生活と生活基盤を壊滅させることはたやすい。そして我々は強い、我々は正義だ、偉いんだと威張ることもたやすい。米英がアフガンとイラクでやったことはそれだけである。米英が豪語した「失敗国家」の「ネーション・ビルディング」(国家建設)はどこへいったのか。
 殺された多数の人々、子どもたちは戻らない。破壊し尽くされたものは一体誰がどう元通りにするというのか。ブッシュ、ブレア、小泉とその応援団を勤めた者たちは、どこまでもその責任を背負わねばならない。
※今政府与党が目論む「恒久法」は、まさにこうした今や失敗した米英の傲慢なやり方を日本も見習おうというものである。自衛隊のグローバルな派兵、グローバルな軍事介入によって「治安確保」や「国家再建」の手本を見せてやるという帝国主義の論理である。「『恒久法』と日本軍国主義の新しい危険−−国際平和協力懇談会の『提言』について」(署名事務局)を参照。


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(1) 確かに痛ましいことである。24名もの死亡、86名以上の負傷。今回の事件は、国連史上始まって以来最大の惨劇となった。国連とその周辺で人道援助活動をしていた多くのNGOにも多数の被害者が出た。
 とりわけ、現地のイラク民衆の人道支援の切迫性を感じてボランティア活動に従事する人々に犠牲者が出たことに心から哀悼の意を表したい。

(2) しかし個々の人々の善意とは裏腹に、国連の位置と役割は美化することはできない。米英占領下のイラクでは如何なる形でも国連の活動は米英の補完物でしかない。イラク民衆、特に命をかけて米英の占領支配と植民地支配を倒そうとする人たちにとって、米英を補完する今の国連の動きは我慢できないだろう。

 すでに国連は安保理決議1483で米英の占領を容認し石油支配権を認める裏切りを行った。そして8月14日の安保理決議1500で、国連は再びイラク民衆を裏切った。イラク支援団(UNAMI)を創設し、この新機関を米英暫定行政当局(CPA)の「補助機関」と位置付けたのである。なし崩し的に米英の占領支配を容認し、その露骨な支配をごまかす衝立、イチジクの葉っぱになろうとしていた。今回の事件をスクープする英BBCや米ネットワークの報道が伝えるように、デメロ代表は「米英占領軍とイラク人との橋渡し」「米英占領を守る役割」を果たしてきた。アナン事務総長の政治的意図は分からない。国連安保理のフランスやロシアなどの対米妥協の動きを反映するものかどうかも分からない。いずれにしても、ここへきて国連が米英占領軍に「協力する」方向に大きく舵を切ったことは間違いない。事件が米英占領を容認する新決議採択の直後に起こったのは偶然ではない。

(3) 「占領支配の国際化」という言葉がある。米英の占領と主導権を認める形で、それへの加担者を増やしていくことを意味する。「占領の国際化」と「占領の終結」とは全く別の、相反することである。国連の関与が、前者への第一歩になるとすれば重大である。
 国連が後者への第一歩になるのかどうかはまだ全く見えていない。現在のところ、フランス、ドイツ、ロシアなどは、前者の方向に固執する米英と対立している。いずれにしてもイラク民衆の闘いと国際的な反戦運動、国際世論の圧力だけが、「占領の国際化」を阻止することができる。
※Green Left Weekly, August 13, 2003. 「IRAQ: US seeks to `internationalise' occupation」by DOUG LORIMER http://www.greenleft.org.au/current/549p14.htm

(4) メディアではほとんど報道されていないが、今回の事件があった国連事務所はイラクにおけるIMF・世銀の活動の拠点であり、「イラク国営企業の民営化」「イラクの市場経済化」の拠点でもあった。もちろんまだ調査活動が中心で人数もさほど多くはなかったかも知れない。
 しかし国連が言う「復興支援」とは、「復興」の名における多国籍企業の支配である。これまでもIMF・世銀の周りには絶えず資源略奪と経済収奪からボロ儲けを狙う欧米多国籍企業が群がっていた。この点ひとつをとっても、米英占領支配に単純に国連を対置することで片が付くと考えるのは間違いである。
※「UN Bombing: Terrorism or National Liberation?」by Kurt Nimmo Dissident Voice August 21, 2003。クルト・ニンモ氏はこの記事で、世銀とIMFのこれまでの犯罪的な役割を糾弾、イラクに関してもバグダッド陥落直後の4月12〜13日には早くもワシントンで会議を開き、どのように「構造調整」をするか審議したという。
http://www.dissidentvoice.org/Articles7/Nimmo_UN-Bombing.htm

