わたしの雑記帳

2012/2/10 全国柔道事故被害者の会、衆議院会館での勉強会と要請

 2012年2月7日(火)、第一衆議院会館の大会議室で13時から、民主党の中根康浩衆議院議員と同初鹿明博衆議院議員主催で、「第2回 学校における柔道事故に関する勉強会」が開催され、私も全国柔道事故被害者の会の会員のひとりとして、勉強会と要請行動に同行させていただいた(私は柔道事故の被害者ではないが、アドバイザーという名目で名を連ねさせていただいている)。
 当日は多くのメディアが押し寄せ、地方議員の参加も多かった。会で準備していた100部の資料では足りなくなり、追加でさらにコピーをしに走るということもあった。

 被害者の会の持ち時間は、野地先生のプレゼンテーションを含めて35分と短かったが、それだけに重要なことがコンパクトにまとまっているので、ここに概要を紹介させていただく。
1.神奈川県立足柄上病院 野地雅人先生(脳神経外科、スポーツドクター)の話

 私は元々、ボクシングのことをやってきた。
 脳損傷で最近、いちばん気になっているのは、ちびっこボクシング。
 小学生がボクシングをやっていて、昔はポカポカと可愛いものだったが、英才教育の影響で、すごいストレートのパンチを受けている小学生がいる。これから10年20年たって、蓄積損傷の問題が起こらないかと心配している。

 コンタクトスポーツとは、柔道、ボクシング、ラグビー、アメリカンフットボール、サッカー、相撲、など、体同士がぶつかるスポーツ。
 コンタクトスポーツではどうしても頭をぶつける。今回は時間の関係で、加速損傷とセカンドインパクトシンドロームに限定して話をする。

●加速損傷
 脳はいろんな膜で覆われ、髄液のなかに浮いている。頭蓋骨の裏についている硬膜のところに静脈道といって太い血管がある、そこと脳の表面とを橋渡しをしているのが、架橋静脈。左右5、6本ずつぐらい、だいたい存在する。
 これが加速損傷による急性硬膜下血腫といって、コンタクトスポーツにありがちな出血のパターンを起こす原因の静脈となる。
 頭をぶつけると頭蓋骨はその方向に持っていかれる。ニュートンの第一法則で、止まっているものは止まり続けようとする。動いているものは動き続けようとする。脳はぷかぷか水の中に浮いているので、静止しようとする。そこでギャップが生じる。頭蓋骨は向こうの方に動き、脳は止まっている。架橋静脈が引き伸ばされる。ある程度だったら、しなやかな静脈なので、なんでもないが、ある域値を超えると破綻して出血する。
 加速損傷により架橋静脈が破綻して急性硬膜下血腫を起こす。頭蓋骨の下、脳の外側に血腫がたまる。血腫が脳を圧迫して、脳にダメージを与える。
 急性硬膜下血腫というのは、だいたい55%から60%くらいが死亡するといわれる。

 ボクシングでは、加速損傷はフックやアッパーカットなどによって、非常に強く脳がゆさぶられ、架橋静脈が伸ばされて起こる。 通常はもちろん起こらない。いろんな回転の具合とか、選手の状況など、いろんなことが重なって起こる。当然、頭をぶつけなくても起こる。
 柔道では、今回の調査でも、大外刈り体落としが非常に加速損傷を起こしやすいことがわかった。
 スノーボードでは逆エッジ現象、エッジが急に立ってしまって、転んでしまうことによって頭への衝撃が加わる。これも加速損傷によって、急性硬膜下血腫を起こしやすい状態と考えられている。

 柔道については、体格差が非常にあるときに、事故を起こしやすいと言われている。
 また、夏に非常に事故が多い。


セカンド・インパクトシンドローム
 症例1、2について。最初に外力によって小さなダメージを受けている。この状況ではほとんど神経症状は起こさない。頭痛があったり、ふらついたり、ちょっとぼーとする程度。
 それが2回目以上の外力が加わることによって、少し治りかけていた架橋静脈の傷口が広がったり、外力によって大きな出血を伴ったりして起こるのが、セカンド・インパクトシンドローム
 たとえばボクシングの場合、何回も何回も殴られる。これはセカンド・インパクトシンドロームの蓄積としか言いようがない。
 こういうことが柔道にも起こりうる。


絞め技で落とすこと
 症例3は中学生で、1、2回絞め技で落とされた状況で投げられて、急性硬膜下血腫を起こしている。
 絞め技で落とすということは、頸動脈を圧迫して血流が低下することにより脳虚血に陥り意識消失する。あるいは、頸動脈球の圧迫刺激により迷走神経反射が起こり、意識消失すること。
 中学校では試合では禁じられているが、いろいろなホームページを見ても、「今日、私は落とされた」などと書かれており、日常的に練習で実際には行われている。

 落ちる、落とすというのは、脳虚血による意識消失発作
 中学生、高校生は血管に異常がないことが多いが、頸動脈に狭窄があったり、非常に少ないが、脳動脈奇形があったり、もやもや病という子どもの血管の病気もある。それを確かめたわけでもなく、血流を一旦閉塞させ、開通させた時に、もしこういう病気をもっていたら、出血するリスクが高くなる。
 また、虚血、一時的にも血流を遮断することによって、脳細胞はいくつかなくなってしまうと思う。そういうことを考慮しているのかという問題もある。

なぜ日本には事故が多いのか
 諸外国は非常に少なく、なぜ日本には事故が多いのか。
 @シゴキの文化の蔓延 
 A指導者のスポーツ医学的知識の欠落


 日本のスポーツ医学は非常に後進国。指導者がきちんと指導できていない。コーチが自分の経験のみなど、適当に指導しているのが現状。
 脳震盪の危険性をわかっている指導者がほとんどいないことは、無知の罪。
 ケアのないシゴキは虐待にすぎない。

 ある程度の年齢の人なら経験があると思う。疲れるから水は飲むなと言われた。ラグビーやアメフトなどで脳震盪により意識消失があるとヤカンの水をかける、いわゆる「魔法の水」。これは今のスポーツ医学会では厳禁。
 1986年、フローラ・ハイマン事件では、ダイエーのエースアタッカーのフローラ・ハイマンという選手が、元々心臓に疾患があったが、バレーボールの試合中に心肺停止状態になった。しかし、帯同ドクターはそっと毛布をかけただけだった。これが運悪く、衛星放送で全世界に流され、日本はなんて後進国なんだと世界中から非難を浴びた。この事件をきっかけにようやく日本のスポーツ医学会は改善してきている。
 スポーツ医学会において日本は、非常に後進国であるということを今後、打破しなければならない。


