反占領・平和レポート NO.33 (2003/8/22)
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.33

8/19エルサレム大規模自爆攻撃事件の背景−−−−
停戦を望まないのは誰か。和平を望まないのは誰か。
パレスチナ側の一方的停戦のもとでイスラエルの不当性、義務不履行が浮き彫りに


 8月21日、イスラエル軍が、武装ヘリによるミサイル攻撃でハマス最高幹部の一人イスマイル・アブシャナブ氏を殺害したことを機に、ハマスとイスラム聖戦は、6月末からの停戦の破棄を宣言しました。その原因と責任は、ここ数か月の諸過程から明らかなように、パレスチナ側の停戦にもかかわらず活動家殺害・要人暗殺を停止せず行ない続け、執拗な挑発を繰り返したイスラエル側、シャロン政権にあります。
 ところが大手マスメディアの報道は、全くデタラメなものです。「パレスチナ過激派、停戦終結を宣言」とデカデカと見出しを付け、まるで「パレスチナ過激派」の方に一方的に非があるかのように連日報じているのです。米とイスラエルの側の責任は曖昧にされ、ほとんど問題にされていません。

 イスラエルとパレスチナ。そもそもどちらが占領者でどちらが被占領者なのか。どちらが圧倒的な軍事力を持ちどちらが貧弱な対抗手段しか持たないのか。この問題に関するメディアの不当な扱い、不公平、差別、何よりも事実関係の丁寧な報道を全く無視したやり方にはヘドが出そうです。圧倒的な武力をもった占領者が、貧弱な武力しかもたない被占領者を、それも多大な努力と忍耐で屈辱的な停戦を実施していたのに、それを挑発し続けて、ついに停戦を破棄させるところまで追い込んだのです。
 メディアの責任は極めて重大であると言わねばなりません。少しさかのぼって事実経過を確認すれば、どちらが停戦と和平を望み、どちらが望まないのか、一目瞭然なのです。そして責任は一体どちらにあるのかも。 

 私たちは、以下でまず事実経過を確認したいと思います。かなり詳細に見ていくことになりますが、どちらが停戦と和平を望まないのか、この大きな疑問に答えるには、ぜひその必要があるからです。その検証をマスメディアが怠っているからです。(出所は逐一明示しませんでしたが、日本の主要各紙で報じられたものだけから拾いました。)

2003年8月22日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


(1)パレスチナ側の停戦で局面が転換。苦境に立ったシャロン政権はハマスとイスラム聖戦を停戦破棄に追い込み、「過激派組織解体」を再び焦点に押し上げようと目論む。

 この間の事態の経過は、大きく2つの局面にはっきりと分かれます。
 第1局面は、「ロードマップ」公表からパレスチナ側の停戦実現まで。ここでは米国の対イラク戦の華々しい短期圧勝の勢いに乗じて、イスラエル・シャロン政権が、米国の後押しのもとで、パレスチナ側に攻撃を仕掛け停戦をのませ屈服させていった過程です。
 第2局面は、停戦実現以降、イスラエル側にとって予想外の出来事が相次いで起こった局面です。やむをえざる停戦に追い込まれたパレスチナ側が屈辱的な停戦を実行し始めるやいなや、「ロードマップ」の義務の履行を迫られることはないとタカをくくっていたシャロン政権が、否応なく対応を迫られるという諸過程が現出しました。
 「ロードマップ」そのものは、占領をなくす前に占領への抵抗をなくすことをめざすという不当極まりないものですが(「反占領・平和レポートNo.30」参照)、それでもいったん双方が受け入れを表明したことで、独自の展開を遂げ始めたのです。歴史と政治の痛烈な皮肉です。極度にイスラエル寄りにかたよった「ロードマップ」ではあっても、シャロン政権にも和平へ向けた一定の義務を課しています。パレスチナ側が停戦を宣言したことで、イスラエルの不当性と義務が浮き彫りになりはじめたのです。