(5) 元々イラクにおける国連の存在は特別の意味を持っている。たとえ今回の米英によるイラク侵略に手を染めなかったにしても、過去13年にわたり、国連は米英の命じるままにイラクの国土を荒廃させ民衆を苦しめた張本人であった。
−−かつて湾岸戦争後の過酷なイラク経済制裁は、国連の名において行われた。国連はイラク民衆を徹底的に苦しめ、数百万人ものイラク民衆を飢餓と人道的危機の真っ只中に放り込み、50〜100万人以上の子ども達を殺した忌まわしい歴史を持つ。
−−大量破壊兵器の国連査察という形で、徹底的にイラク民族の尊厳を傷付け、国家主権を侵害し、中東随一の近代国家再建の可能性を完全に封じ込めたのも、国連の名においてであった。いやそれは米英の圧力があったからだと主張しても言い訳にしかならない。

(6) 今最も重要なことは、私たち国際反戦平和運動の圧力と監視により、フランス、ロシア、中国など国連安保理諸国が米英の占領支配に妥協的態度、なし崩し的加担に傾くことを、何としても阻止することである。
 これまでの国連の歴史が指し示すことは、安保理を牛耳る米英の帝国主義的性格が貫徹するとき、国連安保理は侵略軍の道具に成り下がるということである。湾岸戦争の時、最近はアフガン侵略の時がそうであった。
 今回のイラク侵略に当たり、安保理は、米英の意図が貫徹しなかったが故に、最後の一線でかろうじてその戦争犯罪への転落をくい止めた。それは世界中の数千万人もの反戦平和運動の力とエネルギーが、安保理を分裂させ、米英を孤立させたからである。

(7) 治安回復への唯一の道は、占領の中止と米英軍の撤退である。「占領の国際化」ではなく「占領の終結」である。亡命イラク人の「傀儡政権」によって占領支配を隠蔽し延命させるのではなく、真にイラク民衆の基盤に立脚した多民族・多宗派からなるイラク人民大衆の政権を今すぐ樹立することである。一刻も早くイラクに民族の尊厳と民族自決権を回復させることである。占領中止・米英軍撤退からイラク民衆の権力樹立に至る過程で国連との関係をどう付けるかについては、彼らイラク民衆が自らの考えと判断で決めるだろう。

 米英の一般兵士のみならず、国連の職員、その他の援助団体のこれ以上の犠牲者を防止する唯一の道、そして何よりもまずイラク民衆の占領支配の弾圧と圧政の犠牲者を防ぐ唯一の道、食糧不足、電気・上下水道・医療・衛生面での困難からイラク民衆を救済する唯一の道、イラクに全面的で包括的な人道援助を実施する唯一の道−−それもまた米英の占領統治を即時無条件に中止し、米英軍の即時全面撤退を実現するしかない。
※8月21日のNHK・クローズアップ現代「なぜ国連が標的にーイラク爆弾テロ」。国谷キャスターもコメンテイター(大野元裕・中東調査会)も、「どうすれば治安が回復するのか」の問いにあれこれ堂々巡りの議論・提案をするのだが、ただひとつ決して口にしない言葉があった。それは占領の中止及び撤兵である。NHKでは禁句なのだろう。


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(1) ブッシュ政権の無責任は目を覆うばかりだ。数ヶ月前まで彼らは何を言っていたか。「もはや国連は古くさくなった」「国連の役割は終わった」「今や米英主導の有志連合の時代に入った」「イラクで西側方式の民主化モデルを作る」等々と豪語していたのは、どこの誰だったのか。
 ところがゲリラに苦しめられるや否や、一転して他に責任転嫁する有様。俺達が苦しんでいるのは、お前達が援軍を出さないからだと言わんばかり。治安維持はもはや投げやり状態である。なりふり構わず、国連や日本を含む世界中の属国から「傭兵」をかき集めようと躍起になっている。

 今一番危険なことは、今回の事件をきっかけに、政治権力の実権と米英占領支配の根幹、石油資源の支配、復興支援の権益をそのままにして、厄介な治安維持だけを国連や他国に負わせる米英の手前勝手な目論見が進むことである。
 現に米政権内部で再び国連の関与を引き出す動きが強まっている。パウエル国務長官は早速アナン事務総長と会談し、治安維持に関する国連の協力を申し入れた。アナン氏は国連平和維持軍の派遣には消極的姿勢だったが、多国籍軍の結成には前向きであり、そのための新たな国連決議については明確に否定しなかった。