脳震盪にどこまで注意を払えるかが一番大事
 今後、柔道を含めたコンタクトスポーツにおける脳損傷を予防するために一番大事なのは、指導者がどれだけ「脳震盪」に注意を払えるか。注意を払うためには、脳震盪に対する勉強をしなければならない。

 脳震盪は、頭を打って意識を失うことだけだと思っていたら大きな間違い。
 意識消失がなくても、脳震盪にはいろいろな症状がある。ぼーとする、逆に多弁になったり、興奮したり、ちょっと性格変動が起きたり、めまいが起こったり、いろんなことが起きる。いろんな教科書に載っている。
 こういうのを指導者が理解して、生徒の変化を見てあげるということが大事。それが今まで疎かになっていた。

 脳震盪には、いろいろグレードがある。意識消失にまでなってしまうと、これはグレード3(重症)、一番悪いグレードにに該当する。その前のグレード1、2でも、脳震盪は心配しなければいけない。それが今のいろんなスポーツ界には欠けている。
 脳震盪のグレードによって、復帰の目安表がすでにできている。アメリカンフットボールやラグビーではわりと進んでいる。
 当日復帰というのはまずあり得ない。こういうのをきちんと指導していないと、思わぬ事故が発生する。
 意識消失が1回でもあれば、病院での診察を受けなければいけないことは、だいたいのスポーツでは決まっている。
 こういうことをきちんとやることが、柔道事故の撲滅につながる。

脳震盪の重症度分類 受傷回数による競技復帰時期の目安
※復帰する時には無症状であることが最低条件
重症度  意識消失  症状(失見当識など) 1回目 2回目
軽  症 (Grade 1) なし 15分未満 無症状になったら 1週間後
中等症 (Grade 2) なし 15分以上 1週間後 2週間後
重  症 (Grade 3) あり  意識消失 病院での診察 専門医の判断
数秒 2週間後 1ケ月以降
長い 1ケ月後
(当日資料より、再構成)


 アメリカンフットボールでも、死亡事故が多かった。しかし、急性硬膜下血腫がなぜ起こりやすいかということで、脳震盪に着目して、脳震盪が発生しやすい状況をいろんな研究で減らしてきた。結果、死亡事故はほとんどゼロになった。
どういうことを具体的にやったかというと、
 @フルコンタクトの練習(回数)を減らす
 A初心者のフルコンタクトの練習には、特別な配慮をする
 Bフルコンタクトの練習は、疲労が少ない状況で行う
 C水分は充分にとる
 D脳震盪を起こしたらすぐに競技を中止にする
 E脳震盪発生率をチーム内で認識し、評価、対策を講じる

 (※柔道の場合、フルコンタクトを「乱取り」と置き換えるとよい)


今後の柔道の安全対策について

 @脳震盪を甘くみない体制づくり  
 A指導者への医学的知識の啓蒙と認定(ライセンス)制度
 B全柔連への脳神経外科の介入(技の見直し)
 C脳震盪時における復帰のガイドラインの作成(実行済み)
 Dマウスガードの導入


 @については、選手に対する最大限のケアをすること。ケアのない「しごき」は虐待にすぎない。
 Aについては、全柔連がすでにライセンス制度に対して動き始めている。
 Bについては、すでに徳島大学の脳神経外科の永廣先生が介入してくれていろいろ話を進めてくれているが、もっと介入していかなければならない。
 Cについては、2011年度改訂の新しい全柔連の指導書には非常に詳しく丁寧なガイドラインが載っている。
 Dこれは個人的な意見。


 中学生、高校生は非常にか弱く未熟なので、大人が守っていかないと、未来がない。

2.全国柔道事故被害者の会メンバーの話

2010年6月27日、静岡県の中学校の部活動中に受傷して、7月6日に死亡した小川礼於(れお)くん(中1・12歳)の場合

 部活を柔道にすると決めた礼於は、部員の友だちに勧められて、5月に地域の道場に見学に行った。2日目で大外刈りをかけられて、急性硬膜下血腫となり14日間入院をした。
 幸い軽く済んだが、セカンド・インパクトのおそれの話などを主治医から聞き、その後、1ケ月の部活見学。主治医からゴーサインが出ても、部活の顧問に、初心者の礼於には別メニューでお願いしますなどと主治医からの話を伝えながらお願いをし、さらに部員の子どもたちにも、礼於が暴走しないようにと話した。私は念には念を入れて、みなさんにお願いをしたうえで、数日後、部活を再開した。
 そのわずか半月後の6月27日に、投げ技の受け身の練習をしていたときに事故が起こった。「気持ち悪い」と最後の言葉を遺して礼於は倒れた。病院にすぐに運ばれ、急性硬膜下血腫と診断され、その後3度の開頭手術を受けたが、10日後に息を引き取った。解剖の結果、脳挫傷と診断された。
 1年半がたち、先月、やっと顧問が書類送検され、やっと第一歩となったが、つらく苦しい日々が続いている。
 この4月から礼於の弟が中学校に入学する。今のままでは、次男までもが殺されてしまうと思ってしまう毎日。


2011年6月15日、名古屋の高校の部活動中、2年生との乱取りで大外刈りをかけられ後頭部を打って救急搬送。7月23日に死亡した倉田総嗣(そうし)くん(高1)の場合

 昨年、次男・総嗣が高校に入学し柔道部に入部して2カ月半目乱取りで大外刈りをかけられた際、受け身がとれず、後頭部を打ち意識を失い、病院に救急搬送された。
 急性硬膜下血腫という診断で、緊急手術が行われた。その後も意識は戻らないまま、昇圧剤等により生命を維持をしていた。薬の副作用で体中がむくみ、腎機能の著しい低下をきたし、多臓器不全の状態になったが、最後までがんばり、事故から38日目の7月23日に亡くなった。
 息子は事故の3週間ほど前、部活動中に頭を打ってからずっと頭痛がとれないと訴え、病院で検査を受けたが、CT検査でも異常なしということだった。しかし、その後もまだ頭痛が続くというので、市立大学病院の脳神経外科を受診した。丁寧な問診のあと、様子をみましょうということになった。その後、症状は一旦改善されたものの、また部活動中に頭を打ってから頭が痛いというので、再び脳神経外科を受診。頭痛以外の症状がないため、鎮痛剤が処方されたが、次の日に事故が起きた。
 いじめもしごきもない普通の部活動。顧問も安全指導に留意しており、家でも体の異常を訴えるたびに総合病院を受診していたのに、なぜ死に至る事故が起きてしまったのか。