 いま事態は、第3局面に入ろうとしています。第2局面で散々苦境に陥ったシャロン政権は、苦し紛れにハマスやイスラム聖戦の要人暗殺・活動家殺害の挑発的軍事作戦を強化しました。その結果として、それまでのすべての怒りを一挙に爆発させるかのようなエルサレムでの8月19日の自爆攻撃が行なわれたのです。そして21日には冒頭に紹介したハマス、イスラム聖戦による停戦破棄宣言です。
 再度シャロン政権は力づくで局面転換を図ろうと動き出したのです。もう一度イスラエル側が攻勢に打って出る局面、自らの不当性と義務不履行を一気に葬り去る極めて都合の良い局面、分離壁や入植地問題、政治犯釈放問題、占領地からの撤退問題などを国際政治の焦点から消し去る局面です。
 シャロンは、代わって「パレスチナ過激派解体」をもう一度、国際政治の焦点に据えようと画策し始めたのです。ヨルダン川西岸に侵攻したイスラエル軍部隊は21日以降も、ナブルス旧市街で過激派拘束作戦を継続、自治政府がハマスやイスラム聖戦を弾圧し、組織解体に乗り出さなければ、どこまでも攻撃を拡大する方針です。もちろんアッバス首相にはそんな力はありません。シャロン政権のやりたい放題は、アッバス首相を窮地に陥れることで、「ロードマップ」そのものをも破綻の危機に追い込んでいるのです。
 以下に、第1局面、第2局面に分けて、事実経過を追ってみましょう。


(2)第1局面:「ロードマップ」公表から停戦実現まで。シャロン政権は攻勢を維持、軍事力で停戦を強いることに成功。

 米英軍によるバグダッド陥落と短期圧勝は4月9日でした。ブッシュ大統領が大はしゃぎで、「勝利宣言」を行ったのが5月1日。この米英軍事力の絶頂期の4月30日に提起されたのが「ロードマップ」でした。

 パレスチナ内部の親米・親イスラエルの代表としてブッシュ政権の後押しで首相に押し上げられたアッバス氏、米・イスラエルの操り人形にならないアラファト氏は事実上力で抑え込まれました。米英のイラク戦争圧勝という新しい力関係の激変の中で、パレスチナ側は受け入れる以外に選択の余地はありませんでした。

 またシャロン政権内部も「ロードマップ」推進で一致しているわけではありません。パレスチナ側の武装解除を最優先事項にしている、イスラエルの占領支配の根幹は容認する等々、全体としてイスラエル側に決定的に有利であるにもかかわらず、幾つかの義務が生じるからです。渋りに渋った上で数多くの留保条件をつけて受け入れました。
 シャロン政権は、この「ロードマップ」を最大限利用し、自治政府に「過激派」の解体・武装解除を要求し続けながら、「対テロ掃討作戦」を公然と継続し、遂にパレスチナ側を屈服させ停戦を強制することに成功したのです。(下表の●印、5/1、6/10、6/21、6/24、6/25、6/27を見て下さい。これらは全て報復ではありません。むしろ合意の後が多いのです。イスラエル軍による一方的な攻撃です。6/29のパレスチナ側の停戦受け入れまで、執拗に幹部暗殺・攻撃を繰り返し、屈服させた経緯がよく分かると思います。メディアはこうしたイスラエル側の攻撃をほとんど非難しないのです。)

 ブッシュ政権は、イラクの軍事占領を早期に安定させる、「オスロ合意」に代わる新中東和平「ロードマップ」を進める、この2つの柱を推進することによって、石油支配と中東支配を実現し世界覇権を確立するという野望を抱いています。そのために先ず第一に、パレスチナの抵抗を徹底的に弾圧し、屈辱的な屈服を強いる。ここまでは米・イスラエル間の利害は完全に一致しました。第1局面がそうです。

 4月30日:「ロードマップ」提示
   「ロードマップ」の要点:第一段階で、パレスチナ側には、「即時無条件の停戦」と「イスラエル人に対する一切の武装活動と暴力行為を終わらせる」ことを要求し、「イスラエルとの治安協力の再開」、「イスラエル人に暴力的攻撃を加えようとする者の逮捕・拘束や不法な武器の没収を含む具体的な」措置を要求。イスラエル側には、「包括的治安活動が前進するに応じて、2000年9月28日以降の占領地から撤退する。入植活動を凍結する。民間人に対する攻撃や家屋破壊など信頼関係を掘り崩す行為を控える」ことを要求。(「反占領・平和レポートNo.30」参照)