(2) しかし米英の思惑通りの国連の抱き込みは必ず失敗するだろう。魂胆が見え見えだし、米英のイラク戦争の失敗と「泥沼化」「ベトナム化」の共同責任など誰も取ろうとしないだろう。フランスやドイツやロシアは、曖昧な「国連関与」ではなく「国連の主導権」を要求している。ラムズフェルドが当てにしているインドやパキスタンやトルコの出兵計画も簡単に動き出すとは思えない。「死の肩代わり」をやる義理などどの国にもない。
 最も米英に媚びていたポーランド軍は首都近くのハイリスク地域から撤退するというし、今回の事件で初の犠牲者を出したスペインも国内から撤退の圧力が上がり始めた。
※米国務省は8月20日、米軍の治安維持活動を支援する派兵諸国は現在27カ国で、その兵力は計約2万1700人だと発表したが、そこにはごまかしと水増しがある。共同の侵略者であるイギリスが含まれているのだ。このイギリスだけで1万1千人の兵力が残っているはず。つまり残るは1万人強。ほとんど焼け石に水の状況であることに変わりはない。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030821-00001020-mai-int
 
(3) 米英や日本の好戦的なマス・メディアの中では、「テロに屈するな」「今妥協して何になる」「踏ん張れ」という翼賛的主張がまだ幅を利かせている。ごく一部でトーンダウンするメディアも出始めてはいるが。あれだけ米軍の進撃に酔いしれ進軍ラッパを吹いてきた好戦各紙もようやく調子に乗りすぎたと気づき始めたのかも知れない。これら好戦紙は、バグダッド陥落直後のごく一時的な米英の絶頂期に幻惑され、国連をこき下ろし「国連の死」「有志連合の時代の到来」「新ヤルタ体制」とやったため、今更国連に頭を下げるにはしゃくにさわる。国連主導は大きな声では言えない。

 そんな中、むしろ問題なのは、慎重姿勢をとってきた一部の朝某・毎某紙などのメディアである。これらは米英の占領中止と撤兵を絶対主張しない。「米英は治安維持責任を果たせ」との主張と合わせて、「今こそ国連の出番だ」なる主張を声高に叫び始めた。米英占領は破綻しているのである。国連が救済して何になると言うのであろうか。−−私たちは米英占領の建て直し、ガタガタになったその占領権力を崩壊寸前のところで救済する一切の動きに反対する。
※朝日新聞8月21日付社説「恐れた通りではないか」は、「米英が起こした戦争のつけは米英が払えばいい。そんな感情論もあるだろう。しかしイラクの安定は国際社会全体にとっての重大事だ。知らん顔はできない」とした上で、「米英が治安を初めとする占領統治の責任を果たしながら、国連を主体とする平和と安定の枠組みへ移行する方法を多国間で協議する」よう主張する。同日付毎日新聞社説「治安・復興で安保理再協議を」でも、「イラクの復興活動を投げ出すわけにはいかない。」「国連がCPAの脇役として復興支援するのではなく、もっと中心的役割を担う方策を検討する時期に来ている」という主張だ。米英の占領中止・撤兵はここでも禁句なのである。


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(1) 米英のイラク占領支配は完全に破綻している。同時に中東和平も破綻している。ブッシュ・ドクトリン、その先制攻撃戦略、その実験場であるイラクと中東で、ブッシュ政権が進めてきたシナリオ、米英の侵略戦争を皮切りに中東の石油資源を略奪すると同時に、中東で軍事覇権を握ることで世界覇権を牛耳る。この時代錯誤の帝国主義的・植民地主義的な野望は、今私たちの目の前で音を立てて崩れつつある。
※8月21日付日経新聞の記事「相次ぎ大規模テロ 米中東政策、誤算の連鎖」は、珍しく客観的でリアルだ。バグダッドとエルサレムの2つの大規模テロの勃発で、米ブッシュ政権が目指してきた中東の新秩序構築が極めて困難な局面に差し掛かったと述べ、イラクがパレスチナに次ぐ「火薬庫」に浮上したと評価する。

(2) 米英は権力機構を構築することすら失敗している。亡命イラク人を中心に統治評議会が出来たと言うが、彼らは何の実権も持たない。「傀儡政権」という名にも値しない虚構の「政権」である。旧国家権力の警察機構や軍事機構は壊滅したままである。行政機構は崩壊したままで、ほとんど機能していない。生活インフラの復旧すらまともに再建させようとはしていない。なぜか。米英軍は「国家再建」をやりに来たのではなく、略奪と支配のために来たからである。最初からまともな「復興計画」などないのも当然である。