2008年5月27日、長野県松本市の社会人教育団体の柔道教室で、澤田武蔵くん(小6)が指導者と大外刈りから背負い投げの練習をしていたとき、いきなり片襟体落としで強く投げられ、急性硬膜下血腫を発症。一週間生死をさまよい、一命はとりとめるが、遷延性意識障害(植物状態)となる。

 息子・武蔵が事故にあってから、もうすぐ4年になる。現在、息子は中学校3年になる。
 当時、小学校6年生の息子は、松本市梓川体育協会主催の柔道教室で、 35歳の指導者に片襟の体落としいう技で投げられた。片襟の体落としというのは本来、子どもにかけるのは危険だと柔道家がいう技。
 柔道4段の指導者の得意技で投げられた息子は、急性硬膜下血腫で緊急手術となり、一命はとりとめたが、現在も意識はなく、全介助の状態で生活している。 この先、スポーツをすることも、結婚をすることもない。
 28年間で114人。年間3、4人の柔道での子どもの死亡事故。この子どもの数のなかには、私の息子のような町道場での事故も、重い障害を負った子どもの数も含まれていない。
 中学校という義務教育の場での必修化。教えられる側の子どもたちも、教える側の先生方も習う教科を選ぶことができない。事故が起こった時、傷つくのは子どもの心と体。当事者はもちろん、その兄弟姉妹も心に深い傷を負ってしまう。防げる事故は防いでほしい。今一度、さらなる安全な柔道について考えてほしい。


*****

 最初に話した小川礼於くんの母親は、話し終わった直後に気を失って倒れ、会議室扉裏のロビーで、野地先生の手当を受けた。しばらくしてから、会場に復帰した。

 
3.日本の柔道事故の現状について。 全国柔道事故被害者の会、会長・副会長より。

●会長・小林泰彦氏より

 2012年から、全国の中学校で、女子も含め、中学生全員に武道が必修になる。
 28年間で114人の子どもが亡くなっている、重度の障がいを負った子どもたちが300人近くもいる。これが日本の現状。
 毎年毎年、4名も、5名も、中学校と高校の生徒が亡くなっている。、一昨年も、先一昨年も、ずっと死に続けている。減らない。この数字を忘れないでほしい。去年はたぶん3人が亡くなっている。
 全柔連に去年いったいどれだけ死者が出たとか、事故があったのか、何回問い合わせても返事をもらえない。去年の数字は私たちはわからない。(全柔連資料で、2009年死者数7人、内18歳以下は6人。四肢麻痺等は5人。2010年死者数7人、内18歳以下は6人。四肢麻痺等は4人)

 柔道の死亡事故の発生率が、極端な高さを示している。野球でも、水泳でも、いろんなスポーツで亡くなるひとはいる。しかし発生確率でみると柔道はいかに危険かがわかる。
 澤田さんのところは遷延性意識障害(植物状態)。そういう重度の障がいは頭にけがを負ったときに発生する。
先ほど、頭を打たなくても回転の力だけで脳はダメージを受けてしまうという野地先生からの説明があった。これが実態。

 部活動で非常に多くの子どもが死んでいる。では、授業ではどうか。さすがに授業では死ぬ子どもの数は部活動に比べて少ない。しかし、死に至らない重症の子ども、授業で頭や頸部のけがを負う割合は非常に高いデータが出ている。
以下は、中部のスポーツ振興センターの統計、7県だと思うが、を名古屋大学准教授・内田良先生が出したもの。

負傷の部位 合計
頭部・頸部
(=危険性高)
その他の部位
(=危険性高)
保健体育 115 482 597
19.3% 80.7% 100.0%
部活動 74 858 932
7.9% 92.1% 100.0%
合計 189 1340 152 9
12.4% 87.6% 100.0%
 日本スポーツ振興センター名古屋支所 2010年度資料 / 学校リスク研究所


 日本でこんなに柔道で亡くなったり、重症を負う子どもを出している。
 同じ柔道をしている海外諸国はどうか。アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリアなど、日本以外の国で死者はゼロ。昨年暮れのNHKの報道では、フランスの柔道連盟は2005年以降、20歳以下の子どもで死者は出ていないと言っている。

 同じ柔道をやっていながら、なぜ日本は毎年毎年死者を出しているのか。なぜ海外では死者が出ないのか。
 日本の指導者が悪いのか。指導方法が悪いのか。安全を確保するための仕組みがないのか。
 そういう観点から分析しないと対策は打てない。
 28年間で114人の子どもが亡くなっている。27年間で275人の子どもに障がいが残った。これは学校管理下だけで、澤田さんのところは町道場なので入っていない。全柔連の管理下のデータに入る。
 スポーツ振興センター、全柔連で、そしてわからないところで子どもが死んでいる。
 昨年、大阪で小学校1年生が亡くなった。町道場だったが、全柔連の管理外の町道場だったので、カウントされなかった。
 一昨年、千葉県で高校1年生が悲惨な死を遂げた。私立高校だった。報道もされず、データも残らず、忘れ去られている。
 こんなに今、マスコミが注目し、報道してくれているが、今だに子どもたちが何人死んでいるか、わからない。
 いったい日本はどうなっているのか。そういうのをみなさんに考えていただきたい。


●副会長・村川義弘氏より

 私たちは2010年3月27日に、全国柔道事故被害者の会を設立して、まだ2年たっていない。しかし、この間も子どもたちは亡くなっている。この中に、先ほど話をした小川さんの事故例も含まれている。
 学校管理下の柔道事故は何一つ検証していない。
 では、どんな対策がとられているのか。

 授業では、武道必修化によってさまざまな施策がとられつつある。
 たとえば、名古屋市では文科省のカリキュラムに拠らない、投げ技、足技を禁止した名古屋市独自のカリキュラムを作成している。
 文部科学省も、柔道指導の安全指針を通知をするということを聞いている。
 また、武道必修化にともなって、メディアの報道によって柔道事故に関する報道が増え、授業に関する柔道事故についてはさまざまな注意喚起がされていると思う。しかし、後手後手に回る対策、場当たり的な対応で、不備だらけだと感じる。
 そして、部活動で、子どもが死亡する事故が多発しているにもかかわらず、具体的な対策は全く何もとられていないのが現状。

 柔道事故問題の本質は、武道必修化にあるのではない。今この時点で、危険な環境のなかで、子どもたちが柔道をやっている現実にある。
 4月になって、武道必修化が始まるから、柔道事故問題が起きるのではない。今まさに、安全配慮意識のない指導者の元で柔道をしている子どもたちがいる。その子どもたちが、年間3人、4人亡くなっている。この指導者が何一つ減っていない。
 柔道事故の本質をけっして見失わないでほしい。