 即日、パレスチナ自治政府が無条件受け入れ表明。

●5月 1日:イスラエル軍、ガザ侵攻。ハマス幹部を含む13人殺害。

 5月25日:イスラエル閣議で条件付き受け入れ決定(パレスチナ難民帰還権の放棄を要求し、パレスチナの最終地位を主権を持つ独立国家とすることも留保するなど、多くの条件を付けた)。

 5月26日:シャロン首相、リクード党の会合で、ロードマップの受諾が入植地の建設を阻害するものではないとの考えを表明し、入植地活動を停止する考えはないと改めて表明。

 6月 4日:アカバで3首脳会談。「ロードマップ」の即時履行開始で合意。

●6月10日:イスラエル軍、ガザ市でハマスの最高幹部の一人アブドルアジズ・ランティシ師をミサイル攻撃、暗殺未遂。パレスチナ人6人死亡。/ブッシュ大統領がイスラエルに異例の自制要求。/シャロン首相、過激派テロ組織の幹部暗殺作戦の継続を言明。

 6月11日:エルサレムで自爆、16人死亡、ハマスがランティシ師暗殺未遂への報復と声明。/直後、ガザ市でイスラエル軍がヘリからミサイル攻撃、ハマス軍事部門司令官を含む7人死亡。/イスラエル治安当局、ハマスとの「全面戦争」を決定。

 6月12日:ブッシュ政権、ハマスを「平和の敵」と断言し、イスラエルのハマスへの攻撃を容認。/イスラエル軍、ガザで10〜12日に5回のミサイル攻撃、20人以上死亡。

 6月14日:イスラエルとパレスチナ自治政府の治安協議。(1)ガザ地区北部からイスラエル軍が撤退、(2)自治政府とパレスチナ過激派の間でイスラエルに対するテロを停止する合意を結ぶ、(3)イスラエルはハマス幹部への攻撃をやめる、との内容で話し合い。

●6月21日:イスラエル軍、ヘブロンでハマス幹部アブドラ・カワスメ氏を射殺。/シャロン首相、作戦継続を言明。

●6月24日:イスラエル軍、ヘブロンでハマスの一斉摘発、130人以上を逮捕。/イスラエル軍情報部高官が「ハマスが自治政府との交渉で3か月の停戦に原則同意した」と国会外交防衛委員会に報告したことを、イスラエル主要メディアが報道。

●6月25日:イスラエル軍、ガザ南部ハンユニスでハマス活動家を狙いミサイル攻撃。無関係の男女2人が巻き添えで死亡。/ブッシュ大統領、米EU首脳会談後の会見でハマス解体の必要を改めて強調し、停戦交渉に否定的な見解を表明。/パレスチナ3組織が、イスラエル軍の殺害作戦と自治区への侵攻停止やパレスチナ人政治犯の釈放などを条件として3か月間の停戦に合意したとのファタハ幹部の情報が、メディアで報じられる。

●6月27日:イスラエル軍、ガザ市でハマス幹部宅を急襲。自宅を爆破し、息子とおじを殺害。イスラム聖戦の活動家1人を射殺。巻き添えで市民1人死亡。/イスラエルと自治政府、ガザとベツレヘムからのイスラエル軍撤退、治安権限移管で合意。/ハマスの精神的指導者アハマド・ヤシン師が停戦を決めたことを表明。/イスラエル政府高官、ハマスの停戦には「一文の価値もない」とコメント。

 6月28日:イスラム聖戦とファタハ系アルアクサ殉教者旅団も停戦表明するとの報道。/イスラエル放送、「ハマスが提案している停戦条件はアッバス自治政府首相との間で合意したものであり、イスラエルはこれを無視するだろう」とのイスラエル政府高官のコメントを報道。

 6月29日:ハマスとイスラム聖戦が共同声明で対イスラエル攻撃を3か月間停止すると宣言。攻撃停止の条件として、イスラエルに暗殺作戦の停止、自治区封鎖の解除、拘束中のパレスチナ人の釈放などを要求。/ファタハも、ハマス、イスラム聖戦と同様の条件で、対イスラエル攻撃を6か月間停止すると発表。/シャロン首相のギシン報道官、「停戦発表には何らの価値も認めない。我々は自治政府を対話相手に、テロ組織の根絶を求める」と表明。シャロン首相はライス大統領補佐官との会談で軍事作戦を続ける意向を表明。/イスラエル軍、ガザ北部ベイトハヌーンから撤退。


