わたしの雑記帳

2015/11/10 文部科学省「学校事故対応に関する調査研究」有識者会議のヒアリング

2015年11月10日(火)、文部科学省の「学校事故対応に関する調査研究」第4回有識者会議で、ジェントルハートプロジェクト(http://npo-ghp.or.jp/)と、全国学校事故事件を語る会(http://katarukai.jimdo.com/)のヒアリングが行われた。

きっかけは、現在2期目に入っている学校事故対応に関する調査研究有識者会議の検討材料である国立大学法人大阪教育大学の文部科学省委託事業「学校事故対応に関する調査研究」報告書が、ジェントルハートプロジェクトが過去にとった被災者アンケートとの内容とあまりにかけ離れていることに危機感を抱いたことから、5月20日に申し入れをしに行ったこと。(me150523参照)
その後、神戸の全国学校事故事件を語る会でも、自分たちで集めたアンケートを基に、学校事故対応について、申し入れをした。
結果、この2団体のヒアリングが実現した。加えて、元々予定されていた全国柔道事故被害者の会(http://judojiko.net/)のメンバーへのヒアリングがこの日に行われた。

ジェントルハートプロジェクトからは、小森美登里さんと、武田が25分ずつ話をさせていただいた。
終了後は、ジェントルハートプロジェクトと、全国柔道事故被害者の会が、記者会見を合同で行った。

以下は、武田の読み原稿のコピーペースト。資料はオリジナル資料にUP。 



NPO法人ジェントルハートプロジェクト理事の武田さち子と申します。よろしくお願いいたします。
まず、資料について説明します。資料は4つ。

【資料の説明】

資料1 resume。「学校事故事件の事後対応の主な問題点と課題」、「事後対応への提言と要望」を書いた用紙。6頁。これが、レジュメ代わりとなります。

資料2 jikotaiourei。「外部調査委員会設置にみる学校事故事件の事後対応の主な問題点と課題一覧」。これは、今から説明する資料4の108件の事例から、問題点を抽出したものです。
左側の事案番号は、資料4の番号に対応しています。どういう事案か、どのような調査委員会だったのかを知りたいときは、資料4を参照してください。

資料3 mokuji。「保育学校事故事件外部調査委員会一覧」は、右側に頁を振っていますので、資料4の目次や索引として使用してください。
その3頁目を開いていただくと、コードの意味などが書いてあります。
最初のアルファベットは事案を表し、次の8桁の数字は事案発生の年月日を表します。
数字のあとにアルファベットがあるもの、たとえば1頁目の21、22に書いてあるXYは、同じ事案で複数の外部調査委員会が設置されたものです。
また、同じページの27、28の小文字のabは、J自殺事案で、同じ2010年6月7日に発生しているものです。
3頁に事案の内訳を書いていますが、108件中、約半分の53件を自殺事案が占めています。残り約半分は自殺未遂、部活や行事事故、保育事故などがあります。

資料2の問題点の抽出の多くを自殺事案が占めているのは、私がいじめや自殺事案にとくに注目して情報を集めてきたからであって、統計的な意味はありません。私が知る限り、自殺事案とその他の事故事件には、非常に多くの共通する課題があります。

資料4 chousaiinkai list。調査・検証委員会 (外部調査委員会) 一覧。これは、私がネットや新聞などで情報収集したもので、現在、108件あります。
いじめ防止対策推進法(以降、いじめ防止法もしくは防止法と略させていただきます) は、2013年9月28日施行されましたので、防止法対象となった事案は、No80からです。
なお、何の権限も持たない一個人が収集した情報ですので限界があります。


【学校事故対応の課題】

本題に入ります。
「学校事故対応」について、外部調査委員会が立ち上がった事案のなかから見てみたいと思います。

実は、2011年10月11日の大津いじめ自殺事件(No 44、22頁)以降と以前とでは、自殺事案の場合、設置の意味が大きく異なります。
大津の中2男子生徒の自殺は2011年ですが、外部調査委員会が設置されたのは翌2012年で、報告書が出たのは2013年1月です。
2012年以前の自殺の外部調査委員会のほとんどは、遺族の希望ではなく、学校・教委主導の設置でした。なかには、外部調査委員会が設置されたことさえ遺族に知らされないケースもありました。
結論として、遺書があってさえ、いじめの存在やいじめと自殺との因果関係が認められないものが多く、当法人理事の篠原夫妻の息子の真矢くんの川崎市の事案(No27、13頁)は、自殺といじめの因果関係まで認められた数少ない例です。
それ以前に福岡県筑前町の自殺事案(No16、8頁)もありますが、あとで資料を読んでいただければわかりますが、遺族の納得感を得られないような、様々な問題点もあります。
一部を除いて、遺族が「こういう外部調査委員会なら託したい」と思えるようになったのは、大津の第三者委員会からです。