 こういう話をすると、「柔道には危険がつきものだ」というひとがいる。柔道には危険がつきものかもしれないが、しかし、それは死の危険がつきものなのか。
 フランスは、柔道人口が日本の3倍だが、未成年者の柔道事故は近年、発生していない。誰も死んでいない。
 日本では毎年、毎年、子どもが死んでいる。(学校管理下でけで年間平均4人の死亡事故。年間平均10件の重傷事故)
 ここから導き出される結論はひとつしかない。日本の柔道の在り方がおかしい。逆に言えば、日本でも指導者の意識や指導方法が変われば、死亡事故はゼロにできる。
 過去の事故を調査分析し、安全対策をたて、徹底して安全指導をする。そうすれば、日本でも柔道死亡事故はゼロにできる。

 そのための取組も始まりつつある。
 全柔連は、2013年度から公認指導者資格制度を導入することを決定した。これが導入されれば、新たに資格を取りたいひとは30時間から40時間の講習を受けなければならない。そして、試験を受けてパスしなければならない。
 ただ、先ほど言ったフランスの柔道指導者は国家資格。これをとるために、最低で380時間必要。大きな差かある。とはいえ、こういう動きが出てきたことはたいへん結構なこと。

 しかし、この指導者資格制度には大きな穴がある。
@現在の指導者は、新たに取得する場合30時間から40時間の講習と試験を通らなければもらえない資格を、3時間の講習でもらえる。
 部活動の事故、民間の道場の事故は今まで、誰が起こしているのか。今までの指導者が起こしている。その人たちにこそ、より厳格な資格制度を付与されるべきではないか。

A教師への特例措置。全柔連の資格制度は学校教師には適用されない。
しかし、もっとも多くの事故が発生している現場は学校。学校の教員こそ、より厳格な安全指導のための資格制度を設けるべき。
柔道の安全を諸外国並みに確保するのではあれば、厳選されつくした制度が導入されるべき。

 日本における指導方法が抜本的に見直され、柔道の指導者の安全意識が高まらなければ、柔道による重大事故は今後も絶対になくならない。それは学校管理下でも同様。
 文部科学省は、警察OBに学校現場に指導者として入ってもらうというオファーをすると聞いている。しかし、柔道経験者は指導者ではない。警察OBは加速損傷を知っているのか。脳震盪のケアを知っているのか。
 こういった知識をもって、安全意識を持っている人が指導者。授業、部活動を問わず、こういった指導者のもとに安全に配慮された柔道が行われるべき。
 必修化のために場当たり的な安全対策を作るべきではない。作らないよりはましだが。
 授業、部活を問わずに、学校現場で柔道を指導する者に対して、従来の指導方法を根本から見直し、安全性を重視し、医学的知見に基づいた新しい指導基準を導入する必要がある。それに基づいた授業や部活のカリキュラムや指導方法を策定すれば、諸外国並みの安全が保てる。
 今、何もしなければ、今年も学校管理下で柔道事故は起こる。絶対に起こる。私たちのような家族をまたつくることになる。どうか真剣に考えてほしい。


●小林会長より
 みなさんの子どもは被害者になんかになりたくはないでしょう。もうひとつ、加害者になる可能性がある。
 私たちの子どもを被害から守るということと、加害者になるのを守るということを真剣に考えるのが、私たちが今置かれている立ち位置ではないか。

4.文部科学省スポーツ青年局 体育参事官 長登健氏

武道必修化の経緯について
 平成18年12月の教育基本法改正を踏まえ、学習指導要領の改善についてということで、大臣から中央教育審議会に審問し、平成20年1月に答申をいただいた。
 中学校1、2年生については、多くの領域の学習の機会を確保すること、伝統と文化を尊重する態度を養うこと、ということから、武道が選択から必修になった。
 その答申を踏まえて、平成20年3月に、中学校学習指導要領を改訂した。その後、移行期間、そのための条件整備ということで務めてきた。それで、来年度4月から前面実施という流れになっている。
 中学校、1、2、3年生で、これまでは、1年生、2年生については選択だったが、多くの領域を学習させるということから、すべての領域(体育理論・体つくり運動・器械運動・陸上競技・水泳・ダンス・球技・武道)を必修として2年間学んでもらう。

 全体像として、12年間(小・中・高)の学校生活を通して、大人になってからも生涯にわたってスポーツを楽しむ、体を動かすことの基盤を形成していく。
 大きく分けて、4年ごとの3つの時期で考えている。
 @小学校1年生から4年生は、様々な動きを身に着ける時期。
 A小学校高学年、中学校の1、2年生は、多くの運動・スポーツを体験する時期。
 B中学校3年生以降、生涯にわたって、自分に合ったスポーツをより深めてもらうために、選択の中からいくつか選んで、より深く学習してもらうという流れになっている。


現状の取り組み
 「体育活動中の事故防止に関する調査研究協力者会議」を設置して、脳神経外科・野地先生にも協力いただいて委員に就任してもらっているが、先ほどの脳震盪を含め、そのような知見をもらっている。
 体育活動中、体育の授業、部活動で、事故事例を委員に分析してもらい、まず分けて、その中でどういうことか、共通して医学的知見として伝えていかなければいけないものを、議論してもらっている。
 先週の金曜日、第4回目を開催。柔道の安全指導を中心に議論してもらった。その時に示唆していただいたことは、例えば、これまでの学習指導要領に提示している技、例えば立ち技等を示しているが、必ず取り扱わなければならないものではないと3年間ずっと説明してきたが、徹底しきれていないところもあるのではないかという指摘もあった。
 学習指導要領の解説にある技はあくまで例示であり、必ず行うものではない。技能の程度に応じて、段階的にどの技を取り扱うか、学校、教育委員会で決めていくことが安全指導の第一である等々、議論いただいた。
 こちらからお願いしたのは、議論した中身について、できるだけわかりやすくとりまとめていただきたい。並行して、協力者会議は年度末まで続くが、安全指導についてはできるだけわかりやすくとりまとめていただきたいと、先週金曜日にお願いした。
 その他、今日指摘いただいたことも含めて、盛り込みながらまとめていただければと思っている。

5.参加者からの意見・質問等(抜粋)