(3)第2局面:停戦実現から停戦崩壊まで。苦境に立ちはじめたシャロン政権

 停戦直後から、米国、イスラエルともに、停戦声明だけでは不十分であり、あくまでもハマスなどの解体を自治政府に求めると繰り返し表明しました。しかし停戦を歓迎する圧倒的な内外世論のもとで、イスラエル側も「ロードマップ」に明記された一定の対応を取らざるを得なくなりました。
 主要に3点にわたってイスラエル側の不当性と義務が浮き彫りになったのです。
A)6000人にも上る無差別大量不当拘束者の釈放問題。
B)2000年9月28日以降の再占領地からの撤退問題。
C)分離壁問題と入植地凍結問題。

 圧倒的な軍事力と米国の後ろ盾のもとでの「対テロ掃討作戦」のやりたい放題の局面から、自らに履行義務が生じる局面へと状況が一転して、シャロン政権は苦境に立ち始め、自らの履行義務を免れる方途を模索し始めました。それも、ブッシュ政権が同調してくれるような形でなければなりません。イスラエル軍による「テロリスト掃討作戦」はブッシュ政権のお墨付きを得ています。パレスチナ自治政府への「過激派」組織解体要求は、ブッシュ政権がいっしょに合唱してくれます。ところがイスラエルの側の義務不履行問題について米・イスラエルの間で対立が生じ始めたのです。

 7月 1日:シャロン首相、アッバス首相、首脳会談。会談前の共同声明で、両者はハマスなどパレスチナ主要過激派の停戦とイスラエル軍のガザ自治区撤退というそれぞれの暴力停止の努力を互いに評価。協議機関として4つの合同委員会設置(治安維持、政治犯の釈放、物資の流通、煽動活動の停止)を合意。
 自治区からの追加撤退と大量拘束パレスチナ人の釈放問題が焦点化。

 7月 2日:イスラエル軍、ベツレヘム撤退。ただし、周囲の封鎖は継続。/ガザ中部入植地クファルダロムに3発のロケット弾、イスラエル人4人が負傷。イスラエル軍が自治政府に抗議。自治政府、「人民抵抗委員会」のメンバー10人を逮捕。

 7月 5日:「人民抵抗委員会」が対イスラエル武力攻撃3か月間停止を宣言。イスラエル軍による攻撃停止とパレスチナ人政治犯の釈放を要求。

 7月14日:シャロン首相、英国訪問。ブレア首相にアラファト議長との関係断絶を求めたが「欧州連合(EU)は議長との関係を維持する」と拒否される。逆に、パレスチナ人政治犯釈放や西岸入植地からの撤収など「ロードマップ」の進展を求められる。

 7月25日:23日に訪米したアッバス首相、ブッシュ大統領と会談。米と自治政府によるパレスチナ経済発展合同委員会設立を発表。/イスラエル首相府、2都市からの追加撤退決定を発表。
 アッバス・ブッシュ会談で分離壁問題が浮上。ブッシュ大統領は、「問題だと思う」「壁がうねっている中で、イスラエルとパレスチナが信頼関係を構築するのは難しい」と発言。6月末にライス大統領補佐官がイスラエルを訪問した際、シャロン首相に再考を求めたことも報じられる。

 7月29日:シャロン首相訪米し、ブッシュ大統領と会談。シャロン首相は、防護壁建設続行を明言。ブッシュ大統領は、「微妙な問題だと理解している」とトーンダウンし、イスラエル側にパレスチナ人の生活への配慮を求めるにとどまった。

 7月30日:防護壁問題でパレスチナ側が一斉に米に対する反発と失望。/パウエル国務長官、「パレスチナ領を侵食し“ロードマップ”の実施が困難になる形で防護壁の建設が続けられるのは問題だ」と発言。
 翌日7月31日付で主要各紙は「防護壁」問題を地図付きで一斉に大きく報道。