事後対応の問題点を私は、1.事前、2.事後、3.外部調査委員会の3つに分けました。
共通するキーワードは、「記録」、「情報共有」、遺族を含む「当事者の参画」の3つです。

1.事案発生の前
ここに書いている事前の問題点や課題とは、事案発生後の調査や再発防止策に影響を与えるものです。自殺事案を中心に書いていますが、他の事件事故にも共通することが多いと思います。

子どもの自殺が発生するたびに、同じことが指摘されます。
いじめや自殺の防止対策が形骸化していたということ、関係者間の情報の共有不足、チェック機能が働いていなかったこと。
そして、事案発生後、調査に着手してはじめて浮かび上がってくる課題として、「記録の不備」があります。
私自身、足立区と長崎市の自殺事案の調査委員を経験しました。
背景調査に際して、関わりの深かった教師に面談しても、核心にふれる内容になると、自己防衛意識が働くのか、「覚えていません」「忘れました」と言われることが多くなります。
また、保護者と学校関係者の言い分が異なることも多くあります。
その時に、生徒や保護者からの相談や生徒指導の記録がつくられていないことが、事実調査や認定の大きな壁になりました。

2.事後対応
(1)学校・教委関係者が被災者・遺族を傷つける対応。これは、どこの地域と言わず、非常に多くあります。具体的なことは、あとで資料2を見てください。

(2)ここでも、情報の共有不足と説明不足があります。それは被災者に対してだけでなく、情報が漏れることを恐れて、教員間や児童生徒、他の保護者に対しても、必要な説明をしていません。

(3)学校・教委の調査の問題点について。
組織防衛のために、不十分な調査や予断に満ちた調査が行われています。
そして、当事者不在。ここで、この言葉を使うときは、当事者に説明しない、意見を聞かない、情報を開示しないことなどを指します。

ほとんどの事案で、それまで学校側からは得られなかった情報は、児童生徒のアンケートによって、遺族にもたらされています。
アンケートが、調査の鍵を握っているのです。
学校や教委がいちばん手を加えにくい、ナマの情報だからです。

そのため、学校・教委はこれまで、わざと情報があがりにくいような質問内容にしたり、記名方式をとったり、信憑性や個人情報を盾に遺族に見せないようにしてきました。この攻防は、いじめ防止法ができた今も続いています。
近年は、学校・教委がアンケートの内容を要約して遺族に伝える、報道発表するという方法が多くとられていますが、書いてある内容が曲解されたり、重要な記述が隠されていた例が後を絶ちません。
問題として表面に出てきているのは、ある程度、内容が開示されたものだけです。遺族にも頑なに開示しようとしないものには、ここで上がっている以上の不正が行われていることは想像に難くありません。
私は、アンケート内容の開示はもちろんのこと、内容が転記されているものについても必ず、遺族かその代理人、第三者による原本との照合作業が必要だと思っています。

なお、文科省の「自殺が起きたときの背景調査の指針」では、児童生徒へのアンケートや聴き取り調査前に保護者の同意書をとるように書いています。
そのために、一番関わりの深い児童生徒の保護者から、アンケートや、話を聞くこと、指導まで拒否されるということが起きています。
日常的な生徒指導では保護者の承諾をとっていません。
調査を通して、それぞれの児童生徒が自分の言動を振り返り、他者に与える影響などを自覚させることは、大事な学校の役割、生徒指導のひとつだと思います。まして、加害者の気持ちを聞くことや指導は、心のケアや再発防止にも欠かせません。同意書の必要性についても、ぜひ再考していただきたいと思います。

(4)学校事故報告書の問題点
学校事故報告書が提出されていなかったり、不十分、間違った内容のまま提出されることがよくあります。
そして、当事者が情報開示請求等で、そのことを知っても、それを訂正させることは容易ではありません。
また、学校事故報告書が、事故防止にどのように生かされているのかは全く見えてきません。

(5)多くの事故事件で、児童生徒や教職員の心のケアは、調査しないことへの言い訳には使われても、実際のケアはおざなりにされています。
また、いじめが判明しても、いじめた子どもたちへの指導がおざなりだったり、全く行われていないこともあります。
これは、調査の遅延や不十分さも大きく影響しています。結果、被災者と行為者との認識に大きなギャップが生じ、被災者を傷つける結果を招いています。

3.外部調査委員会について。いじめ防止法ができて、外部調査委員会が設置されることが多くなりました。しかし、必ずしも大津のように、ある程度遺族が納得するような調査委員会ばかりではありません。

(1)設置の問題。当事者の要望を学校・教委が頑なに受け入れようとせず、要綱作りやメンバーの選定に1年以上を費やすケースもあります。また、私学については現在も設置自体が非常に困難です。