●元都立墨東病院脳神経外科医長の脳神経外科の医師から(司会者から指名のうえ、発言を求められて)
 私も中2のとき部活動で、大外刈りで投げられて、手術したが片麻痺が残り、言語に障がいが残った友人がいる。自分の人生もだが、友人の人生も狂うというような事故を繰り返してほしくないと頼まれて、このことに関わっている。
 初心者に事故が多いというより、未熟なものを指導できなかった、助けることがてきなかったという観点で発想したい。

 今回でなかったが、徳島大学の脳神経外科の永廣先生が、全柔連がもっている約7年間の資料で、約30人の重症の頭部外傷で、亡くなったひとが18人いるというデータの中の、8割が中学、高校生であると言っている。中学、高校生になぜ、事故が多いのかということをみなければいけないと強く思っている。

 今回、頭部外傷のことだけ言われているが、鎖骨骨折でも、そのスポーツに戻ることはできない。捻挫や脱臼であっても、そういう統計も整形外科医が出すことができないというような、柔道事故の統計のなさも指摘されている。

 脳外科では1971年に、東大で4名の柔道事故のあと、スポーツ医学会や救命救急医、脳外科医がたくさんの報告をしているが、警告を出さなかったことを大きく反省している。
 脳外科医も、脳腫瘍や血管障がいの医者は、セカンドインパクト症候群や脳震盪の患者をきちんと診ることができない。脳神経外科医自身も専門的により診るということで活動している。とくに小児の脳神経外科をしているものたちはより自覚的で、今年1月10日に、ホームページに提言を載せた。

 墨田区では、医師会、教育委員会、現場の先生たちとで勉強会及び体育実習、私と柔道4段の整形外科医が研修を行った。結果、先ほど提示があった投げ技、足技、乱取りについては、中学の授業内ではできないのではないかということで明日、答申案を教育委員会に出す予定。
 柏市の教育委員会も、校長、教育委員会、体育の教師たちで、3月6日に大きな勉強を催す。
 やっと現場でかかわる人たち、あるいはPTAがこの問題に着目してきていると思われる。

●議員から
 鎖骨の骨折という話が出たが、私の娘も今、中学2年生。1月の後半から柔道の授業が始まり、隣のクラスの女の子が、鎖骨が飛び出るけがをした。他人ごとではないということをみなさんも、ご理解いただきたい。

●議員から(質問)
 これだけの重大な柔道事故が発生していたことを知らなかったわけでもなく、今年の4月から武道が必修化され、柔道が多く選択されるということも予測されていたなかで、この1年間、今指摘のあったような指導者の養成や指導方法の見直し、安全意識の向上ということについて、具体的にどのような取組をしてきたのか?
 先ほど報告にあったように、今議論中であるということではあまりに遅すぎる。場合によっては、今年の4月から例えば、半年間は、受け身以外はしてはいけないという明確なメッセージを各学校に通知をするとかして、絶対に加害者、被害者にならない対策を講じるべきだと思うが、どうお考えか?

●文科省(回答)
 この1年間というより、学習指導要領の改訂を3年間通して取り組んできた。
 例えば、安全喚起の文書を通知したり、会議を通じて。医学的知見についても一昨年、野地先生にも来ていただいて、各都道府県の指導主事に話をしてもらった。
 各都道府県市区町村の教育委員会が中心になってやっていることだが、国としても、指導の中心となるひとを中心に、研修の機会ということで、武道の関係団体、武道が必修化ということであって、柔道だけでなく、剣道、相撲、なきなた等あるので、そのような関係団体と連携して講習会等を開いてきた。
 地域の指導者の活用は有効。その人が指導者としてというより、教員とチームティーチングを組んで、専門的な知見を授業にどう取り入れていくかというこだと思う。また、授業に向けて研修は日々、先生方は現場で行っていると思う。
 そのような地域の実践というものをやっていただくという事業、それをまた報告書にもとめ、全国に情報提供、ホームページにも掲載している。これは今年だけではなく、3年間積み上げてきている。

●柔道事故被害者の会・会長から(質問)
 この4月に向けて、今までの文部科学省の努力の結果、日本のお父さんやお母さんに「学校管理下で、柔道で子どもは死なない。重大事故は発生しません」というような安全宣言みたいなものが出せるレベルだと考えているのか?
 長年いろいろ努力されたということは今のでわかった。しかし私たちのデータでは、毎年毎年、子どもは死に続け、重症の子どもが毎年出続けているが、この4月からはゼロとは言わないまでも、確実に減るというような安全宣言みたいなものを出してもらわないと、ここにいるお父さんも、お母さんも納得しないと思うが?

●文科省(回答)
 学校管理下における事故は柔道に限らず、体育活動中、部活動を含めて、ゼロにしていく努力は常に必要なことだと思う。
 今、柔道ということで、心配されるところは多々あるので、先ほど言ったのように、加えて、安全指導を徹底するために、もう一度、今協力者会議でとりまとめていただいている内容を、年度内に少なくとも確認していただけるようにと取り組んでいる。

●議員から(質問)
 今、協力者会議で安全対策を取りまとめをして、それを各教育委員会に徹底していくということか?

●文科省(回答)
 各教育委員会に届けるのはもちろんだが、各学校現場に確実に届くように、先生方に確実に見ていただけるように、これまでも務めてきたつもりだが、努力していきたいと考えている。

●議員から(質問)
 各地域で事故が起きているという情報、死亡事故だけでなく、どのくらいの事故かということを含めて、きちんと文科省が把握できるような形になっているのか?

●文科省(回答)
 現行制度においては、国と地方の関係を見直していることから、平成に入ってから、報告義務を廃止している。
 我々は、有識者会議で議論してもらう際にも、どのデータを使うことがいちばん有効かということから議論することからスタートして、やはり日本スポーツ振興センターの災害救済給付のデータがいちばん信頼性が高いということで、そのデータを使っていただいている。
 我々もそのデータをもとにしている。あとは新聞報道等、都道府県市区町村のほうから報告があることもある。これは全部ではないが、網羅的にではないが。

●地方議員から(意見)
 県にしても、国にしても、条例なり、法律なり、制度を作るときには、今までの事故事件を含めて、実態をしっかり把握するのは当たり前ではないか?
 学校から教育委員会への事故報告書にしても、嘘だ。実際、5か所から話を聞いても、報告なんかしていない。勝手に自分たちで、柔道のなかで起きた事故事件ではありませんとしている。そういうことを細かく把握しているのか。
そういなかでしっかりした制度をつくってほしい。一番大切なのは、子どもたちの命だ。