 7月31日:イスラエル政府、ガザ地区のユダヤ人入植地ネベデカリムで住宅24戸を新たに建設するための入札を公示。パレスチナ側は、「ロードマップ」に反すると強く非難。

 8月 1日:パウエル国務長官、イスラエル紙「マーリブ」とのインタヴューで建設中の分離フェンスが「ロードマップ」の障害になるとの懸念を表明。/トゥルカレム付近でISM活動家やパレスチナ人数百人のデモ隊がフェンスを破壊しようとしてイスラエル軍と衝突、軍が発砲したゴム弾で11人が負傷。

 8月 3日:イスラエル・シャローム外相とパレスチナ自治政府・シャース外相が会談。自治政府シャース外相は、イスラエル軍が西岸から追加撤退し、パレスチナ人の移動の自由を認めるなどの「ロードマップ」に沿った手順を踏めば、対イスラエル攻撃停止の無期限延長をパレスチナ過激派各派に働きかける方針を説明。シャローム外相は、これを拒否し、武装組織解体を要求。

 8月 5日:国務省のリーカー副報道官が、フェンス建設費に相当する金額を90億ドルの債務保証から削減する可能性を示唆。米議会が今春イスラエルヘの90億ドルの債務保証を承認した際に、入植活動の拡大に関連する出費については減額する条項を盛り込んでおり、リーカー副報道官は「分離フェンスが該当するかどうかを協議している」と言明。

 8月 7日:パウエル国務長官が記者会見で、イスラエルヘの債務保証額からフェンス建設費に相当する金額を削除する可能性を示唆し、「資金の使いみちを定めた議会の指示に忠実でなければならない」と述べる。翌8日にはブッシュ大統領が、「(分離フェンスは)西岸をくねるように作られており、将来イスラエルに隣接する国家を樹立することを非常に困難にしている」と述べ、建設ルート変更など同国の協力を求めた、との報道。

 8月 8日:イスラエル軍、ナブルスの難民キャンプを急襲、ハマスの活動家2人を殺害。抗議のデモにイスラエル軍が発砲し、パレスチナ人2人死亡。イスラエル軍は、アスカル難民キャンプで手配中のハマス幹部の拘束を狙った「ピンポイント作戦」を実施したと発表。/ハマスはイスラエルを非難し報復を示唆。/イスラエル・レバノン国境で、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが、イスラエル軍陣地を迫撃砲などで攻撃。ヒズボラの活動家が前週ベイルートで起きた爆弾テロで死亡、同派はイスラエルによる暗殺作戦と批判し、報復を宣言していた。

 8月12日:イスラエル中部ロシュ・ハイアンで自爆、2人が死亡10人が負傷。ヨルダン川西岸の入植地アリエルでも自爆、2人が死亡3人が負傷。前者は「アルアクサ殉教者旅団」が、後者はハマスが、それぞれ犯行を表明。停戦自体は継続する意志を表明。/イスラエル放送は「停戦は終わった」と報道。イスラエル外務省筋は、「イスラエルが自治政府に求めるテロ組織解体の要求が正しいことが証明された」「シャロン首相は米国にたいして分離壁の必要性を示したと訴えるだろう」と述べた。/イスラエル軍、ナブルスを封鎖し周辺の村に外出禁止令。複数のパレスチナ人を拘束。

 8月13日:シャロン政権、パレスチナ自治政府が踏み込んだテロ対策を実施しない限り「ロードマップ」の次の段階には進まないことを決定。

 8月14日:イスラエル軍、ヘブロンでイスラム聖戦のムハマド・シデル幹部宅を急襲、殺害。/イスラム聖戦は報復を宣言。

 8月15日:イスラエルと自治政府の治安協議で、カルキリヤとエリコからのイスラエル軍撤退合意、ラマラとトゥルカレムも治安権限移管の方向で一致。

 8月19日:エルサレムの路線バスで自爆、乗客20人死亡100人以上が負傷。イスラム聖戦とハマスが犯行声明。/シャロン政権、自治政府との一切の協議凍結を決定。

 8月20〜21日:イスラエル軍、ジェニン、ナブルス、トゥルカレムなどへ軍事侵攻し、報復の掃討作戦を遂行。閣議では、過激派壊滅の軍事作戦を行なうが矛先を自治政府には向けないことも確認。/ブッシュ政権の対応は、イスラエルの報復自制を求める発言はほとんどなく、「イスラエルには自国を防衛する権利がある」「平和への道はテロ組織解体という見解で一致した」というもの。