(3) 米軍は首都周辺に集結し、自らの安全確保で精一杯だ。治安維持どころではない。米英軍の主要任務は、北部と南部の油田と油送管だけを、その意味で「点」を軍事的に支配し、本来の目的である石油資源の略奪を追求しているだけである。しかしそれも、ゲリラ襲撃と復旧作業の立ち後れ、誤算に次ぐ誤算で、予定通りの収入を確保できていない。

(4) 「イラクのパレスチナ化」−−イラク戦争の「泥沼化」「ベトナム化」は、今回の事件をきっかけに新たな段階に入った。これまでの米兵襲撃を中心にしたゲリラ闘争は、始まりの始まりに過ぎないことが明らかになった。アラブ世界から続々とイラクに反米闘争を遂行する部隊が結集しているという。それにはイスラム原理主義のほか、世俗的な反米勢力も含まれるようだ。

(5) 今回の事件と同じ日、イラクでの爆破事件のわずか6時間後に、エルサレムでも巨大な自爆攻撃が起こった。期を一にして中東和平の新しい方式=「ロード・マップ」もまた破綻に向かって動き始めた。
 日本のメディアは、「ハマスが停戦を破棄した」と騒ぎ立てているが、真相は全く別のところにある。パレスチナ側が屈辱的な条件を呑み「停戦」に応じたにもかかわらず、「停戦」など我関せずとばかりに掃討作戦を続行したシャロンの側のこの強引なやり方に、パレスチナ側が遂に業を煮やしたのである。
 誰が停戦を破ったのか、誰が平和を望んでいないのか。−−あれほどイスラエル側に有利なものであるにも関わらず、シャロンは「ロード・マップ」を破綻させた。その背景には、今やパレスチナ戦争をし続ける以外に、その権力を維持できないシャロン政権の異常な実態、「戦争国家」と化したイスラエルの特殊な構造がある。
「停戦を望まないのは誰か。和平を望まないのは誰か。」(「反占領・平和レポートNO.33」)

(6) 今回の事件で、一番落胆したのは第三歩兵部隊の若い米兵士達かも知れない。今回のイラクの事件に関して、ラムズフェルド国防長官は、米軍の増派は考えていない旨を言明した。「増やさない」のではない。「増やせない」のである。
 すでに私たちが繰り返し主張してきたように、米軍、特にその占領支配を担う陸上部隊である陸軍と海兵隊は、「延びきり」「過剰拡大」状況にある。米軍の能力以上にグローバルに軍事介入しすぎたのである。それがイラク駐留の思わぬ難航で一気に露呈した。
 イラクのスンニ派地域を軍事占領し掃討する陸軍部隊は、交代部隊を欠いているために、帰還できず、極端な士気の低下と爆発寸前の不満を持ちながら、ただイラク民衆を殺しまくる掃討作戦で、かろうじて士気を維持するという異常な状況にある。
※「米軍のイラク向け過小兵力の顕在化と海外過剰兵力展開の危機」(署名事務局)

(7) イラクの「大量破壊兵器」のでっち上げ、証拠偽造問題はイギリスでもアメリカでもまだ全く解決していない。イラク戦争の「大義名分」の壮大なウソは、米英国内でブッシュとブレアの政権の信任を急速に低下させるだけではなく、イラク現地の兵士たちの士気低下を加速している。

(8) 実は治安維持のための「傭兵」かき集め以上に深刻化しつつあるのは、予想を超える大幅な戦費アップと米国の財政赤字の急増問題である。米国防総省によると7月15日時点で、イラク戦費が総額480億ドル(約5兆6000億円)に上ることが明らかになった。主なものは開戦準備に約300億ドル、3月20日の開戦から戦闘終結宣言を行った5月1日までの約50億ドル。その後も月額の駐留経費が、戦前見通しの2倍近い40億ドルのハイペースで増え続けていると言う。年度を通じて約500億ドル、6兆円もの巨額の戦費が米国の財政を圧迫することになる。

 米財務省は8月19日、7月の連邦財政収支が542億4100万ドルの赤字となり、赤字額が前年同月(291億5900万ドル)の2倍近いペースで増えていると発表した。大型減税で歳入が前年同月比100億ドルも減少する一方、イラク戦に伴う国防費増大などから歳出が140億ドル増となったことが主因である。この結果2003会計年度(02年10月〜03年9月)当初10カ月間の財政赤字も3239億7800万ドルと、前年同期(1454億7000万ドル)の2倍強に達した。行政管理予算局(OMB)が行った最新予測では、今年度赤字総額は、過去最悪の4550億ドルに膨張すると見られている。膨大に膨れ上がる貿易収支の赤字と合わせて、「双子の赤字」はアメリカ経済の不均衡の最大の原因になっている。