●地方議員から(質問)
 この勉強会の案内をもらって、埼玉県○○市の現状を調べてみた。5つの中学校があるが、今予定されているのが、男性教員が10名の内柔道初段をもっているのが4名。女性教員が7名という体勢という情報を教育委員会から得てきた。
 私は空手3段だが、柔道初段というのはわりと簡単に初段がとれる。柔道の初段者が指導者として適任かといえばけっしてそうではない。
 埼玉県では、昨年8月9日、10日に、武道、ダンス実技指導者講習会があったが、私どもの市の教員はたった1名参加しているだけ。10月に14日16日に、中学校武道授業指導校研究授業というのが、日本武道館研修センターで行われた。
 指導者がまだしっかりと育っていない段階で、こうした授業をやることの危険性は誰でもわかる。例えば、必修化を見直しするとか、あるいは指導者が育つまでもう少し先延ばしにするとか、最悪の場合、中止するとかの決断をする必要があるのではないか。
 従来、文科省が決めたことを地方に丸投げしすぎる。地方の教育委員会はたしかに一所懸命やっている。限られた授業時間のなかで、なんとか授業時間をやりくりしてやろうとする姿勢はもっている。しかし、残念ながらも指導者が育っていない。
 被害にあわれた方の声をもっと真剣に受け止めて、延期するとか、中止するとか、英断をすべき。見直しはどうなのか?

●議員から
 4月から実施するにあたって、事故の状況を一回、全国で調査をしたほうがよいのではないか。各市町村で、骨折事故はどのくらいあるのか、救急車を呼ばなければならない事故がどのくらいあったのか。それはただちに調べることはできると思うので、早急にやってほしい。

●文科省(回答)
 私個人としては、真摯に常に受け止めているつもり。前向きに努力していきたい。

●地方議員から(質問)
 こういう事故があって、今日説明があったような問題が起きているということをいつ頃から認識していたのか?それに対して、文科省として、どのような現状認識を持っているのか?
 何年にもわたって、事故が起こらないように安全指導の取り組みをしてきたということだが、それであれば、減らなかった原因はどこにあると考えているのか?
 平成20年から教員研修等を行って必修化に伴うことを支援してきたということたが、こういうなかに、安全確保のに対する取組をやってきたのか?

●文科省(回答)
 全国で痛ましい事故が発生していることは、事例として、データとして、日本振興スポーツセンターのデータ等で確認し、また、重大な事故が起きた場合には、注意喚起を全国に発信することはしてきた。
 今、体育活動中の事故防止協力者会議では、部活動、事故全般を含めて、改めて具体的な事例の中から、有識者に集まっていただいて、学校現場に届けられるものをという思いでスタートした。

●地方議員から(再質問)
 私は、いつごろ、事故等が起きて問題になっているということに気づいたのかということと、安全対策を通知等しても事故が減らなかった理由をどう考えているのか聞いている。

●文科省(回答)
 減らなかった理由は、様々な要因があると思う。我々としても注意喚起をということで、お願いを務めてきたつもりだが、よりしていかなければいけないという課題を背負っていると思っている。
 事故については毎年、柔道に限ったことではなく、毎年、日本スポーツ振興センターでは冊子として、事故事例について、各学校にも配っていると思うが、我もそれを見て、対策として何かできるのか、文書を発するだけというわけにもかないので、各都道府県の指導主事が集まっていただく機会等、事あるごとに安全指導についてということで話してきた。これで終わりということはないし、やりすぎということもないし、足りないと指摘されることのほうが多いと思う。


 質問をしたいと手を上げた参加者はまだまだいたが、3時から、被害者の会で要望書を届けに行く予定になっていたことから、この日は終了した。
6.全国柔道事故被害者の会の要望書
 (実際には、民主党高井美穂副幹事長と、文部科学省・城井(きい)崇政務官室に、届けました)


平成23年2月7日

幹事長  輿石 東殿 
文部科学大臣 平野 博文 殿
                                                      全国柔道事故被害者の会
                                                            会長  小林泰彦
                                要 望 書


 18歳以下の学校管理下における柔道による死亡事故は、28年間で114名に上ります。
このような状況下にありながら、本年4月より武道必修化が実施されます。

  @国民が納得できる安全確保の仕組みの提示
  A中立的な第三者による事故調査委員会設置の義務付け


 事故防止策を確立して下さい。


【中学校における柔道の死亡確率】 全国2000年度〜2009年度(10年分)                    
    


(学校リスク研究所 http://www.geocities.jp/rischool_blind/index.html)


 フランス 柔道人口は日本の3倍
 2005年以降18歳以下の死亡事故ゼロ (フランス柔道連盟報告)


【武道必修化準備状況への危惧】   

@多数を占める急造指導教諭の専門知識不足・経験不足
A安全を確信できぬレベルのカリキュラムや指導方法
B柔道事故発生時の指導教諭の対応力不安
C事故の情報収集・分析の仕組みがない


【要望の具体的なイメージ】

@国民が納得できる安全確保の仕組みの提示

  〔文科省作成の基本的な仕組みに含まれるべき内容〕 

● 子供の安全を担保できるレベルの指導者の確保
        医学的な知識(特に脳震盪)・柔道指導経験・教育的な知識
        指導者の経験に頼らない安全指導方法の確立
        柔道事故事例の知見から学ぶ

● 授業だけでなく、部活動でのカリキュラムや練習時間の見直し
        授業では、大外刈りなど頭部打撲リスクのある技の禁止 
         ⇒頭部外傷の40.9%は大外刈り
        授業では、自由練習(乱取り)など試合形式の禁止
         ⇒重篤事故の大半は、乱取り中に発生
        絞め技の禁止(部活動を含め高3まで)
         ⇒絞め落とすことで、必ず脳はダメージを受ける

● 部活動及び授業開始前の、生徒の体調確認方法の確立
        頭痛、及び授業の1週間前までに頭を打っている場合
         ⇒部活動及び授業への参加禁止

● 部活動及び授業中における、生徒の変調の検知方法の確立
        脳震盪に要注意
         ⇒脳震盪を軽く見て、重大事故につながっている

● 事故発生直後の対応方法の確立
        たとえ数秒であっても、意識を失った場合は即救急車
       (意識を失い続けていても、救急車を呼ばないケースが多い)

● 部活動参加及び授業開始にあたり、父母への学校説明会の実施義務
        家庭で頭痛を訴えた場合、学校への通知要請
        学校で頭を打った場合、必ず家庭へ報告義務