 8月21日:イスラエル軍、ガザ市でヘリからのミサイル攻撃により、ハマスの政治部門指導者イスマイル・アブ・シャナブ氏と2人の護衛を殺害。/ハマスとイスラム聖戦が、「対イスラエル攻撃の一時停止」破棄を表明。


(4)停戦が実現した結果、逆にイスラエル側の不当性、義務の不履行が際立つ。

A)大量不当拘束者の釈放問題。
 まずは、6000人にものぼる不当拘束者の釈放問題が日程に上りました。シャロン政権は、正当化することが難しい要求を突き付けられ、「イスラエル人の殺害にかかわった者は除外する」という苦し紛れの論理を持ち出して(無差別大量拘束をしてまともな取り調べもしていないにもかかわらず)、数百人規模の釈放を小出しに行なうことでごまかそうとしました。大手メディアの報道では、釈放の方に焦点を当てた報道が行なわれましたが、釈放されたのは主要にはそれ以上拘束し続けるのが困難な者が中心で、その裏で新たな大量不当逮捕・拘束が行なわれていたことはほとんど報じられませんでした。

 しかし結局は、少しずつ釈放人数を増やしていって、500人を超したところで米国が高く評価。ブッシュ大統領が7月末の会談で「評価している」と発言して、主要な政治問題からはずされていきました。6000人に対して500人。こんなデタラメな釈放問題の決着はありません。

B)今次インティファーダの最中に侵攻した地域からの撤退問題。
 「ロードマップ」の第1段階は、全体として今次インティファーダが始まる前の「原状回復」を双方に求めています。パレスチナ側が停戦を実現させた以上、当然のこととして、イスラエルがこの間に軍事侵攻して再占領したパレスチナ自治区から軍を撤退させる義務が浮上しました。しかしここでもシャロン政権は、少しずつ小出しにして時間をかけては引き延ばし、主要検問所だけは残そうとしたりして自治政府との間でしばしば対立しました。

 停戦が実現してから1か月半の間にイスラエル軍が実際に撤退したのは、ガザ北部とベツレヘムの2カ所でしかありません。それも、いつでもすぐに再侵攻できる形での欺瞞的「撤退」でしかありません。ガザ地区では入植地の多い南部からは撤退せず、中部も入植地周辺には軍部隊が残されました。ベツレヘムでは、市郊外の基地からの侵攻を繰り返す形であったため軍部隊の移動がほとんどない「撤退」で、周囲の封鎖は継続しました。

 再占領地からのイスラエル軍の撤退がなかなか進まないということは、日常生活そのものを圧迫し締め上げる封鎖が解除されないということを意味します。それは、パレスチナの人々の不満を特別に募らせるものでした。

C)分離壁(=アパルトヘイト・ウォール)問題。
 次いで政治問題化したのが分離壁です。イスラエルは「セキュリティ・フェンス」と呼んでいますが、ベルリンの壁をはるかに凌駕する大規模な分離壁で、反対闘争を行なっている人々が適切に呼んでいるように、まさに「アパルトヘイト・ウォール」です(「グッシュ・シャロム」のサイトでウォール問題が特集されていて、その実態を詳細に見ることができます)。

 しかもこれは、グリーンライン(1967年国境)から大幅に西岸地区にくい込んでいて、隠された新たな大規模土地収奪でもあるのです(「反占領・平和レポートNo.30」参照)。これは、占領地の入植活動を禁止しているジュネーヴ協定に違反し、事実上の領土併合であるだけでなく、入植活動の凍結を要求している「ロードマップ」とも真っ向から対立します。さすがにブッシュ政権もかばいきれないと見て、一定の圧力をかけざるをえませんでした。