(9) すでに始まった米の大統領選挙の序盤戦は、今のブッシュの父親がかつて劇的な敗北を喫した事態に極めて類似した状況になりつつある。ブッシュの支持率はここへきて低下が加速している。それだけではない。
 父親の致命傷となった経済危機の問題でも、「ジョブレス・リカバリー」(雇用なき回復)という当時と同じ性格の経済危機、雇用危機の深刻化の様相を呈している。
 ブッシュは追い詰められている。あと残るのは主体的要因のみ、つまりブッシュの息の根を止める政治的対立候補が登場するかどうか、事態はそこまで来ている。


X

(1) 小泉首相は再び窮地に立っている。今回の爆破事件は、イラク特措法の前提、想定など全てを打ち砕いた。「非戦闘地域」などないことが誰の目にも明らかになった。「国連」や「人道支援」の看板を掲げてもごまかせないことが明らかになった。如何なる粉飾をしようとも、間違いなく日本が標的になることも明らかになった。現在政府は事前調査すら派遣できない状況である。
 イラク特措法は、その前提がウソと虚構であることが明白となったのである。小泉政権は、イラク民衆の命や自衛隊員の命を弄んだ前代未聞のふざけた答弁を撤回すべきである。平和憲法を踏みにじったごり押し採決の責任を取るべきである。

 「派兵延期」でしのげると思うのは大間違いである。米政府が早期派兵を要求し始めているからである。バウチャー報道官は21日の記者会見で、日本は派遣の「検討」と「約束」の中間段階にあるとの見解を示し、自衛隊派兵を先送りすることに不満を表明した。米政府の派兵圧力は今後ますます強まるだろう。

 イラク特措法は今すぐ廃止せよ。臨時国会でもう一度同法廃止に関する審議を行うべきである。社民党など野党の一部は、「廃止法案」で野党共闘を復活させようと動き始めた。
※「イラク法廃止法案提出を 福島氏、野党共同で」(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030822-00000112-kyodo-pol

(2) 小泉政権が押し進めてきた日本の新しい軍国主義、その急速なエスカレーションは日本単独の孤立したものではない。ブッシュ・ドクトリン、その先制攻撃戦略に迎合してきた結果である。独立変数ではなく従属変数である。テロ対策特措法、アフガン侵略への支持、イラク侵略への支持、有事法制、北朝鮮への戦争挑発等々、過去2年以上にわたる小泉政権の軍事外交政策は、米国の軍事的な一極支配の幻想、ネオコン信奉、最近では電撃的なバグダッド陥落と米英軍事力による短期圧勝の幻惑、要するにアメリカの戦争と軍事力が世界を支配し、永遠に勝利の行進をするという超楽観的な「唯武器論」の上に組み立てられてきた。

 だから破綻しつつあるのはブッシュによるイラク占領と世界制覇の野望だけではない。それとともにブッシュの侵略を“弾み車”にしてきた日本の軍国主義もまた根底から揺さぶられている。対米属国の優等生として卑屈なまでにそれに進んで従属し、その世界制覇に便乗しようとした小泉政権と自民党の対米従属的軍事外交政策は、少なくともここ2年間のようにトントン拍子には進まないだろう。政権内部でも与野党の間でも矛盾と対立が拡大するだろう。

 しかし軍国主義と政治反動の流れがそう簡単に変わるわけではない。現に25日、小泉首相は2005年11月までに、党の憲法改正案を取りまとめるよう指示し、改憲に向けて具体的に動き始めた。
 いずれにしても、ブッシュに対しても、小泉に対しても、その戦争政策に最終的に決着をつけるのは民衆の闘いであり反戦運動の力である。イラク戦争支持、劣化ウラン弾使用の擁護、「大量破壊兵器」問題等々、小泉政権のイラク戦争についての責任問題はまだ何も解決していない。この先、イラクの「泥沼化」「ベトナム化」とブッシュ・ドクトリンの破綻が、そして日本軍国主義のエスカレーションの動揺が、どのような形、どのようなテンポで進むのかは、世界と日本の民衆運動、反戦平和運動の前進如何にかかっている。

2003年8月25日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局