A中立的な第三者による事故調査委員会設置の義務付け


○ 委員会の目的:
   1.事故情報の収集
   2.重大事故の個別調査の実施
   3.事故原因の分析
   4.再発防止への提言
   5.事故情報の公表

○ 設置場所:各都道府県の知事直轄組織

○ 中立的な第三者:脳神経外科医、警察、教育者、マスコミ、法医学者、法律家、一般市民、 

○ 設置の義務化:法律で設置を義務付ける
   学校長には1週間以内の報告義務を負わせる。

7.その後
要望に行った翌日、2月8日付け、各ネットニュースでは、

 「奥村展三文部科学副大臣は8日の記者会見で、4月から中学校で柔道などの武道が必修化されることに保護者らの不安が高まっている点について「2012年度からスタートすることになっており、見送りはできない。安全指導を確実にできる態勢をつくる」と述べ、事故防止に万全を期す考えを示した。
 文科省は、同省有識者会議が柔道についてまとめた「初心者に大外刈りをかけない」などの安全指針を近く都道府県教育委員会に通知するほか、安全確保の具体策について省内でさらに検討を進める方針。」
 という内容が報じられた。
武田私見

授業で柔道が行われた場合の懸念
 勉強会であげられた以外にもいくつかある。

・体育教師が異性の場合、柔道練習にかこつけてセクハラ行為が行われるのではないか。

・生徒同士でも、男女比が極端に違う場合、異性同士が組み合うことも出てくるのではないか。

・受身の授業を休んだ生徒も、他の生徒と同じように、次の段階に一律に授業に参加させられるのではないか。

・部活動でも、受け身練習中の重症事故が出ている。きちんと指導できる人間がきめ細かくみられない状況下では、受け身の練習中に事故にあうことも出てくるのではないか。

・受け身がきちんとできているかどうかを教師が判断できるのか。
(部活動事故でも、顧問は受け身は十分できていたと主張し、被害者側はできていなかったと主張することが多い)

・生徒によって、習得の早い遅いがあるが、教師は予め立てた授業計画を優先してしまうのではないか。

・柔道経験のある生徒が模範演技をさせられるなかで、ふだんの柔道部員を相手にやっていることと同じことをしてしまう。あるいは、未経験者と組んだときに、自分の実力を示すために技をかけてしまうのではないか。

・子どもたちが乱取りや試合をやりたがったら、深く考えずに実行してしまう教師がいるのではないか。特に最後の授業では総仕上げ的に試合などが行われやすいのではないか。

・いじめ・暴力が蔓延しているなかで、柔道の練習と称して、特定の生徒を練習台にしたり、プロレス技をかけたりすることが増えるのではないか。それが単なる練習中の事故として処理されてしまうのではないか。

・柔道の部活動での死亡・重症事故の多さがこれだけ社会問題になっているにもかかわらず、今だその数を減らすこともゼロにすることもできていない。すでに起きていて重大性が認識されている事故をなくすことができないのに、新たに発生するであろう授業における柔道事故を本当に防止することはできるのか。

・柔道経験のない体育教師は武道必修化にむけて、様々な努力を現在している。しかし、すでに柔道経験のある教師たちに、柔道事故防止の意識はどれだけ根付いたか疑問。

・これだけ社会的にも注目されているなかで、柔道事故が起きれば、文部科学省も、各教育委員会も、学校、教師も責められるという思いから、それぞれが事故隠しに走るのではないか。


柔道事故の責任

 今回、柔道事故がクローズアップされたきっかけは、2010年3月27日の全国柔道事故被害者の会の発足と、名古屋大学の内田氏のデータだった。
 文部科学省が武道必修化にあたり、どんなプラスとマイナスがあるのか検討するなかで、浮上してきた問題ではない。
 企業であれば、何か新しいことを始めるときには、必ず事前にリスク調査をするはずだ。まして、ひとの命にかかわると容易に想像できることに対して、事前調査は欠かせないはずだ。事業がはじまってから事故が起きれば、企業の存続さえゆるがしかねないからだ。しかし、ひとが何人死んでもつぶれることがない、国民の評価がどれだけ悪くてもつぶれることがない、国の計画性のいい加減さがうかがい知れる。

 柔道事故の情報を誰よりも簡単に入手できるのは、国であり、柔道連盟であるはずだ。
 データを集めても活用してこなかった。あるいは必要なデータを集めようとはしてこなかった国の責任は重い。
 小野寺勇治くんの事故(S730522)では、国自らが「加速損傷」の機序をアメリカの文献をもとに立証した。自分たちを守るためには、金をかけて海外の文献を取り寄せてまで立証した国が、子どもの命を守るためにはその情報を活用してこなかった。ただ、「予測できなかったのだから顧問や学校に責任はない」という結論さえ得てしまったら、満足して終わりにしてしまった。また、同じ事故が起きるかもしれないことに思いもよらなかった。柔道事故が起きたときに、結びつけて考えることさえしてこなかった。
 自治体もまた、この裁判の結果を、自分たちが責任を逃れるためにしか、活用して来なかった。事故の再発防止には活用して来なかった。

 柔道連盟もまた、オリンピックで金メダルをとることだけを目標にして、元々の柔道の精神、加納治五郎の精神を、連盟自身が忘れてしまったのではないか。相撲界の堕落に似ている。
 柔道事故が起きても、自分たちの仲間の責任を回避させることだけに注力して、なぜ事故が起きたのか、どうすれば防止できるのかを考えてこなかった。(澤田さんの事故では、柔道関係者を中心に指導者を支援する嘆願書がものすごい数集まった)
 今までの柔道事故が、素人指導者による無知が原因の事故ではなく、有段者や経験者による無知・無理による事故が多発していたことの責任は重い。
 勝つための柔道には熱心でも、子どもにも安全な柔道を目ざしてこなかった。この柔道を学ぶことが、郷土を愛する心を涵養することになるのだろうか。むしろ、戦時中の軍事教練を想起させる。


文科省の施策について

 文部科学省は、いじめ問題にしても、子どもがたくさん死んでもただ通知を出すだけで、それ以上の努力を自らしようとはしない。そして、自分たちの施策についての細かい効果チェックがない。
(事件が下火になると数字は減るが、それが実態を反映しているかどうかのチェックがない)

 通知以外に、何か問題が起きると文科省がよくするのが、有識者会議だ。
 年数回、それも文科省が集めたメンバーで会議をして、どれだけ有効な手が打てるのか。また、法的拘束力がないことから、結局は提言で終わってしまう。