 今春米議会で承認された追加的な対イスラエル経済支援である90億ドルの債務保証から、分離壁の建設費用分を減額するという案まで提起されました。これは、議会通過時に入植活動分は減額するという付帯条件が付けられていたからですが、ブッシュ政権内の対立も反映して、ネオコンに対抗するかのように国務省が強調しはじめました。選挙との兼ね合いでイスラエルに圧力はかけられないだろうという観測がしばしば報じられますが、在米イスラエル人社会でも意見が分かれており、必ずしもシャロン政権の望み通りにはいかない可能性があります。特に、グリーンラインに沿わずに大きく西岸地区にくい込んでいることが意見対立の最大の理由となっています。

 ブッシュ・シャロン首脳会談の中で、ブッシュが一度は建設中止を求めたとも報じられました。シャロンはこれを拒否し、結局ブッシュ政権が求めたのは、建設の中止ではなくグリーンラインに沿った建設でしかありませんでした。また、6月末にイスラエルを訪問したライス大統領補佐官も実情を知って中止を求めましたが、シャロン首相は応じませんでした。米・イスラエル間で分離壁をめぐり対立が生じていることは間違いありません。

 シャロンが分離壁建設を強行する限り、ブッシュはアッバス首相を抱き込むことはできないし、「ロードマップ」の破綻は目に見えています。分離壁問題が国際政治の焦点に浮上することによって、ブッシュ政権もシャロン政権も、共に苦しい立場に立たされるようになったのです。


(5)抑えに抑えられた怒りの爆発としての8月19日事件。

 8月8日が事態が急転換していく節目となりました。イスラエル軍がナブルスのアスカル難民キャンプを急襲し、ハマスの活動家2人を殺害。さらに、それに抗議するパレスチナ人のデモに軍が発砲して、パレスチナ人2人が殺されました。
 報復を示唆していたハマスは、4日後に報復の自爆攻撃を行ない、停戦自体は継続すると表明しました。それに対して、イスラエル軍は即刻、軍事活動を活発化させ、イスラエル放送は「停戦は終わった」と報道しました。シャロン政権は、自治政府が踏み込んだテロ対策を実施しない限り「ロードマップ」が求める措置をこれ以上とらないと宣言。8月14日にはイスラム聖戦の幹部宅を急襲し、殺害しました。

 8月19日、エルサレムの路線バスで自爆攻撃が行なわれ、20人が死亡し100人以上が負傷しました。ハマスとイスラム聖戦が犯行声明を出し、イスラム聖戦は8月14日の幹部殺害への報復であると表明しました。バスはエルサレム旧市街のユダヤ教聖地「嘆きの壁」から戻る「超正統派ユダヤ教徒」で満員で、爆破されたバスと後続のバスで多数の死傷者が出たと伝えられています。

 この自爆攻撃は、直前の8月8日からの諸事件の直接の結果です。しかし、単にそれだけにはとどまらない意味をもっていると思われます。
 圧倒的な武力で暴虐の限りを尽くす占領者の度重なる攻撃に、ついに武力による反撃を停止した被占領者。そのもとで、自らの義務が問題になるやいなや何一つ誠実に履行しようとせず、軍事作戦を一方的に行ない続けた占領者。日常生活そのものを極度に圧迫し日々屈辱を与え続ける封鎖と検問の継続。西岸での新たな大規模土地収奪とアパルトヘイト的ゲットー化の分離壁建設続行。自らの立場が苦しくなりはじめるやいなや挑発を繰り返し、被占領者がたまらず反発すれば、これ幸いとすべてをひっくり返して被占領者の側に責任を転嫁して居直る占領者。このような事態の1か月半の後、ついに被占領者の怒りが爆発したものに他なりません。

 私たちは、「反占領・平和レポートNo.31」で次のように主張しました。
 「タニヤ・ラインハルト記者の『失敗が保証されているロードマップ』は、前回のレポートで主要な論点は紹介しました。一つ付け加えるとすれば、停戦イニシアティヴをイスラエルの側がブチ壊しても、米国は平然として「停戦を拒絶したのはパレスチナ人の側だ」と指摘するということを、具体的に暴露していることです。今回も同じ過程をたどるのは目に見えていると警告しているのです。私たちとしては、次のことを付け加えたいと思います。そのような米国の虚偽の判定をマスメディアがそのまま垂れ流して、虚偽を「真実」にしてしまうということです。」と。
 今まさにその過程が始まっています。