(2)調査委員選出の問題
現在は、公平中立性を保つために職能団体から推薦するのがよいとされています。しかし、弁護士、臨床心理士、大学教員、いずれも、学校や行政との日常的な関係を全て排除することは不可能です。また、実際になかに入って初めて、それぞれがどういう立場で、どのような考えを持っているかがわかります。事前に、短期間で、外から、メンバーの公平中立性を判断することは不可能です。固定化された調査委員も同じで、学校や教委に都合のよい結論を出してくれる委員が固定化されるおそれがあります。
外部調査委員会の設置自体が、学校や教育委員会への不信から始まっています。信頼を取り戻すためにも、委員の半数を当事者推薦にすべきだと思います。

(3)事務局の問題。多くは教育委員会や行政職員が担っていますが、民事裁判になれば、いずれも相対する側の人間です。調査への影響は少なくありません。

(4)調査の問題。実際にいくつもの調査検証委員会で、疑問に思う調査や結論が出されています。とくに、指導死など、教職員に関わることは、いじめ以上に組織防衛の意識が強く働きます。不十分な調査や情報開示のなさが、疑念に拍車をかけます。自殺を除く学校事故においても、教職員の責任が問われるケースが多くなると思います。

たとえば、資料4の44頁、No84 兵庫県たつの市の事案では、生徒は「相談?偽善者に何を言えばいいんだ。」と、指導死を疑わせるような遺書を残していました。指導のきっかけとなった暴行事件についても、生徒たちから遺族には様々な情報が寄せられています。
しかし、学校がとったアンケートの内容は公表されず、調査委員会のメンバーの選定からして当事者不在でした。
調査委員会は学校関係者6人や亡くなった生徒の保護者ら計9人の大人に聴き取りをしただけで、心理的影響を理由に、生徒からは一切、聞き取りをしていません。これでは、学校に都合の悪い情報は上がってきにくいでしょう。
学校への批判は根拠のない噂、誹謗中傷としながら、噂の信憑性を確かめる調査は行われていません。
自殺原因については、「暴行事件の加害者が自殺するという極めて珍しいケース」「裏付ける十分な資料はなく不明」としながら、いわゆる「指導死」ではないと断定しています。
報告書21頁のうち、報道関係者に配布したのは概要版8 頁だけです。

不十分な調査の結果、結論に至った根拠が不明確で、しかも事件から得た教訓を含む情報が共有されず、提言が再発防止に生かされるとは思えません。
これは、(5)報告書の問題点につながります。
なお、大津の報告書はウェブサイトで誰でも読むことができますが、多くの報告書は入手が困難です。
情報共有なくして、どのように再発防止に生かすことができるのでしょうか。
以上、事後対応が一歩先んじているとみられる自殺事案の外部調査委員会が立ち上がった事例でさえ、今だに様々な問題を抱えています。
今回の事後対応の検討や対策に、いじめや自殺問題を外さないでください。


【提言と要望】

これを打開するための提言と要望を資料1の右側に書きました。
やはりキーワードは、「記録」「情報共有」「当事者の参画」ですが、大きく集約すると、要望は次の2つです。

1つ、再発防止に生かすという視点から、記録、調査、情報の開示、保存のガイドラインを作って、ルール化してほしいということ。

現行の学校内文書の保存期間は1年程度が多く、対象文書や自治体にもよりますが、1カ月、3カ月と短いものもあります。
長崎市教育委員会では今年度、自殺事案の第三者委員会の提言を受けて、いじめ等の問題行動が起きた時の証拠となるメモや文書等の保存年数を児童生徒の卒業後3年間保存することとし、保存しにくいものはデジタル化して保存することにしました。また、いじめや問題行動等のトラブルを指導記録簿等へ記入することを徹底するという取組みを始めています。

2つ目です。すでに、学校・教委の自浄作用やチェック機能に期待できないことは、繰り返される事件事故例からも、明らかです。
誰よりも事実解明への強い意欲をもち、厳しい評価の目を持つ当事者が、自分や子どもの情報にアクセスし、内容をチェックできる仕組みを積極的につくることが、事後対応の適正化につながると思います。

当事者のチェックを可能にするために、学校事故事件、自殺などの遺族を含む当事者にも、犯罪被害者と同様に、知る権利、関与する権利、自分や家族の尊厳が守られる権利があることを明確にしてほしいと思います。
いじめは、公平中立であることよりも、いじめられている人の立場に立ってこそ問題解決することができます。学校事故も、被災者の立場に立って対応してこそ、多くの事実が洗い出され、再発防止にも生かされると思います。


残念ながら、いじめ防止法が施行された今も、私たちのところには、いじめ被害者の親から、あるいは自殺遺族から、「学校も、教育委員会も、いじめ防止法にのっとった対応をしてくれない」という声が絶え間なく、寄せられています。
今日の内容はぜひ、いじめ防止法見直しの時期に差し掛かっている、いじめの検討委員会にも、情報共有していただきますよう、お願いいたします。


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