 さらに問題なのは、文科省自ら正しいデータを集めようとはしないことだ。
 文科省が、協力者会議でも参考にしたのは、日本スポーツ振興センターのデータだという。しかし、このデータはあくまで保険給付金の請求のために収集されたデータで、事故防止が目的ではない。かつて、その内容をめぐって裁判になったこともあり、わざわざ事故経緯の欄を小さくしたということも聞いている。
 そして、被害者側が一切、チェックすることなく、学校側が一方的に記入して提出するため、学校の責任が問われるようなことはほとんど書かれていない。多少、書かれていたとしても、背景にあるシゴキなどは一切書かれていない。「偶発的な仕方のない事故」として処理されている。そのために、事故の本当の原因はわからないようになっている。あるいは隠されている。
 どんな専門家であっても、もとになる情報が間違っていたり、不十分なものであれば、正しい結論を導くことはできない。おそらく、全柔連のデータも同じことが言えるのではないかと思う。
 唯一、救いなのは、野地先生は、被害者の会の提供したデータに触れ、被害者の声を直接聞いていることだ。だからこそ、事故多発の原因を@シゴキの文化の蔓延、A指導者のスポーツ医学的知識の欠落、とした。
 文科省の提供したデータだけを見ていたら、この結論には至らなかったかもしれない。

 原発の検討委員会のニュースに関連して、テレビでアナウンサーが、こうした調査委員会、検討委員会の悪い3法則を挙げていた。
 @反対する人間を1人、2人メンバーに入れて、アリバイ作りにする。
 A時間切れにして、勝手に結論を出す。
 Bはじめから結論が決まっている。

   「体育活動中の事故防止に関する調査研究協力者会議」もまさしく、@野地先生を入れることでアリバイ作り、Aこの4月から武道必修化が全国で始まるのに、柔道事故に関しては前回(2月)に1回会議をしただけで、検討時間も短く、その内容もすぐには反映されない、Bすでにこの4月から実施するという結論は決まっている。


 柳田邦男氏の「事故調査」(1994年9月14日新潮社発行)という本に、1986年1月28日、米・スペースシャトル・チャレンジャー爆発事故に関して、次のような文章が書かれている。
  
 「固定燃料ロケットメーカーであるサイアコル社の打ち上げ現場責任者アラン・マクドナルド氏が、聴聞会で証言したところによると、打ち上げ前日、同氏は異常低温の情報に驚き、これでは安全性を保証できないとして、ユタ州ワササチにあるサイアコル社工場の技術陣に検討を要請するとともに、NASAの責任者に対しても、打ち上げ中止の申し入れをした。サイアコル社の技術陣はほぼ全員、打ち上げに反対であったが、NASAの責任者は、『四月まで(春がくるまでの意)待てというのか』とまでいって、打ち上げの同意を迫った。」

 「NASAの責任者がなぜ強引に打ち上げを決行しようとしたのか、その理由としては、(略)政治的な判断がからんでいたことが指摘されている。
 しかし、技術の論理というものは、冷酷なまでに貫徹される。技術的に安全性が保証されないとなったら、やはり保証されないのである。いくら組織の経営管理者側が『大丈夫だ』といっても、そんなものは安全のための何の支えにもならない。


 「これまでスペースシャトルが大事故を起こさなかったのは、何らかのトラブルが発見されたときに、適切に『ノーゴー』の判断がなされてきたためであったといってもよかろう。これはスペースシャトルだけの問題ではなく、どんなシステムにもあてはまることであって、システムを破局への突入から救うのは、まさに『ノーゴー』の決断なのである。
 だが、『ノーゴー』の判断は、やさしいようで難しい。とりわけ国家的要請とか会社の要請、あるいは対外的なメンツなどの事情がからむと、ひたすら『ゴー』に走りがちである。


 「チャレンジャーの発射に、NASAの責任者が『ゴー』の決定を下したのは、既述のように技術的な判断からではなく、政治的な判断であったに違いないことは、容易に想像できる。そして、そういう政治的な判断、あえていうなら不純な判断こそ、アポロ計画以来のアメリカの有人宇宙飛行の輝かしい安全の記録を、一挙に台無しにしてしまったのである。
 そういう強引な判断の背景には、スペースシャトルの打ち上げがすでに24回もうまくいったという慣れから来る慢心があったに違いない。慣れというのは、怖いものである。『ゴー・オア・ノーゴー』の適切な判断は、初心を忘れない慎重さがなければできるものではない。
 チャレンジャー爆発の参事は、安全の大原則をあらためて教えてくれたといえよう。」
(1986年4月)

 これらは、文部科学省にも、柔道連盟にも言えることだと思う。
 「そういう強引な判断の背景には、スペースシャトルの打ち上げがすでに24回もうまくいったという慣れから来る慢心があったに違いない。慣れというのは、怖いものである。」
 この部分は、「柔道指導者が、様々な故意や過失が原因で、柔道場で重大事故が起きても、うまく責任を問われずにきたという慣れから来る慢心があったに違いない」と、読み替えができる。

 そして、文科省もまた、池田小事件のように、一度にたくさんの人が死ぬと、さすがに責任を問われるが、年間4、5人といっても、日にちも、地域もバラバラに亡くなる場合、結局、個々の問題にされて、文部科学省が責任をとることはない。

 これで柔道の授業中に死亡事故が起きたりしたら、文部科学省が責任を問われるのではないかという声も耳にする。
しかし実際は、自分たちは通知を出したり、講習会を開くなど、安全対策に務めてきた。事故が起きたのは現場のせいだとして、自分たちの責任は回避するのではないか。そして、そのために、指導要領に自由裁量の余地も残している。最初から、責任をとらなくてもよい設計になっている。
 実際に今までも、いろいろ批判されることはあっても自分たちのつくった方針を推し進め、その結果に対しては、政治家も、文部科学省の人間も、誰も責任をとっていない。
 苦しむのは、被害を受けた生徒であり、その家族。そして、加害者にさせられてしまった生徒と家族。体育指導者だ。
 政治家も、文部科学省の人たちも、子どもが何人死のうが、事故で何人もの人生がめちゃめちゃになろうが、自分たちの責任が問われない限り、痛くもかゆくもない。本気で取り組む気にもならない。だからこそ、事故から何も学ぼうとはせず、同じことを今までも延々と繰り返してきたように、これからも続けて行こうとしている。
人びとの関心が薄れるのを待っている。
 数年もすれば、柔道の授業中に重大事故が起きても、当たり前になりすぎて、ニュースにさえならなくなるのではないか。今までの柔道事故がそうだったように、いじめ自殺が今、そうであるように。


※過去の全国柔道事故被害者の会のシンポジウムについては、me100617 me101020 参照。


 HOME   検 索   BACK   わたしの雑記帳・新 



 
Copyright (C) 2012 S.TAKEDA All rights reserved.